サイモン・シン(Simon Lehna Singh、1964年9月19日-)とは、イギリスの科学ジャーナリスト、サイエンスライター。
概要
1964年、イングランド・サマーセット州にて、インドからの移民の家系に生まれる。3人兄弟の末っ子。ロンドン・インペリアル・カレッジで物理学を学び、ケンブリッジ大学大学院で素粒子物理学の博士号を取得した。1990年にテレビ局のBBCに就職、科学部門のプロデューサー・ディレクターとして「ホライゾン」シリーズなどの科学番組を手掛ける。
1996年、「ホライゾン」シリーズの一作として放送された、アンドリュー・ワイルズによるフェルマーの最終定理の証明を特集したドキュメンタリー番組「フェルマーの最終定理」で英国アカデミー賞を受賞。この番組での取材を元に、初の著書となる一般向け科学書『Fermat's Last Theorem』を出版、世界的に高い評価を得る。日本でも『フェルマーの最終定理』として青木薫訳で邦訳され高く評価された。
以後、人気サイエンスライターとして活躍。暗号の歴史と進化を解説する『暗号解読』、天動説からビッグバン理論に至るまでの宇宙論の歴史を辿る『ビッグバン宇宙論』(文庫版は『宇宙創成』に改題)と一般向け科学書で世界的ベストセラーを連発し、2003年には大英帝国勲章を受章した。
日本でも、共著の『代替医療のトリック』(文庫版は『代替医療解剖』に改題)を含め、全ての著書(と言っても共著を含め5冊だが)が新潮社から青木薫訳で邦訳されており、2021年現在は新潮文庫で全作品が入手可能。
作風
サイモン・シンの科学書の最大の特徴は、難解な数式や専門用語をなるべく排して、題材とする科学分野の発展・進化の過程と、それに貢献した科学者・研究者たちの研究を巡るドラマを中心に描くことにある。と言っても日本のテレビのようにどうでもいいプライベートなエピソードを書き込むわけではない。サイモン・シンが重視するのは、フェルマーの最終定理の証明なり、ビッグバン理論の証明なりといった結論に至るまでの「科学の論理の展開」であり、そこに至るまでの研究者たちが積み重ねてきた「科学的手法」とはいかなるものか、という部分である。
たとえばアンドリュー・ワイルズによるフェルマーの最終定理の証明を全て理解できるのは超一流の数学者だけだが、『フェルマーの最終定理』ではそれを古代ギリシャの時代から、数学がどのように発展していったのかを各時代の数学者のドラマとともに語っていくことで、高校数学すらすっかり忘れたような読者にも、フェルマーの最終定理の証明がどういう風な研究の流れと、どのような論理によって為されていったのかが理解できるように書かれている。もちろん必要最小限の数式や専門用語は出てくるが、ぶっちゃけそこは読み飛ばしても構わない。大事なのは「なぜ証明できるのか」という論理と、そこに至るまでに証明に挑んで敗れ去っていった数学者たちが証明に用いてきた、厳密な正しさを求める手続きだからだ。
3作目の『宇宙創成』も、「宇宙がビッグバンで出来たっていうのは知ってるけど、なんで生命も生まれていない100億年以上前に起きたことがわかるのよ?」という素朴な疑問に対し、天動説の時代から天文学の歴史を語ることで、その疑問に論理的かつ明快に答えてくれる。
2作目の『暗号解読』は題材の都合上、暗号の性質の解説部分がなかなか手強いが、まあ解らなければ解らないままでも、暗号研究者のドラマを楽しめるようになっている。
どの本も結構なボリュームがあるが、元々の語り口が平易なうえ、青木薫の訳文もめちゃくちゃ読みやすいので、興味のある題材の本から手に取ってみるといいだろう。
ニコニコ動画的に言えば、「世界の奇書をゆっくり解説」シリーズの番外編1「天体の回転について」の後半部分などは、サイモン・シンの科学書の作風にかなり近い。というか『宇宙創成』の序盤とだいぶ内容が重なっているので、あのシリーズのファンは『宇宙創成』から読むと入りやすいだろう。
著書リスト
- フェルマーの最終定理 (原書:1997年、邦訳単行本:2000年、文庫:2006年)
- 暗号解読 (原書:1999年、邦訳単行本:2001年、文庫:2007年)
- ビッグバン宇宙論(原書:2004年、邦訳単行本:2006年)
→ 宇宙創成 (文庫:2009年) - 代替医療のトリック (原書:2008年、邦訳単行本:2010年) ※エツァート・エルンストとの共著
→ 代替医療解剖 (文庫:2013年) - 数学者たちの楽園―「ザ・シンプソンズ」を作った天才たち― (原書:2013年、邦訳単行本:2016年、文庫:2021年)
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関連項目
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