スターリングエンジンとは蒸気機関と同様の外燃機関の一種。熱空気機関とも呼ばれる。某書記長とは関係がない(「スターリング」はスコティッシュな名前である)。
概要
19世紀初頭、イギリス人のロバート・スターリングによって考案された。密封したシリンダー内の気体(水素やヘリウム)に対して加熱・冷却を繰り返し、気体の膨張・収縮でピストンを作動させて動力を得る。熱エネルギーを有効利用できる(熱効率が良い)、燃焼の制御が容易で排気ガスの浄化が可能、圧力の変化が穏やかなので騒音や振動が少ない、などの利点がある。1960~70年代には低公害で燃費が良いエンジンということで欧米の自動車メーカーなどで積極的に研究されていたが、エンジンの大きさに対する出力の低さから開発は下火になった。[1]
原理
空気、というより気体は熱すると膨張し、冷やすと収縮する。これは小学生でも分かる基本的な定理である。エンジンとは、これを利用して一定の「運動エネルギー」を得る機関の事である。例えばガソリンエンジンはガソリンにより空気をシリンダー内で爆発・膨張させ、それによってクランクを円運動させて運動エネルギーを得る。
さて、ここに気体Xの詰まった容器があると想定しよう、容器からはパイプが伸びていて可動式のピストンのついたシリンダーにつながっている。ここで容器を熱すると気体は膨張し、シリンダーの中のピストンは押し下げられる。逆に容器を冷やすと今度は気体は収縮し、ピストンは引き上げられる。加熱と冷却を繰り返すとピストンは往復運動をするようになり、これに円状のクランクをつなぐと回転運動にすることが出来る。かなり砕いた説明であるが、これがスターリングエンジンの原理である。
この気体Xは高圧でも安定している気体を用いるのが一般的で、ヘリウムが多用される。
実際には容器を加熱したり冷却したりを繰り返すのは手間がかかるため、本物のスターリングエンジンには容器の中にディスプレーサーというもう一つのピストンがあり、これで中の気体を加熱する側と冷却する側の交互に移動させることで膨張と収縮を繰り返させている。
スターリングエンジンは外燃機関であるため熱を発するものなら何でも動力にすることが出来る。石油や石炭はもちろん、原子力や太陽熱も使うことが出来る。そればかりか人間の体温ですら動力にすることも可能だ。そして熱からの運動エネルギー変換効率は高く、動作気体に高圧のヘリウムを使ったものではディーゼルエンジンに匹敵する40%にまで達する。静粛性も比較的高く、排気ガスも少ないため環境にも優しい。
また面白いことに、スターリングエンジンは可逆サイクルのエンジンである。普通は温度を(正確には温度差を)回転力に変えるエンジンなのだが、逆に出力側を外部から力を加えて回転させることで物を冷やすことが出来るのである。この原理は冷凍機で利用されている。
歴史
1816年、スコットランドの牧師ロバート・スターリングによって発明された。当時蒸気機関はまだ信頼性が悪く、出力をあげようとするとたびたび爆発する事故を起こしていた。スターリングエンジンは爆発しない安全なエンジンとして期待されていたが、出力を上げるためには高温にする必要があり、当時の技術力では高温下で高圧に耐えうる金属がなかったため、普及すること無く一度目の衰退期を迎える。
スターリングエンジンが再び注目されるようになったのは、耐熱合金が発達した20世紀に入ってからである。オランダのフィリップス社(日本では電気カミソリのメーカーとして有名だが、本来は総合家電メーカーであり、コンパクトディスクの規格を作った会社でもある)が無線機用の動力として小型のスターリングエンジンを開発した。無線機にノイズを発生させるスパークプラグを使用していないからである。第二次大戦中フィリップス社はナチス=ドイツに接収されたが、彼らはそこで見つけたエンジンに新型の燃料が使われていると思い込み、本国に持ち帰って調べたところ、中には空気しか詰まっておらず彼らは思わず頭を捻ったという逸話が残されている。
戦後、フィリップス社はGMやフォードといったアメリカの自動車メーカーと共同で自動車用スターリングエンジンの開発を始めた。動作に爆発を伴わないため音が静かで排ガスもきれいなスターリングエンジンは一時期注目を浴びたものの、熱効率を上げるには内部の気体の圧力を高める容器を大型化せねばならず、その結果エンジンが大きく重くなってしまうことが分かり、結局実用化はされずスターリングエンジンは二度目の衰退期を迎える。
スターリングエンジンが三たび注目を浴びることになったきっかけは1990年代にスウェーデンが自国の潜水艦のAIP(非大気依存推進)機関として採用したことである。
スターリングエンジンは前述した通り動作音がきわめて静かで静粛性を求める潜水艦に適しており、冷却に使用する水にも不自由しない。自動車ではデメリットであった重さも潜水艦ではあまり問題にならない。
スウェーデンのゴトランド級潜水艦のスターリングエンジンでは過酸化水素とディーゼル燃料を燃焼させてエンジンを加熱するため、浮上して外気を取り入れることなくエンジンを回し発電を続けることができる。
日本はスウェーデンのコックムス社のスターリングエンジンをライセンス生産してそうりゅう型潜水艦に搭載しているが、11番艦からはスターリングエンジンの代わりにリチウムイオン電池を搭載するようになっている。
関連動画
関連項目
脚注
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