サンドピアリスとは、1986年生まれの日本の元競走馬・元繁殖牝馬。「サンドピアリスに間違いない!」で有名な競馬界の伝説の一つを作った馬である。
吉永忍厩舎所属。主戦騎手は岸滋彦騎手。
※当記事では、サンドピアリスの活躍した時代の表記に合わせて、特に記述が無い限り年齢を旧表記(現表記+1歳)で表記します。
血統概要
父ハイセイコー 母イエンライト 母父イエラパという血統。父は言わずと知れた公営出身の名馬で、母は中央競馬でダートのみながら10勝を上げていた馬であった。こうしてみるとなかなか期待出来そうな血統である。・・・ダート馬としては・・・。
当時のダート馬は、芝で負けた馬の敗者復活戦扱いであり、今では信じられない程冷遇されていた。1984年に中央競馬に導入された重賞の格付けにおいて、ダート競走はGIはおろかGIIすら認定されず、サンドピアリスの活躍した1989年になってもGIIIがわずかに以下の4つであった。
- フェブラリーハンデ(ハンデ戦1600m、現フェブラリーステークス)
- 札幌記念(ハンデ戦2000m、1989年は芝コース新規造設のため1700m、翌年から芝重賞に)
- 根岸ステークス(賞金別定戦1400m)
- ウインターステークス(ハンデ戦2200m、現東海ステークス)
こういう体系なので、大活躍すると斤量が山ほど積まれ、無理して60kg以上の負担を背負うか、地方競馬に移籍するかでなければ出られるダートのレースがなくなってしまう。中央競馬の馬が出られる地方競馬の交流重賞も年に1度、大井競馬場の帝王賞だけという時代である(サンドピアリスが4歳の年に道営競馬にブリーダーズゴールドカップができてようやく2つだが、代わりに中央ダート重賞は札幌記念が芝になってしまったため、1993年まで3つのまま)。賞金も安かった。彼女の馬名、サンドピアリスとは「砂の貴婦人」という意味であるが、当時のダート馬の冷遇っぷりを考えると意味深なネーミングである。
また、父ハイセイコーはサンドピアリス以外にもカツラノハイセイコやハクタイセイという芝のGIを勝った馬を輩出したのだが、このハイセイコーという種牡馬、安定感が皆無だったのである。つまり走らない馬はとことん走らない。そういう博打要素の強さから種牡馬ハイセイコーはこれだけGI馬を輩出しておきながら人気はいま一つであった。(まあ、当時は内国産種牡馬冷遇という事情もあるので一概に不人気とはいえないのだが、トウショウボーイと比較すると・・・)
そして、彼女はいまいち小柄な馬であった。そんなこんなが重なって、彼女の評価は低かった。一口馬主クラブの募集は総額1000万円(一口100万円)だったという。
砂の貴婦人
遅い生まれが影響してか、入厩が3歳12月と遅く、4歳になってからゆっくりデビューしたサンドピアリスは、1200mダート戦で新馬勝ちを収める。その後、万一芝で活躍できるのなら、という意図があったのか次戦はいきなり桜花賞トライアルの4歳牝馬特別(GII)。だが9着惨敗。次走も自己条件の400万下(現500万下)の芝レースも8着惨敗。これは、というので次はダートに戻すとここはあっさり勝利。この時点ではもはやダートで出るレースが無いので、この次にまたしても芝の京都4歳特別(GIII)に挑戦したが、ここも9着に惨敗。
やはり芝では無理ということで、ダートの条件戦が組まれる秋まで休養となった。だが復帰後の平場のダート900万下(現1000万下)条件戦は8・9・6着と振るわない。「ここまでの馬かなぁ」と関係者は思ったであろう。地道に賞金を稼ぐため次のレースも自己条件のダート戦を予定していた。
それが突如、当時は4歳牝馬のみで行われていたエリザベス女王杯の出走を決める。その理由は、サンドピアリスの馬主はヒダカ・ブリーダーズ・ユニオンという出来たばかりの一口馬主クラブだったのだが、ここが「初年度からGI出走馬が出たら、いい宣伝になるから出てくれ」と要請していた、というのもあるが、(春に無理やり重賞に出走していたのもそのためではないかと言われている)、最大の理由はサンドピアリスの主戦騎手である岸滋彦騎手を襲った不運であった。当時期待の若手だった岸騎手は前週、菊花賞に主戦騎手を務めていたムービースターが出走予定であり、GIレース、しかもクラシックに初挑戦できるということで非常にわくわくしてたのだが、そのムービースターが抽選に外れ、まさかの除外を喰らってしまい、今週はがっかりしてしまったのだ。そのあまりのがっかりっぷりを気の毒に思った吉永忍調教師は、慰めの意味でGIに出走させてやろうと考えたことがこの出走の裏にはあったということである。ここも抽選であったが、サンドピアリスの方は見事抽選に当たりエリザベス女王杯のゲートに紛れ込んd・・・否、滑り込んだ。
「1頭でも2頭でも負かして来い!」
とか言われて送り出された岸騎手。彼はもちろん初GⅠで張りきっていたであろう。当日の京都競馬場のゲストが全盛期のアイドル酒井法子だったので「勝てばのりピーから花束がもらえる!」とwktkしていたのかもしれない。しかしながら周囲は誰も岸騎手とサンドピアリスに期待などしていなかった。
