ジョアン・レベロ(Joan Lebello)とは、「銀河英雄伝説」のキャラクターである。
概要
CVは家弓家正(石黒監督版OVA)、江川大輔(Die Neue These)。
自由惑星同盟最高評議会財務委員長、同最高評議会議長を歴任。ホワン・ルイ、アレクサンドル・ビュコックらとは親しい間柄であったが、レベロが変節したために袂を分かつことになった。宇宙暦800年、ロックウェル統合作戦本部長らによって殺害される。
アレクサンドル・ビュコックとは長年の親交がある。石黒監督版OVAでは、シドニー・シトレ統合作戦本部長とも家が近所であったことから旧知の間柄とされている。
人物
当初は良心的な政治家であったが、国難の危急に際して判断を歪めてしまった。彼の政治家としての足取りを以下に記す。ホワン・ルイの項目も参照のこと。
帝国領侵攻作戦
財務委員長時代は、精力的に活動する良心的な政治家であった。アンドリュー・フォーク准将発案による帝国領侵攻作戦の如何を問う討議においては、イゼルローン要塞を同盟が奪取したことを根拠にし、有利な条件での和解を進言している。戦争によって財政が悪化していることがその理由で、「紙幣の額面ではなく重さで商品が売買されるようになる」と、財政悪化による急速なインフレーションと経済破綻を懸念していた。事実、同盟は多額の国債をフェザーンに発行しており、これは後に同盟にとって弱みにもなった。ホワン・ルイも人的資源の軍事偏重を懸念し、レベロと同調した。しかし選挙を控え、それへの対策としてより大きな軍事的成功を他の委員長が求めていたこともあり、反対はヨブ・トリューニヒト国防委員長も含む三名のみが反対するに留まり、帝国領侵攻作戦は可決されてしまう。
フォーク准将の立てた作戦は「大挙して侵攻し、臨機応変に対応する」という意味不明なものであったので、案の定失敗に終わる。それもウランフ中将、ボロディン中将など主要提督をはじめとする多数の同盟将兵、宇宙艦を損なう大敗北であり、同盟軍がその損害を回復するのは不可能なほどであった。これ以後、帝国でラインハルト・フォン・ローエングラムが勢力を伸ばしたこともあり、同盟の戦略的劣勢は覆せないものとなった。
結果は事前に予測可能な範囲であり、事実シトレ元帥やヤン・ウェンリー中将らは結果を十分に見抜いていたと言える。政治判断からこれに反対した三委員長も同様と言えるだろう。ただし、トリューニヒトだけは自己の政治的野望のために反対しただけであり、他の批判者とは明確に立ち位置が異なることには留意を要する。
ヤン・ウェンリー大将の査問
宇宙暦798年、フェザーンのアドリアン・ルビンスキー自治領主は自己の利益のために思惑をめぐらし、同盟の国債償還を盾にし、同盟政府にイゼルローン要塞司令官ヤン・ウェンリー大将の査問を行わせる。同盟軍基本法には査問会なるものは規定されておらず、よって法的根拠を欠くといえるが、ネクロポンティ国防委員長は査問会を開催した。査問は個人攻撃と不毛な議論による人民裁判であり、これはヤンに対する政治的リンチであった。
レベロは、査問委員の中で唯一の良識派であり彼の盟友でもあるホワン・ルイやビュコック宇宙艦隊司令長官とともに、ヤン解放のために尽力した。結果として、ヤンを解放したのはイゼルローン要塞再奪取のために侵攻してきた帝国軍であった。帝国軍を撃退するにはヤン大将の指揮が不可欠であったため、ネクロポンティはヤンの解放と迎撃指揮を命令する。ヤンが解放された日の夜、レベロはヤンと会食する機会をもったが、そこで彼はヤンに対する警戒心を披瀝している。ヤンを銀河帝国初代皇帝のルドルフ・フォン・ゴールデンバウムになぞらえ、社会が腐敗している状態で人々の期待を得る若き将軍は、独裁の苗床となりうるというもの。ヤンはそんな考えはさらさらないと返したが、レベロの警戒心は解かれなかった。
最高評議会議長に就任
