シール(グランパス級潜水艦)単語

シール

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シール(グランパス級潜水艦)/HMS Seal(N37)とは、イギリス海軍が建造したグランパス級機雷敷設潜水艦6番艦である。1939年 1月28日竣工。敷設した機雷で4隻(9095トン)を撃沈する戦果を挙げたが、ドイツ海軍に鹵獲されてUBの艦名を与えられる。研究調査の末にUボート用魚雷の重大な欠陥を修正される事となる。1945年 5月3日、キール軍港で爆撃を受けて撃沈。

概要

グランパス級とは、1930年代後半にイギリス海軍が建造した6隻の機雷敷設用潜水艦の等級である。艦名の由来は海に住む哺乳類から。本項で解説するシールはアザラシの総称。ネームシップから名前を取ってポルポワーズ級、あるいは改ホーバス級とも呼ばれ、資料によって名称が異なる。

地中海、大西洋、太平洋など各海域で枢軸軍と交戦していたが、終戦までに4番艦ロールクアルを除く全艦が沈没する大損害を受けた。やられ方も多種多様で、1番艦ポルポワーズは1945年 1月16日にマラッカ海峡で日本軍機に、2番艦グランパスと5番艦カシャロットは地中海でイタリア海軍の魚雷艇に、3番艦ナルファルは1940年 7月30日にノルウェー近海でドイツ空軍機に、そして6番艦シールはキール軍港内で連合軍機の爆撃で撃沈された。

シールは第二次世界大戦中、ドイツ海軍に鹵獲された唯一のイギリス軍艦艇である。

艦上部外殻内に機雷敷設軌条2条を装備しており、S MkⅡ磁気音響機雷50発を艦尾のハッチから放出して敷設する。諸元は排水量 1810トン、全長89m、全幅7.77m、喫水5.13m、最大速力 15.5ノット(水上)/8.75ノット(水中)、乗員59名。武装は4インチ砲1門、21インチ艦首魚雷発射管6門、魚雷12本、機雷50発。

戦歴

1939年

1936年 12月9日にチャタム造船所で起工、1938年 9月27日に進水し、1939年 5月24日に竣工を果たす。艦長にはルバート・フィリップ・ロンズデール中佐が着任した。

1939年 6月1日、ダートマス沖で初の潜航実験を実施し、見事成功を収める。しかし同日中に行われたT級潜水艦シーティスは潜航に失敗して沈没。99名の犠牲者を出したとの報が飛び込んでくるとシール乗組員たちは悲しみに暮れた。シーティスの乗員には彼らの友人が多く含まれていたからだ。続いて魚雷試験に従事するべく、ゴズポートに移動。8月4日、香港を拠点としている第4潜水艦部隊と合流するため、イギリス本国を出港。ジブラルタル、マルタ、スエズを経由し、途中で合流した姉妹艦グランパスやロールクアルと9月1日にアデンへ寄港した。しかしここでシールの運命は大きく狂わされる事となる。

9月3日、ドイツ軍のポーランド侵攻を受けて英仏連合軍はドイツに宣戦布告、これにより第二次世界大戦が勃発。開戦に伴って極東行きが中止となったシールは9月5日 18時にアデンを出港、紅海の入り口を哨戒する最初の戦闘航海を開始する。アデンの近くにはイタリア領東アフリカ帝国があり、一応イタリアは中立国ではあるもののドイツと親しい事からイギリスにとって重要な通商路スエズ・紅海・インドルートを何らかの形で妨害してくる危険性があったのだ。開戦からしばらくの間はアデンを拠点にイタリア紅海艦隊の監視がシールの主任務となった。9月17日、第6潜水艦部隊に編入。やがてシールは本国へ戻される事となり、9月28日 17時50分にアデンを出発。まず最初にアレキサンドリアへ寄港し、損傷した駆逐艦ガーランドとそれを曳航する曳船プロテクターを護衛して10月10日午後12時40分にマルタに到着、翌11日午前8時に同島を出発、ジブラルタル海峡を通り、10月20日午前10時15分にポーツマスへ帰還した。10月24日から28日にかけてドックで入渠整備を受ける。

