黄金の航路
見る者の想像を遥かに超える仕掛けと
それを可能にする剛脚で、
誰よりも先にゴールを駆け抜ける。
圧巻のロングスパートで、次々とライバルたちを抜き去る
ゴールドシップの辿った道筋は、まさに黄金に輝く航路。
それは、ただひたすらに勝利へ向かっている。
ゴールドシップとは、日本の元競走馬・種牡馬である。馬主は小林英一、調教師は須貝尚介、生産は出口牧場。
愛称はゴルシ、シップ、ゴシップ、金船、不沈艦、苺大福、白いの、シロイアレ等々。
主な勝ち鞍
2012年:皐月賞(GI)、菊花賞(GI)、有馬記念(GI)、神戸新聞杯(GII)、共同通信杯(GIII)
2013年:宝塚記念(GI)、阪神大賞典(GII)
2014年:宝塚記念(GI)、阪神大賞典(GII)
2015年:天皇賞(春)(GI)、阪神大賞典(GII)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「ゴールドシップ(ウマ娘)」を参照してください。 また、ゴルシは当記事にリダイレクトされています。 香港のゴルシについてはゴールデンシックスティを参照してください。 |
概要
ゴールドシップ Gold Ship |
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生年月日 | 2009年3月6日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牡・芦毛 |
生産国 | 日本 |
生産者 | 出口牧場 (北海道日高町) |
馬主 | (合)小林英一HD |
調教師 | 須貝尚介(栗東) |
馬名意味 | 黄金の船(父名より連想) |
登録日 | 2011年6月2日 |
抹消日 | 2015年12月27日 |
戦績 | 28戦13勝[13-3-2-10] |
獲得賞金 | 13億9776万7000円 |
受賞歴 | |
競走馬テンプレート |
2009年3月6日生まれ。父ステイゴールド、母ポイントフラッグ、母父メジロマックイーンという血統。この「父ステイゴールド×母父メジロマックイーン」という組み合わせは、2010年代前半当時最強ニックス(黄金配合)と持て囃された俗にいう「ステマ配合」と呼ばれる配合であり、ゴールドシップはドリームジャーニー、オルフェーヴル兄弟と並びこの配合の代表格であった。
母ポイントフラッグは2001年チューリップ賞2着で星旗、クレオパトラトマスから続く伝統ある下総御料牧場の基礎牝系なのだが最近はめっきり活躍馬が出ておらず断絶寸前、言っちゃ悪いが斜陽の血統という感じである。
交配相手にステイゴールドが選ばれた理由はステマ配合を意識…した訳ではなく、母馬が大柄なので産駒も大きい傾向があり、それ故の体質的な弱さがあったため小柄でタフなステイゴールドが最適だっただけである(当時は値段も手頃だった事もあったのだが)。
要約すると「大柄でケガに弱い母方の体質」を「小柄でタフな父方の体質」で中和しようとしたといったところだが、生産者の意図に反して生まれてきた子馬はデカかった。産まれたときから一筋縄では行かない片鱗を見せつけている。
ただ、2012年に牡馬クラシックの掲示板に入った11頭のうち、ダービー馬ディープブリランテ含む4頭が菊花賞前に屈腱炎、4頭が翌春天前に屈腱炎、2頭が最終的に屈腱炎で引退もしくは長期休養と軒並み大怪我に見舞われた中、唯一ゴールドシップはその現役期間レースに影響が出るような故障が無かった[1]ため、タフな馬という本来の目的自体は達成したといえよう。巨体・ステイヤー・ストライド走法・超ロングスパート主体と屈腱炎になりやすい要素全部乗せなのに恐れ入る。
なお、後述のように体質だけでなく、マックイーンの賢さとステイゴールドの気性難も両方受け継いだ結果、フィジカルにも優れるインテリヤクザとでもいうべき豪傑となった。(なお、マックイーンの気性難も大概だったが)
ちなみに母、さらにいうと母父のメジロマックイーンから芦毛を継承しているのだが、この芦毛、「芦毛中興の祖」Grey Sovereignを介さないThe Tetrarch由来というレアな系譜だったりする。
2歳(2011年)
デビューは2011年7月の新馬戦、この時既にオルフェーヴルが皐月賞・ダービーの二冠を達成し、同配合のゴールドシップにも大きな期待がかかっており当然1番人気…ではなかった。同レースにはディープインパクト産駒のサトノヒーローも出走しており、そちらに人気が集中したため7.0倍の2番人気。
このレースは後方から追い込みアタマ差かわして勝利、次のコスモス賞も後方からの競馬で危なげなく勝利する。
3戦目の初重賞挑戦となった札幌2歳ステークス(GIII)は、ここまで同馬の騎手を務めた秋山真一郎が同じく主戦を務めていたグランデッツァを選んだため、安藤勝己に乗り替わる。レースは後方から追い込んだもののそのグランデッツァに届かず2着に敗れる。続くラジオNIKKEI杯2歳ステークス(当時GIII)では後方からまくり上げ、直線半ばから更に足を伸ばす強い競馬で因縁のグランデッツァに先着するものの、好位から抜け出したディープ産駒のアダムスピークに届かず2着と惜敗が続いた。
3歳(2012年)
伝説の始まり
年が明けて3歳は共同通信杯(GIII)から始動。頸椎骨折の大ケガから復帰した内田博幸騎手に乗り代わる。
少数11頭立てになったレース。スタートから内田騎手が押し出して2、3番手に付け(!?)、最後の直線で逃げ切りを図るディープブリランテを残り100mで交わし重賞初制覇。これは須貝厩舎にとっても初重賞であった。その後はトライアルレースを使わず、GI皐月賞へ直行する。
そして迎えた皐月賞。2012年の3歳牡馬は有力馬が多くまさに群雄割拠の様相を呈しており、ゴールドシップは共同通信杯からレース間隔が開いたことと、血統から来る芦毛のイメージで皐月賞向きじゃないと思われ4番人気となる。
