ザ・コクピットとは、漫画作品『戦場まんがシリーズ』を基にしたオムニバス式のOVAである。
概要
株式会社徳間書店が発売し、株式会社ハピネットが販売を担当したセルアニメ作品。全3話で、尺は1話24分(計72分)。原作は、宇宙戦艦ヤマトや銀河鉄道999を描いた松本零士氏の『戦場まんがシリーズ』。
1969年~1977年にかけて週刊少年サンデーやビッグコミックで不定期連載されていた本作の中から3作品を厳選し、1993年にOVA化したものが「ザ・コクピット」シリーズである。オムニバス式となっており、話の繋がりは無い。製作はマッドハウスが担当。主要人物は勿論、セリフが一言二言しかないモブにまでベテラン声優を起用、各話ごとに劇中BGMを変更し、メカニックデザインにカトキハジメを招くなど入魂の逸品に仕上がっている。監督や製作スタッフも1話ごとに更新しており、スタッフの本気度が窺える。
作品
第一話「成層圏気流」
ドイツ空軍のエースパイロット、エアハルト・フォン・ラインダース大尉は哨戒任務中にイギリス軍航空機部隊と遭遇。僚機が撃墜され、三機のスピットファイアに追撃されたラインダースは、反撃も撤退も不可能と判断し止む無く落下傘で脱出した。だが被弾すらせず自機を捨てた事実は、味方から臆病者とのそしりを受ける原因となった。
汚名返上の為、鹵獲B-17をペーネミュンデまで護衛する任務を命ぜられたラインダースは、その乗客がかつての恩師-バフスタイン教授と、その娘で元恋人のメルヘンナーであることを知る。出発直前、彼女は自分たちがここにいる本当の理由と、ある一つの願いを旧知の男へ明かす。それはラインダースにとって苦渋の選択を強いるものであった。
二つの相容れない名誉を両翼に抱え、英雄は再び空へと発つ。悪魔を目の前にして、彼が最後に下した答えとは…。原作者が同じなせいか、メルヘンナーがどう見てもメーテルにしか見えない。
第二話「音速雷撃隊」
「もしも戦争にならなかったら、せめてあと30年生かしてくれたら、あの月までロケットを打ち上げる」
「この戦争で死んだ世界中の若いのが、あと30年生きていれば…色んなことをやったんだろうなァ」
人間爆弾「桜花」と、その搭乗員である野上少尉に焦点を当てた話。戦場まんがシリーズ全体で見ても、特攻兵器が主役となったのは本話だけである。
時に1945年8月上旬。日本を目指すアメリカ機動部隊に対し、桜花を懸架する一式陸攻隊が迎撃に出る。しかしどの機も桜花を射出する前にヘルキャット隊の襲撃を受けて壊滅。機長の計らいでパラシュート降下させられた野上少尉だけが唯一生き残る。偵察の二式飛行艇に救助された彼は内地に戻ったが、すぐに次の出撃が控えていた。出撃前夜、飛行場に流れる琴の音…。まるで誰かに別れを告げるかのように流れる悲しい音色とともに夜が明けていき、8月6日の朝を迎えた。零戦や紫電改の護衛を受け、再び戦場へと向かう野上少尉。今度こそ敵艦に突入するために。
月までロケットを打ち上げる野上少尉の夢は、24年後の1969年7月に果たされる事になる。
登場人物
- 野上靖(CV:緑川光)
物語の主人公。人間ロケット兵器「桜花」のパイロットを務める少尉。元々はロケット工学を学んでおり、技師になって月までロケットを打ち上げるのが夢だった。ロケット工学を学んでいたからか自ら望んで桜花のパイロットになった経歴を持つ。イケメン。
- 山岡中尉(CV:緒方賢一)
野上少尉を敵前まで運ぶ一式陸攻の機長。前回の出撃で唯一生き残ってしまい、気負う野上少尉に「少しでも生き長らえた事に乾杯じゃよ」と言って酒を振る舞った。戦闘では野上少尉を確実に敵艦へ突入させるために自身を犠牲にし、己の命と引き換えに敵艦隊の眼前まで桜花を運んだ漢である。僅かだが土佐弁を喋っており、高知県の出身と思われる。
- 沖海兵曹長(CV:小野坂昌也)
- 長目二飛曹(CV:北島淳司)
- 大川二飛曹(CV:茶風林)
- 遠山上飛曹(CV:太田真一郎)
- 畑二飛曹(CV:星野充昭)
一式陸攻の乗員たち。沖海兵曹長のみ出番が多い。
- ランバード中尉(CV:藤原啓治)
F6Fヘルキャットのパイロット。日本軍機によって同僚のロバートを失い、激しい憎悪を抱く。アメリカ軍側で唯一名前が判明している人物である。山岡中尉の一式陸攻を執拗に追い回し、撃墜寸前まで追い詰めたが土方の体当たり攻撃を受けて戦死した。
