スキルヴィング(Skilfing)とは、2020年生まれの日本の競走馬。黒鹿毛の牡馬。
日本ダービーという夢を追いかけて、その夢の舞台に散った未完の大器。
概要
父キタサンブラック、母ロスヴァイセ、母父*シンボリクリスエスという血統。
父は言わずと知れた王道路線でGⅠ7勝を挙げ国内賞金王になった「みんなの愛馬」。種牡馬としても初年度からイクイノックス、2年目からソールオリエンスを出して評価がうなぎ登り中である。スキルヴィングはソールオリエンスと同期の2年目の産駒。
母はダート1400mを主に走って24戦3勝の条件馬で終えた。
母父は2002年・2003年の天皇賞(秋)と有馬記念を連覇した「漆黒の帝王」。種牡馬としても成功を収め、直仔の活躍馬は牡馬に偏ったが、母父としてもオジュウチョウサン、レイデオロ、アルクトス、ソングラインなどを輩出している。
3代母*ソニンクは未出走のまま引退し初仔を受胎した状態で日本に輸入された繁殖牝馬だが、直仔からダートで活躍したランフォルセとノーザンリバーを出し、さらにその牝系からは初仔アコースティクスからロジユニヴァース、3番仔ルミナスポイントの直仔に重賞2勝のジューヌエコール、孫にソングライン。ライツェントからはディアドラとフリームファクシと、次々と活躍馬を送り出している。
2020年3月25日、ノーザンファームで誕生。オーナーはおなじみ、ノーザン系一口馬主クラブのキャロットファーム。募集価格は一口8.5万円×400口(=3400万円)であった。
血統のわりにお手頃価格なのは、生後半年頃に左飛節OCD除去手術(要は軟骨片の除去手術)を受けていたことと(競走能力に影響はないと言われているが手術歴自体がリスクではある)、悪癖とされる「さく癖」(柵を噛みながら空気を呑み込む癖。疝痛などの原因になるとされる)があったためだそうな。
「スキルウイング」「スキルウィング」と間違える人がちらほらいるが、「スキルヴィング」である。
馬名意味は「北欧神話の主神オーディンの別称。高座につくものの意。母名より連想」。母ロスヴァイセは「ワーグナー作「ニーベルングの指輪」の登場人物名より」なので、北欧神話繋がりということか。
ただ、高き頂きを目指して
2022年
同父の先輩イクイノックスと同じ、美浦の木村哲也厩舎に入厩。主戦騎手にはクリストフ・ルメールが選ばれ、全戦で手綱を取ることになる。
デビューは2022年10月15日、東京・芝2000mの新馬戦。桜花賞馬マルセリーナの仔でヒートオンビートやラストドラフトを兄にもつシュタールヴィント、シルバーステート産駒の珍名馬で後にNZTを勝つエエヤン、伯母にハープスターをもつセレクトセール1億円のヒシタイカンら良血の好メンバーが揃う中、4.8倍の2番人気で迎えた。
レースはスタートでやや遅れ、枠なりに中団の外目につけ、直線残り200mで内に寄りながら抜け出した所を後ろから追い込んできたヒシタイカンの末脚に差し切られてクビ差の2着。ルメール騎手は「まだ緩いところがあります。長い距離の方が良いですが、良い馬です」とコメント。
2戦目は11月19日、同条件の未勝利戦。1.7倍の1番人気に支持される。今回もスタートで遅れて後方からになったが、じっくり脚を貯めると直線で後方から内に切れ込み、そこから馬群の隙間を縫うように抜け出すと、あとは後続を突き放して3馬身差で完勝。上がり3Fは断然の33秒2を叩き出し、キタサンブラック産駒の注目株の1頭となった。
2023年:ダービーまで
明けて3歳、陣営は皐月賞には見向きもせず、日本ダービー1本に狙いを定めた。
3戦目はダービー本番と同条件、府中2400のゆりかもめ賞(1勝クラス)。1.5倍の断然の支持を集めると、後方から抜群の手応えで外を回り、鞭が入るとあっという間に後続を突き放して3馬身差で圧勝。タイムもこの時期の3歳馬としては破格の2:24.8を叩き出し、ルメール騎手も「スタミナも能力もあるし楽しみですね。キタサンブラックの子なので、まだ伸びしろがあると思います」と太鼓判。
4戦目はダービートライアル・青葉賞(GⅡ)へ。新馬戦で敗れたヒシタイカンと再戦となったが、ここもダントツ1.7倍の一番人気を集める。
相変わらずスタートはまずまずで、中団後ろの方で外々を回らされる展開に。しかしルメール騎手曰く「安全に乗りました」という言葉通り、直線で隙間に突っ込まず余裕をもって前のヒシタイカンの外に出すと、抜群の手応えでそのままあっさり置き去りにし、残り200mで鞭が1発入ると一気に加速。ハーツコンチェルトが食い下がってきて追い比べとなったが、もう2発の鞭で前に出ると、あとはまだ余裕を感じさせる追い方で半馬身競り落として勝利、3連勝で重賞初制覇を飾った。
