シルヴァーソニック(Silver Sonic)とは、2016年生まれの日本の競走馬である。芦毛の牡馬。
2022年天皇賞(春)で記憶にも記録にも残る走りを見せ、そこから海外含む長距離重賞を2勝し、ダミアン・レーンを魅了した芦毛の名ステイヤー。
主な勝ち鞍
2022年:ステイヤーズステークス(GII)
2023年:レッドシーターフハンデキャップ(G3)
概要
父オルフェーヴル、母エアトゥーレ、母父*トニービンという血統。
父は言わずと知れた三冠馬にして超気性難で知られた「金色の暴君」。
父の父も言わずと知れた稀代の名種牡馬にしてやはり超気性難のステイゴールド。その他にも父系にはサンデーサイレンス、メジロマックイーン、ノーザンテースト、ディクタスといった良血馬が並ぶ。
母は2001年の阪神牝馬S(GII)の勝ち馬で、2002年のモーリス・ド・ゲスト賞(仏GI)2着という実績を持つ名牝。繁殖牝馬としてもGI馬を含む重賞馬4頭を産んだ。
母父は1988年の凱旋門賞馬で、90年代から00年代初頭の日本競馬界にベガ、エアグルーヴ、ジャングルポケットなど名馬を多数送り出した日本競馬史に残る大種牡馬。
半兄に2008年の皐月賞馬キャプテントゥーレ(父アグネスタキオン)、短距離重賞2勝のアルティマトゥーレ(父フジキセキ)、和田竜二にシバかれまくったことで知られる2016年の小倉記念勝ち馬クランモンタナ(父ディープインパクト)がいる。
2016年3月22日、千歳市の社台ファームで誕生。オーナーは一口馬主クラブの社台レースホース。募集価格は1口100万円×40口(=4000万円)だった。
馬名意味は「音速の銀」とだけ登録されている。
黄金の名を冠する一族に産まれた芦毛からの連想と思われる。
音速の銀
2022年天皇賞(春)に至るまで
父と同じ栗東の名門・池江泰寿厩舎に入厩。デビューはやや遅く、3歳となった2019年1月20日の新馬戦(京都・芝1600m)だった。ここでは中団前目から脚を伸ばすも、後に2021年の中京記念(GIII)を勝つアンドラステに4馬身差で逃げ切りを許し2着。ちなみにこのレースには後にJBCレディスクラシック(JpnI)を勝つテオレーマもいた(11着)。
このあと2月の小倉の未勝利戦(芝1800m)も叩き合いの末ハナ差で2着。5月の京都の未勝利戦(芝1800m)も直線抜け出したがアタマ差差しきられて2着。
4戦目、6月の阪神の未勝利戦(芝1800m)でようやく2馬身半差の快勝で勝ち抜けると、続く7月の国東特別(1勝クラス、小倉・芝2000m)を川田将雅の果敢なイン突きで差し切り勝ち。9月の兵庫特別(2勝クラス、阪神・芝2400m)も直線で競り勝って3連勝。あっという間に準オープンまで勝ち上がった。
この後は菊花賞に向かうことも検討されたが、脚元に疲れが見えたこともあって大事を取って休養に入り、3歳シーズンは終了。
明けて4歳となった2020年、この調子で一気にオープン、そして重賞へ……と行きたいところだったが、ここからシルヴァーソニックは1年半も3勝クラスで足踏みすることになる。
4歳春は5着→5着→3着→6着と掲示板はほぼ外さないが勝ち負けには足りず、秋はどうも骨瘤の症状が出たらしく全休となる。
明けて5歳、1月の美濃S(中京・芝2200m)で復帰したがヒートオンビートからだいぶ離された4着。続いて2月の松籟S(阪神・芝3200m)で初の長距離戦に挑戦、2着とハナ差の3着。5月の緑風S(東京・芝2400m)ではタイム差なしの3着と惜しいところまでいき、クリストフ・ルメールを迎えた6月のジューンS(東京・芝2400m)にて、4角先頭から府中の長い直線を譲らず押し切って勝利。8戦目でようやく3勝クラスを脱出、オープンに昇格した。
5歳秋は10月のオクトーバーS(L)から始動したが、パンサラッサの逃げ切りの後ろで5着。
前走勝った府中とはいえ芝2000mは短かったか……というわけで、12月のステイヤーズS(GⅡ)で重賞初挑戦。3番手の好位からレースを進めたが、逃げ粘るアイアンバローズを捕まえきれず、外から飛んできたディバインフォースにかわされ3着。
明けて6歳は天皇賞(春)を目標に定め、1月、中京3000mの万葉S(OP)から始動。鞍上はここから川田将雅となる。中団前目から直線で間を割って抜け出すも届かず3着。
