概要
本名、スティーブン・エドウィン・キング(Stephen Edwin King)。1947年9月21日、メイン州ポートランドにて生を受ける。
1974年、『キャリー』で小説家としてデビュー。それまでのホラー作品と違い、超常現象と現代社会を巧みに融合させた「モダンホラー」の旗手としてジャンルを確立させる。
裕福とは言えない少年時代を過ごし、下積み時代にはトレーラーハウスでの極貧生活やアルコール依存なども経験したが、現在ではアメリカを代表する現代作家のひとり。
小説は翻訳されて世界各国で読まれ、多くの作品が映画化されている。精力的な執筆活動で知られ、その多産性、長編性でも有名である。
日本にも多くのファンを持つ作家であり、『広辞苑』を引けば彼の名前を見つけることが出来る程。荒木飛呂彦や宮部みゆきといった著名な作家がキングのファンである事を公言している。
ジョン・カーペンターのホラー映画「マウス・オブ・マッドネス」に登場するベストセラー作家にして怪異の中心となる人物、サター・ケインはキングがモデルであると言われている。
出身地であるメイン州の架空の町「キャッスルロック」や「デリー」が多くの作品の舞台となっており、殆どのキング作品をリンクさせるキープレイスとなっている。「暗い秘密を抱えた田舎町」という設定はラヴクラフトが創造した架空の町・アーカムを彷彿とさせるが、それもその筈、キングはラヴクラフトの大ファンで、『呪われた町』『クラウチ・エンド』等の幾つかの作品にオマージュが見られる。
また『トウモロコシ畑の子供たち』ではシュブ=ニグラスの化身「畝の後ろを歩くもの」を創造、彼自身も神話の語り部となっている。
ジョージ・A・ロメロのオムニバス映画『クリープショー』では脚本を担当。第二話『ジョディ・ベリルの孤独な死』では主役を演じ、『宇宙からの色』を想起させる怪奇な物語の一部となった。
登場人物が追い詰められていく過程の描写に定評があり、人物設定や人間関係などの作り込みが非常に緻密である。登録商標などが多用され、アメリカ文化に造詣が深いとより楽しめるだろう。
またロックンロールをこよなく愛し、自らも作家仲間とバンドを組んでいた事があるほど。小説の随所にロッカーが登場したり、名曲がラジオから流れていたりするのも一興。
代表作
映画化作品が多いことで知られるが当たりハズレの差が激しく、それらの評判だけでキングを通俗的なホラー作家と看做す風潮が多いのが惜しまれる。
ここでは比較的評判の高い映画化作品を中心に取り上げるが、原作を最初に読んでから映画を楽しむか、映画を観てから原作を楽しむかは視聴者の判断に委ねる。読む時にはじっくりと腰を据えて読もう。
キャリー
家では狂信的な母親、学校ではクラスメイトにいじめられていた少女キャリーが、初潮をきっかけとして念動能力(テレキネシス)に覚醒。そこから始まる凄惨な悲劇を描く。
1976年の映画版ではシシー・スペイセクとパイパー・ローリー、ふたりの名女優の怪演が光る。何もかもが炎に飲み込まれた後の衝撃のラストは、当時話題を呼んだ。
その後時代を現代に設定した上で、2013年、キンバリー・ピアース監督、クロエ・グレース・モレッツ主演により再度映画化されている。
シャイニング
1977年作。
コロラド州の山間に佇む高級リゾートホテル「オーバールックホテル」。冬の間は雪によって閉鎖されるホテルの管理人の募集に手を挙げたのは、小説家志望の元教師、ジャック・トランス。妻と息子を連れてホテルに向かったジャックだったが、かつてそこではいくつもの陰惨な事件が起きていた……。
映画版はスタンリー・キューブリックが監督を務め、ジャック・ニコルソンの怪演と卓越した恐怖描写で高い評価を得た。しかし原作とは乖離した部分も多く、キングはこの出来に不満を表明。1997年にテレビドラマ版を監修している。
デッド・ゾーン
1979年作。記念すべき「キャッスルロック」の初登場作品でもある。
交通事故によって5年間意識不明となっていた男が突如覚醒。脳の領域で使われていない部分「デッドゾーン」が活性化した事により、接触した相手の秘密や未来を予知できるようになる。
能力を使い、悲劇的な未来を回避しようとする主人公。しかしある日一人の政治家と握手した彼の脳裏に浮かんだのは、核戦争によって世界が滅亡する未来だった……。
83年の映画版はファンからの評判も良く、キング本人もお気に入りである、との噂も。
スタンド・バイ・ミー
1982年作の中編集『Different Seasons』より。『ショーシャンクの空に(原題:刑務所のリタ・ヘイワース)』『ゴールデンボーイ』もこの中編集からの映画化。
日本で発刊された際には分冊されて『恐怖の四季』というやりたい邦題(本来は「それぞれの季節」くらいの意味)がつけられてしまっているが、ホラーではないので念の為。
それぞれに問題を抱えた少年4人が「列車にはねられた死体を見つけたら英雄になれる」と、線路づたいに死体探しの旅に出る。いずれは大人になっていく少年達の冒険を描いた青春映画の金字塔。
なお原題は「The Body(死体)」で、映画の邦題は劇中で使用された曲からつけられている。
IT(イット)
1986年作。
