ステラーカイギュウ(ステラーダイカイギュウとも)とは、かつて地球上に存在していた海生哺乳類の一種である。
概要
人間の私利私欲のために絶滅してしまった動物の一種として知られる。
特徴
ジュゴン目ジュゴン科ステラーカイギュウ属に属していた哺乳類。
外見が似ているが、ジュゴンらとは異なり寒い地域に生息していたのが特徴。
海草よりも一段階上の海藻を主食とし、昆布などを多く食して脂肪を備え、冬の寒い気候に対応していたとされる。食べる時は上顎と下顎についていた細かい溝の付いた嘴状の器官で、よく動く唇とこの嘴を使っていたという。
冬の間は食物をあまり摂取出来ないため、骨が見えるくらいに痩せ細っていたという。これは後述の食料不足がさらに拍車をかけたと言われている。
体長は平均して7メートル、最大で8メートルを超える大物で、重さはそれに比して5~12トンはあった。反面海に潜ることは苦手で、ぷかぷかと海に浮かんで生活していた。10頭~20頭程度で群れを成していたとされる。
ただ浮かんで生活していたのは、こうして身体を地上にさらすことで体温調節をしていたといい、さらに主に生息していたのが浅瀬なのは、海にいる多くの外敵の活動範囲から離れるためとされる。
ちなみに浮かんで生活していたためか、ヒレのような前足に骨はなく、そこもジュゴンとは異なる特徴であった。
妊娠期間は約1年で、それだけかかってようやく1頭のみを出産していたという。
その分、夫婦の絆はとても強かったといわれるが、これは後に起こる絶滅を早める習性となった。
発見
その存在を発見したのは、1741年にロシア帝国によって結成された第2次カムチャツカ探検隊の医師であるゲオルク・ヴィルヘルム・シュテラー(ステラー)である。命名には発見者であるステラーの名が付けられた。
ちなみに彼等が漂着したベーリング島(ベーリング海)は、ベーリング島に葬られた船長のヴィトゥス・ベーリングが由来となっている。
嵐による座礁に加え、壊血病にかかったベーリング船長を始めとする船員の多くは息絶えてしまったが、なんとか生き残ったステラーら船員達は、当時無人島だったベーリング島において越冬することを決意する。
この時発見した動物こそが、このステラーカイギュウである。
ステラーカイギュウは、食料の枯渇した彼等には正に天の恵みであった。ステラー達がボートを漕ぎ入れても、ステラーカイギュウは何ら警戒心を示さなかったのである。
そんな彼等は、漂着したステラー達の貴重な食料となった。仔牛の味に似ていると言われるその肉は、3トンもの量と脂肪がとれたという。
しかも保存性に優れ、越冬をはじめ、島から脱出する時の食料としても重宝された。皮はベルトや防寒具、バターなどにもなり、ステラーカイギュウが居なければ、ベーリング島からの脱出はより困難を極めたことであろう。
ステラーは自然学者でもあったので、ベーリング島にいた動物達についての生態研究も行なっていた。こうしてステラーは、ステラーカイギュウを始めとした島に生息していた動物の調査結果を、島からの帰還時に発表した。
ステラーはその後、出港から10年と経たない1746年11月に死去したが、この遺稿の中からもいくつかの本が出版された。
しかし、これらの発表は人間の欲望を刺激し、ステラーカイギュウに悲しい運命を辿らせることとなる。
絶滅までの道
ステラーの発表を見聞きしたハンターや商人は、早速ステラーカイギュウをハントしにベーリング島に押し寄せた。
前述したように警戒心のなかったステラーカイギュウはハンターにとっては海に浮かぶ金づるであり、際限ない狩りが行われた。
ステラーカイギュウは襲われても蹲るばかりで抵抗しないばかりか、むしろオス達が外敵に襲われたメスを守ろうと寄ってくる習性があった。これはハンターにとっては、まさにカモがネギを背負ってくるような、ありがたい話だった。
だが、5トンもあるステラーカイギュウは人の手で運ぶのは難儀で、狩りをする時は殺してからその屍が岸辺に打ち上げられるのをじっと待つ、という方法がとられた。
そのため、5頭のうち4頭は海の藻屑と消え去り、無駄死となっていたことは有名な話。
しかし、ハンター達も、このステラーカイギュウが発見された時点で既に1000~2000頭程度しか残っていなかったことを知らなかった。
あっという間に個体数を減らしたステラーカイギュウを見て、これに大きく慌てたコマンダル諸島開拓本部は、ステラーカイギュウの捕獲禁止令を出した。
が、時既に遅しだった。
1768年、ステラーの元同僚が「まだカイギュウが2、3頭残っていたので殺した」という報告を行ったのを最後に、ステラーカイギュウは人々の前から完全に姿を消した。
発見からわずか27年というあっという間の絶滅だったが、わずか1000頭程度しかいなかったのにも関わらず、27年も保っていた……とも言えなくはない。
カイギュウ類は有史以前にそのすべてが絶滅しており、本種が最後の生き残りであったが、この最後の一種も人間の手によって、絶滅の道を辿ることになる。
余談
発見当時に生息予測頭数からして、ステラー達に発見された時点で既にステラーカイギュウは絶滅に瀕していた、ということになる。
その原因は人間がラッコを乱獲したことでウニが大繁殖し、ステラーカイギュウの食物(主に昆布)が激減していたからだという説もある。
要はステラーカイギュウは既に人間によって追い詰められていたのである。よってステラーカイギュウの越冬は従来よりもさらに困難を極めていたのだ。
なお、10万年前の大昔は、日本やアメリカのカルフォルニア州などの沿岸に広く分布していたということが調査で明らかになっている。
しかし気候の変化や人間が土着したことによって、ステラーカイギュウの住みやすい土地は徐々に失われ、やがてはベーリング海のあるコマンドル諸島のみに生息するようになったと言われている。
多くの絶滅動物同様に、絶滅と断定された後の発見例がいくつか存在するが、その多くが眉唾物とされており、案の定というべきか信憑性には乏しい。
ちなみに、ベーリング島に同じく生息しており、ステラーによってその存在が明かされたメガネウも、ハンター達によって狩り尽くされて絶滅しているのは、なんとも皮肉な話である。
だが、ステラー達、生き残った船員達の命を救ったのは、ステラーカイギュウ達の尊い犠牲があったからこそということを忘れてはいけない。
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