シルバーストンサーキットとは、イギリス・ノーサンプトン近くにあるサーキットである。
F1のイギリスGPや、MotoGPのイギリスGPが行われる。
略歴
もともとはイギリス空軍の飛行場で、そのとき使われていた3本の滑走路はいまでも名残が残っている。日本語版Wikipediaに1945年の航空写真が掲載されている。こちらが現在の航空写真。
F1の開催初年度は1950年で、その第一レースは1950年5月13日にここシルバーストンサーキットで開催された(記事)。このときはイギリス国王ジョージ6世とエリザベス王妃も迎えた。
2010年に、アリーナセクション(AbbeyからBrooklandsまでのインフィールド区間)が設けられた。
2011年5月にthe Wingというピットとパドックの複合施設を完成させた。総工費2,700万ポンド(約35億7,000万円)。
コース形状の変遷は、日本語版Wikipediaも参考になるし、英語版Wikipediaに掲載されているこの画像も参考になる。
シルバーストンサーキットにおけるF1イギリスGPの開催をまとめると、次のようになる。1950年から1954年まで5年連続開催した。1955年から1986年までの32年間は1年おきに開催していて、15回開催した。1987年からは毎年開催している。
シルバーストンサーキットにおけるMotoGPイギリスGPの開催をまとめると、次のようになる。1977年から1986年まで10年連続で開催した。2010年からMotoGPが再び開催されるようになり、それ以降毎年開催している。
所有者
ブリティッシュレーシングドライバーズクラブ(British Racing Drivers' Club BRDC) という団体が同サーキットを所有している。
この団体の構成員は850人で、イギリスやイギリス連邦で生まれて著名な活躍をしたレーサーのみが入会できる。
立地
位置
シルバーストンサーキットはロンドンから北西に90km離れた場所に位置している。
シルバーストンサーキットは、北に位置するノーサンプトンシャーと南に位置するバッキンガムシャーの境界線にまたがって位置している。
サーキットのすぐ北のこの場所に位置するシルバーストン村はノーサンプトンシャーに所属していて、サーキットのすぐ南のこの場所に位置する醸造所はバッキンガムシャーに所属している。
近くの都市
最寄りの都市は北東に20km離れたノーサンプトンである。人口20万人で高級靴メーカーを多く抱える。紳士靴の聖地とか革靴の聖地と呼ばれ、わざわざ買いに行く人も多い。
ノーサンプトンとシルバーストンサーキットをつなぐ高速道路はA43のたった一本しかない。レース後は当然のように大渋滞となる。
南西に40km離れたところに名門オックスフォード大学で有名なオックスフォードがある。オックスフォード在住のMotoGP関係者というとニック・ハリス(2017年までドルナの実況者)、ブラッドリー・スミスが挙がる。
シルバーストンサーキットで事故が起こって怪我人が出ると、ドクターヘリを飛ばして、46km離れたこの場所にあるコベントリー&ウォーリックシャー大学病院に搬送する。ドクターヘリの速度は時速200km程度なので、23分程度で運ぶことができる。
周囲は田舎
サーキットの周辺は農地・牧草地が多い。航空写真を見ても緑と茶色しか目に入らない(画像)。
1947年にこの土地の住民がレースをしたところ、周辺の牧草地からやってきた羊を撥ねてしまった。このためこの時のレースをマトン・グランプリ、つまり羊肉(mutton)大賞典と呼んだ。羊が駆け回るような場所なので土地代が安く、広大な用地を確保しやすかった。
また、サーキットの近くにはゴルフ場がいくつかある。東隣にウィットルベリーパーク、西隣にシルバーストンゴルフクラブ、ちょっと南にストウゴルフクラブがある。
風が強く吹きやすい
海岸線との距離は120kmで内陸部のサーキットであり、海風の影響は少ない。ならば風はあまり吹かないだろうと予想したくなるが、残念ながら風はときおり強く吹いてしまう。
本サーキットの周囲には山らしい山がなく、平野が広がっている。それゆえ風が吹き込みやすい。地形図を検索すると、本サーキット周辺にあまり山がないことが理解できる。