この日の中山競馬場は前日の雨も重なって内側が荒れており、レースでは全馬が最内を避け、同馬も内を避けて最後方から馬群を追うような形で進んだ。3コーナーからスパートを開始し、4コーナーではほとんどの馬が荒れに荒れた内を嫌って外へ持ち出す中、ゴールドシップ&内田ペアはあえて内側へ突っ込んでいきショートカット、3番手まで豪快に追い上げて直線へ突入したのである。そしてラスト1ハロンで先頭に立つと、外から凄い勢いで追い込んできた1番人気のワールドエースを2馬身半抑えて優勝。3コーナーで後方だったはずが直線を向いたら先頭集団、という事態にテレビ観戦していた競馬ファンの間では「ゴールドシップがワープした!」と話題になった。
この勝利は馬主歴25年の小林英一氏と日高の出口牧場に待望の初GIタイトルをもたらし、さらに兄弟でないにも関わらず前年と同じ父ステイゴールド、母父メジロマックイーンという事で改めてステマ配合の強さを競馬界に印象づけた。
日本ダービー(GI)では皐月賞での勝利が評価され、負けて強しのワールドエースと人気を分けあって2番人気に推される。この時の東京競馬場は超高速馬場で先行馬の前残りで決着するレースが多く、先行できなければ勝つのは容易ではなかった。しかしそんなことを知る由もないゴールドシップは、鞍上の内田騎手がスタートから必死で追うも全く動じない安定したテンのズブさを発揮して定位置の後方からの競馬となる。
3コーナーから内田騎手が追い出すも行き足が鈍く、直線に入ってもまだ後方の位置取り。そこからやっとやる気になったのか最速タイとなる末脚で追い込むが、止まらないディープブリランテを捉えきれず5着となり、掲示板は確保したものの初めて連対を外す不本意な結果となってしまった。
ちなみにこのダービー、1着ディープブリランテ(ディープ産)、2着フェノーメノ(ステゴ産)、3着トーセンホマレボシ(ディープ産)、4着ワールドエース(ディープ産)、5着本馬(ステゴ産)と、掲示板をディープインパクト産駒とステイゴールド産駒で分け合うという少し珍しい結果となった。
なおディープ産駒3頭は全員菊花賞前に屈腱炎を発症してしまい、2014年に復帰してマイラーズカップを制したワールドエース以外はそのままターフを去ってしまっている。ステゴ産駒の頑丈さを物語る象徴的な対比である。フェノーメノも2回繋靱帯炎やってるけど、1回目から復帰したあと春天連覇してるしまぁ多少はね?
クラシック最終戦、破天荒の菊花賞
夏場は避暑のため、札幌競馬場や函館競馬場で調教をこなしながら過ごす。
秋は菊花賞トライアルのGII神戸新聞杯から始動。マイナス体重で調教も動きが悪く調子が良いとは言えない状態だったが、血統的に長距離向きと見られコスモス賞以来の1番人気に支持される。ただレースが近づくにつれやる気になったようで、スタートから鞍上の内田騎手に押されてもガン無視していつも通り後方からの競馬、3コーナーからスパートして直線で力強く抜け出し2馬身半差の圧勝。能力が一枚上手というのを見せつけ、菊花賞へ向け順調な滑り出しとなった。
なお同日の中山メインのオールカマーでは同じステゴ産駒のナカヤマナイトが勝利、さらにその前週はセントライト記念でフェノーメノが、フランスGIIのフォワ賞ではオルフェーヴルがそれぞれ勝利しており、ステゴ産駒が2週で4つのGIIを制覇するという離れ業をやってのけた。なんともネタに事欠かない一族である。
そして大目標の長距離GI菊花賞。ダービー上位馬が次々と回避を表明する中、キングジョージで派手に爆散したダービー馬ディープブリランテとの頂上対決が注目される。しかし先述の通りブリランテは直前で屈腱炎を発症・長期休養に入ってしまい(その後復帰を断念して引退)、ならばもう相手は居ないと断然の1番人気(単勝オッズ1.4倍かつ1桁オッズ彼のみ)に推される。
スタートは良い感じに出て内田騎手も押していくが……実況「スッと下げます」。うん、長丁場だし馬のスタミナより乗ってる人間のスタミナの方が心配だからサッサと諦めた方が良いよね。というわけで最内1番枠の利を投げ捨てて指定席の最後方からの競馬になる。レースは彼を封殺しようと先行馬が牽制し合い、緩みのないペースで進む。
そして彼は2周目の3コーナー前、京都競馬場名物"淀の坂"の登りから進出を開始する。
……は?
えっと…確かに同じとこで仕掛けたミスターシービーがこの年の菊花賞のCMで「才能はいつも非常識だ。」とか「タブーは人が作るものにすぎない。」って言われてたけど、そこまで真似しなくても良いんじゃ……[2]
ゴルシペアは3コーナーで先頭集団に取り付き、4コーナーから直線で先頭に並びかけ、そこからついてこられるならついてきてみろ、と言わんばかりにラストスパートを仕掛ける。外からスカイディグニティが果敢に追いかけてくるが、それをあざ笑うかのように再び加速して全く詰めさせず、ゴールドシップは1+3/4馬身差で菊花賞を制し二冠を達成。走破タイムはレコードに0.2秒迫るもので、結果的に大外を回りながら他馬をスタミナですり潰すという着差以上に強い競馬を見せた。
また、芦毛の二冠馬誕生はセイウンスカイ以来でもある。ウンスもダービーで撃沈してたっけ。芦毛にはダービーを勝てない呪いでもあるのだろうか。ウィナーズサークル?なんのことやら
常識外の有馬記念
次の目標を間隔が開くGI有馬記念と定めると、菊花賞の疲れを癒すため放牧に出される。帰厩後は相変わらず舌をペロペロさせながら順調に乗り込まれ、好調を表すかのように関係者からの言葉は自信にあふれていた。
2012年の有馬記念はジャパンカップで激戦を繰り広げたオルフェーヴルとジェンティルドンナの回避が発表され、ステマ対決や3歳の牡牝頂上決戦などが実現せず話題に欠いた印象もあったが、蓋を開けてみればエイシンフラッシュやルーラーシップ、トゥザグローリーなど有力馬が顔を揃え実力伯仲、波乱の雰囲気が漂っていた。その中にあってゴールドシップは菊花賞の圧勝と余裕あるローテーションが評価され、3歳馬ながら1番人気を背負う。
