ザ・コーヴ(The Cove)とは、日本のイルカ漁(正確には「イルカ追い込み漁」)を描いたドキュメンタリー映画である。2009年7月31日にアメリカで公開された。日本では2010年夏に公開予定。
coveという単語は日本語で「小湾, 入り江」という意味がある。これはイルカ漁を行う際に、入り江などにイルカを追い込んで漁を行うからである。
概要
日本の一部で行われているイルカ漁の実態と、イルカ漁の存在を日本人が知らないという事実を知らせる目的のために制作された。撮影は主に和歌山県太地町の漁港で行われ、街頭インタビューは東京や大阪で行われた。
ドキュメンタリー映画ではあるが、撮影を実行するために様々な分野のエキスパートを呼ぶなど、『ミッション・インポッシブル』などの要素を思わせるような構成になっており、エンターテイメント性が高く、いわゆる「お堅い」ドキュメンタリーではない。
主人公のリック・オバリーは、元イルカの調教師であり、過去にイルカを死なせてしまったことがある。それが切っ掛けで。イルカ保護活動を始めたという経歴を持つ。
なお、イルカ漁自体は日本の一部の食文化であり、イルカを食べることを「日本の食文化」とするにはちょっと無理があるかもしれない(実際、捕鯨は知っていてもイルカ漁については知らなかったという人も多いのではないだろうか)
評価
海外での評価
タイム紙、ニューヨークタイムス紙、クリスチャン・サイエンス・モニター紙などのマスコミからは評価が高い。とはいえ、作り手の主張云々よりも、映画のエンターテイメント性の高さを褒めている。
しかし、イギリスのガーディアン紙はイルカ漁を問題視する映画を製作すること自体を疑問視している。またフランスの映画情報サイト「Allo Cine」も、隠しカメラを使ったことやイルカ漁を問題視することを批判している。
もちろん、日本での捕鯨・イルカ漁に対して批判的なマスメディア(つまり欧米メディアの大半)からは大絶賛を浴びており、シーシェパードなどの団体もこれを支持している。
興行成績的には、アメリカ国内ではコケているのだが、まあドキュメンタリーだし仕方ない。
日本における評価
フジテレビアナウンサーの笠井信輔氏や映画ライターの村山章氏などは、「映画自体は面白い」と述べている。特に、エンターテイメント性の高さ(内容はともかく、サスペンス的なテイストなど)について評価している。
映画評論家の町山智浩氏は、主演俳優のリック・オバリーの日本人に対する態度が非常に悪い(現地の警察に対して無礼な態度をとったり、日本庭園に関して「休日に石を眺めるなんて(笑)」と揶揄した、また、漁業関係者をヤクザ呼ばわりする等)点を批判した。また、そのオバリーがあたかも自分はイルカの気持ちが分かるというようなことを主張している点について言及している。配給会社や映画館が上映を中止する(後述)のは経済的な面から仕方がないことだと主張し、上映を取りやめた映画館を安易に批判するのはおかしいと主張した。実際、南京事件の映画が日本で公開されたとき、映画館のスクリーンが破壊されたことがあったが、スクリーンはものすごく高いので映画館からすると負担になる。映画の公開については、イルカ漁を批判するためのプロパガンダ映画ではあるが、必ずしも作り手の思うように視聴者が誘導される訳ではないと言っている。
「主権回復を目指す会」をはじめとする保守派団体の中でも過激な手合いは、この映画について「国辱」「日本の食文化をけなす」「漁師の生活を脅かしているとして、」映画館の前や、ひどいときには上映を予定している映画館の支配人の個人宅へ押しかけ、拡声器を用いて大声で演説して上映中止を呼びかけるなどの手段に出ている。
当然ここまでくれば迷惑行為以外の何者でもなく、次々と映画館への接近・入場禁止を食らっているが、当の「会」メンバーに言わせればこの演説は「表現の自由」らしい。
また、これらの活動に限らず、上映予定の配給会社に向けて抗議の電話が殺到しており、劇場に足を運ぶ観客の安全も考慮し、上映を自粛することが決定している映画館も増えてきている。
問題点
この映画の問題点としては大きく分けて2つある。
一つ目はこの映画は一度撮影許可を貰おうとして拒否されたにもかかわらず無断で撮影した点であり、
二つ目は映画に映った一般人の肖像権絡みで問題があるという点だ。一部、映画館では一般人にはモザイクをかける予定である。
しかし、前述したとおり、プロパガンダ映画だからといって、必ずしも視聴者が作り手の思うような思想をもつとは限らない。
例えば、北朝鮮のプロパガンダ映画を見ても日本人にはギャグにしか見えない(やってる本人たちは本気なのだろうが)。実際、この映画の中で主人公のオバリーは日本人に対する態度は非常に悪かったりする。こういった手合いの映画には作り手の姿勢が出てきてしまうので、視聴者の中には作り手の主張を鵜呑みにする人は多くはないのではないかと思われる。そこだけを見ると、安易に中止を求めることには疑問符がつく。
ただ、一つ目の問題としてあげた「無断で撮影した」というところは、表現の自由など以前の問題(違法)ではないのか?ということを考えると、また別の意味を持つ。
ニコニコ動画と本作品
2010年6月18日、午後8時から公式生放送において本作品の先行上映、「第82回アカデミー賞 長編ドキュメンタリー賞受賞作品『ザ・コーヴ』ニコ生先行ロードショー!!」が行われた。上記の通り、映画館での上映を中止する動きがある中で行われたこの放送は話題となり、一部ニュースサイト等でも紹介された。
また6月21日に、鈴木邦男氏(一水会 最高顧問)、鈴木藤江ちはる氏(宝島社「この映画がすごい!」編集長)、ひろゆき氏らによる本作品をめぐる議論「第82回アカデミー賞受賞作『ザ・コーヴ』に関する大討論!」が生放送された。
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関連項目
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