なにしろ、近走が平場の900万下条件。しかもダートで8・9・6着である。そこからいきなりエリザベス女王杯出走。買える訳ねぇそんな馬。ということで、サンドピアリスは20頭中の20番人気。ダントツ。ブッチ切りの最低人気だった。(19番人気ですらサンドピアリスよりも100倍以上倍率が良かった)ちなみに断然の1番人気は武豊騎手のお手馬で、桜花賞を「武騎手わざと出遅れ伝説」で制したシャダイカグラである。そしてメジロモントレー、カッティングエッジ、オークス馬ライトカラーあたりがその後に続いていた。
しかし、淀を埋め尽くしたお客さんたちの前で信じ難い事が起こるのである。
伝説のエリザベス女王杯
スタートが良かったせいか、引っ掛かり気味に行ってしまったシャダイカグラ。これにつられて有力各馬が前の方に行くレース展開。必然的にペースがかなり速くなって、結果的には先行馬には苦しいレース展開になっていた。一方誰にも注目されていないサンドピアリスは、15番手辺りでのんびりレースを進めていた。
最初の事件は4コーナー手前で起こった。シャダイカグラがいきなり失速したのである。この時シャダイカグラは繋靱帯断裂という重大な故障を発生していたのである。勝負どころで失速したシャダイカグラを交わすためにメジロモントレーら先行各馬の大半はコーナー途中で無理な針路変更を余儀なくされて無駄に脚を使わされた上、速いペースであったこともあってか脚色が完全に鈍ってしまっていた。
となれば、差し・追い込み馬有利のレースである。実況の杉本清アナウンサーは、内の方の馬たちの手ごたえが悪いと見ると、外の方に目を向けた。・・・末脚自慢の人気馬カッティングエッジの姿はない。ん?なんか赤い帽子の小さな馬が吹っ飛んできたぞ?赤い帽子?赤い帽子の馬といえば・・・オークス馬のライトカラー・・・じゃない。前哨戦のローズS(GII)2着のシンエイロータス・・・でもない・・・この馬は一体・・・!?
「さぁ、先頭は、外を通って・・・、サンドピアリスか?」と自分で言っておきながら杉本アナウンサーは驚愕する。
「おお?なんとサンドピアリスだ!サンドピアリスが先頭!」
並みのアナウンサーならここで驚き過ぎてサンドピアリス一辺倒になるところであるが、(杉本アナウンサー自身、後日このレースについて「よくわからない馬ばかりが来て焦って焦って焦りまくった」と語っている)杉本アナウンサーはさすが、ちゃんと「そして懸命にシンエイロータス、ヤマフリアル、さらにシンビクトリーも突っ込んでくるが」(ちなみにシンエイロータス以外みんな二桁人気)。と他の馬もフォローした後、
「しかしびっくりだ!これはゼッケン番号6番サンドピアリスに間違いない!」
サンドピアリスがゴール版を駆け抜けた瞬間、満員の京都競馬場が一瞬シン・・・と静まり返った。次に「あれ、何だよ!誰だよ!」というなんともいえないどよめきというかざわめきが広がった。
それもその筈。20頭中20番人気のサンドピアリス。配当は7670円・・・違う、これは複勝配当・・・単勝配当は・・・43060円!であった。GI史上最高の単勝配当であるこの記録は、現在でも破られていない。JRAのウェブサイトにあるデータファイルにおいても、中央競馬の歴史上全レース(かつて行われていたアングロアラブ競走や繋駕速歩競走を含む)を通して単勝高額配当記録の10位に2022年2月までに居座っていた(下の表を見よ)。ちなみにこのレース、2着は10番人気のヤマフリアル。3着は14番人気のシンビクトリーであった。当時三連単はおろか馬連さえ無かったが、もしもこれで三連単があったなら、配当は1億を超えたのではないかと言われている(現在のJRAの記録は2012年の2回新潟7日目5レースの新馬戦で、14-12-10番人気の3頭によって達成された2983万馬券(ミナレットの記事を参照せよ))。ようやく2022年2月12日、東京12レースの4歳以上2勝クラスにおいてヤマメが54940円という高配当を出して、トップ10から陥落することになった。相変わらず重賞でトップなのは変わらないが(テンジンショウグンの1998年日経賞が35570円、ミライヘノツバサの2020年ダイヤモンドステークスが32550円と続く)。
順位 | 日付 | 競馬場 | レース番号 | レース名(区分) | 馬名 | 100円あたり払戻金 |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2014/4/26 | 福島 | 8 | 4歳以上500万円以下 | リバティーホール | 56,940 |
2 | 1955/10/22 | 阪神 | 6 | アラブ系4歳以上オープン | タチバナヒメ | 55,870 |
3 | 1961/11/11 | 京都 | 8 | アラブ3歳特別競走 | タイコウオー | 52,280 |
4 | 1980/11/15 | 京都 | 2 | 3歳未勝利 | シルバーシカイナミ | 49,410 |
