ステルス(stealth)とは、対象から発見されることを避けること、およびそのための技術を指す言葉である。忍び入る、こっそり盗むを意味する「steal」が語源。
類義語に低被発見性・低視認性(low observability)、超低被発見性(very low observability)などがある。
探知・識別を困難にすることで、敵による発見・攻撃を困難にし、生残性を高める狙いがある。
概要
レーダー電波の反射を抑え、敵に発見されるのをさけて隠密に作戦行動を行う「ステルス機」が有名だが、広義には探知・識別を避けるために熱、音、振動、自らの電子機器からの電波の放射など、あらゆる特徴的な兆候(シグネチャ)を低減させることをいう。
可視光波長で人間の視覚をかく乱させるためのステルス技術、特にに自らの姿を背景に溶け込ませて透明に錯覚させる技術を「光学迷彩」「ステルス迷彩」と呼ぶが、あくまで研究中の技術であり、ゲーム・アニメ・漫画などフィクションの影響が強い。光学迷彩とステルス迷彩は同義語ではあるが、光学迷彩は「光学的に隠れるための迷彩」、ステルス迷彩は「ステルス化を図るための迷彩」であり、「光学=ステルス」ではない。
存在感が薄いキャラ、他人から認識され難いキャラ(ステルスモモ、赤座あかりなど)に対して使用されることもある。
ゲームカテゴリとして
敵兵士や存在を感知するセンサーに見つからないよう、敵施設や敵支配下の地域へ潜入し救出や破壊工作、または脱出といった目的を達成するステルスミッションを指す場合もある。(広義)
敵より人数・装備・支援が劣った状態で潜入する場合がほとんどであり、発見されると窮地に陥る。
メタルギアソリッドなどが有名だが、ステルスミッションが含まれるゲームも多い。
対レーダー・ステルス技術
航空機
RCS
機体の形状を工夫して、レーダーの反射断面積(RCS:レーダー・クロス・セクション)、すなわちレーダー・パルスを反射してレーダーの受信機に送り返す部分の面積を小さくする。どんなレーダーでも受信機には固有の感度レベルがあり、ターゲットから反射してきた電波のレベルがある点を下回ると、背景ノイズの中に埋もれてしい、検出できなくなる。
レーダーが受信する信号のSN比が悪化するということであり、結果的にレーダーがステルス機を探知できる距離は、非ステルス機を探知する場合よりも短くなる。F-22やF-35はパッシブセンサで敵レーダーの電波を逆探知することで敵レーダーの位置を把握できるので、敵レーダーの(縮小した)探知範囲を避けるように飛行することができる。
レーダー吸収材
レーダー吸収材はセラミックと固着剤の混合物で、角度を変えてレーダー・パルスの反射を減らせない部分を中心に機体表面に塗装される。この塗装は特定の周波数の電磁波を吸収してそれ以外は通過させる。キャノピーにはイリジウムとスズの酸化物が塗られる。これはほとんどすべての周波数の電波を反射・乱反射する一方で、視界はほとんどさえぎらない。
低空飛行
レーダーが地上に設置されている場合は、地平線の向こう側にいる目標については探知できない。非ステルス機であっても低空を飛行することで、ある程度はレーダー探知を避けることができる。
その他
自分が発信するレーダー電波を最小化し、敵による逆探知を避けるのも重要になる。
ただしステルス性能の高い機体形状は、総じて操縦安定性が犠牲になる場合が多い。そのため、機体形状をステルス化する場合はコンピュータを用いた姿勢制御(フライ・バイ・ワイヤ)が不可欠である。
アメリカはこの分野で突出しており、F-117攻撃機、B-2爆撃機、F-22戦闘機など高いレベルのステルス機を開発してきている。現在開発中のF-35JSFもステルスを念頭に設計されている。
ロシアもソ連時代からステルス機の研究開発に注力してきたが、連邦崩壊に伴う混乱・予算不足などのため今のところ実用的なステルス機を開発できていない。現在スホーイが開発中のSu-57は本格的なステルス機となるらしい。
中国なども次世代戦闘機にステルス技術を投入すると言われているが、現状ではうわさのレベルにとどまっている。一方日本でも、技術実証機X-2を開発した。
地上・海上兵器のステルス化