風が強く吹き込むことで急に路面温度が下がることがあるし、雨雲を運んでくることもある。走行中のライダーが横殴りの風に煽られたり、向かい風でブレーキングが余計に強まってコーナリング進入速度が遅くなってタイムを損したり、追い風で止まりきれなくなり思わず強めにブレーキを掛けてフロントタイヤがロックして転倒したりする。
風が吹いて雲を運んできて天候が急変することがある。こちらやこちらやこちらが現地の天気予報なので、しっかり注目したい。
気温が低く、夏になっても東京の4月後半程度にしか気温が上がらない
本サーキットは北緯52度の位置にあり、樺太北部のここと同じ緯度で、空気が冷涼である。
「イギリスは世界最大の暖流であるメキシコ湾流と偏西風の影響で緯度のわりに温暖である」と地理の教科書で説明されるが、それでもしっかり寒い。シベリアのような凍てつく寒さではないが、断じて温暖ではなく、十分に寒い国である。
シルバーストンサーキット最寄りのノーサンプトンは、最も暑い7月でさえ平均最高気温が21.7度である。東京において4月の平均最高気温は19.0度で5月の平均最高気温は22.9度なので、「シルバーストンサーキットは、最も気温が高いときでも、東京の4月後半程度にしか気温が上昇しない」ということができる。
2013年からイギリスGP(MotoGP)は8月末の開催になったが、雨が降っていない状態ですら気温20度を割り込み、雨が降ると気温15度程度に下がっている。ジャケットを着込む客が目立つ。
2017年8月27日にMotoGPが開催されたが、この日は雲一つ無い青空で、日差しが強く降り注いでいた。「イギリスGPでこんな晴れたことは見た記憶がない」「イギリスじゃなくてスペインのようだ」との声が聞かれた。しかしながら、強い日差しが照りつけても気温は25度までしか上がらなかった。8月末の日本で強い日差しが照りつけたら35度を超えることを考えると、冷涼な気候が実感できる。
少量の雨が降りやすい。雨が降ったら路面が乾きにくい
イギリスは曇りやすい土地柄で、ここシルバーストンサーキットも例外ではない。どんよりとした灰色の曇り空が一面に広がるのが本サーキットの風物詩である。
このため、シルバーストンサーキットでのレースはパラパラッとした雨が降りやすい。気まぐれなブリティッシュ・ウェザーにレース参加者たちが翻弄される。
シルバーストンサーキット付近の降水量自体は、それほど多くない。サーキット最寄りのノーサンプトンの天候データを見ると、一番雨が降る10月の降水量は63.9mmで、8月の降水量は54.5mm。一方、東京の天候データを見ると、雨が少ないとされる12月~2月の降水量が平均して60mm程度である。
ただ、レース関係者にとっては、パラパラッとした雨でも重大な影響を及ぼす。そして、パラパラッと雨が降ったら、このサーキットは緯度が高くて冷涼な気候に覆われているので、なかなか路面が乾きにくい。降水量データの数値のわりに「雨が多い」というイメージがつきまとうのはこのためである。
ストレートやコーナーの名前の意味と由来
シルバーストンサーキットのストレートやコーナーには名前が付けられているので解説していきたい。
Copse(コプス)
雑木林という意味。このコーナーの近くにCopse chapel(雑木林の礼拝所)があるらしい。
Maggotts(マゴッツ)
Maggottsは近くのMaggot Moorという地名から取られた。
maggotはウジ虫(ハエの幼虫)という意味。
moorは「農業に適さない荒野」「ヒース(heath)が生えているだけの荒野」という意味。heath(ツツジ科の木)が生えているだけで土壌が悪く農業に向かず狩猟するぐらいしか用途がない。moorの日本語版Wikipediaがあり、「湿原」と表現されている。
maggotもmoorも酷い意味である。
英国は曇りが多くて日当たりが悪く、雨の後の地面が乾かず常に湿っていて、maggotが出やすい。英国らしいコーナー名と言える。
Becketts(ベケッツ)