1990年のメイン州デリーで、約30年ごとに繰り返される連続殺人事件。被害者はすべて子供だったが、何故か警察の捜査はおざなりで、大人たちの反応も薄かった。
そんな中、家庭環境に問題を抱え、学校ではいじめの対象となっている7人の子供たち『ルーザーズクラブ』は、味方のいない状況で正体不明の殺人鬼「ペニーワイズ」と対決。一度は退治するも、もしまた再び「IT(あれ)」が現れたなら、再び集まって戦う事を誓い合う。
それから27年後、再びデリーで殺人が発生。唯一町に残っていたマイクは、町を出てそれぞれ立派に成長した6人に召集をかけるのだが……
1990年にABCでテレビ映画としてドラマ化され、その後2017年にワーナーブラザーズが劇場映画化。2019年に続編が公開された。
ニコニコではテレビ映画版のあるシーンが、嘘字幕シリーズとしてしばしばネタにされている。詳細は「ペニーワイズがオススメするシリーズ」にて。
ミザリー
1987年作。
小説「ミザリー」シリーズを手掛ける人気作家、ポール・シェルダン。長年続いた「ミザリー」を終わらせた後、新作の小説を携えて運転中に事故を起こし、重傷を負ってしまう。意識不明の彼を見つけた看護婦・アニーの家で手当てを受ける事になったが、彼女は「ミザリー」の大ファン。シリーズが終了する事に納得せず、ポールを自宅に監禁。自分だけの為に続編を書くよう強要する……
熱狂的なファンの恐ろしさを描いた一作で、キング本人が受けたストーカー被害の実体験が元になっているとか何とか。怖い。
原作は言うに及ばず、本作でアカデミー賞主演女優賞を獲得したキャシー・ベイツをはじめ、ベテラン勢を取り揃えた映画も恐ろしい。トラウマ覚悟でどうぞ。
グリーンマイル
1996年作。本作のネタバレ回避の為、6ヶ月連続で分冊が刊行された。
大恐慌時代の刑務所が舞台。双子の少女の強姦殺人のかどで死刑を宣告された男・コーフィと、威圧的な巨躯からは信じられないほど純粋なコーフィの面倒をする看守主任・ポール。凶悪な死刑囚や鼻持ちならない看守など、様々な人物の群像劇によって描かれる「贖罪」のファンタジーである。
映画ではトム・ハンクスが主演、2000年のアカデミー賞では多数の部門でのノミネートを受けた。
スティーブン・スピルバーグは途中で耐え切れずに4回号泣したそうな。わかる。
年代別作品履歴
映画、テレビドラマなど映像化されたものには★マークあり(短編・中編集内の作品が映像化されている場合もあり)。
別名義であるリチャード・バックマン作品もここで扱う。
1970年代
- ★キャリー (Carrie/74年)
- ★呪われた町 ('Salem's Lot/75年)
- ★シャイニング (The Shining/77年)
- ハイスクール・パニック (Rage/77年) バックマン名義。現在絶版。
- 深夜勤務 (Night Shift/78年) 短編集。
- ★トウモロコシ畑の子供たち (Children of the Corn/78年) 短編集。
映画化タイトルは『チルドレン・オブ・ザ・コーン』。
映画『バーチャル・ウォーズ』の原作『芝刈り機の男』所収……なのだがあまりにも内容がかけ離れている為キングが激怒、クレジットから名前を外させた。 - ★ザ・スタンド (The Stand/78年)
- ★デッド・ゾーン (The Dead Zone/79年)
- 死のロングウォーク (The Long Walk/79年) バックマン名義。
1980年代
- ★ファイアスターター (Firestarter/80年) 映画化タイトルは『炎の少女チャーリー』。
- ★クージョ (Cujo/81年) 映画化タイトルは『クジョー』。
- 最後の抵抗(旧題:ロードワーク/Roadwork/81年) バックマン名義。
- ★バトルランナー (The Running Man/82年) バックマン名義。
- ★恐怖の四季 (Different Seasons/82年) 中編集。『刑務所のリタ・ヘイワース』(映画化タイトルは『ショーシャンクの空に』)、『ゴールデンボーイ』、『スタンド・バイ・ミー』が映画化されている。
- ★クリスティーン (Christine/83年)
- ★ペット・セマタリー(Pet Sematary/83年) 映画化タイトルは『ペット・セメタリー』。
- タリスマン (The Talisman/84年) ピーター・ストラウブとの共著。
- 人狼の四季(旧題:マーティ/Cycle of the Werewolf/84年)
- ★痩せゆく男 (Thinner/84年) バックマン名義。
- ★骸骨乗組員 (Skeleton Crew/85年) 短編・中編集。映画『ミスト』原作の『霧』所収。
- 神々のワードプロセッサ (Word Processor of the Gods/85年) 短編集。
- ミルクマン (Milkman/85年) 短編集。
- ★IT-イット- (It/86年)
- ドラゴンの眼 (The Eyes of the Dragon/87年)
- ★ミザリー (Misery/87年)
- トミーノッカーズ (The Tommyknockers/87年)
- ★ダーク・ハーフ (The Dark Half/89年)
1990年代