続いてシールは北海のドッガーバンク付近で哨戒任務に従事。11月7日午前7時50分、僚艦とのランデブー地点に到着。現場には既に駆逐艦ボランティアが待機していた。姉妹艦カシャロットやL級潜水艦L-26とも合流する予定だったが2隻はランデブー地点に現れなかった。数分後、ドイツ軍機と思われる水上機が上空を旋回して爆撃を仕掛けてきたが、シールもボランティアも被害を受けずに済む。翌8日午前5時45分にポーツマスへ帰投。11月11日午前6時5分、ポーツマスを出港してカシャロットとともにハリファックス方面に向かうOA 船団の護衛に参加、11月23日 21時30分にハリファックスへ入港した。12月2日午前9時40分、ハリファックスからイギリス本国に向かうHXF-11船団の護衛に加わって出港。12月14日 16時40分にポーツマスへ帰投して護衛を完了させる。

1940年

1940年 1月2日から5日にかけてポーツマス沖で戦闘訓練。1月8日午前0時45分にポーツマスを出発してロサイスへ回航され、1月21日午前0時1分に北海での哨戒任務のためロサイスを出撃。2日間の航海を経てロサイスに帰投した。休む間もなく1月24日 16時30分にメルシ沖でON9船団と合流、ノルウェーのベルゲンまで護衛任務に加わる。帰路は1月27日に編制されたHN9A船団を護衛してベルゲンからメルシ沖まで移動。その後はロサイス沖で戦闘訓練を実施する。

2月5日午前9時55分、ノルウェー南部海域で哨戒任務を行うべくロサイスを出撃。シールはノルウェー沖で発見されたドイツの商船(アルトマルク号)を拿捕するよう命じられており、カークウォールへ連行するための臨検隊も便乗していた。アルトマルク号自体は駆逐艦コサックが発見・襲撃を仕掛け、拘束されていた捕虜を解放する事に成功しているが、シールは何ら貢献出来ないまま2月23日午後12時30分にロサイスへ帰投。そこで待ち受けていたのは上官ケネディ・ホートン提督からの叱責であった。2月27日から3月7日まで第3乾ドックにて入渠整備。

イギリスは冬戦争でソ連から理不尽な攻撃を受けたフィンランドを支援する、という名目でノルウェーへの進出を企図し、どさくさに紛れてドイツの鉄鉱石輸入ルートを断とうと画策。これに伴って3月12日 20時30分にシールはロサイスを出撃。スカゲラク海峡に向かったものの翌日モスクワで休戦条約が結ばれたと知らされて作戦中止。哨戒任務を経て3月25日午前9時25分にロサイスへと帰投した。3月29日よりドック入りして新たなバッテリーを取り付ける工事を行い、4月3日に出渠。

ドイツ軍はヴェーゼル演習作戦を発動し、ノルウェーへの進駐を開始。先を越される形となったイギリス軍は慌てて本国艦隊を出撃させ、4月6日にシールもロサイスを出撃、南部のエーゲルスンとリンデスネスの間で哨戒任務に就く。4月8日夕刻、濃霧による視界不良が原因でエストニア商船オットーと衝突事故を起こし、軽度の損傷を負うもパトロールは続行可能だった。4月13日、スタヴァンゲル港に到着。港内のドイツ艦船を探し求めるが、停泊中の4隻はいずれも中立国の旗を掲げており、手を出す事が出来ない。ロンズテール艦長は水上機基地攻撃と上陸部隊による鉄道輸送の妨害を進言したが、上層部からは断固拒否された挙句、ドイツ海軍の哨戒艇に発見されて魚雷攻撃を受けたため退却。4月17日早朝、スカパフローから出撃してきた本国艦隊がスタヴァンゲル付近のソラ飛行場を砲撃するべく、目印となるシールと連絡を取り合う。そして午前5時13分から午前6時2分にかけて重巡サフォークが飛行場への砲撃を実施。砲撃自体は成功させたものの、見つけたドイツ駆逐艦部隊を攻撃するため護衛用の駆逐艦を北方へ移動させた結果、サフォークは護衛無しのままドイツ空軍機の激しい攻撃に遭って大破してしまった。4月19日、ロサイスへ帰投。修理のため翌日ブライスに回航されて入渠する。何ら手柄を挙げる事無く帰投させられた乗組員の心は失意で満たされた。