レース本番、発走から2番人気のルーラーシップが立ち上がって大きく出遅れる波乱から始まり、それに吊られたのかゴールドシップも出遅れ、鞍上の内田騎手は挨拶程度に押していくが相変わらずのテンの遅さで馬群からポツンと離された最後方二番手でレースを進める。
人気の2頭が最後方でやらかしている頃、先行集団ではアーネストリーが先手を奪ってビートブラックが追いかける前評判通りに展開し、平均ペースでレースが進む。そんな中、ゴールドシップの前半は馬群を追いかけていったルーラーシップにも追い抜かれ、指定席の最後方となるなどやる気がないとしか思えないレースぶりだった。
しかし残り800m、3コーナー辺りから鞍上の内田騎手の手が動きスパートを開始、大外を豪快にまくっていき一気に中団まで押し上げるが、中山2500mという元々マクりが決まりにくいコース設定とコーナーの外を回されるコースロスが響き、順位を思うように上げられず大外中団のまま直線へ向かう。
そこで一息入れたゴールドシップを余所目に直線の登り坂でエイシンフラッシュが内から鋭く抜け出し、オーシャンブルーも追いかけるように脚を伸ばす。そして坂を駆け上がって残り100mとなり皆が「ゴールドシップはもう届かないか?」と思った時、巨大な戦艦が猛進するかのような強烈な二の脚を繰り出し、内にいたエイシンフラッシュ、オーシャンブルーの2頭を一瞬で抜き去るとルーラーシップもねじ伏せ、2着のオーシャンブルーに2馬身半差、文句の付けようのない強さで有馬記念を制した。
この年の成績は6戦5勝、負けたのは日本ダービーだけと圧倒的な成績を収め、ゴールドシップは2012年JRA賞の最優秀3歳牡馬に満票で選ばれた。ただし年度代表馬は牝馬三冠とジャパンカップを勝ったジェンティルドンナにさらわれてしまった。
4歳(2013年)
遠い、遠い盾
2013年は国内戦に専念することになり、春の予定も古馬王道の阪神大賞典→天皇賞(春)→宝塚記念と早々に定められる。
初戦のGII阪神大賞典は小頭数、対抗も微妙で単勝1.1倍、複勝元返しと圧倒的一強ムード。絶対に負けられない一戦だったのだが、昨年に同じステマ配合のオルフェーヴルが休み明けで阪神大笑点をしでかしてしまっていたので、心配が無いわけではなかった。
いざ本番、相変わらずゲートはすんなり出るクセに行き脚は全く付かずいつもの最後方。
いつも通り向こう正面からロングスパート開始。徐々にペースアップしていくと、途中でベールドインパクトが競り掛け、2頭が競り合ったまま3,4角で先頭に並び駆ける。しかし直線に入るとベールドインパクトはペースについて行けず早々に脱落。一方ゴールドシップはアッサリと先頭に抜け出し、そのまま押し切って余裕の勝利。2013年も順風満帆の船出となった。
ちなみにこの勝利、ゴール手前で手を抜いたのが鞍上の内田騎手にバレてムチで気合いを付けられるオマケ付きであった。敗れたベールドインパクトはその後屈腱炎で引退。ディープ産駒がスタミナの化け物とまともに競り合うとどうなるか、彼はその身をもって教えてくれた。
そして大本番のGI天皇賞(春)の舞台へ。
ゴールドシップは前々週、前週の調教でも今までにないくらいの早い時計を叩き出して調子の良さを伺わせていた。ライバルとしては悲願のGI獲りへ闘志を燃やすフェノーメノが参戦。しかしそもそもフェノーメノは前年に距離不安から3000mの菊花賞ではなく2000mの天皇賞(秋)を選んだ経緯があったため、直前評では単勝オッズ1.3倍とゴールドシップ一本かぶりの評判となっていた。誰もが長距離で圧倒的な強さを誇った祖父メジロマックイーンの再来を予感し、少し言い過ぎかもしれないがゴールドシップの勝ち負けよりどんな勝ち方をするか、が話題の中心だった。
しかし前年オルフェーヴルが断然の一番人気で飛んだように、天皇賞に住まう魔物は府中から淀へと移住を果たしていた。
スタートは相も変わらずのテンの遅さでスルスル下がって最後方、レースはサトノシュレンが大逃げを打ち縦長の展開となる。ゴールドシップは1周目の正面スタンドから徐々にポジションを上げていくいつものまくり戦法で3コーナーから4コーナーには大外から先頭集団に取り付くが、最後の直線に向かって鞍上の内田騎手が激しく手綱を扱きムチも入れるも、反応が鈍く直線に向かう時にはトーセンラーやジャガーメイルに置いていかれてしまう。内田騎手が懸命に追いゴール直前でジャガーメイルを差し返すのがやっとで、好位から力強く抜け出して後続を完封した勝馬フェノーメノから大きく離された5着、期待を大きく裏切る惨敗となってしまった。
菊花賞や阪神大賞典で見せた長距離適正を考えると単純な力負けとは考えにくく、去年のオルフェーヴルも似たような過程(阪大で強いパフォーマンス→本番で惨敗)と展開(大逃げ縦長、持ち味いかせず)で負けており、ステマ配合は春の京都競馬場が苦手……?と思えてしまう。
仁川の王、戴冠
天皇賞(春)の敗戦から約2カ月、ゴールドシップは大一番のGI宝塚記念に向け調整を続ける。天皇賞(春)の二の舞を踏むまいと、主戦の内田騎手が2週前から付きっきりで調教をつけるという気合いの入れようだった。まくり一辺倒のレーススタイルにも、見直しを示唆していた。まあ、この時はほとんどのファンができると思っていなかったが……。
この年の宝塚記念はゴールドシップにオルフェーヴル、ジェンティルドンナ、そしてフェノーメノの「四強」による史上最高の決戦になる……かと思われたが、オルフェーヴルが肺出血で直前回避。それでも4歳の誰が最強なのか、「暫定現役最強馬決定戦」の趣を呈していた。
単勝は2.9倍の2番人気。惨敗後ながらも、直前までの雨と良馬場発表ながらやや重めの馬場が有利に働くのではないかとの思惑が働いた結果だった。それでも「これまで弱い相手に勝っていただけ」との悪評は直前まで少なからず聞こえてきた。それでもパドックでの仕上がりはまさに完璧。これでダメならもうどうしようもない、ゴールドシップのファンはそう思ったことであろう。
そしてレース本番。スタートはポンと出て沈……まないだと!?
