ジル・ド・レエ単語

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ジルドレエ
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ジル・ド・レエ(Gilles de Rais)とは、

  1. 日本ヴィジュアル系ロックバンド1995年に解散。
  2. 15世紀のフランス王国における貴族、軍人(元帥)。「ジル・ド・レ」、「ジル・ド・レェ」等の別のカタカナ表記もある。

本項では2について説明する。

誕生

1404年終わり頃、現在のメーヌ・エ・ロワールに相当するアンジュ地方マシュクールにて、裕福な名門貴族長男として生を受ける。10年後にのルネが誕生。
しかしその後、父親が狩での牙にかかって死に、母親は幼い兄弟を棄て別の男の元へ走った(一説には父親は戦で命を落とし、母親はルネを生んですぐ死んだとも)。その為、祖ジャン・ド・クランが彼等の後見人となった。
はあまり良い人物とは呼べなかったらしく、ジル16歳になると、祖は彼を従姉妹であるカトリーヌ・トゥアール結婚させ、後見の任を逃れると同時にさらなる領地を手中に収めた。

当時の貴族は自分の名前すら書けないような文盲がどだったが、ジルは若い頃から学問や文学芸術等に深い理解を得ていたようだ。ラテン語も堪で、好する作家の本は自ら美しく装させ、肌身離さずに持ち歩いていたという。
これは父親息子家庭教師職者)をつけて教育していた賜物であるが、祖権が移ると彼等は罷免されてしまう。その結果、のルネは他の貴族同様に文盲のままだった。

もっとも、この教育こそがジルの成長に第一の良からぬしたとしても過言ではないかもしれない。彼が所有していたであろう、大な蔵書の中に見られるローマ歴史書の中には、ネロカリグラティベリウスヘリオガバルスら、ローマ皇帝の残で淫蕩な物語もあったのかもしれないのだから。

聖女を護る救国の騎士

当時、フランスイギリスとの百年戦争っ最中であった。祖国が戦禍とペストに苦しめられ疲弊窮乏しきっていた中、20歳を越えたジルは自前で起こした軍勢を率いて戦地を転々とし、優秀な指揮官となっていたが戦況は振るわなかった。

彼が「オルレアンの乙女ジャンヌ・ダルクと出会ったのはこの頃である。彼女の働きにより、士気を得たフランス軍は奇跡ともいうべき反撃を見せ、1429年、パテーの戦いを勝利し、戴冠の地であるランスへとシャルル7世を導く。
当時のジルはあくまでも騎士に則り、献身的に、さながら聖女のようにジャンヌを崇拝し警護していたとされている。彼が元帥の地位まで上り詰めたのもその頃で、シャルル7世の戴冠式では瓶をげ持つ大役を仰せつかっている。

しかし、その裏には政治的策謀が動いていた。
ジャンヌが頼みの綱としたリッシュモン大元帥は、ジルが盟約を結んでいた宮廷筆頭従のラ・トレムイユとの確執が元で戴冠式への出席を許されず、その代役を元帥になったばかりのジルが務めるという皮を招く。その一方で、民に圧倒的な人気を得ていたジャンヌは従軍を余儀なくされる。

乙女した奇跡と熱狂を醒まされたと感じたのか、勇敢な指揮官だったジルは26歳にしてチフォージュの居へと引きこもってしまう。1431年にジャンヌが火刑に処され、翌年に祖がこの世を去ると、彼はフランス一とされるほどの大な遺産を受け継ぐ事となった。

転落のはじまり

巨万の富を得、チフォージに隠遁したジルであったが、彼はその膨大な財産をその後わずか6~8年程で使い果たしてしまう。衛隊として200人以上の騎士従を集め、その全員に立装の下をつける。また贅沢な礼拝堂を建設し、そこに集う職者達を奢な装で着飾らせた。
彼は教会音楽を好んで聴いたとされ、当時流行の楽器を集めた唱歌学校を設立し、を惜しむ事美声を持つ少年による歌隊を作り上げた。一方で、には女官がどいなかった。

常軌を逸した当の浪費に怯えた家族国王の財政干渉を懇願。これがジルの不を買い、妻カトリーヌとマリイはチフォージから追われ、プゾージュに閉。その後死ぬまで一瞥も与えられなかったという。

放蕩によっていよいよ貧窮が眼前へ迫ったジルは、裕福な時代から密かに着手していた「錬金術」に本格的に頭していく。
50年前に布された錬金術禁止が未だ効を保つ一方、教養と財のある領の多くが優れた錬金術師を引き入れ、黄金生成のを抱いていた時代。
頑迷なカトリック教の下にありながら、錬金術師のほとんどが学識ある職者であった混沌の中世
魔術師錬金術師の最初の迫者として知られるヨハネス22世自身も錬金術研究秘密裏に行っていたという疑惑を内包していた、そんな時代。

の色を変えて優れた錬金術師を集めようと躍起になっていたジルは、フィレンツェ出身のひとり魔術師と出会い、遂に転落の第一歩を踏み出してしまう。
その名はフランソワ・プレラチ(プレラーティ)。