帝国が”神々の黄昏”作戦を発動し同盟領に侵攻してくると、同盟はイゼルローン要塞を放棄し、ヤン艦隊と宇宙艦隊司令長官直轄艦隊が迎撃に出た。アイランズ国防委員長は、休養中(と称して姿を消した)トリューニヒト最高評議会議長に代わって最高評議会をまとめ、政治決断により軍を背後から支えることに尽力。軍も奮戦した。しかし惑星ハイネセンにロイエンタール及びミッターマイヤー両艦隊が迫ると、トリューニヒト最高評議会議長は帝国の無条件降伏提案を受け入れる意向を示す。これにはアイランズやビュコックが強く反対し、ヤンがラインハルトを討つことに望みを託すよう説得したものの、トリューニヒトと懇意にしている地球教徒が武装し議事を妨害したために、最高評議会議長の権限で無条件降伏の受け入れが決定してしまう。同盟・帝国間で「バーラトの和約」が成立し、同盟は敗北した。
アイランズは病に伏してしまい、トリューニヒトも辞職したため、最高評議会議長の席が空席になってしまった。同盟の政治空白が続くと和約に基づいて帝国高等弁務官が統治を行ってしまう為、これを阻止するためにレベロが最高評議会議長に就任する。和約は同盟が一方的に不利であり、「執行停止状態の死刑囚」と評されるものであったが、レベロは同盟を滅ぼさせないためにあえて首席行政官の職についた。それは彼らしい良心に基づく責任感のあらわれであったが、この「同盟を滅ぼさせない」という信念がかえって仇となり、以後レベロは変節していく。そうならざるを得なかったのかも知れない。
ヤン・ウェンリー謀殺未遂事件
帝国高等弁務官のヘルムート・レンネンカンプ上級大将は、ヤンに対する私怨もあって彼を厳しく監視した。部下のラッツェル大佐はヤンに同情的であったが、レンネンカンプは口実さえあれば、いつでもヤンの逮捕・拘禁を求める所存であった。一方で、和約に反対する過激な勢力の活動が活発化すれば帝国の再侵攻もありえる為、同盟政府もヤンの監視を始める。そのような情勢下で、和約に基づき破棄される同盟の宇宙艦が所属不明の勢力に奪取され、またこれに多くの同盟将兵も追従して脱走する事件が発生する。
所属不明の勢力とは、ヤンが民主主義の苗床を保存することを目的とし、帝国への降伏前にウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ提督に率いさせて逃した“メルカッツ独立艦隊”だった。ヤンを快く思わない同盟の一部勢力は、事件をヤンの仕業であると決め付け高等弁務官府に密告の手紙を送る。それは事実をついてはいたが、根拠は単なる偏見でしかなかった。ラッツェル大佐はこのような卑怯な密告は無視するように進言するが、レンネンカンプはむしろ密告を信じたかったので、オーベルシュタインの助言を受けて同盟政府にヤンの身柄引き渡しを要求した。
この同盟の窮状に際し、ホワンは証拠のない密告や根拠のない身柄引き渡し要求を無視し、ヤンの正当な権利を守るように助言した。だがレベロは国立自治大学のエンリケ・マルチノ・ボルジェス・デ・アランテス・エ・オリベイラ学長の提案を受け、ヤンの謀殺を決断する。彼を殺すことで反帝国勢力の求心力を挫くと同時に、帝国が同盟に干渉する材料を失わせるのが狙いだった。ヤンは検察に逮捕され、ヤンの元部下らの監視も強化されるが、これが事態のいっそうの悪化を招く。
ヤンの妻フレデリカは夫の奪還の為にかつての仲間と連絡を取り、またシェーンコップ退役中将とアッテンボロー退役中将はパトカーの制止を振り切り逃走、“薔薇の騎士”連隊がヤン奪還の為に活動をはじめ、情報面では情報将校のバグダッシュ大佐が動き始める。ヤンに親しい軍事勢力が一斉に協調して反旗を翻し始めたのだ。彼らはまずレベロを人質にすると、ロックウェル統合作戦本部長の端末をハッキングし、直ちにヤンの身柄を解放するよう要求する。ロックウェルは話し合う余地が有ると見せかけておいて直ちにヤンの殺害を決めるが、拘禁場所に「薔薇の騎士」が乗り込んできてヤンの身柄を奪還。さらにレンネンカンプを誘拐して人質にすると、レベロと引き換えに人質にし脱出を目論んだ。レンネンカンプは自分が売られたのだと察し、拘禁場所で自ら首を吊り自決した。