かつてシルバーストンサーキットのある場所に、聖トマス・ベケット礼拝所があった。トマス・ベケットとは12世紀のカンタベリー大司教(英国キリスト教の中心地がカンタベリーで、そこの一番偉い坊さん)で、イギリス国王ヘンリー2世と対立した。最後はヘンリー2世の放った刺客に暗殺されてしまったが、ローマのカトリック教皇はすぐにトマス・ベケットを聖者に認定した。このためトマス・ベケットは神聖視され、彼を偲ぶ礼拝所が所々に建てられた。カンタベリーの大聖堂にも聖トマス・ベケット礼拝所が建てられ、そこに巡礼しに来る人たちの世間話を書いたのが「カンタベリー物語」という有名な文学作品である。
シルバーストンサーキットのあるところにも聖トマス・ベケット礼拝所が建てられた。1943年に空軍基地を作る際、その礼拝所は取り壊されたが、名前はコーナー名に残った。
Chapel(チャペル)
礼拝所という意味。先述の通り聖トマス・ベケット礼拝所が由来。
Hanger Straight(ハンガー・ストレート)
Hangerは森林という意味。ここらへんはかつて森林が多かった。
Hanger Bridge(ハンガー・ブリッジ)
同じく、Hangerは森林という意味。
Stowe(ストウ)
本サーキットの南の端のコーナーはStoweだが、そのコーナーの先にStoweという地名がある。11世紀以来の歴史がある土地である。
この場所にストウ庭園がある。1676年にリチャード・テンプル男爵(下院議員)が家を建て、その息子のリチャード・テンプル初代コバム子爵(功績数多い軍人)が庭を整備した。当時最高の技をもって作られた庭園で、英国内や海外からの訪問客を数多く受け入れてきた。ここを訪問した人は王族やら大貴族やら、ビッグネームが多い。
1922年にストウ庭園はストウ私立学校に買収され、邸宅が校舎に利用されることになった。地図検索するとストウ庭園と全く同じ場所がヒットする。ストウ私立学校は全寮制で生徒の多くが名門のオックスフォード大学やケンブリッジ大学に進学する。
ストウ庭園は景観が良いので観光客も来る。
Vale(ヴェイル)
谷底という意味。valley(ヴァレー、谷)と同じ語源。
Club(クラブ)
シルバーストンサーキットで行われるレースを主催するのはRACという団体であることが多い。RACにちなんだコーナー名が2ヶ所存在し、そのうち1つがこのコーナーである。
RAC(Royal Automobile Clubの略。イギリス王立自動車クラブ。日本のJAFに相当する)はロンドンの中心街Pall Mall(ペル・メル)に本部を構えている。本部の外観はこんな感じで、いかにも高級そうな建物である。
Pall Mall(ペル・メル)は高級街で、クラブと呼ばれる紳士の社交場が多かった。RACの本部の周囲にも、カールトンクラブ、リフォームクラブなどのクラブがある。それゆえRACの関係者は次第にRAC本部のことをClubと呼ぶようになった。
つまりシルバーストンサーキットのClubコーナーは、「RAC本部のコーナー」という意味を持つ。
International Straight(インターナショナル・ストレート)
2010年に新設されたピット「the Wing」の前の直線。国際的な直線、という意味。the Wingには各国から国際色豊かな人たちが集まるからこの名前になった。また、この直線は、F1ドライバーのルイス・ハミルトンの功績をたたえるため2020年12月にハミルトン・ストレートと命名された(記事)。
Abbey(アビー)
寺院という意味。シルバーストンサーキット近くにかつてルフィールド寺院が存在した。1133年以前から存在していたが1494年に破壊されてしまった。
Farm(ファーム)
農場という意味。
Village(ヴィレッジ)
村という意味。サーキットの北に人口2000人ほどの村がある。
the Loop(ザ・ループ)
湾曲という意味。
Aintree(エイントリー)
かつてF1が開催されたエイントリーサーキットのこと。港町リヴァプールの近郊にある。現在は小規模なイベントしか開催されない。隣にはエイントリー競馬場があり、世界最高の障害競馬レースのグランドナショナルが開催される。