悪魔との契約

それまで幾度となくイカサマ術師に騙されてきたジルだったが、当時の文化の最前線の地であるイタリア出身のプレラチには、並ならぬ信用を寄せていたらしい。
自分と同じようにみなくラテン語を話す才気煥発な若い美貌の魔術師が、かつては聖女を崇拝しながらも国家に裏切られ、一転して男色趣味へと変貌したジルの歓心を買った事は想像に難くないだろう。

魔法錬金術を学んだというプレラチと共に、隠された財宝の在り処と錬金術の秘法を知る悪魔への祈祷を繰り返すも、一向に姿を現そうとしない悪魔。焦るジルに対し、プレラチは悪魔との直接の契約を迫る。
「忠を誓い、と生命を除く悪魔の要する全てのものをげる」。
なんとも自己欺瞞的な契約ではあるが、これについて伝記作者であるユイマンスは自書『彼方』にてこう記している。

ジル殺人の罪を犯すことは別段恐ろしいとも思わなかったが、
生命を魔王に譲ったり、を棄てたりすることはかたく拒んだ。

に背き、はっきりと異端になったにも拘らず、頑迷なカトリックが逆に曖昧な欺瞞を生み出してしまう。
ジルの最初の殺人は、恐らく純然に悪魔げる贄の為に行われたものだっただろう。それがいつしか、己の欲望を満たす為の残虐な流血趣味へと変貌を遂げていったのだ。

倒錯殺人者、ジル・ド・レエ

ジルが殺した幼児の数は、裁判記録では8年の間に約800人かそれ以上とされている。
近代的な手段のない15世紀では少々現実味に欠ける数字ではあり、伝記作家によっては140300人という数字になる事もある。
それでも常軌を逸した数字ではあるのだが。記録通りであるならば、この大虐殺肩する殺人者は、16世紀末に600人ものを殺してその血に浸ったという『血まみれの伯爵夫人』ことエリザベート・バートリー(バートリ・エルジェーベト)ぐらいだろう。
ともあれ、8年間で近隣のから小さな男の子の姿はすっかり絶えてしまったという。

ジル・ド・レエが恐るべき殺人者としてられるのはその数字だけではなく、それらの殺人が彼独自の美学に基づいて行われた事にある。

あわれな子供が連れてこられると、まずジルは部下に命じて、犠牲者となるべき少年轡を噛ませに打ち込んだの鉤に子供り下げる。恐怖におびえた子供があわや窒息しかけると、ジル子供を鉤から外して下におろし、膝の上に乗せてを拭いてやり、やさしく撫してやる。
それから部下の者を差し、「この男達は悪いだが、私がいるから心配しなくていい。きっと助けてやるぞ」という。そこで子供は喜んで、すぐその後で殺される事も知らずに笑顔を取り戻す。これがジルにはなんともいえぬ悪魔的な歓喜をそそるのである。
子供が喜んでいるうちに、うしろから静かにその首を切りはじめ、血がどくどくあふれ出すと、絶え入るばかりな子供のすがた、その断末魔の痙攣を打ち眺めてを忘れる。やがて喚き叫びながら死体を捏ね回し、ひっくり返して玩具にする。

澁澤龍彦黒魔術の手』内 ジル・ド・レエ侯の肖像 幼児殺戮者より

最期

1440年、ジルは不可解な事件を起こす。
60名ほどの部下を率いて、とある教会入。領権を巡って争っていた職者を捕らえて監禁するという、当時としては様々な重罪をみすみす犯したのである。とうの昔にジルを見捨てていたシャルル7世の許可を得て、大司教ジル告発した。
そして、ようやく彼の犯した大罪が白日の下にされる事となる。罪状は男色、錬金術悪魔との取引、そして幼児殺しだった。

開裁判でられた恐るべき罪の数々に、傍聴者は悲鳴を上げて気絶し、教達は顔面となった。
だが異端として処刑される事、破門される事への恐怖からか、ジル聖女を崇拝していた頃の義に立ち返る。裁判においては自らの罪をながらに告白し、の許しをめた。
かくして1440年10月26日ジルは絞首刑に処せられた。当初は遺体を火刑にする予定で、キリスト教において遺体の焼却は「最後の審判」における復活を否定する最大の冒涜であったが、悔いめた事もあってか、最終的には火刑は免除された。
人々はかつての救英雄が救われるよう、を流して祈りをげたという。

ただしこれらの罪状については確たる拠が存在せず、王ジルの所有していた財産収しようとした為だという説もある。

創作として

前半生は祖国する英雄、後半生は狂気の殺戮者という生涯から、後世には多くの伝説られ、様々な物語創作された。

シャルル・ペローの童話『』のモデルがジル・ド・レエであるとする説があるが、は妻殺しであり、幼児殺しのジルとは異なる殺人者である。
妻殺しという点で見れば、イギリスヘンリー8世や中世ブルターニュのコモール王をモデルとする説の方が正しくはあるが、その残虐性と(コモール王が)教会から破門された点がジルと混同されたのではないかとされている。
ちなみに、Wikipediaにあるジルの肖像画は黒髪黒髭を蓄えている。