続いて3月の阪神大賞典(GⅡ)も中団前目から直線で前を捕まえに行ったが、外からディープボンドにかわされ、アイアンバローズにも届かず3着。
……と、3000m以上のレースで3戦連続3着というブロコレぶりを発揮しながら、シルヴァーソニックは大目標の天皇賞(春)に乗りこむこととなった。
2022年天皇賞(春)・衝撃のスタート、衝撃の好走、衝撃の結末
さて5月1日の天皇賞(春)(GⅠ)。ディープボンドとタイトルホルダーの2強対決というムードの中、その2強が揃って大外8枠の18番と16番に入れられるという波乱を予感させる枠順。シルヴァーソニックは、その2頭に挟まれた8枠17番であった。当日のオッズは単勝35.8倍の8番人気。
レースが始まる。スタートで躓いて出遅れたシルヴァーソニックだったが、軽くなった斤量を活かして果敢に外から上がっていく。
最初の外回り4コーナーで早くも先行集団に取り付くと、1コーナーから2コーナーにかけてインに潜り込み、逃げるタイトルホルダーの真後ろという絶好の位置を確保。内ラチ沿いでタイトルホルダーをぴったりマークして追走する。
そして直線。1頭だけ余力を残して後続をぐんぐん突き放していくタイトルホルダーに、しぶとく食らいついていくシルヴァーソニック。内ラチギリギリを攻め、多少よろめきながらも闘志を切らすことなく走り続ける。
結局タイトルホルダーには振り切られたが、外から追ってきたディープボンドを5馬身近く突き放し、なんと堂々の2位入線を果たしたのだった。
そう、スタートで躓いた時点で川田騎手は落馬しており、この時点でシルヴァーソニックはカラ馬となり競走中止扱いである。
まあ、それだけならGIでもたまに起こるアクシデントではある。8番人気だったシルヴァーソニックは2002年菊花賞の1番人気ノーリーズンや、2008年エリザベス女王杯の3番人気ポルトフィーノのように多額の馬券を吹っ飛ばしたわけでもない。
だが、なんとシルヴァーソニックは制御する騎手がいなくなったにもかかわらず、果敢に先行集団に取り付き、コーナーでインに潜り込み、逃げるタイトルホルダーの真後ろという絶好の位置をキープし続けるという、名騎手が最高の騎乗をしているかのような位置取りで走り続けたのである。
ポルトフィーノのエリザベス女王杯などを見れば解る通り、制御する騎手がいなくなった馬はふつうコーナーで曲がりきれなかったり、正面スタンド前で大声援に怯えるなどして大きく外に逸走するものである。
だが、1~2コーナーでむしろインに潜り込み、3~4コーナーでヨレることもなく内ラチ沿いを保ったまま綺麗にコーナリングするシルヴァーソニックの走りは、騎手が乗っているとしか思えないものだった。
またこの競争は日本競馬のGIでは最長となる3200mもの距離を、阪神競馬場での代替開催により外周り→内周りで走る特殊なレースであった。
それを彼は最初から最後まで騎手無しで走り切るという離れ業をやってのけたのである。
そしてまさかの事態に騒然とする中、タイトルホルダーが勝利する瞬間までカメラに映り込み続け勝ち馬以上に衆目を集める事となったのだった。
レースは逃げたタイトルホルダーが上がりも最速を叩き出して後続を全く寄せ付けない7馬身差の完勝だったわけだが、最内だけが伸びる稍重の馬場だったにも関わらず、シルヴァーソニックがタイトルホルダーを最内で追走するという最高のポジションを占めてしまい、先行集団がカラ馬に絡まれる危険を避けてタイトルホルダーに対して仕掛けにくくなってしまったという側面は否めなかった。
(いつ逸走するか分からないカラ馬の斜行に巻き込まれると、最悪の場合はレース完走が危ういどころか人馬共に生命の危険もある)
実際、何度もシルヴァーソニックにぶつけられたタガノディアマンテが戦意を喪失して大差の最下位に沈んでしまう、スタート時に唯一シルヴァーソニックの外にいたディープボンドも不利を受けるなど、単なる出オチの笑い話では済まない具体的な被害も出てしまっている。
もちろん、こういうアクシデントも起こるのが競馬であり、シルヴァーソニックはただ一所懸命に走っただけで、タイトルホルダーの勝利の価値も何ら変わりないのであるが。
