ジャン・リュック・デュバル とは、OVA『機動戦士ガンダムMS IGLOO』第三話「軌道上に幻影は疾る」の登場人物である。
概要
ツィマッド社のテストパイロット兼ジオン公国軍に所属する金髪碧眼の男性で、階級は少佐。一年戦争開戦前からパイロットを務めていたベテランである。モビルスーツ・ヅダの開発に深く携わってきたため異常なまでの愛情を注いでおり、コンペの競合相手だったジオニック社とザクに並々ならぬ敵意を抱いている。
宇宙世紀0079年11月9日、地球軌道上にて搭乗機ヅダとともに爆散して戦死。
来歴
OVA版ではヨーツンヘイムに着任してからの描写しかないが、漫画版では前日譚とも言うべき彼の過去が描かれている。
宇宙世紀0071年、ジオン軍は来るべき地球連邦との戦争に備え、ツィマッド社とジオニック社に主力モビルスーツの開発を命じた。これを受けてツィマッド社はEMS-04ヅダを、ジオニック社はMS-05ザクを開発し、主力兵器の座を争う事になる。
デュバルはツィマッド社の社員としてヅダの開発に携わり、そして部下のフランツとともにテストパイロットを兼業して実際に機体を動かした。0075年、ヅダの性能を十二分に引き出した二人は競合相手のザクを圧倒。サイド3で行われた模擬戦でスピードもパワーもヅダが上だと見せつけ、軍部からも「ヅダ勝利」の声が上がり始めるほどだった。しかしザクとの飛行試験中、突如フランツ機が制御不能に陥り、出力の急上昇が止まらなくなる。そして最後は爆発事故を起こし、機体とフランツの命が失われた。この事故はヅダの運命を大きく変えてしまう事となる。またヅダの生産コストはザクの1.8倍もあり、国力に乏しいジオンにとって無視できない問題だった。結果、ヅダは勝利を目前にして逆転敗北を喫し、汎用性と生産性に優れたザクが採用された。
デュバルがフランツの墓前に弔いの花を添えていた時、上司の部長が現れてザクの制式採用を知らされる。デュバルは憤慨し、「フランツは何のために死んだのです!?ここでヅダの開発を諦めてしまって、彼にどう申し開きするのですか!?」と叫んだが、軍の決定事項には逆らえなかった。デュバルはヅダと事故死したフランツを重ね、不採用通知を受けた後も絶対にヅダを見捨てはしないと誓うのだった。この際、ツィマッド社の競合相手であるジオニック社が軍部に裏から手を回し、ザクⅠを採用するよう働きかけた事がデュバルによって示唆されているが真相は不明。
開戦後
不採用の烙印を押されたものの開発の中止命令は下らず、限られたツィマッド社員の手によってEMS-04ヅダは改良され続けた。
一年戦争開戦から10ヶ月が経過した頃、ツィマッド社はヅダの完成をジオン軍に報告。形式番号をEMS-10に改め、再び歴史の表舞台に姿を現した。ヅダ3機は評価試験のため第603技術試験隊へと送られる事となり、テストパイロットたるデュバルも母艦ヨーツンヘイムに出向。1番機にはデュバル、2番機にはワシヤ、3番機にはオッチナンが搭乗した。10月24日、ヅダのテスト飛行中に第42輸送艦隊から救援要請が入り、現場に急行。実弾ではなく模擬弾しか持っていなかったにも関わらず、高い機動性を駆使してボール3機を撤退に追いやった。さらに、その様子を記録したヅダの映像が国民に堂々と宣伝されるようになり、デュバルは期待の新兵器を駆るテストパイロットとしてその名を轟かせた。不採用の通知を受けてから4年、ようやく巡ってきたチャンスにデュバルは意気揚々としていた。ヅダを知りつくした自分が戦えば、ヅダは決してザクなどに劣ってはいない事を証明できる。フランツの死も無駄ではない。改良された事により空中分解の可能性も無くなった。デュバルはヅダに絶対の自信と信頼を寄せていた。
その後も評価試験は続き、ヅダ3機はムサイを敵艦に見立てて機動実験を行った。ツィマッド社自慢の土星エンジンによって驚異的な機動力を持つヅダにムサイの弱装ビーム砲は全く当たらない。評価試験は順調に思えた。しかし、せっかく高機動なヅダに乗れたというのに地味な援護機動しかさせてもらえないオッチナン・シェルが不満を露わにし、ヅダ3番機のスピードを急激に上げた。あまりの加速に3番機は暴走。強力なGに押さえつけられたオッチナンは身体を動かす事すらできず機体はぐんぐんと速力を増していく。その結果、ヅダは空中分解を起こし爆散。オッチナンは死亡する。ヅダは空中分解を起こしたEMS-04の時から何も変わっていなかったのである。死人を出したことで、ヅダを推していたデュバルを見る周囲の目は変わった。あまつさえ連邦軍のプロパガンダ放送で、ヅダはポンコツモビルスーツである事が全世界に知られてしまう。この瞬間、デュバルは新兵器を駆る期待のパイロットから、ポンコツと呼ばれたMSで虚勢を張る道化師に叩き落とされたのだった。
11月9日、ジオン地上軍最大の拠点オデッサが陥落する。艦隊司令部はオデッサから宇宙に撤退してきた友軍部隊を回収するべく地球軌道上へ集結するよう命令。ヨーツンヘイムにもその命が下り、現場へ向かう。空中分解を起こしたことでヅダは飛行禁止処分に処された。だが地球軌道上に一番乗りで辿りついたのはヨーツンヘイムのみ、友軍の艦隊が到着する前に連邦軍のパトロール艦隊が到着。落ち武者狩りを開始し、反撃能力を殆ど持たないジオン敗残兵を一方的に屠ってゆく。ボールの砲撃で次々とHLVが爆発。HLVの中から反撃のためザクが出てくるも、陸戦型のため宇宙では上手く戦えず、やはりボールに撃たれて次々と撃破されてゆく。