ほぼ1年間、大した整備も受けずに戦い続けていたシールはチャタムの造船所に戻って長期の整備を受ける必要があったが、姉妹艦カシャロットが損傷を負った影響で急遽シールが機雷敷設任務を引き継ぐ事となり、簡単な整備だけに留まる。イギリス海軍上層部はデンマーク・スウェーデン間のカテガット海峡に機雷を敷設するDF7作戦にシールを投入したかったが、シールほどの大型艦では困難が伴う事から第6潜水艦部隊司令のベソール大佐はホートン提督に再考を求めたが、命令は撤回されなかった。4月29日にブライスを出発したシールはイミンガムへ回航、そこで機雷50個を積載する。

鹵獲

1940年 4月29日、イミンガムを出撃してスタヴァンゲルへと向かう。まずスタヴァンゲル沖で6本の魚雷を発射してドイツ軍の注意を引き付けたのち、その隙を突いてカデカット方面に向かう中、既に機雷を敷設して帰路に就いている姉妹艦ナルファルと出会う。

5月4日午前2時30分にドイツ占領下のデンマークから飛び立ったハインケルHe115に発見され、水深27mまで潜航退避を行うも、投下された爆弾により僅かな損傷を負う。哨戒機が去ったのも束の間、今度は海上にドイツの対潜トロール船が索敵しているのを発見し、ロンズデール艦長はやむなく迂回を指示する。同日午前9時、シールはカテガット海峡ヴィンガ島沖に機雷を敷設し始め、45分後に50個全ての機雷を敷設完了。この機雷によりドイツ船舶ヴォージュ(4241トン)、スウェーデン商船アイミー(2400トン)、ステン(1206トン)、スカンディア(1248トン)が沈没している。

任務を終えて帰路に就いたその時、とうとう対潜トロール船に発見されて追跡を受ける。何とか急速潜航には成功したもののカデカット海峡は水深が浅くて深く潜れず、また日照時間の長さから再度発見される危険性も高かった。15時頃には9隻の対潜トロール船がシールを探し回り、四方八方からソナー音が鳴り響く中、ジグザグ運動を以って探知から逃れようと試みる。18時頃に何とか海底に着底して息を潜めるが、その30分後に突如としてシールの艦体が激しく揺さぶられる。この衝撃により食堂で夕食を食べていた乗組員は料理を床にぶちまけてしまった。不運な事に自分が敷設した機雷に引っかかってしまったのである。瞬く間に大破航行不能に陥り、生じた破孔からは大量の海水が流入、急いで防水扉が閉められたが艦首が10度上向きになる。幸いにも対潜トロール船は爆発音に気付かず遠ざかっていった。しかしシールの置かれた状況は依然厳しく、乗組員は何とか艦を浮上させようと決死の努力を行うが浮上の試みは三度失敗。次第に空気は汚濁していき、二酸化炭素中毒で倒れる乗組員も出始める中、それでも生き延びるための努力を続ける。

5月5日午前1時30分、遂に浮上成功。死の淵から生還した乗組員たちは新鮮な空気を与えられて生き返った。艦橋から外へ這い出たロンズデール艦長は闇夜の中に陸地を発見し、スウェーデンの陸地だろうと判断。海軍上層部に「スウェーデンの海岸に上陸する」と通信を打ち、機密文書と暗号表を破棄した上で陸地の方角へとシールを動かしていく。操舵不能ではあったものの後進のみは可能だった。中立国スウェーデンにさえ辿り着ければ抑留されるかもしれないが命だけは助かる。しかし、そんなシールの希望を断ち切る音が響き渡った。