出ムチも付けてのっけから猛ダッシュするゴールドシップ。先行するジェンティルドンナの真後ろにピタッと張り付く彼の姿に、阪神競馬場にはどよめきが走る。内田騎手は本当に共同通信杯以来の先行策を取ったのだ。しかしこれはどうなのだ。本当にまくりなしでもやれるのか?
レースはシルポートがいつも通り暴走気味に大逃げを打つ。大きく離れた2番手に重馬場巧者のダノンバラード、そしてそれを見る形でジェンティルドンナ、ゴールドシップ、フェノーメノの三強が位置取る。ゴールドシップは3コーナーから内田が追うも、馬なりのジェンティルとの差が詰まらない。外からはフェノーメノが猛追。前のシルポートとの差は詰まっているが、それでも5馬身ほどある。手応えはやはりズブく、もはやここまでか……
そんな懸念は、直線で払拭された。
内のジェンティルドンナがゴールドシップを外に弾き出そうとした刹那、彼は皐月で、菊で、そして有馬で見せた豪脚を炸裂させたのである。その姿は、祖父のメジロマックイーンにも似ていた。
寄ってきたジェンティルドンナを彼は逆に弾き返して一気に加速。抜け出したダノンバラードを一瞬のうちに切り捨て、後はぶっちぎるだけ。かつての、あの無限のスタミナですべてをねじ伏せる「最強の不沈艦」が復活したのだった。
終わってみれば、2着のダノンバラードに3馬身半差をつけた圧勝であった。3着のジェンティルドンナ、4着のフェノーメノとの差は大きく、戦前の「三強」との評は、実際にはゴールドシップの「一強」であった。仮にオルフェーヴルが居たとしても、おそらく勝っていただろうと思わせるほどの圧倒的な強さであった。
大スランプの始まり
完全復活を果たしたと思われ、日本競馬を背負って立つと期待された2013年秋。しかし、ゴールドシップはここから大スランプに突入する。
秋初戦の京都大賞典は圧倒的人気を背負いながら先行策から粘れず5着。春天ですでに囁かれていた「高速馬場への適性の無さ」を露呈してしまう。さらにジャパンカップでは、後方からまるで伸びず15着とデビュー後最悪の大敗。高速馬場への弱さのみでは説明できない腑抜けた敗戦で、長く手綱を取った内田博幸が主戦を降ろされる事態に陥る。
三冠馬オルフェーヴルとの最初で最後の対決となった有馬記念。鞍上はイギリスの名手ライアン・ムーアに乗り替わりとなったが、ゴールドシップは明らかに完調ではなかった。本来のパワフルな走りは影を潜め、引退レースとなったオルフェーヴルの圧倒的な走りの前に引き立て役となるのがやっと。中山適性で何とか3着に入ったものの、オルフェーヴルには9馬身以上の差を付けられる完敗に終わった。
5歳(2014年)
親友の栄光の裏で
明けて2014年。始動戦に選んだのは、昨年同様阪神大賞典だった。今度の鞍上は事前からこのレース限りと決まっていた岩田康誠。先行策から快勝したものの、出足から珍しく引っかかるなどどこかちぐはぐさが見られたのも確かだった。
そして昨年のリベンジを期して挑んだ2度目の天皇賞(春)。今回はオーストラリアのトップジョッキーであるクレイグ・ウィリアムズへの乗り替わりとなった。先行策に定評のある彼に任せることで出足の鈍さを何とかしようという意図があったのだろうが、ゲートで係員に尻を触られ気分を害したゴールドシップは豪快に出遅れてしまう。もちろん、ここから何とかできるわけもなく7着に敗れ、繋靭帯炎から復活したフェノーメノの連覇を許す結果となった。
こうして、ゴールドシップには「稀代の癖馬」「走らせてみないと分からない馬」というありがたくない定評が付くことになってしまった。もちろん、気性面に難しさを抱えるのはドリームジャーニー・オルフェーヴル兄弟からも分かるようにステマ配合の宿命ではあるのだが、単に「気性が荒い」では説明できない難しさを抱えた彼を御することは困難を極めるものだったであろう。
そして、気が付けば世代最強・現役最強の名は同じ須貝厩舎の盟友、ジャスタウェイのものとなっていた。
前馬未到の宝塚連覇
迎えた2度目の宝塚記念。ゴールドシップはファン投票1位に支持される。下の世代の不甲斐なさもあっただろうが、オルフェーヴルというスターが引退した今、唯一無二の破天荒で魅力的な走りを見せるゴールドシップ復活にかけるファンの想いは強かった。
当日はこれまで連帯率100%の阪神競馬場、しかも良馬場ながら時計のかかる前年を髣髴とさせるような馬場状態ということもあり、堂々の1番人気に支持される。もっとも、2番人気のウインバリアシオンとの単勝オッズ差は0.3とわずかで、復活期待は疑念も入り混じったものであったのも確かだった。
今回の鞍上は名手横山典弘。当初はウィリアムズが宝塚まで続投する予定だったが、天皇賞(春)の敗戦を受け「馬なり」の騎乗に定評のある横山典弘に白羽の矢が立った形だった。
横山騎手は2週前追い切りからゴールドシップに跨がり、じっくりと「会話」を重ねてきた。自分の乗り方を押し付けず、とにかく馬のプライド、気持ちを尊重するアプローチは、これまでの鞍上とは全く違うものであった。須貝調教師も横山騎手にすべてを委ねた。
そして戦前から「人馬一体」をテーマに調整を重ねたことが、遂に狂った歯車を元に戻す。
懸念されていたスタートは無難に出たが、例によって最後方までスッと下がる。さてこれからどうするのか…と思った次の瞬間、ゴールドシップが猛烈な勢いで先行勢に取りついていった。先行策自体は前年と同じだったが、前回が出ムチを入れてまで強引に前に行かせたのに対し、今回は全くの馬なりに先行していたのである。これほどまでに気分良さそうに走るゴールドシップの姿は、おそらく古馬になって初めてであっただろう。向正面ではスロー気味の展開の中で好位をキープ。この時点で、勝負はほぼ決していた。
直線に向くと、絶好調時のあの破壊的な末脚が炸裂。荒れた馬場に苦しみ後方にもがくジェンティルドンナ、ウインバリアシオンらライバルを尻目に、彼は馬群を余裕で置き去りにした。
