シーバード(Sea-Bird)とは、1962年生まれのフランスの元競走馬・元種牡馬。1965年の英ダービーと凱旋門賞を制した、20世紀有数の名馬である。
ちなみに馬名の単語は言うまでもなく2つとも英語由来だが、フランス語でもハイフンで繋いだこの綴りだと「海鳥」の意味になるという。なおフランス語に準拠した発音では「セアビール」と発音するらしい。
概要
父Dan Cupid(ダンキューピッド)、母Sicalade(シカラード)、母父Sicambre(シカンブル)という血統。父はネイティヴダンサー産駒で、ジョッケクルブ賞(仏ダービー)で2着があるものの大レースには勝てなかった馬だが、シーバードの世代が初年度産駒なので種牡馬としては未知数だった。
こっちはともかく母は自身はおろか4代母(シーバードの5代母)まで遡っても平地未勝利で、伯母に1000ギニー馬カマリーがいる以外は全く良いところなし。母父のシカンブルは競走・繁殖どちらでも成功を収めたのだが、それを差し引いても全体的にはまったく期待出来なさそうな血統である。実際、シカラードはシーバードを含めて3頭の仔を送り出したのに、シーバードが競馬に出る前(1歳時)に見切られて食肉処分にされてしまった。
出走前に母馬が処分されていたくらいであるからこの栗毛の馬は見栄えが悪かったのであろう。一応調教は結構動いていたようだが成長も遅く、デビューは2歳秋だった。しかしデビュー戦を出遅れながら短頭差で勝利。おお? これは? と厩舎関係者も思ったのか、次戦は重賞相当のクリテリウム・ド・メゾンラフィットに出走。これも翌年のディアヌ賞(仏オークス)勝ち馬ブラブラをハナ差下して優勝。
3戦目は2歳チャンピオン決定戦となるグランクリテリウム(現:ジャン・リュック・ラガルデール賞)。ここには同厩舎の期待馬であったグレイドーンが出走していて、それまで乗っていたパット・グレノン騎手がグレイドーンに乗り替わってしまう。これが影響したのか、シーバードは出遅れてドン尻を進み、直線で火がついたように追い上げて11頭も追い抜いたものの、グレイドーンに逃げ切られてしまった。これには騎乗ミスという指摘も飛び、またグレイドーンに勝たせたのだという説も出たが、ともかくこのパフォーマンスで負けたにも関わらずシーバードの評価は逆に高まった。
3歳になると、グレフュール賞→リュパン賞と直線外目を加速して他の馬を置き去りにするという目の覚めるような勝ち方で連勝。特に後者ではプール・デッセ・デ・プーラン(仏2000ギニー)優勝馬のカンブルモンや2戦2勝の*ダイアトムらを6馬身以上離す圧勝で、このパフォーマンスに陣営はダービーステークス(英ダービー)への遠征を決断した。
ちなみにシーバードは右回りより左回りが好きだったそうであり、それが英ダービーへ向かった理由の一つだそうなのだが、今まで走ったレースはみんな右回りなのである。え? それであの強さなの? それを考えると英ダービーでのパフォーマンスは意外なものではなかったのかもしれない。
その英ダービーでは遠征馬の身で2000ギニー馬*ニクサーらを抑えて1番人気となった。そして直線に入るや否や恐ろしい末脚を繰り出し、残り2ハロン地点であっという間に先頭に立つ。しかもほとんど持ったまま。そのまま抜け出して4馬身くらいちぎり、ああ、もう大丈夫という感じで手綱を緩めて流してゴール。着差は2馬身。あまりの強さにイギリス人は総口あんぐり状態。「完全にキャンターで勝ちやがった」とか「他の一流馬を乗馬クラブの馬であるかのようにあしらった」とか「追い続けていれば10馬身以上は開いていただろう」とか「史上最高の大楽勝」とか、当時の評価はとにかく異常に高い。その強さは関連動画で見て、他の年の英ダービーと見比べてもらえれば分かる。抜け出す時の瞬発力はもしかしたらダンシングブレーヴやラムタラも敵わないかもしれない。
ちなみに2着馬メドウコートはその後、愛ダービーとキングジョージVI世&クイーンエリザベスSに勝っている。他にもアイセイがコロネーションカップ、シリーシーズンがチャンピオンSを勝っており、むしろこの世代のレベルは高い方だった。決して相手が弱かったわけではないのである。
さて、シーバードはその後、初古馬相手のサンクルー大賞も当時の最強古馬フリーライドらを相手に楽勝。不動の大本命として凱旋門賞へと向かったのだが、このレースが凄かった。
まず相手が凄い。対抗馬筆頭は、ジョッケクルブ賞(仏ダービー)、パリ大賞、ロワイヤルオーク賞のフランス3歳3大レースを無敗で制し、イギリス遠征したシーバードとはまだ対戦していなかったリライアンス。上でも少し名前が出た*ダイアトムも後にワシントンDC国際を勝つ名馬だし、英ダービー2着メドウコートも先述の通り愛ダービーとキングジョージを連勝して乗り込んできていた。アメリカからは最優秀3歳牡馬トムロルフが遠征してきたし、ソ連からは現在でもソビエト・ロシア史上最強馬と謳われるアニリンがやってきた。
今に至っても史上最高の好メンバーと言われているこの目も眩むような世界の名馬たちを向こうに回し、シーバードはダントツの1番人気・単勝2.2倍に支持された。だが、凱旋門賞はロンシャン2400m。シーバードの苦手な右回りである。流石のシーバードも苦しいレースを強いられるか? と予想した人も多かった。