ヤン勢力は同盟政府を脅迫し、死せるレンネンカンプを生きてると見せかけて人質にし、同盟政府に用意させた宇宙艦で脱出した。脱出には、事態を知ったアレックス・キャゼルヌ後方勤務本部長代理とその家族も同行している。ヤンとレベロは、かつて同盟市民から大きな信頼を寄せられており、二人が政治面と軍事面のトップとして組めば理想的であるとまで思われていた。その二人が互いに協力する体制を構築することなく、永遠の別離に至ったのだ。
ヤン謀殺に失敗し、その提案をしたオリベイラも自己の保身しか考えていないことを知り、レベロは自身を客観視した、ある思いを抱いている。それが当時の同盟と彼の状況を、最も端的に表していると言えるだろう。
「つまり彼は沈没しかけた老朽船ということであるらしい。いや、同盟政府が船で、彼は無能な船長というわけか」
大親征
ヤンの脱出後、レベロと同盟政府はヤンの逮捕に関して生じた騒乱に対し不毛にも沈黙を保った。同盟国内ではヤンとレンネンカンプに関する流言が飛び交い、同盟政府の統治能力の欠如が明らかになりつつあった。こうした事態に対し、ラインハルトは「和約の精神はすでに瀆された」と断じ同盟への再侵攻を決定。再び同盟と帝国の間で戦火を交える事態が迫った。
ヤンの脱出後、宇宙艦隊司令長官代理のチュン・ウー・チェン大将はレベロとの会談において、司令長官の地位をヤンの復帰時のために残しておくべきと主張したうえで、ヤンとの敵対を前提とするレベロに「兵士たちがあの常勝提督と戦うことを欲するとお思いですか」と、議長の方針を批判している。だがこの頃のレベロは心労によって精神の平衡を失っており、外見からも病んでいる様子が伺えるほどであり、彼の忠告や批判もまともには届いていなかったようだ。チュン・ウー・チェン大将は「この人はほどなく灼き切れるな」と、議長の深刻な状態を評している。ルイも度々レベロに助言しようとしたが、レベロの側からそれを断ち切ってしまった。
帝国軍の侵攻作戦が発動されるとビュコックは現役に復帰し、自由惑星同盟最後の宇宙艦隊を率いて出撃した。
最期
ヤンがイゼルローン要塞再々奪取作戦を実施しているのと同時期に、マル・アデッタ星域会戦が行われた。チュン・ウー・チェン大将が参謀としてその能力を最大限に発揮し、ラルフ・カールセン提督が奮戦し、ビュコックは地の利を生かした指揮を執り、同盟軍は獅子奮迅の如く戦った。一時は皇帝旗艦ブリュンヒルトに手が届きそうな距離まで近づいたものの、帝国の厚い戦力を前に指先はむなしく宙を掻くだけだった。ビュコックは残存艦隊をイゼルローン方面へ逃がすと、チュン・ウー・チェンらと共にマル・アデッタの宙に散る。
帝国軍本隊がハイネセンまで迫っている頃、最高評議会議長室では歴史の一幕が降りようとしていた。ロックウェルと士官たちがが、レベロがヤンと同じように自分達を謀殺するのではないかと疑い、またラインハルトに恭順を示すためにもと、議長を殺害しようと乗り込んできたのだ。レベロはうろたえることなく彼らの銃口の前に立ち、「自衛というが、無用のことだ。帝国軍がきみたちの首を要求するはずがない。きみたちはヤン・ウェンリーではない」「私の良心ときみたちの良心とでは、かせられた義務もことなる。だが、よろしい。私を撃ってきみたちの安全をかいたまえ」と毅然とした態度を示した。ロックウェルらは議長の態度にひるむ様子をみせたが、結局はレベロを殺してしまう。彼が最期に見せた毅然さは、紛れもなくジョアン・レベロであったと言えるだろう。
この事を知ったヤンは「彼らは自分自身の処刑命令書にサインしたことになる」と評した。事実、恭順を示した卑怯者に対し、ラインハルトは彼らの死で報いている。
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