5 | 1957/12/8 | 阪神 | 4 | 繋駕速歩(赤旗)4歳以上 | ヒノオ | 47,680 |
6 | 2008/4/19 | 阪神 | 6 | 3歳500万円以下 | クイックリープ | 47,360 |
7 | 2010/9/4 | 新潟 | 3 | 3歳未勝利 | キタサンブユーデン | 46,080 |
8 | 2017/12/3 | 中京 | 7 | 3歳以上500万円以下 | ディスカバー | 45,010 |
9 | 2016/3/10 | 阪神 | 3 | 3歳未勝利 | タガノインペーロ | 43,390 |
10 | 1989/11/12 | 京都 | 10 | エリザベス女王杯(GI) | サンドピアリス | 43,060 |
誰もが信じられないと思った勝利だったが、そう思ったのは関係者も同じだったようで、岸騎手も吉永調教師も、テンパり過ぎたのかレース後のインタビューでサンドピアリスをサンドピアレスと間違え続けていたそうである。先述の通り、岸騎手はこのレースがGI初騎乗でそれが初優勝となった。というか重賞に勝ったのもこれが初めてである。騎手的にも買える訳が無い馬だったんである。
実況の杉本アナウンサーは後に「もしも名前を間違えて実況していたら、順調だった競馬実況アナウンサーとしての人生が終わったかもしれない」と言っている。というか、当時実況を聞いていたTVの前のかなりのファンが「そんな馬来るわけないだろう。杉本間違えてるよ」と思ったそうである。
ちなみにサンドピアリスの生産者の牧場長はあまりのサンドピアリスの人気のなさに応援馬券を買おうとして、「やっぱダメだろ・・・」と思い直して別の馬券を買ってしまい、帰った後で家族にボコボコに怒られたらしい。
その後
この後、サンドピアリスは芝の重賞の常連となった。伝説のオグリキャップ引退レースとして今も語り継がれる90年有馬記念にも出ている(ブービー15着だけど)。まぁ、芝のGIを勝ったわけだし、賞金を儲け過ぎて当時のダートのレースに戻ったら斤量を背負い過ぎるレースが殆どだったから止むを得なかったのだろうが。それでも、勝てこそしなかったが牡馬と混じって走りながら9走中4回も掲示板に載っているいうのは当時の古馬牝馬としては健闘の部類に入る。中でも京都大賞典(GII)で3着(2着とは鼻差)、引退レースの京都記念(GII)では2着に突っ込んでいる。ダートの貴婦人の筈が、芝の女傑と言われるまでになったのだから、馬は分からない。ちなみに、サンドピアリスが激走したこの3レースはどれも京都の芝2400mだった(当時)という共通点を持っている。(故に、「京都芝2400mのスペシャリストだったのではないか?」などという説まで出る始末)。
結局、獲得賞金総額は1億2767万4400円に達した。募集価格の13倍である。
引退後、繁殖に上がったサンドピアリスはダート交流競争で活躍したタマモストロングを出すなどそこそこ優秀な繁殖成績を収めた。ただ、孫の代では連敗馬シャッフルが有名になってしまうなどやや落ち目だろうか。逆に同期の桜花賞馬シャダイカグラはこれといった仔を出せなかったが、孫の代ではアスクコマンダーを送り込むなどサンドピアリスの血統に対し逆襲の機会をうかがっているようである。
そして2007年6月14日に老衰で死去。21歳(現表記)だった。
「二度あることはサンドピアリス」というのはファンがパドックに掲げた横断幕に書かれた文句だったそうだが、最低人気でのGI優勝はダイタクヤマト、ユウフヨウホウ、コパノリッキーがその後達成している。
血統表
ハイセイコー 1970 鹿毛 |
*チャイナロック 1953 栃栗毛 |
Rockefella | Hyperion |
Rockfel | |||
May Wong | Rustom Pasha | ||
Wezzan | |||
ハイユウ 1961 黒鹿毛 |
*カリム | Nearco | |
Skylarking | |||
*ダルモーガン | Beau Son | ||
Reticent | |||
イエンライト 1976 黒鹿毛 FNo.3-l |
*イエラパ 1966 黒鹿毛 |
Mossborough | Nearco |
All Moonshine | |||
Your Point | Nirgal | ||
Your Game | |||
テツザンヒメ 1967 栗毛 |
*ゲイタイム | Rockefella | |
Daring Miss | |||
ウエーライト | *ハロウエー | ||
グリンライト | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Rockefella 3×4(18.75%)、Nearco 4×4(12.50%)、Selene 5×5(6.25%)、Beau Pere 5×5(6.25%)
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