- ★ランゴリアーズ(The Langoliers/90年) 中編集。映画『シークレット・ウィンドウ』の原作『秘密の庭、秘密の窓』所収。
- 図書館警察(The Library Policeman/90年) 中編集。
- ★ニードフル・シングス (Needful Things/91年)
- ジェラルドのゲーム (Gerald's Game/92年)
- ドロレス・クレイボーン (Dolores Claiborne/93年)
- ★ドランのキャデラック (Dolan's Cadillac/93年) 短編集。
- ★いかしたバンドのいる街で (You Know They Got a Hell of a Band/93年)
- メイプル・ストリートの家 (The House on Maple Street/93年)
- ブルックリンの八月 (Brooklyn August/93年)
- 不眠症 (Insomnia/94年)
- ローズ・マダー (Rose Madder/95年)
- ★グリーンマイル (The Green Mile/96年) 全6巻。
- ★デスペレーション (Desperation/96年)
- レギュレイターズ (The Regulators/96年) バックマン名義。『デスペレーション』の別視点作品。
- 骨の袋 (Bag of Bones/98年)
- トム・ゴードンに恋した少女 (The Girl Who Loved Tom Gordon/99年)
- ★アトランティスのこころ (Hearts in Atlantis/99年)
2000年~
- ★ライディング・ザ・ブレット (Riding the Bullet/00年)
- ★ドリームキャッチャー (Dreamcatcher/01年)
- ブラック・ハウス (Black House/01年) ピーター・ストラウブとの共著。『タリスマン』の続編。
- 回想のビュイック8 (From a Buick 8/02年)
- 第四解剖室 (Autopsy Room Four/02年)
- 幸福の25セント硬貨 (Luckey Quarter/02年)
- ★コロラド・キッド (The Colorado Kid/05年) 日本では契約上の理由で単独刊行出来ない為、ダーク・タワーシリーズ購入者を対象とした限定1万冊の抽選プレゼント品となった。ネットオークションで高値がつくことも珍しくない。『へイヴン』のタイトルでドラマ化されている。
- セル (Cell/06年)
- リーシーの物語 (Lisey's Story/06年)
- 悪霊の島 (Duma Key/08年)
- アンダー・ザ・ドーム (Under the Dome/09年)
- 11/22/63(11/22/63 /11年)
- ジョイランド(Joyland/13年)
- ドクター・スリープ(Doctor Sleep/13年) 『シャイニング』の続編。
- ビル・ホッジス三部作(Bill Hodges Trilogy/14~16年)
- 心霊電流(Revival/14年)
- 眠れる美女たち(Sleeping Beauties/17年)次男オーウェンとの共著。
- アウトサイダー(The Outsider/18年)
- 異能機関(The Institute/19年)
- ビリー・サマーズ(Billy Summers/21年)
- Fairy Tale(22年)
- Holly(23年)
「ダーク・タワー」シリーズ
キング本人が「ライフワーク」と称する長編小説。
1970年代から構想、1982年から2004年までに全七巻が発表されている。
- ダーク・タワーI ガンスリンガー (The Gunslinger/82年)
- ダーク・タワーII 運命の三人 (The Drawing of the Three/87年)
- ダーク・タワーIII 荒地 (The Waste Lands/91年)
- ダーク・タワーIV 魔道師と水晶球 (Wizard and Glass/97年)
- ダーク・タワーV カーラの狼 (Wolves of the Calla/03年)
- ダーク・タワーVI スザンナの歌 (Song of Susannah/04年)
- ダーク・タワーVII 暗黒の塔 (The Dark Tower/04年)
アメリカ西部開拓時代を思わせる異世界を舞台とし、「最後のガンスリンガー」ローランドが仇敵を追い、カ・テットと呼ばれる仲間と共に「暗黒の塔」を目指す旅を描く。
物語は複数の世界にまたがっており、過去のキングの作品とも多くのかかわりを持っている。英国幻想文学大賞を受賞するなど、評価が高い。
2017年に映画化、日本では2018年に公開。
関連動画
関連項目
- 小説家の一覧
- ホラー
- ペニーワイズ
- ボストン・レッドソックス
- ハワード・フィリップス・ラヴクラフト
- ALAN WAKE (キング作品との類似を語られる事が多い)
- 宮部みゆき / 荒木飛呂彦 / 藤田和日郎 (キング作品のファンとして知られる)
キングの小説を原作とした映画の記事
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