勝ちタイムもレース歴代3位の2:23.9。まだ余力を残した感じでの勝利に、ルメール騎手も「(成長が)遅かったけど、経験を積んでだんだん大人になるし、ダービーの日はトップコンディションになるでしょう。GⅠホースだと思います」と手応えを感じさせるコメントを残した。
だが、ルメール騎手が騎乗した皐月賞3着・ファントムシーフもダービー出走を決定し、ルメール騎手は選択を迫られることになる。彼が選んだのはスキルヴィングであった。
かくして木村厩舎×ルメールのタッグは、前年の第89回ダービーで僅差2着に終わったイクイノックスのリベンジを果たすべく、運命の日を迎える。
2023年:第90回日本ダービー
この年、90回の節目となった日本ダービー(GⅠ)。スキルヴィングは青葉賞までの3連勝とその内容、1枠2番という好枠、そしてファントムシーフを差し置いてルメールが選んだ馬として、皐月賞で怪物的な末脚を見せた同父のソールオリエンスへの対抗馬一番手となり、ダービー当日は単勝4.5倍の2番人気に推された。「青葉賞組はダービーを勝てない」というジンクスを打ち破るという、ファンの夢も背負っていたのだろう。
レースはスタート直後にドゥラエレーデが落馬競走中止となる波乱の幕開けとなる。(例によって)スタートでやや出負けしたスキルヴィングは一旦後方に構えると、向こう正面でじわりと外へ出して行き、3コーナー前から徐々に進出を開始。パクスオトマニカが平均ペースで大逃げ、2番手以下が超スローの流れを、大外を捲っていくようにして中団まで押し上げ、最終直線を迎えた。
だが……。
直線に入ったあたりで、既に異変は生じていたのかもしれない。スキルヴィングは追い出したルメール騎手に反応しなくなった。残り300m地点で完全に手ごたえが無くなり、容態を案じたルメール騎手は追うのを止め、そのまま大差の最下位入線。ゴール線を越えたスキルヴィングはスタンド正面で、おぼつかない脚取りで止まってしまった。
この時、彼は急性心不全を発症していた。心房細動と異なり、心不全は走行中に崩れ落ちて危険な落馬事故に繋がるケースも多いのだが、彼はまるで騎手が背を降りるまで耐えるかのように踏ん張っていた。もちろんルメール騎手はすぐに下馬したものの、そこから数歩歩いたスキルヴィングは内ラチのそばに崩れ落ち、そのまま動かなくなった。ルメール騎手は彼の身を案じるように何度も頭を撫でてやった後、駆け付けた木村師と悔しそうに肩を寄せ合い、その場を後にした。
暗幕が張られ、スキルヴィングを載せた馬運車が去って数時間後、JRAから「競走中に急性心不全を発症(死亡)」の公式発表が行われた。
同じキャロットファームのタスティエーラが勝利し、青葉賞で下したハーツコンチェルトが僅差の3着に力走したその陰で、未完の大器は静かに天国のターフへ駆けていってしまったのである。
スキルヴィング――高座につくもの。
青葉萌ゆる府中のターフで、彼の脚は夢見た舞台の、高き頂きに届いていたのだろうか。
その答えはもう、誰にもわからない。
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血統表
キタサンブラック 2012 鹿毛 |
ブラックタイド 2001 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
*ウインドインハーヘア | Alzao | ||
Burghclere | |||
シュガーハート 2005 鹿毛 |
サクラバクシンオー | サクラユタカオー | |
サクラハゴロモ | |||
オトメゴコロ | *ジャッジアンジェルーチ | ||
*テイズリー | |||
ロスヴァイセ 2011 黒鹿毛 FNo.B3 |
*シンボリクリスエス 1999 黒鹿毛 |
Kris S. | Roberto |
Sharp Queen | |||
Tee Kay | Gold Meridian | ||
Tri Argo | |||
ヴァイスハイト 2004 青鹿毛 |
アドマイヤベガ | *サンデーサイレンス | |
ベガ | |||
*ソニンク | Machiavellian | ||
Sonic Lady |
クロス: *サンデーサイレンス 3×4(18.75%)、Hail to Reason 5×5(6.25%)、Lyphard 5×5(6.25%)
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関連項目
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