午前2時30分、デンマークのオールボーから飛び立ったハインケルHe-115から航空攻撃を受ける。更に2機のアラド Ar196も加わって満身創痍のシールを目掛けて銃爆撃を行う。乗組員の二酸化炭素中毒で潜航は不能、爆発の衝撃で数名の負傷者を出し、迎撃する術さえも持たない。ロンズデール艦長はルイス軽機関銃で抵抗を試みたがすぐに故障してしまったため、ここに至り降伏を決断。食堂から白いテーブルクロスを持ってきてそれを即席の白旗として掲げた。白旗を認めたアラド2機は攻撃を中止してシールの近くに着水、ドイツ軍パイロットのシュミット少尉から指示を受けてロンズデール艦長と機関長が泳いでアラドに移乗する。残った乗組員がシールを自沈させようとしたが失敗。午前6時30分、独第12対潜戦隊の対潜トロール船UJ-128が到着。ドイツ側の拿捕部隊によってシール乗組員は退艦させられ、UJ-128の曳航でフレデリックハウンの海軍基地まで連行されたのちキールに回航出来るだけの応急修理を実施、浮上時に行方不明になった1名を除く60名が現地で捕虜となった。

5月9日までフレデリックハウンで応急修理を受けた後、翌日キールに向かうべくダグボートに曳航されて出発、5月11日14時30分にキールへ到着してゲルマニア造船所で修理を受けた。シールから押収されたイギリス軍の海図からエムズ沖とノルウェー南岸沖に敷設された機雷原を特定し、ドイツ海軍によって綺麗に掃海されたが、6月6日に掃海艇 M11がノルウェー南岸沖で触雷して沈没。

元シール乗組員の大半は収容所で過ごし、1945年 4月に解放された。ところが一部は集団脱走を試み、うち2人はソ連国境まで逃げ延びたもののソ連兵の略奪に遭って1名が射殺、生き残った1名もモスクワのブティルカ収容所へ連行された。他にもスイスへ脱出成功した者や、三度脱走を阻止されて警備が厳重なコルディッツ城へ移送された者もいる。ロンズデール艦長はドイツに降伏した唯一の艦長となってしまい戦後の1946年に軍法会議にかけられるも無罪判決を勝ち取った。

UB

ドイツ海軍のロルフ・カールス提督はシールの鹵獲を「戦利品」とし、自軍で運用しようと考えた。新型 Uボート3隻分の費用を投じて調査と解析を行った結果、価値のある収穫を得る事が出来た。

第二次世界大戦が勃発して以来、Uボートは魚雷の不発に悩まされ続けていた。不発が多いという事は空費する魚雷本数の増加と戦果の減少を意味し、昨今のヴェーゼル演習作戦においても不発が多く確認された事からドイツ海軍は調査委員会が設立。原因究明のため尽力していたものの根本的な解決策を出せていなかった。だがシールを解析した事に因りイギリス側の優秀な撃発装置の特定に成功、早速Uボート用の魚雷にその設計を取り入れ、見事欠陥は解消される。これからUボートが築き上げる輝かしい大戦果は、シールの助力に因る所が大きいと言えるだろう。

他国の兵器であるため自国の兵器との互換性が無く、修理用部品やスペアを入手するのは困難だったが、それでもきっちり修理が施され、1940年 11月30日に52歳のブルーノ・マーン中佐が艦長に着任。第二次世界大戦中、最高齢の艦長であった。艦名をUBに変更してドイツ海軍で再就役を果たす。UBとは「Unt erseeboot British(イギリスの潜水艦)」の略称という直球ネームである。イギリス海軍の潜水艦を鹵獲した事はプロパガンダの宣伝材料として活用され、12月25日のニュースではシールがUボートに改造されていると報道。しかし編入に向けてテストを行ってみると不調が多く見られ実戦投入は困難と判断されてしまった。このためドイツ本国周辺海域で乗組員に実習の場を提供する訓練艦の役割が与えられている。

1941年 5月から7月にかけて第3潜水隊群に所属。7月31日に退役し、ブルーノ艦長はオランダから鹵獲した潜水艦UD-5へと異動していった。クルップ社がUBの量産を実現しようと内部機械の再現を試み、1942年後半になってようやく成功したが、あまりにも費用が掛かったため量産化は見送られる。1943年半ばに装甲と武装が取り払われ、キール造船所の片隅で放置されるように係留。