ところが、このレースのシーバードは、一言で言って「鬼のように強かった」。シーバードはリライアンスとともに中団を進み、一団になったまま直線へ。直線を向いたところで2頭が先頭に立ち、リライアンスとの一騎打ちか、それともそこへ世界の強豪が襲い掛かるか!……と思ったら……。
1頭だけワープした様にあっという間に差を開くシーバード。えええ? しかも、後続各馬は押しまくってぶっ叩きまくっているのにグレノン騎手の手はほとんど動かない。その上、既に6馬身くらいぶっちぎっていた200m地点からなんだか逸走する様に思い切り左へ大斜行。まあ、これだけ差があれば後ろの馬にはなんの迷惑も掛らない。結局、リライアンスの内側にいたシーバードが最終的に大外になるというお遊びみたいな走り方をしながら公式発表6馬身(実際には4馬身程度とも)の圧倒的勝利。
「その光景はこの世のものと思えなかった」と英紙は伝え、「競走馬に対するものとしてはフランス史上最大級」とまで言われるほどの歓声が送られた。誰がどう見てもシーバードは本気を出しておらず、それでこの勝ち方なのだ。相手関係、勝ち方からして空前絶後であるとされ、現在でも「最も凄まじい勝ち方をした馬」としてシーバードは凱旋門賞史上に燦然と名を輝かせている。
レース直前に種牡馬としてのリース契約が結ばれていたことから、シーバードはこれで引退・種牡馬入りした。通算戦績は8戦7勝2着1回。生涯本気で走ったことは無かったとも言われ、強さの底を見せないままターフを去った。この時代にジャパンカップがあれば日本に来てくれたのだろうか……。
種牡馬入り後、最初の5年間は契約通りアメリカにリースされ、フランスに帰ってきたのは1972年末。しかし翌1973年、シーバードは腸閉塞を起こして死亡。まだ11歳の若さで、種牡馬としての評価もまだまだこれからという時であった。これほどの一流馬であるためか、ステークスウィナー率が18.8%もあるにも関わらず「産駒は期待ほど走らなかった」とされることがあるものの、それでもその中からアメリカの二冠馬リトルカレント、超名牝アレフランスを送り出し、世紀の名馬の意地をこの世に残した。日本でもタニノギムレットやウオッカ、リスグラシューの血統表にその名を見ることが出来る。サイアーラインはアークティックターン→ベーリング→アメリカンポストというラインを中心に現在でも残っているが、なんとか続いて欲しいものである。
一度しかイギリスで走っていないにも関わらず240票中228票の得票で1965年の英国年度代表馬に選ばれるなど、フランス馬でありながらイギリスでも絶大な人気があった珍しい馬である。イギリスのレーシングポスト紙が95年にベストホースを決めるアンケートを行ったところ、ニジンスキーやミルリーフ以下を抑えて圧倒的多数でシーバードが選ばれた。英タイムフォーム社のレーティングでも2012年に147ポンドを記録したフランケルに次ぐ歴代2位(つまり20世紀最高)となる145ポンドの評価を受けている。
その現在まで続く圧倒的な評価からは、彼のレースぶり・勝ち方からヨーロッパの競馬関係者とファンが受けた衝撃の深さが偲ばれる。フランスの英雄・シーバードは、現在でも多くの人が「20世紀最強馬」だと評価する偉大な名馬であった。
血統表
Dan Cupid 1956 栗毛 |
Native Dancer 1950 芦毛 |
Polynesian | Unbreakable |
Black Polly | |||
Geisha | Discovery | ||
Miyako | |||
Vixenette 1944 栗毛 |
Sickle | Phalaris | |
Selene | |||
Lady Reynard | Gallant Fox | ||
Nerva | |||
Sicalade 1956 鹿毛 FNo.2-n |
Sicambre 1948 黒鹿毛 |
Prince Bio | Prince Rose |
Biologie | |||
Sif | Rialto | ||
Suavita | |||
Marmelade 1949 鹿毛 |
Maurepas | Aethelstan | |
Broceliande | |||
Couleur | Biribi | ||
Colour Bar | |||
競走馬の4代血統表 |
クロス:Sickle 3×5(15.63%)、Rabelais 5×5(6.25%)
主な産駒
- Gyr (1967年産 牡 母 Feria 母父 Toulouse Lautrec)
- Allez France (1970年産 牝 母 Priceless Gem 母父 Hail to Reason)
- Little Current (1971年産 牡 母 Luiana 母父 My Babu)
- Arctic Tern (1973年産 牡 母 Bubbling Beauty 母父 Hasty Road)
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関連項目
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