ヨーツンヘイムに搭載された戦力はヅダのみ。そして友軍のパトロール艦隊到着まで後4分。友軍の艦隊さえ到着すれば連邦軍無双の状態を覆せる。この僅か4分間に、数万の将兵の命運が決まるのだ。ついにモニク・キャディラック特務大尉は飛行禁止処分を破り、ヅダの発進を許可する。欠陥を抱えているとはいえ、その場に居合わせた高機動宇宙戦闘用モビルスーツはヅダ以外になく、これを出撃させることが友軍を救うための喫緊の打開策と考えたからである。同時に、デュバルはつるべ落としとなったヅダの評価を挽回させる機会を得たのだった。
ヨーツンヘイムから出撃したヅダは無双状態だったボール二個小隊を瞬く間に壊滅させた。ところがその直後、連邦軍の増援が到着してジム一個小隊が現れる。デュバルは単身、そのジム部隊に戦いを挑み、間髪いれずに敵隊長機とバズーカ砲を装備したジムを撃破した。他のジムパイロットは先の連邦のプロパガンダを見ていたらしく、ヅダを「放送で世界に恥をさらしたポンコツ」と挑発する。デュバルは怒りと屈辱を噛み殺し、ジム4機相手に戦闘を再開、そして大量の友軍部隊を乗せたHLV群からジムを遠ざけるべく自ら囮となってジムを挑発し、追いかけさせた。危険を察知したモニク機のヅダはデュバルを止めるべく、デュバルの後ろを追いかけるジムの更に後ろから追いかけた。射撃照準もままならぬ程の高機動性を見せるヅダに中々追いつけないジムを見て、デュバルは「ほう。連邦軍のモビルスーツはポンコツにも追いつけないか?」と挑発をさらなる挑発で返し、ヅダの全開加速機動を見せつける。我を忘れてヒートアップしたジム隊はデュバルのペースに巻き込まれてゆく。地球の夜半球をヅダとジムは駆ける。そして夜半球を抜け、朝日がヅダを照らした時。ヅダは既に暴走し、制御できなくなっていた。もはや自分は助からないとデュバルは悟っていた。後方ではとうとうエンジントラブルを起こし落伍したジムが、後ろから追ってきたモニク機のヅダによって撃破される。残った3機のジムもあまりの高速機動に耐えきれず相次いでオーバーロードの末に空中分解し、爆散。彼らが相手にしていたモビルスーツは決して「ポンコツ」ではなく、「化け物」である事を思い知った。しかしデュバルのヅダもついに空中分解を起こし、朝日を浴びながら軌道上に彗星のごとき光の尾を引きながら爆発、戦死した。彼は、ヅダを辛く暗い夜半球から光輝溢れる昼半球へと連れ戻す事に成功したのだった。
この光景を目にしたオリヴァー・マイ技術中尉は報告書に
「僕はこの度、技術中尉として報告の術を知らない」
と綴っている。
パイロットとしての実力も確かで、パイロットに強烈な負荷が掛かるヅダの高速機動に耐えて正確に機体を制御し、ムサイの砲撃をヅダの機動力を発揮して尽く回避している。また、ヨーツンヘイムを襲撃したオハイオ小隊(シャークマウスペイントが施されたボール小隊)を模擬弾による威嚇射撃と機動力だけで戦力差を見せつけ撤退に追い込むという荒業を見せている。(ちなみにオハイオ小隊側もヅダを見た直後、直ぐに3機で背中合わせになりボールの死角である背後をカバーしたり、真っ先に母艦を攻撃される危険性を考慮して即時撤退の判断を下せる等、かなり場数を踏んでいた小隊であったことがわかる)
ジム小隊が現れた際は瞬時に隊長機と、艦艇およびHLVの脅威になるであろう機体を判断(劇中の場合はバズーカを装備したジム、隊長機は機動を停止した際に小隊の中央で指示を出していたためそこで判断)、通信で指示を出す一瞬の隙をついて瞬く間に懐に入り込みジム2機を排除している。そして、怒りや屈辱に我を忘れることなく、相手の嘲笑的な態度までをも逆手に取り、自身の置かれた状況下で為すべきこと(圧倒的優勢な敵から、救援を待つ大量の友軍を護る)を確実に実行して見せた、真の「プロフェッショナル」であった。
このジム小隊との戦闘の際、敵のジムは高速機動を行うヅダに対してマシンガンを発砲するものの、命中しないどころか照準を合わせることすらままならなかった。それ程の速度でヅダの機動を制御していたことからも、如何に腕の立つパイロットであったかがうかがえる。
その他の作品では
MSIGLOOが登場する作品にはヅダと共にパイロットとして参戦することも多い。最近ではGジェネレーションシリーズやEXVSシリーズにも作品を代表するキャラクターの一人として登場している。機体が固定されている場合は主に劇中で搭乗していたブレードアンテナのついたヅダ一番機のパイロットを務める。
プロフェッショナルぶりとヅダに絶対の信頼を置くその姿勢は変わらない。
ちなみにEXVSシリーズでは相方にザク系の機体(SEEDのガナーザクウォーリアーも含む)がいると開戦時に「ふざけるな!ザクなどと一緒に戦えるか!」と激怒する。
勝つと「やはりザクよりヅダのほうが優れている」ともコメントしてくれる。
更に味方がヅダだと「勝利を手にしたも同然だな」とコメントするなど、そのヅダ愛は相変わらずである。
余談だが、作品によって顔がコロコロ変わる。老けたり、若返ったり忙しい人である。
関連項目
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