終わってみれば3馬身差の圧勝。去年同様「三強」と言われた宝塚記念であったが、やはり蓋を開けてみればゴールドシップの強さと復活を印象付けるためのレースであった。そして彼はこの勝利によって史上初 であり、2021年にクロノジェネシスが2頭目になるまで唯一だった宝塚記念の連覇達成馬となった。
レース後、横山騎手は「お願いします、走ってください」 とゴールドシップに話しかけながら走っていたと話した。彼の気持ちを尊重しようとした鞍上の想いは、遂に通じたのである。1年近く迷走が続いたゴールドシップであったが、ようやく真のパートナーに巡り合えたと言ってよいだろう。
余談だが、2009年ドリームジャーニーの宝塚記念からこの宝塚記念まで、ステマ配合のグランプリ成績は11戦8勝とマジキチな極めて好成績となっている(ステイゴールド産駒に広げるとナカヤマフェスタの宝塚記念も入れて11戦9勝)。とりあえずグランプリはステマ買ってりゃいいんじゃないかな、と言われたほどであった。
フランス遠征と再びの苦難
かねてから「タフな欧州の馬場は向くのではないか」と言われていたゴールドシップの陣営は、ついにフランスG1凱旋門賞への参戦を決定。そのステップとして札幌記念に出走する。しかしここで同じく凱旋門賞挑戦を決めていた桜花賞馬ハープスターに完敗してしまう。
ハープスター、同厩のジャスタウェイと共に挑んだ凱旋門賞は、本馬場入場で隊列から外れて客席に寄るファンサまで見せたのに案の定出遅れると全くやる気を見せないまま14着に惨敗。あとの2頭と比較してもあまりに情けない結果となってしまった。
失意の中帰国したゴールドシップ陣営は有馬記念に出走。横山がワンアンドオンリーに騎乗したため岩田康誠が再び手綱を取った。得意の中山で一変するかという期待もあったが、道中位置を下げてしまったこともありジェンティルドンナに届かず3着。翌年休み明けということもありAJCCも使うがまさかの7着。得意だった中山での大敗で、いよいよ正念場に立たされることになった。
6歳(2015年)
悲願の盾
轟音をあげるスクリューが
荒々しいまでの推進力を生み
常識に囚われない操舵が
奔放な航跡を描いていく。海図もコンパスも無用だ。
潮の流れに逆らい
波濤を押さえ込んで
ただ本能のまま
黄金の船は進む。
ゴールという港を目指して。
AJCCの敗戦後、一休みして阪神大賞典に3年連続の参戦。阪神競馬場では連対率100%ということで圧倒的1番人気に推される。
ダッシュはつかずやっぱり後方からになるが、なんと向正面から進出を開始し4コーナーで前に出ると、迫ってきたデニムアンドルビーを力任せにねじ伏せ優勝。史上5頭目のJRA同一重賞3連覇を遂げた。
ここまで阪神競馬場での戦績は7戦して[6.1.0.0]。2着は2歳時のことなので、3歳になってからは無敗である。この馬、もう仁川に住んだらいいんじゃなかろうか……。
この後は宝塚記念に直行するという話もあったが、懲りずに天皇賞(春)へ出走を決定。3度目の正直を目指すことになった。このレースでは4戦ぶりに鞍上が横山典弘に戻っている。
本番ではスタート前にゲート入りを盛大に拒み、目隠しをしてようやくゲートに入るなど不穏な空気を漂わせた。そして馬番1番という春天における絶対的有利をかなぐり捨て、スタートからキズナより後ろの最後方待機。ペースも決して速くなかったことから、到底前には届かないと思われた。すると鞍上横山典弘が最初の直線で観客席に大きく寄せ、スタンドを過ぎた辺りから徐々に前に進出していくと、なんと2周目の坂から鞭を入れてスパートを指示し先団に取り付く。最後の直線で粘るカレンミロティックに競りかけるとゴール直前で交わし、追い込んできたフェイムゲームの追撃をクビ差凌ぎ切ってゴール。これまで「人馬一体」をテーマに彼と向き合ってきた横山が「初めてゲキを飛ばした」渾身の騎乗が光り、3度目の挑戦で悲願の天皇賞(春)制覇となった。
インタビュアー「 最後追いすがってくる馬も居ましたね。」 横山典弘「 もう追いすがる…っていうよりも…ゴールドシップと僕との戦いだったんでね。よく踏ん張ってくれました。」 インタビュアー「 どっちが勝ちましたか? 」 横山典弘「 いや~、彼です(笑)。 」
……2015年天皇賞(春)、勝利騎手インタビューより。「たまにでもいいから真面目に走ってくれれば」とも答えていたが、散々言われているのはついさっきGIを6勝もした馬になった奴である。
悪夢のグランプリ・120億円事件
春天を勝ち、陣営は最大目標の宝塚記念3連覇へ突き進む。前走やらかしたことで頂いてしまったゲート再試験にも一発で通り、調整も万全。得意の阪神、しかも今回は春天を勝って勢いもある。当然のことながら、仁川の絶対王者ゴルシの圧倒的大本命は揺るがなかった。しかし一方で、これまでの行状から「ここでやらかさなきゃゴルシじゃないよなぁ」なんて冗談めいた予想も一部にはあった。余計なフラグを立てるんじゃない。
(ただ一部の予想では前走での暴れっぷりをみて、ラキシスやワンアンドオンリーを本命にした予想もあった。)
迎えた本番、単勝オッズは1.9倍の一本被り。状態もいたって良好。ゲートも落ち着いて入り、体制も整った。準備万端……と思った瞬間。関西テレビのリポートで馬場内にいた細江純子女史から悲鳴が上がった。隣で若干チャカついたトーホウジャッカルに反応したか、ゴールドシップがゲート内で大きく立ち上がっていたのだ。一旦は落ち着いたものの、再び立ち上がった瞬間にゲートが開いてしまった。有馬記念のルーラーシップを思い出してもらえれば早いか。
どうにかゲートを出たときには既に前との差が10馬身近くついていた。もちろんゲートを出ないだけならいつものことだが、今回は押せども押せども全く動く様子がない。そりゃそうだ。ひとたびやる気を失えばテコでも動かないゴルシである。気分を害し出遅れた時点でレースは終わっていたのだ。