National Straight(ナショナル・ストレート)
ナショナルストレートは空軍基地だった時代に滑走路だった部分である。そのためか、National(国家的な、という意味)という名前が付いた。
ナショナルストレートをウェリントンストレート(Wellington Straight)と記す資料も多い。第二次世界大戦中はこの滑走路からVickers Wellingtonという爆撃機が飛び立っていた。
Vickers WellingtonのWellingtonとは、1815年6月18日にベルギーのワーテルローで英国軍を率い、フランスの皇帝ナポレオンを破った軍人アーサー・ウェルズリーに与えられた爵位のことである。ウェリントン公爵アーサー・ウェルズリーは政治家としても首相にのぼりつめた。
Priory Bridge(プライオリー・ブリッジ)
Prioryとは修道院という意味。
Brooklands(ブルックランズ)
Brooklandsは小川の流れる土地といった意味で、ブルックランズサーキットにちなんでいる。
Luffield(ルフィールド)
シルバーストンサーキット近くにかつてルフィールド寺院が存在した。1133年以前から存在していたが1494年に破壊されてしまった。
Woodcote(ウッドコート)
シルバーストンサーキットで行われるレースを主催するのはRACという団体であることが多い。RACにちなんだコーナー名が2ヶ所存在し、そのうち1つがこのコーナーである。
RAC(Royal Automobile Clubの略。イギリス王立自動車クラブ。日本のJAFに相当する)はWoodcote Parkというロンドン南西部の邸宅を所有している。
この邸宅は1679年に建てられ、18世紀にフレデリック・カルヴァート男爵が大金を投じて豪華な内装にしつらえた。1913年にRACが購入した。RACは会員のためのゴルフコース付きの邸宅を探しており、Woodcote Parkに白羽の矢が立った。豪華な内装はRACにとって無価値だったので引き剥がされて売却された。そのうち1つはアメリカ・マサチューセッツ州のボストン美術館に収まっている。2つの世界大戦中は、ヨーロッパ大陸に近いこともあって軍隊に徴用された。軍隊の訓練場になったり、邸宅近くのゴルフコースに軍用飛行機が着陸したりしている。
Woodcoteとは木(wood)で作られた動物用の小屋(cote)という意味。
※この項の資料・・・記事1、記事2
サーキット施設など
the Wing
the Wingはピットとパドックの複合施設である。画像を見ると、wing(翼)というよりは角(ツノ)といった印象を受ける。
F1などのレースでピットとして使われるし、他の部屋ではパーティー会場として使用することもできる(画像)。
サーキットの入口
サーキットの入口は、サーキット西端の、この場所にある。コース内部のピットへ物資を運ぶトラックは、とりあえずこの門をくぐる。
サーキット入り口近くには、日本であまり見られない環状交差点(ラウンドアバウト)がある。
2つの橋とトンネル
ナショナルストレートの途中に、プライオリー・ブリッジ(Priory Bridge)という橋が架けられている(航空写真)。この橋の上を通っていく車は、コースの内外をまたいで物資を運搬することができる。
ハンガーストレートの途中に、ハンガーブリッジ(Hanger Bridge)という橋が架けられている(航空写真)。この橋の上を通っていく車は、コースの内外をまたいで物資を運搬することができる。
Copseコーナーの近くにトンネルがある(航空写真)。Copseコーナーで転倒してコース外側のグラベル(砂)に投げ出されたライダーは、このトンネルを通ってコース内部のピットに帰還する。
移動式の観覧車
シルバーストンサーキットでレースが開催されるとき、移動式の観覧車がやってくることがある。
2015年のMotoGP開催時には、ナショナル・ストレートの左側でプライオリー・ブリッジ(Priory Bridge)をくぐった後の場所に移動式の観覧車がやってきていた(動画)。22台の籠がついていて、風通しが良すぎて寒そう(画像)。しかもこの年は雨だったのでなおさら寒い。2016年には来なくなってしまった(動画)。
