「来ないで…私を探さないで…」
サイコドリームとは、1992年に日本テレネットより発売されたSFC用アクションゲームである。
2021年2月17日にNintendo Switch Online加入者限定ソフト『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』のラインナップに追加された。
概要
1992年、冬。
閑静な逗子の住宅街にある古い洋館の中で、一人の少女が深い眠りに就いていた。少女の名は柚木沙耶香(ゆうき さやか)。
両親が離婚したのは、彼女が13歳の時だった。父親は愛人と共に姿を消し、一通の離婚通知と母親が少女に残された。母親は少女が男の近くにいる事を禁じ、厳格な躾によって決して自分と同じ過ちを繰り返さないように育てようとした。そして、17歳の夏。沙耶香は初めての恋をした。
勿論、母親は許すわけもなく、二人の仲は無理やり裂かれてしまう。彼女にとって、それは許されざる行為でしかない。母親自身もまた、その母…すなわち沙耶香の祖母が行なった17歳の恋の過ちの果てに生まれた私生児だった。そして旧家の血筋を絶やさぬようにする為だけに結婚を強要され、沙耶香を産んだ。今や母親にとって残されたものは、沙耶香だけであった。同じ過ちだけは繰り返して欲しくなかった。それだけが母親の希望の全てである。
沙耶香が生まれつき病弱だったこともあり、母親の娘に対する可愛がり方は異常とも呼べるほどだった。だが、彼女にとってそれはただの抑圧でしかない。…いつしか沙耶香は、危険なDムービーの世界へと耽るようになっていた。
Dムービー。
1980年代当初から既にその存在は噂されていた。ゲーム機器としても、データグローブのように実現化され一般に市販されているものもあったが、実体験と同様に仮想空間を体験できる画期的なシステムである。もっとも、ハード性能の限界もあり、精神遊離剤となるLiピルと感覚接続器(インターフェース)の併用によって初めて可能となるものでしかなく、開発当初よりその危険性は指摘されていた。しかし1980年代も後半になるとハードそのものの性能向上もあり、普及型と呼べるような安価なマシンが急速に広まっていた。1989年には、5個入りのピルとDムービーのソフトを持っていることがある種のステイタスとなっていた。それは、先端人種であることの証明ともいえた。やがてアメリカ及びECによって出荷されたソフトの影響もあって、東京都内の若年層における普及率は爆発的に広まっていく。
…だが、それは通常のドラッグとは比べることもできない危険性を持っていた。もともと現実逃避を行いやすいモラトリアム時期の青少年達にとって、Dムービーは格好の避難場所でしかない。シンカーと呼ばれる「現実に還ってこれない」少年少女の問題がようやくマスコミに登場してきたのは1991年であった。
シンカー、それは自殺行為でしかない。
Dムービーの世界にブレインアウトしたまま、現実世界へとリターンしない場合、例え生命維持装置の力を借りて生き長らえたとしてもただの植物人間にしかすぎないし、もし何の手立ても打たなかった場合、飲まず食わずでは一週間しか生きていけないのが人間である。それでも、シンクしていくものは後を絶たなかった。
それほどDムービーの世界は強烈だった。
それほどDムービーの世界は自由だった。Dムービーは、ソフトとして与えられる映画的な枠組みの中に入り込み、夢を見るよりも自由にその世界を娯しむことができる。…そう、君がスーパーマンになりたければ、Dムービーのソフトを買ってシンクすればいいだけだ。Dムービーの世界でならば、スーパーマンとして地球の自転を元に戻し、恋人と手をつないで空中のロマンスを娯しむこともできる。
思春期の若者にリターンしろと言うのが無理というものかもしれない。
そんな彼等を救うべく作られた組織が、国家公安委員会直属の公安4課、記章にはめられた美しい結晶の連想から人々に通称「ダイヤモンドの犬」と呼ばれる特設公務員である。創設は1984年。