リュック・ベッソンの映画ジャンヌ・ダルク」ではヴァン・サン・カッセルジルを好演。
当初はジャンヌを胡散臭がっていたが、狂気にも似た信念を抱えて戦う彼女を見て付き従うようになり、戦をする武人としての姿を見せた。

平野耕太漫画ドリフターズ」においては、「非業の死を迎え、念に捕らわれた者」にして、異世界を滅ぼす「廃棄物」の一人として登場。同じく廃棄物となったジャンヌと共に、主人公達を襲撃した。
ジャンヌの処刑を知って狂気に陥り、「彼女地獄に落ちたというなら、己も地獄に行くような事を沢山しよう」として殺戮を繰り返した過去が描写される。
しかし「あとがきゆかいまんが 黒王様御乱心」ではこくおう様にロリペドショタコン鬼畜リョナドS殺人鬼のド変態ヒゲボーボーの犯罪者の性倒錯者」歩く少年条例違反」呼ばわりされて泣いてしまった。ジルドレーッ

虚淵玄小説Fate/Zero」においては、キャスターとして登場。
快楽殺人者・雨生龍之介の戯れが原因で偶然召喚されると、己の美学に基づいて少年を惨殺して意気投合。少年少女を多数誘拐する手助けを行った。
魔導書螺湮教本(プレラーティーズスペルブック」を宝具として、第四次聖杯戦争マスターと共におおいにかき回す。またセイバージャンヌと誤認し、彼女に並々ならぬ執着を見せた。
その後、スピンオフに当たるゲームFate/Grand Order」においては、セイバーとしても登場。こちらは救英雄であった頃の姿である。

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96 ななしのよっしん
2017/08/12(土) 13:24:59 ID: 5+0uZ0Rw7b
>>87
この頃は未成年死亡率が高い(4人中3人死亡とか当たり前)なので、
「むしろ行方不明多すぎで、あれもこれもこの男のせいにしてしまおう」になっちゃう
記録するのは、貴族職者だから、拠なんてねつ造し放題だし
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97 ななしのよっしん
2017/09/02(土) 00:26:29 ID: vUuv/+ijyH
>>91
ジルアヴェンジャーの適性もありそう。
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98 ななしのよっしん
2018/03/22(木) 00:42:36 ID: tuzspHNC/O
狂気に染まりだした理由が「ジャンヌのいる地獄に落ちるような事をたくさんしよう」というヒラコーの解釈がすごくいい
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99 ななしのよっしん
2018/09/06(木) 20:26:23 ID: z2/FATi8QT
>>93
どこぞのの元国家席かな?
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100 ななしのよっしん
2018/09/28(金) 06:38:21 ID: wK5KyeGhp0
>>sm33926846exit_nicovideo

関連動画に加えてください
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101 ななしのよっしん
2020/01/23(木) 20:30:11 ID: iQCqirxsPS
直接名前使わずとも
悲惨な運命をたどった人物に心酔していて
それを失った結果狂った人物のモデルとしてはよく使われていると思う
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102 ななしのよっしん
2020/05/27(水) 17:12:49 ID: vig8WjbORI
>>89
バージョンセイバー(剣士)もあります。まだジャンヌが生きていた頃の堕ちる前なんですが、霊基再臨を繰り返す度に悪に染まっていってしまうのが何とも。
本人も「全に悪に染まる前に令呪自害させてくれ」と頼むのが痛ましい。

FGOイベントジルが出てきたんですが、クソにしか生きられない男という描かれ方でした。
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103 ななしのよっしん
2021/07/09(金) 14:19:56 ID: mwa4wgY9cM
>>87
「そんな被害者は出ていません」→握り潰す
実際に被害者が出ていて処刑された後止みました→ ジル・ド・レに死んでいただきたい真犯人が別に居ても可
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104 ななしのよっしん
2022/02/24(木) 21:27:39 ID: ikH6/1QurW
Fate/Apocryphaが最後いきなりジル・ド・レェ救済になってるのだった
キモ顔芸で終わらず、最後に一きを手にしやがってw
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105 名無し
2023/06/28(水) 21:20:28 ID: 8P7/MnoD3k
冤罪説は十分あり得るんだよなぁ。一応ジャンヌダルクと戦ってフランス元帥まで勤めてるし、名上のジル五世やフランス国王より領地が大きい。
序でに祖官脅して息子近親婚させてるから全方位に敵が居るんだぞ。
序でに裁判前にジル・ド・レエの後ろ楯兼政府へへのパイプ役のラ・トレモイユが失脚してる。
そしてシャルル七世と名上の君のジル五世が領土を分割して手に入れてるのであり得ない話出はない。と言うかフランス王テンプル騎士団への借も踏み倒す為に潰してたな。この王か知らんが。
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