航空機のみならず、地上/海上兵器でもステルス技術の適用が始まっている。近年の駆逐艦やフリゲートといった水上戦闘艦は、艦橋等の構造物をのっぺりとした斜めの平面で構成することでRCSの低減を図っている。航空機とは違い、至近距離でないと発見するのが困難というタイプのものではなく、RCSの低減によって被探知距離を短くしたり、自身の大きさを小さく見せかけたりするのが目的である。例えばロシア海軍のミサイル巡洋艦であるキーロフ級は、基準排水量24,300tであるにもかかわらず、デンマーク海峡にあるNATOの沿岸レーダー上では2,000t前後のフリゲート艦サイズとしてしか認識されなかったという逸話がある。
地上兵器では、ミリ波レーダーなどの登場が比較的最近であることもあって電波ステルス対策は研究段階に留まっているが、将来的には戦車などの外形がステルス化される可能性もある。
対ステルス技術
探知するレーダーの側も、ステルス対策を研究中である。発信と受信を離して行うレーダー(バイスタティックレーダー)などはステルス機の探知に有効であるとされる。あるいはモノパルス方式のレーダーも有効であるとも言われる。
とはいえ、いくらステルス機といえども視認されてしまえば普通の航空機なので、場合によっては撃墜されることもある。F-117はユーゴ空爆の任務中に撃墜されている。この場合、メートル波にしたレーダーで察知されたという(一般的にミリ>センチ>メートルとレーダー波長がより細かくなり、F-117はメートル波のような波長の長いレーダー波の反射を考慮しなかったという面もある)。
また後述するようにステルスといってもレーダー波対策ばかりを考えればよいのではなく、外的シグネチャについても考慮しなければならないし、逆に探知をレーダー波だけに絞る理由はどこにもない。ロシアが対ステルス対策なのか、赤外線探知技術や音源追跡などを考えているのはその理由の一つかもしれない。
…しかしまあ、ステルスは研究開発・生産・整備維持と恐ろしく金を食うので、結局ステルス最大の敵は「予算」かもしれない。
波長の長いレーダーを使用する
アメリカの軍事研究団体「米国海軍学会」はウェブサイトで、アレンド・ウエストラ氏によるE-2Dの能力分析を紹介している。このレポートによると、航空機の翼端など構造物の寸法がレーダー波長の8分の1以下と等しくなると共振現象が発生し、レーダー断面積が変化する、と指摘している。つまりUHF等、波長の長い電波をレーダーに用いればステルス機といえどレーダー断面積が大きくなって探知できるのだという。レーダー波の波長が長くなれば解像度が低くなり、正確な探知はできないというのがこれまでの認識だったが、E-2Dの場合はUHF波を使った最新のAESAレーダーと、強力なコンピュータによるデジタル処理を組み合わせることでステルス機の探知を可能にしている。
その他のステルス技術
ステルスと言うと、基本的にはレーダー波からのステルス技術ばかりがとりあげられるが、上述したように音響・赤外線などのステルス対策も求められる。音響の場合、ヘリコプターの対策としてテイルローターを斜めにしたり、ローターの間隔を不均等にして発生するローター音を下げたりする方法がある。赤外線の場合は赤外線シーカーの探知を避けるためにエンジン排気を海水や空気で冷却するなどがある。
ステルス機
- A-12 アベンジャーⅡ - 開発予算打ち切りでデビューせず。
- B-2 スピリット - 米空軍のステルス戦略爆撃機。世界一高価な航空機。1機2,000億円。同質量の金より高価とも。
- F-117 ナイトホーク
- F-22 ラプター - ATF計画によって生み出された米空軍機。現在ステルス、非ステルスを問わず世界最強の戦闘機。
- YF-23 ブラック・ウィドウⅡ - ATF計画におけるYF-22の競作。F-22が採用されたため計画破棄。
- F-35 JSF(別名:ライトニングⅡ)
- F-15SE サイレントイーグル - F-15Eをベースに部分的にステルス技術を付与した改良機。
- X-2 - 技術実証機。
- Su-57 - 開発中、試作機が初飛行済み。スホーイの設計名称は“T-50”。
- J-20 - 開発中、試作機の地上試験が確認されている。中国語では殲撃20型。
固有名詞
ハイパーヨーヨーで、バタフライ型の機種に「ステルス」と名前がついていたのは有名。
その後も、なぜかヨーヨーの名前によく使われる。
関連項目
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