- 土方(CV:堀内賢雄)
零戦のパイロット。最初の戦闘では桜花を懸架した一式陸攻隊を守りきれず、無念の帰還。その時に頭部に大怪我を負った。母機を守れなかった事を悔やんでおり、唯一生還した野上少尉のもとを訪れて「明日は何が何でも完全に護衛するつもりだ」「たとえ敵機に体当たりしてでも…」と無力を詫びた。翌日の出撃では更に負傷しつつも、山岡中尉機を付け狙うランバードに体当たりを敢行。両機は空中で爆発し、土方とランバードは戦死した。
第三話「鉄の竜騎兵」
「たまらんものは、どこまで行ってもたまらんのだ!」
1944年、レイテ島。日米の激戦区となったこの地で行われるバイク乗り同士の戦いを描いた物語。
主人公・古代一等兵が所属する第28独立野戦銃砲連隊は、師団命令により300kmの後退を行う事になった。慌しく撤退準備が行われる中、砲兵将校が放棄予定の重火器を使って連合軍陣地に1発撃ち込んだ。結果、連合軍の熾烈な反撃を招いてしまい、連隊の拠点は撤退を待たずして壊滅してしまった。塹壕に飛び込んで九死に一生を得た古代であったが、そこへ破損した陸王に乗った一人の日本兵が現れる。どうやら砲撃に巻き込まれたようで陸王は満身創痍、日本兵も気絶していた。
古代は酒を飲ませて気付けを行い、幼さが残る日本兵を起こした。彼は宇都宮一等兵で、陥落寸前のカラケチル飛行場から救援を求めにやってきたという。しかし連隊司令部は既に壊滅していたため、古代は一緒に撤退する事を薦めるが、飛行場の仲間と約束したからには必ず戻ると言って聞かなかった。酒と疲労から宇都宮は寝入った。その間に彼の陸王は後退中の自動車整備中隊に修理され、側車には機関銃中隊が置いていった機関銃が装備された。機関銃を撃つ人間が必要という事で古代も宇都宮と同行する事にし、新しく生まれ変わった陸王を走らせて飛行場を目指すが…。
登場人物
- 古代一等兵(CV:永井一郎)
物語の主人公。本人曰く「重機も軽機も自走砲も何でも扱える。車にも乗れるし飯も炊ける」との事。徴兵前はレーサーだったが、マシントラブルに悩まされ一度も完走した事が無かった。しかしドライバーとしての腕前は一流で、側車を持ち上げて敵バイク兵を突き飛ばすという奇抜な方法で難を逃れた事も。整備の腕も一流で、ぼろぼろになった陸王をあり合わせの部品で完全に修復できるほど。左利き。余談だが古代一等兵は、宇宙戦艦ヤマトの主人公・古代進の先祖という設定である。
- 宇都宮一等兵(CV:山口勝平)
主人公その2。内地から陸王とともにフィリピンへ派遣されてきた若い兵士で、陸王を「自分の分身」と称するほど溺愛している。陥落寸前のカラケチル飛行場から第28独立野戦銃砲連隊のもとへ向かっていたが、到着寸前のところで砲撃に巻き込まれる。陸王は破損し自身も気絶するが、通りがかった自動車整備中隊によって陸王は修復された。連隊は既に壊滅していて援軍は得られなかったが、飛行場の仲間と交わした約束を果たすため陸王を駆って飛行場へと戻る。
- 日本兵(CV:キートン山田)
古代一等兵とともに第28独立野戦銃砲連隊に所属していた日本兵。本名不明。古代とは親友同士の仲で、親しげに会話している描写がある。宇都宮が目覚めた時には既に姿が無かった事から、連隊とともに退却していったと思われる。このため出番は序盤だけである。
- バイク兵
バイクに乗ったアメリカ軍の斥候。本名不明。古代・宇都宮のコンビを発見し、M3サブマシンガンで銃撃。古代一等兵に「奴はプロだ!」と言わしめるほどのテクニックを見せつけ、機銃手を務める宇都宮と交戦するが、古代一等兵の奇策によって側車の車輪に打ち据えられて転落。バイク乗り同士の対決に敗れる。殺そうと思えば殺せたが、古代一等兵は「殺すには惜しいプロだ」だとして殺さなかった。この事はバイク兵も悟っていたようで、のちに古代一等兵が死亡した時には「これがレースだったら、奴は優勝している。レースではゴールから弾が飛んでくる事は無いのだから…」と彼の死を悼んだ。
関連動画
関連項目
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