これにより紙くずになった馬券は約120億円(正確には枠連8-8含んで117億7190万6200円)。2002年菊花賞でスタート直後に落馬したノーリーズン(110億7998万2500円)を超え、2012年春天のオルフェーヴルの149億4219万8400円(枠連除く)に次ぐ悲劇を生み出してしまった。一方、勝った6番人気ラブリーデイの単勝オッズは14.2倍で、ゴールドシップと比較して約1/7.5の売上であったため、単勝オッズだけでは単純に比較できないものの、紙くずになるはずだった推定数億円~十数億円程度の馬券が突如としてお宝馬券となった訳でもある。
結局、待っていたのはブービー15着と言う自己最悪の結果。史上初の中央GI3連覇の夢は脆くも弾け飛んだ。15着という結果自体は2年前のジャパンカップと同じだが、当時は戦前から府中適性が疑問視され、支持はされたけどどうなのよ?という感じだった。今回はその全く逆、負ける要素がほぼ見当たらない中で「まさか」が起きてしまったのだ。
"競馬に絶対は無い"という格言を改めて実感させられるこの出来事は、後に3億円事件をもじってか「120億円事件」と呼ばれるようになった。まあ、この馬に関していえばそもそも絶対もへったくれもないようなもんだし、負けてもどこか「まあ、ゴルシだししゃあない」って空気が漂ってる感じがするけど。
ちなみに、レース後検量室へ戻る人馬を須貝調教師が迎えに来た際、「あの」ゴールドシップが須貝師になんとも気まずそうな顔付きをしていた様子が映像に残っている。馬が何を考えどんな感情を持っているかなど人間には分かるはずもないのだが、ゴールドシップという馬には、そういう「擬人化」を自然とさせてしまうような不思議なキャラクター性が備わっていた。
最後の秋へ
宝塚記念のゲートでのやらかしによって、当然ながらゴールドシップはJRAから二度目のゲート再試験という「こいつホントにGI6勝した馬なのか?」と疑いたくなるようなお仕置きを食らった。
果たして試験を無事通過できるのかファンがヒヤヒヤしていた去る8月2日、彼はこの年の有馬記念を最後に引退、種牡馬入りすることが陣営から発表された。このとき早くもビッグレッドファームでシンジゲートが組まれており、父親と同じ日高の地で、文字通り父の跡を継げることが決まった。
そして10月22日、ファンの元へゴールドシップの再々試験通過の一報が届く。出走予定も決まり、一部ではまさかの天皇賞(秋)出走の噂も飛び出したが、この年かなり好調だったラブリーデイやエイシンヒカリなどが出走を予定していたこともありこちらは回避。須貝師曰く「秋3戦は苦しい。メンテナンスが大変になるので、2戦に決めた」ということで、ジャパンカップと有馬記念に出走して引退するルートになった。
緊張の府中
11月29日、最後の府中となったジャパンカップ。ゴールドシップは休み明けながら、ラブリーデイに次ぐ2番人気に推された。ファンの胸中は「(苦手の)東京競馬場で走るだろうか……」というよりも、
という思いであった。なぜなら、もしここで天皇賞(春)でやった「枠入り不良」や、宝塚記念でやった「枠内駐立不良」を犯すと出走停止の裁決がなされ(いわゆる2ペナ)、ラストランの有馬記念へ出走できなくなってしまう状態にあったからである。陣営も本馬場入場時にスタンド前で駐立させたり、ゲート入り時に最初から目隠しをするなど念に念を入れた対策を施して臨んだ。
迎えたゲート入り、ゴールドシップは特に暴れることもなく最初にゲートに入った。これにはスタンドも軽く湧いた。その後続々と他の馬のゲート入りが進んでも大人しく、ファンもこの姿には安心した。そしてスタート、ゴールドシップは出遅れることなく見事にスタートを決めた。
スタート後、鞍上の横山典弘は無理に押すことなくいつも通り後方に下げる。カレンミロティックの単騎逃げで1000m59秒2のペースの中、後方2番手をキープしたまま3コーナ手前から徐々に進出を開始。直線では大外に持ち出して追い込みを図るも、残り200mあたりから伸びを欠き、結果10着に終わる。
少々彼にしてはインパクトに欠けるレース内容ではあったが、ファンにとってはちゃんとゲート入りして、無事に帰ってきてくれただけでありがたかった。これでラストランに向かうことが出来るのだから。
ラストラン
暮れの12月27日、ゴールドシップはついにラストランの有馬記念を迎えた。鞍上にクラシックを共にし、四つの勲章を掴んだかつての相棒、内田博幸を迎えるというサプライズもあり、期待は最高潮。オッズこそかつてほどではなかったが1番人気に推される。近走GIで15着→10着の6歳馬がこれほど支持されることはそうはない。これが当時のゴールドシップの人気を象徴していた、と言ってよいだろう。
本番は外枠。スタートは五分に出たが、やはり二の脚が付かず離れた最後方になる。レースはその年の菊花賞馬キタサンブラックが逃げ、人気どころも前目を追走する運びに。スローペースに落ち着いた(≒最後の切れ味勝負になった)こともあり、ゴールドシップには極限まで厳しい条件が揃ってしまう。
さほど大きな変化もないまま向正面を過ぎようかというその瞬間、中山競馬場に大歓声が上がった。テレビ観戦したファンの諸氏もそうだったに違いない。内田博幸の仕掛けに応えるように、ゴールドシップが外目を一気にマクり、3、4角で3番手にまで進出したのだ。勝利した3年前にも勝るほどの強烈な競馬。後方の馬が来る様子もなく、見ていた誰もが有終の美を確信した。
しかし、そこから内田の手綱が唸るが、ゴルシは動かない。いや、動けない。やる気がないときは呆れるほど頭が高かった彼が懸命に首を振り、前に行こうとしているのに、それ以上進めない。直線に入り、内から4歳馬サウンズオブアースがスッと抜け出した瞬間、観客たちは全てを悟った。
「ああ、彼は燃え尽きてしまったのだ」と。
最後は力尽くように馬群に飲まれ、8着。かつてのオグリキャップのような復活劇は果たせなかった。しかし、最後まで己を貫き、ファンに夢を見せた激走は、正しく彼の集大成であり、ラストランにふさわしいものだった。ゴールドアクターが勝った瞬間より、彼がマクっていった数百メートルの方が、スタンドの歓声ははるかに大きかった。それこそ、ゴールドシップが最後に見せた夢の大きさであったと思うのである。