スタートラインの違い
F1が行われるときは、the Wingをピットとして使い、the Wingの前にあるインターナショナル・ストレートをスタートラインにする。Abbeyが1コーナーになる。
MotoGPが行われるときは、旧ピットをピットとして使い、旧ピットの前にある直線をスタートラインにする。Copseが1コーナーになる。
2011年5月にthe Wingが完成したので、2011年と2012年のMotoGPはF1と同じようにthe Wingをピットとして使い、the Wingの前にあるインターナショナル・ストレートをスタートラインにした。しかし、the Wingは設備が新しいという長所を持っているが、MotoGPの多くのチームを収容するには手狭だった。
施設が古くてもいいから広々とした旧ピットを使った方がいい、という意見が大勢となり、2013年以降のMotoGPは旧ピットに戻り、再び旧ピットのあたりをスタートラインにすることになった。
コース紹介(MotoGP)
概要
コース全長は5900mで、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で最も長い。コーナー数は18ヶ所で、2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中で上から2番目である。全長やコーナー数から、大型サーキットと表現することができる。
2018年~2019年にMotoGPが開催された19ヶ所のサーキットの中でコース平均速度が上位6番手以内に入り、高速サーキットとされている。
コース幅は17mで、かなり広々としており、パッシングを仕掛けやすい。
こちらがMotoGP公式サイトの使用ギア明示動画である。一番低いギアは2速で、1速を使わない。
主なパッシングポイントは1コーナー(Copse)、ハンガーストレートエンドの7コーナー(Stowe)、8コーナー(Vale)、13コーナー(Village)、14コーナー(The Loop)、ナショナルストレートエンドの16コーナー(Brooklands)、あたりとなっている。
路面の凹凸が激しい
F1のレースが開催されるサーキットである。F1のハイパワーマシンによって路面が削られ、路面に轍(わだち)やバンプ(隆起)やギャップ(割れ目)がある。特にブレーキングポイントにそうした凹凸が多い。路面の凹凸に対応するサスペンションセッティングに取り組まなければならない。
ちなみにサーキット路面のうねりには、大きく分けて3つの段階がある。
1つ目の段階は、ライダーが走行していてバイクが全く上下せず、タイヤも全く上下しないもの。
これは「うねりが無い綺麗な路面」と表現される。ツインリンクもてぎはだいたいいつもこの状態である。
2つ目の段階は、ライダーが走行していてバイクが全く上下しないが、タイヤが細かく動いているもの。ライダーの姿勢が上下振動していないのでぱっと見は路面が綺麗であるように感じられるが、実際には路面にうねりがあり、サスペンションが忙しく働いて振動を吸収しているのである。1秒1500コマのスーパースロー映像だとタイヤの細かい動きがよく分かる。この段階でもライダーにとってはタイヤの接地感が薄く感じられ、走りにくい。2017年8月のブルノサーキットがこの状態だった。
3つ目の段階は、ライダーが走行していてバイク全体が激しく上下に振動しているもの。これは誰がどう見ても路面がうねっている状態であり、ライダーにとっては走り心地が最低最悪となる。2017年8月のシルバーストンサーキットがこの状態だった。
コース脇のグラベル(砂)が少なく、芝生やアスファルトが多い
シルバーストンサーキットはF1、WEC(世界耐久選手権)、GT1世界選手権、イギリスツーリングカー選手権など、四輪レースの開催頻度が高い。このため四輪レース開催者の意見が通りやすく、四輪レース開催者に配慮したコースとなっている。
四輪レース開催者はグラベル(砂)を嫌がり、コース脇をアスファルト舗装や芝生にしたがる。二輪の車体は軽いのでグラベル(砂)にはまっても自力でコースに復帰できるのだが、四輪の車体は重いのでグラベル(砂)にはまったら自力でコースに復帰できず、レース終了となる。