さて、衝撃の展開はそれだけではなかった。ゴール後、外ラチに向かって走っていったシルヴァーソニックは、そのまま外ラチに激突、背面跳びで飛び越えるようにして外ラチの向こう側に転倒した。同父同期のメロディーレーンが心配そうに(?)駆け寄る中、倒れたシルヴァーソニックは少しの間もがいていたものの、ほどなく横になって動かなくなってしまった。
観客から悲鳴があがり、最悪の事態を想像して皆が心配する中、横になって動かないシルヴァーソニックに競馬場のスタッフが駆け寄っていく。何人かが集まって囲んで様子を見ているところに、担当の池本調教助手が駆け寄ると……突然ビクッと立ち上がったシルヴァーソニック。怪我で起き上がれなかったのではなく、びっくりして失神していたらしい。
負傷は外ラチにぶつかった際の擦過傷だけで歩様にも異常はなく、馬運車に乗せられ帰っていったシルヴァーソニック。その後、トレセンでの獣医の触診でも異常なしと診断され、翌日には元気に運動していた。落馬した川田騎手も怪我はなく、人馬とも無事で済んだのは何よりである。
休養からの快進撃
次走は目黒記念に向かう予定だったが、直前の追い切り後に歩様が乱れ、左前脚の骨瘤で大事をとって回避。さらに再検査の結果、左前脚副管骨に骨膜が出ていることも判明し、全治3ヶ月以上ということで休養となった。春天でのアクシデントと故障の因果関係は不明である。
休養を経て、復帰戦は11月6日のアルゼンチン共和国杯……の予定だったが、あえなく抽選除外。12月3日のステイヤーズS(GⅡ)へ向かうことになった。ダミアン・レーンを鞍上に迎え、単勝5.4倍の3番人気に支持される。
レースは1番人気ディアスティマが先手を取り、シルヴァーソニックは4番手につける。隊列が落ち着くと中団の内でじっと脚をため、勝負どころで各馬が仕掛ける中でもレーン騎手は慌てず、春天でシルソニ自身がそうしたように最内の経済コースを通って直線勝負へ。レーン騎手が満を持して追い出すと、シルヴァーソニックは力強く最内を強襲。一気に突き抜けると、後方から追い込んできたプリュムドールを寄せ付けずゴール板を駆け抜けた。
復帰戦で嬉しい重賞初制覇。これで池江師はJRA通算800勝を達成した。
明けて7歳となった2023年はサウジ遠征を敢行。前年にはステイフーリッシュが勝った、3000mのレッドシーターフハンデキャップ(G3)に挑むことになった。鞍上は引き続きダミアン・レーン。2021年のアスコットゴールドカップを圧勝してから長期離脱し、久々の復帰戦となるイギリスのSubjectivistが62kgを背負わされる中、56.5kgという斤量もあって海外ブックメーカーでも1番人気の評価を受ける。
レースでは最内枠からそのまま枠なりに逃げ馬を見る位置で先行。道中やや内に押し込められる節もあったが、直線入口で間を割って力強く抜け出すと、外から追ってきたイギリスのEnemyを寄せ付けず、逆に突き放す強い内容で完勝。昨年のステイフーリッシュに続いて日本勢による連覇を達成した。1351ターフスプリントを勝ったバスラットレオンに続いて出オチ仲間同士の連勝でもあった。
次走はステイフーリッシュと同じく転戦してのドバイゴールドカップと、帰国して天皇賞(春)との両にらみだったが、天皇賞(春)を選択。昨年のリベンジを目指すことになった。同日には香港チャンピオンズデーがあったが、ダミアン・レーンはそれを蹴ってシルソニ騎乗を選択。当日はタイトルホルダーvsアスクビクターモア・ジャスティンパレス・ボルドグフーシュの4歳勢というムードの中、シルソニは8枠16番という枠もあってか、22.5倍でディープボンド(5番人気)と同オッズの6番人気に落ち着いた。
レースはタイトルホルダーに大外枠のアフリカンゴールドが果敢に競り掛けていってハナを奪い、最初の1000m59秒7のハイペースの入りとなり、シルヴァーソニックは後方に構えることになった。アフゴが心房細動を起こして1コーナーから後退し向こう正面で競走中止、さらにタイトルホルダーまでもが4コーナーで失速し競走中止という波乱の展開の中、ダミアン・レーンとシルソニはインに入れられないまま外を回して前を行くボルドグフーシュを追いかける。直線でボルドグフーシュをかわして追い込んだが、前目で立ち回ったジャスティンパレスとディープボンドに届かず3着。充分に力は見せたと言えるが、外枠の不運が惜しまれる感じのレースであった。
その後