この物語の主人公であるリョウとマリアもそのDムービーへの耐性を高く評価され、「ダイヤモンドの犬」の一員として活動していた。Dムービーの中でしか自由になれない沙耶香がシンクしたのは、当時最も流行し最も危険だとされた幻想ソフト『廃都物語』であった。監督は、奇才デヴィッド・ヴィスコンティ。沙耶香にとっても、母親に縛りつけられる日常からの解放を与えてくれるものとして余りにも誘惑が強すぎた。
大量のピルを服用したまま、Dムービーの世界へとシンクしていった沙耶香を救うべく、リョウとマリアの二人は深く暗い少女の夢の中へ、恐怖の幻想ソフトと呼ばれるDムービー「廃都物語」の中へと、静かに潜行していく。沙耶香がシンクしてから、既に3日が経過していた。病弱だった少女の命は、おそらくあと24時間持つかどうかであろう。万が一、救出作業中に沙耶香が死ぬような事態となれば、リョウとマリアもまたDムービーの世界から永久に帰還できなくなってしまう。
ゲーム概要
プレイヤーはリョウとマリア、どちらかのキャラを選び、全6面ステージを進んでいく。「プロテイン」と呼ばれるアイテムを摂取する事で近接攻撃型か遠距離攻撃型へとフリークアウト(変体)し、いずれか三段階までフリークアウトした状態で特殊プロテインを摂取する事でトランスミューテーション(完全変体)を遂げる。トランスミューテーション状態時は強力な攻撃力を得ることが可能だが、ダメージを三回受ける事で初期状態へと戻ってしまう。
キャラクター
- トバリ・マリア
ショートボブの女性。ゲーム中ではボディラインも露わなボンデージ姿を惜しげもなく披露し、怪生物に薔薇鞭ローズラッシュを振るう。爪が伸びる近接型FOのネイルフリーク、ホーミング性能を持つ遠距離攻撃型FOのキャノンフリーク共々、初心者向けのキャラクターである。トランスミューテーションで蝶のような羽根が背中から生える。
ファイナルアトラクションは血の雨を降らせる「ブロッディレイン」。 - シジマ・リョウ
長髪の男性。白の戦闘服に、真っ赤な帽子とマント姿。初期状態は長剣スラストセイバーを持つ。近接型FOは肘や膝の骨がブレードのように伸びるフレイムフリーク。遠距離型FOは腕に寄生させた生物から直線レーザーを放つパラサイトフリーク。攻撃力は高いが癖がある為、使用時は注意。トランスミューテーションでは外骨格に覆われたような姿となる。
ファイナルアトラクションは画面全体をモザイク化してダメージを与える「モゼイックディジーズ」。
操作方法
パワーアップアイテム
- イエロープロテイン…近接攻撃型フリークアウトを促す薬品。
- ブループロテイン…遠距離攻撃型フリークアウトを促す薬品。
- レッドプロテイン…フリークアウト三段階目で摂取するとその場でトランスミューテーション出来る。
- グリーンプロテイン…キャラクターの周囲にバリアを張る。3回分のダメージを受けるか、画面切り替えで消滅。
- パープルプロテイン…ファイナルアトラクションの回数が増える。
小ネタ
- タイトルは、日本テレネットの315(サイコ)作目という事からつけられたらしい。
- 内容はごく普通のアクションゲームである。操作性は同社の代表作『ヴァリス』シリーズを髣髴とさせ、手放しで良ゲーとは呼びきれないものの、その先進的な設定や幻想的なヴィジュアル性からカルト的な人気を誇り、マニアの間でひそやかに話題になってきた作品である。ヴァーチャルリアリティ・ゲームを題材とし、西崎まりのを起用したデザインは、現在のハードで造られていればより映えたのかもしれない。
- 音楽は『ワイルドアームズ』等で知られる作曲家のなるけみちこが担当している。
- 上記の概要は取扱説明書からのものだが、ゲーム内では一切ストーリーに関する説明がなく、エンディング後のストーリーが取扱説明書に書かれていることでも有名。
- 2020年11月12日から放送された『ゲームセンターCX』#307で有野課長が挑戦している。
- 『スーパーファミコン Nintendo Switch Online』への追加発表と同時に公開されたプラスチャレンジ動画でステージセレクト画面を出す方法が紹介されている。
関連動画
関連項目
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