そういうわけでシルバーストンサーキットのコース脇は芝生やアスファルトがとても多い。二輪ライダーにとっては転倒したら高速で滑ることになり、危ないサーキットと言える。
こちらがシルバーストンサーキットの航空写真で、こちらがツインリンクもてぎの航空写真。前者は芝生やアスファルトが多く、後者はグラベル(砂)が多いことがよく分かる。
2016年のMotoGP最大排気量クラス決勝で、ポル・エスパルガロとロリス・バズの接触が発生した。ポルのマシンが芝生の上を滑っていき、激しくバウンドしていく恐ろしい事態になった(動画)。別アングルの動画だと凄まじさが際立つ。
二輪に配慮したサーキットなら人工芝の代わりにグラベル(砂)が敷き詰められているので、ここまでマシンが高速で滑る現象は起こらない。
メインストレート~マゴッツ・ベケッツ・チャペル
1コーナー(Copse)は右へ90度曲がる中高速のコーナーで、車速を保ってコーナーリングするためブレーキを掛けすぎないようにする。
1コーナー(Copse)を回ると短い直線に入り、途中で上り勾配を駆け上がって下り勾配になりながら(動画)、マゴッツ・ベケッツ・チャペル(Maggotts・Becketts・Chapel)と呼ばれる高速S字に突入する。
左の進入が2コーナー(Maggotts)で、
右の切り返しが3コーナー(名前無し)で、
左の切り返しが4コーナー(Becketts)で、
右の切り返しが5コーナー(名前無し)で、
左の脱出が6コーナー(Chapel)、このように扱う資料が多い。左コーナーに名前が付く。
2コーナー(Maggotts)は下っていて、路面が濡れている場合はフロントタイヤが滑って転倒しやすい。
この高速S字は最初のコーナーの角度が緩く、先に行くに従って角度がきつくなっている。2コーナー(Maggotts)をかなりの速さで突っ込む度胸と、速度を殺しつつ走行ラインを正確に保つテクニック、この両方を試される。
3コーナーは相当な高速で走りながら切り返すのでマシンがずっしり重く感じられ、難しい。3コーナーを曲がり損ねても、アスファルトを通り、5コーナーで復帰できる(動画)。
5コーナーになると、角度がずいぶんきつくなっていてだいぶ低速のコーナーになる。
最後の脱出の6コーナー(Chapel)は5コーナーとは一転して緩い角度の高速コーナーになっており、上手く加速できないと置き去りにされてしまう。
6コーナー(Chapel)は勢い良く立ち上がるので多くのライダーが縁石に乗り上がる(動画)。縁石をはみ出し土埃を巻き上げることも多い(動画1、動画2)。
ハンガーストレート~ストウ
6コーナー(Chapel)の次の直線はハンガーストレート(Hanger Straight)と呼ばれる。本サーキット最長の770mで、途中でハンガー・ブリッジ(Hanger Bridge)という橋をくぐっていく。
ハンガーストレートの終わりのブレーキングポイント付近でわずかな下り勾配になり、ストンとマシンが落ちる。また、ブレーキングポイント付近からごくわずかに右に曲がっていて、それでコーナーに進入していく。最大排気量クラスでは時速320km程度の最高速になっていて、この状態でわずかな下り勾配とわずかな右へのカーブに対応するのはなかなか厄介である。この動画を見ても、下ると同時に右へのカーブが始まりブレーキングすることが分かる。
7コーナー(Stowe)はパッシングポイントの1つであり、数多くの抜き合いが繰り広げられてきた。
ヴェイル~インターナショナル・ストレート
7コーナー(Stowe)を過ぎると、左に曲がりながらの急激な下り勾配になり、谷底に辿り着いたらすぐに上り勾配、そして下り勾配になって、8コーナー(Vale)に進入していく。谷・山・谷といった起伏がある。8コーナー(Vale)から7コーナー(Stowe)を見た画像はこちらで、起伏がはっきり分かる。
こちらの動画も起伏がよく分かる。7コーナー(Stowe)脱出は下りでアクセルを開けるので前輪が浮く。8コーナー(Vale)の進入は下りでブレーキを掛けるので後輪が浮く。