勝ったゴールドアクターは、奇しくも同じ「ゴールド」の名を持つ馬。ゴルシと同様小さな牧場の生まれで、日本で古くから続く牝系と言う共通項もある。ある意味では、ゴールドシップからゴールドアクターへ夢が引き継がれたのかもしれない。
同日の最終レース後に行われた引退式でも、内田の涙ながらのスピーチの最中に盛大にいななき、口取り写真の人垣から後ずさって横山と須貝師を呆れさせるなど、最後まで自由奔放なままゴールドシップはターフを去っていった。しかし、苦楽を共にした今浪厩務員に引かれて最後のターフを歩く彼の目がどこか悲しげに映ったのは気のせいだろうか。
横山が引退式で一番の思い出に宝塚のゲート(=120億円事件)を挙げて大笑いが起きたことからも分かるように、良くも悪くも、見る者すべての心を動かす憎めないエンターテイナーだった…それこそ、ゴールドシップの人気の理由だったのだろう。[3]
競走引退後
引退後は予定通りビッグレッドファームにて種牡馬入り。種牡馬としては、気性の難しさ等の懸念材料も多く、種付け数は毎年100頭前後と、GIを6勝した実績にしては少なめだった。それでも、現役時代の彼の雄姿(&珍事)に魅せられたファンは非常に多く、誰もが産駒がターフを駆けるその日を今か今かと待ちわびていた。
2019年6月、いよいよ産駒がデビュー。7月には、産駒随一の期待馬サトノゴールドが新馬戦にて産駒初勝利を飾り、素質馬ブラックホールも安定した差し足で未勝利戦を順当に勝ち上がる。
そして8月31日、かつてゴールドシップが2着に敗れたGIII・札幌2歳ステークスにこの2頭が出走。これが産駒の重賞初出走であったが、ここをブラックホールが4角外から鋭く伸びて快勝。ゲートで大きく出遅れたサトノゴールドも、父を彷彿とさせる豪快な捲りで2着に入り、ゴルシ産駒ワンツーフィニッシュで産駒重賞初制覇をやってのけたのだった。産駒デビューから、わずか3ヶ月の出来事である。
その後しばらく重賞を勝てる馬は出なかったが、2021年のオークスで無敗の白毛馬ソダシが注目される中、父親の豊かなスタミナを受け継いだ娘のユーバーレーベンが外から大きく伸びてゴールドシップ産駒初のGI勝利を、しかもクラシックでの勝利を挙げた。
産駒成績の傾向は派手な活躍をする馬こそ少ないものの、産駒デビュー3年目の2021年でアーニングインデックス(産駒の平均収得賞金)が1.07、翌2022年は10月末時点で0.99という数字で、平均レベルの成績をマークしている。入着を拾いコツコツと賞金を貯めるタイプの馬、良く言えば馬主孝行で悪く言えば勝ちきれない産駒が比較的目立つところではあり、また1年先輩のステゴ産駒・オルフェーヴルと同様牝馬に活躍馬が多いフィリ―サイアーの傾向があるが、いつか父親に並ぶ後継産駒が誕生するときを楽しみにしたいところである。
ステイゴールドが歩んだ黄金の旅路、それを継いだゴールドシップが進んだ黄金の航路。ゴールドシップの大航海は、まだまだ終わらない。今後も息子たちや娘たち、さらにはまだ見ぬ子孫たちが、彼の物語を派手に彩ってくれることだろう。
オルフェーヴルとの対比
同じステマ配合から生まれた三冠馬オルフェーヴルと比較すると、面白いほどありとあらゆる面が対極になっている。
オルフェーヴル | ゴールドシップ | |
---|---|---|
気性 | 常に前に行きたがり、 いつ暴走するか分からない。 超気性難。暴君タイプ。 |
掛かる事はなく、 逆に押しても前に行かない。 気分屋タイプ。 |
脚質 | 凄まじくキレる脚が特徴。 抜け出す際のスピードは桁違い。 |
一瞬の加速力は無いが、 加速が乗り出すと止まらない。 スタミナも豊富。 |
出身 | 言わずと知れた社台グループ。 | 日高の中小牧場の生産。 |
馬主 | 数々のGI馬を送り出す 社台系一口馬主クラブの サンデーレーシング。 |
25年も馬主を続ける北海道の名士。 しかしゴールドシップが初GI馬。[4] |
産駒 | 基本的に晩成寄り。 芝もダートも行ける。 |
仕上がり早め。 ダートはあまり得意ではない。 |
お分かり頂けただろうか。同じステマ配合なのにこれである。ステマ配合の奥の深さを感じざるを得ない。
オルフェが大叔父サッカーボーイの再来とすれば、ゴルシは祖父メジロマックイーンの再来と言えるだろう。同じ芦毛のヒシミラクルの方がそっくり…というかヒシミラクルはサッカーボーイ産駒だし、似る可能性はなくもない。と言う事はゴルシはヒシミラクルの生まれ変わり(ry
レースぶりも祖父マック同様、無尽蔵のスタミナに物を言わせたロングスパートを身上とする。実際、菊花賞では向こう正面からミスターシービーも真っ青の超ロングスパートで全馬をねじ伏せるという離れ業をやってのけた。
もっとも2013年、2014年の宝塚記念を見るに、脚質は先行の方が良いようにも見える。見た目同様、本格的にマックのようなレース運びをするようになっていたようだ。というより、そうしないとGIでは勝てなくなっていたという感じである。
……などと言っていたら、2015年の阪神大賞典や天皇賞(春)では途中まで後方→向正面でとにかく前に押し出しポジションを取りつつ加速→あとはスタミナに任せて押し切る、という菊花賞どころではないゴリ押し戦法で勝ってしまった。どうやらこの馬、スタミナにものを言わせればあとは何でもよかったらしい。しかしこの戦法、馬より先に騎手がへばりそうである。どこまで行っても問題児だ……。
ゴルシ伝説
- 毎日遊んであげないと暴れる。ただし遊ぶとシャツを破られる
- 気に入らない人or馬の存在を察知すると暴れ出す
- 特にトーセンジョーダンを見かけると必ず蹴りに行く
- 調教は基本的にやる気無しだが、調教で出くわした馬を威嚇する時だけは殺る気マンマン
- 威嚇しなくても、そばを通っただけで怯えて暴れ出す馬がいる
- パドックでは異様に大人しい…と思ったら本馬場入場時にヒャッハーロデオ