秋は豪州遠征しメルボルカップへの参戦を検討していたが、左前肢球節部にむくみの症状が出て、坂路やウッドチップコースが使えない豪州での調整はリスクが大きいとして遠征を断念。結局そのまま休養が長引いてしまい、7歳秋を全休することになってしまった。
8歳となった2024年、天皇賞(春)でのリベンジを目指して阪神大賞典から武豊を迎えて復帰したものの、3コーナーで息切れし、4角で後退、あえなく11着。
本番の天皇賞(春)ではミルコ・デムーロを迎えたものの、最後の直線で失速し、最下位16着。
レース後、放牧先でエコー検査を行った結果、重度の繋靱帯炎を発症していることが発覚。8歳という年齢もあり、残念ながらここで現役引退となった。通算24戦6勝 [6-3-7-8]。
今後は社台ファームで乗馬になる予定とのこと。
「春天のカラ馬」から歴とした重賞馬へ、そして海外重賞馬へと駆け上がった遅咲きのステイヤー、シルヴァーソニック。充実期を迎えてから順調にレースを使えなかったことが悔やまれるが、一介のネタ馬で終わらず、海外を含む2つの重賞タイトルを勝ち取った姿に魅せられたファンも多かったはずだ。
これから先、タイトルホルダーの2022年天皇賞(春)の圧勝が語り継がれるとき、おそらく後世の競馬ファンは「そのゴールシーンに写りこんでいる芦毛のカラ馬」として彼を知り、その後の活躍を知ることになるだろう。リアルタイムでもわりと多くの競馬ファンがそうであったように。
記憶にも(映像・画像)記録にも残る馬となったシルヴァーソニックの、第2の馬生にも幸多からんことを。
エピソード
- 池江厩舎で彼を担当する池本啓汰調教助手は、シルヴァーソニックが新馬から担当した初めての馬。普段は「シルヴィー」と呼んでいるそうな。2022年の春天で倒れて動かなくなったシルヴァーソニックを見たときには死んでしまったかと思い、泣きながら駆け寄って「シルヴィー!」と呼びかけたところ、それに反応してシルヴァーソニックが起き上がった。一部始終を映した現地映像
でシルヴァーソニックが起き上がる瞬間、外ラチの内側から駆け寄ってきて、その後彼を引いて馬運車へ連れていった黒いヘルメットと黒いベストの男性が池本助手だろう。落馬事件の後に届いたお守りやファンレターは翌年のサウジにも全て持っていったそうである。
- 2022年春天での騎手なしでの完璧なコース取りなどから「賢い馬」という印象のあるシルヴァーソニックだが、気性は父譲りなところもあるそうで、池本助手いわく「大人しく見えますが、本当はヤンチャで手がかかる馬なんですよ」とのこと。サウジ遠征の際には到着初日から獣医に馬っ気を出して襲い掛かろうとし、現地では「クレイジーホース」と呼ばれることになったらしい。[1]
血統表
オルフェーヴル 2008 栗毛 |
ステイゴールド 1994 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
ゴールデンサッシュ | *ディクタス | ||
ダイナサッシュ | |||
オリエンタルアート 1997 栗毛 |
メジロマックイーン | メジロティターン | |
メジロオーロラ | |||
エレクトロアート | *ノーザンテースト | ||
*グランマスティーブンス | |||
エアトゥーレ 1997 芦毛 FNo.3-l |
*トニービン 1983 鹿毛 |
*カンパラ | Kalamoun |
State Pension | |||
Severn Bridge | Hornbeam | ||
Priddy Fair | |||
*スキーパラダイス 1990 芦毛 |
Lyphard | Northern Dancer | |
Goofed | |||
Ski Goggle | *ロイヤルスキー | ||
Mississippi Siren |
クロス:*ノーザンテースト 5×4(9.38%)、Northern Dancer 5×4(9.38%)
芦毛の由来は7代母Obedientの父Mahmoud、そしてその祖母Mumtaz Mahal、更にその父The Tetrarchから。
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関連リンク
関連項目
脚注
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