8コーナー(Vale)の右にthe Wingへのピットロードがある。the Wingはツノのような屋根が印象的(画像)。
8コーナー(Vale)は恐るべき転倒多発地帯となっていて、毎年多くのライダーが沈む魔所となっている。2010年の青山転倒(脊椎骨折)、2013年のマルケス転倒(左肩脱臼)など、挙げればきりがない。
2013年の練習走行にて8コーナー(Vale)で連続転倒が起こった。まずカル・クラッチローが転倒し、マシンを片付けるためにコースマーシャル達が集まった(動画)。その次の瞬間マルク・マルケスが転倒し、ライダーやコースマーシャル達の所にマシンが突っ込んだ(動画)。幸いなことに負傷者はいなかったが、8コーナー(Vale)の恐ろしさを印象づけるには十分な映像である。
ぐるっと回り込んだ9~10コーナー(Club)コーナーがありそこを立ち上がると、短い直線があってF1のチェッカーラインを過ぎる。この短い直線はインターナショナルストレート(International Straight)とかハミルトン・ストレート(Hamilton straight)と呼ばれている。ジグザグ屋根のthe Wingを右に見ながら通過していく(動画)。
アリーナセクション
11コーナー(Abbey)からはアリーナセクションと呼ばれる曲がりくねったインフィールド区間となる。アリーナ(arena)とは、ぐるっと観客席に囲まれた円形の闘技場という意味。
11コーナー(Abbey)はギア3速で曲がる緩い角度の高速コーナー。
12コーナー(Farm)は転倒の多い場所として悪名高い。最大排気量クラスなら時速200km程度になり、相当な高速で走りながら切り返すのでマシンがずっしり重く感じられ、難しい。
11コーナー(Abbey)~12コーナー(Farm)という高速コーナー2連発の巨大なS字で速度を乗せ、13コーナー(Village)で激しくブレーキングしながら先行ライダーのインに飛び込む、というのが多く見られるパッシングシーンである。
13コーナー(Village)は低速のヘアピンで最大の抜きどころ。
14コーナー(The Loop)も超低速のコーナーで有力なパッシングポイント。
13~14コーナーの2連続コーナーは見応えのあるパッシングシーンを生む(動画1、動画2、動画3)。
15コーナー(Aintree)は高速コーナーになっており、ここを上手なラインで早く走ることにより、次の直線での加速につながる。
ナショナルストレート~最終コーナー
15コーナー(Aintree)を立ち上がって直線に入っていく。この直線はナショナルストレート(National Straight)、あるいはウェリントンストレート(Wellington Straight)と呼ばれている。
ナショナルストレートの途中でプライオリー・ブリッジという橋をくぐっていく。
ナショナルストレートの前半は平坦だが後半は長い下り勾配で(画像)、下り勾配のまま勢い良く16コーナー(Brooklands)に進入する。
Brooklandsコーナーの右には公立学校を連想する素朴な外見の5階建て建物がある。建物の壁面にBrooklandsと名前が書いてある(画像)。観客たちがベランダに出て立ち見している(画像)。
この16コーナー(Brooklands)は最後の勝負所であり、ここでインに飛び込めないと残りのコーナーでは苦しい。
「つ」の字型の低速コーナーである17コーナー(Luffield)を立ち上がって、「へ」の字型の高速コーナーである18コーナー(Woodcote)を回るとすぐにチェッカーラインになる。
コース学習用動画
関連リンク
公式サイト
- シルバーストンサーキット 公式ウェブサイト
- シルバーストンサーキット 公式Twitter
- シルバーストンサーキット 公式Instagram
- シルバーストンサーキット 公式FACEBOOK
- シルバーストンサーキット 公式Youtube
Wikipedia記事
関連項目
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