- 輪乗りで他馬を威嚇、相手が古馬でもお構い無し
- 剛腕で鳴らすウチパクが押しまくっても、全然前に行かない
- レース中に並走しただけでビビってヨレた馬もいる
- 舌をペロペロさせながら走って菊花賞圧勝(舌を出す=挑発と理解している説)
- ゴール後に馬よりも騎手の方がヘトヘトになっている
- 優勝レイやウイニングランは断固拒否
- 厩舎に帰ってくると、隣の長浜厩舎の馬がざわめく
- 育成牧場スタッフを病院送り(須貝調教師いわく累計6人ほど)
- プライベートの時間は何より大事。邪魔しようものなら今浪厩務員ですら手がつけられない
- ぶつかってきたジェンティルドンナを逆に弾き返す
- 今浪厩務員にはデレデレ
- フランス遠征時、移動中の森の中で気分が乗って突然走り出し、今浪厩務員を置き去りに
- 性格が真逆な同厩馬ジャスタウェイとは大の仲良し
- ジャスタウェイとの併せ調教で負けたことに凹んで20kgもやつれる
- 全弟のトレジャーマップも馬房の壁を駆け上がる
- 引退式でウチパクのスピーチ中に咆哮
- 引退式の口取り写真撮影を5分間ゴネる
- 引退後の身体検査で何一つ異常が見つからず、現役中ずっと舐めプしてた説が浮上
- 須貝調教師は自分の仕事をプロデューサーのようなものと評しており、担当した馬のうち、ソダシは「日本のアイドル」、ジャスタウェイは「フォークシンガー」と評する一方、ゴルシのことは「クスリやってるロックスター」と褒めているのかけなしているのか絶妙に迷う評価。[5]
- 超テクニシャン
- 超スピーディー
- 超絶倫
- 超種付け好き
- ビッグレッドファーム(BRF)での先輩グラスワンダーには何故か馬房の前で毎回立ち止まり挨拶するという舎弟ムーブ
- 一方のグラス側も毎回顔を見せてくれるゴルシに対してまんざらでもなかった様子。
- 同じステイゴールド産駒ながら珍しく大人しい性格のウインブライトとも仲良し。
- 放牧地で突如勃起したと思いきやアイルハヴアナザーの排便を見て萎える(仲自体は良い)
- BRFが娘についての取材を受けているとき、呼ばれてもないのにカメラの元へ駆けつけてグイッポし主張
関係者の証言によると「ゴールドシップは頭が非常に良く、繊細な性格の馬である」とのことであり、これら数々の奇行や、気分屋な行動は賢さと繊細さの裏返しだったのではないか、と言われている。
人間でも繊細な性格の人であれば邪魔が入ったりしたときにイラッと来たり、自分だけが物事に対する理解や状況判断が出来ていて、周囲の人たちが全く出来ていないと馬鹿馬鹿しくなってやる気を無くしてしまったり、といった覚えは少なからずあるであろう。彼もこれらと同じ、または似たような気持ちを感じたときに、暴れたり言うことを聞かなくなったりしていたのではないだろうか。
即ち、彼の数々の奇行や気性難エピソード、ムラのある競走成績の数々は、"ゴールドシップ"という馬が単なる暴れ馬ではなく、非常に繊細で頭の良い馬である証左だったかもしれないのである。
血統表
主な産駒成績
2017年産
- ブラックホール (牡 母 ヴィーヴァブーケ 母父 キングカメハメハ)
- ウインキートス (牝 母 イクスキューズ 母父 *ボストンハーバー)
- ウインマイティー (牝 母 アオバコリン 母父 *カコイーシーズ)
- 主な勝ち鞍 2022年マーメイドステークス(GIII)
2018年産
2020年産
2021年産
関連動画
3歳: 白い戦艦、激走
4~5歳: 阪神漫遊録
6歳: スタミナの鬼
120億円事件
ラストラン
俺らの知らないゴルシと知ってるゴルシ
引退後
関連静画
関連リンク
関連項目
- 競馬
- ステマ配合 - ステイゴールド(ステイゴールド産駒) / メジロマックイーン
- 産駒たち
- 被害者の会 歴代主戦騎手
- 2012年クラシック世代
- 競走馬の一覧
- 奇行種
- 顔芸
- ネット流行語100: 2021年度に競走馬として唯一ノミネートされ、5位入賞。トロフィーはビッグレッドファームに贈呈とのこと。なお、ウマ娘ゴルシが2位、120億円事件(pixiv百科記事)も43位にランクインしている。
脚注
- *2014年天皇賞(春)でゲート内で暴れたことによる首の右側付近から肩にかけての筋肉痛と、2015年阪神大賞典で自身の脚がぶつかり合ったことによる右前脚の蹄球炎程度。どちらも次走までに完治し、その次走で勝利を収めている。
- *菊花賞では京都競馬場の外回りコースが使われるのだが、外回りにおける"淀の坂"の登りは4mの高低差を400mで登り切るという競馬場としてはかなり急な坂であり、直後にわずか100mでその高さを一気に下る下りが控えていることもあって、ここを越える際にはスタミナ消費を抑えるためにペースも抑え気味で進むのが定石とされている。ましてや、ただでさえ尋常ではないスタミナ消費が起きるここでスパートをかけ始めるなど、たとえGIステイヤーであろうともスタミナ切れを起こしてしまう可能性が高いため、避けた方が良いとされているのである。……そう、無尽蔵の化け物スタミナを持った馬を除いては。
- *とは言っても、担当の松井装蹄士が「まだ衰えていない。むしろ磨きがかかっている」というコメントを残してる辺り全盛期が終わっていたかには疑問が残る。父のステイゴールドが7歳で全盛期を終えないまま引退してるし。そもそも最終直線が短く、息を入れるタイミングの無い中山の坂でスパートをかけるあの戦術自体、本来最下位になってもおかしくない常識外れの走りなのである。
- *ちなみにゴールドシップの祖母パストラリズムが氏の初の所有馬である。
- *具体例として、滞在先のホテルで窓から家具を放り投げたレッド・ツェッペリンとか、悉く部屋を破壊するため有名所のホテルを全て出禁になったザ・フーのキース・ムーン等を列挙している。
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