ストライキ(英:strike)とは、労働運動に関する言葉である。同盟罷業ともいう。略称はストである。
概要
定義
ストライキ(同盟罷業)とは争議行為の1つであり、労働組合に所属する労働者が示し合わせて「労働契約で定められた労務提供の債務」を履行せず仕事をしないことをいう。
性質その1 あらゆる企業で実行できる
労働者が行う争議行為の中には怠業という行為がある。世の中すべての企業が怠業を円滑に実行できるわけではなく、怠業を実行しやすい企業と怠業を実行しにくい企業がある。
一方でストライキはどこの企業でも実行しやすい。このためストライキは労働者が行う争議行為の中で主流の地位を占めている。
性質その2 参加した労働者が賃金を全く得られない
労働者が行う争議行為の中には怠業という行為がある。怠業に参加した労働者は賃金の一部を得られる。ある1日で生産能率を50%に落とす怠業に参加したら、その日の給料は50%にカットされるが、言い換えるとその日の給料の50%を確保できる。
一方でストライキに参加した労働者は、賃金をすべてカットされる。1日のストライキに参加したら、その日の給料が全く支払われない。このことは民法第624条に由来するノーワーク・ノーペイ(no work,no pay 労働が無ければ賃金支払いも無い)の原則によりすべての企業に認められている。
このためストライキは、労働者からの「収入が減るので実行すべきではない」という反発がやや大きい。
スト破りとそれを監視するピケッティング
労働組合に属する労働者の中には「ストライキに参加するとその日時だけ給与が減ってしまうのでストライキに参加したくない」と考える者がいる。そうした者は、ストライキが実行されたときに労働組合を裏切って仕事を続けることがある。これをスト破りという。スト破りを行った労働者に対しては労働組合から除名という処分が下される可能性がある。
使用者は労働組合Aと「労働組合Aを脱退しつつ一定の期間が過ぎたあとにいずれの労働組合にも属しない労働者について、使用者は解雇しなければならない」という労働協約を結んでいることがあり、そうした制度をユニオン・ショップ制という。そうした労働協約があるのなら、労働者は「スト破りをすると労働組合から除名されて使用者から解雇される」という恐怖に襲われるので、スト破りをしなくなる。
スト破りをする労働者が発生しなくなるように、ストを行った労働組合の構成員が職場を見張ることをピケッティング(picketting)とか単にピケという。
様々なストライキ
どれだけ続くかで分類
- 無期限スト
- 時間を区切らず「我々の要求を受け入れないのなら永遠に続ける」と宣告して行うストライキ。
- 時限スト
- 時間を区切って行うストライキ。使用者に対する威迫感が弱いが、それでも、使用者の収益を削減して使用者を動揺させる効果がある。
- 波状スト
- 時限ストを断続的に行うストライキ。無期限ストと時限ストの中間に位置する。
- 一斉休暇闘争
- 労働組合に属する労働者が示し合わせて一斉に同じ日に年次有給休暇取得権を行使すること。時限ストという争議行為になることもあるし、組合活動になることもある。詳しくは当該記事を参照のこと。
- 時間外労働拒否闘争
- 労働組合に属する労働者が示し合わせて一斉に同じ日に残業や休日労働を拒否すること。時限ストという争議行為になることもあるし、組合活動になることもある。詳しくは当該記事を参照のこと。
労働組合の構成員がどれだけ参加するかで分類
- 全部スト
- 労働組合の構成員の全員が参加するストライキ。
- 部分スト(一部スト)
- 労働組合の構成員の一部分だけが参加するストライキ。たとえば、A社にBという労働組合があるとして、工場部門の労働者だけがストライキに入ってそれ以外の部門の労働者がストに入らないのなら、それは部分スト(一部スト)と呼ばれる。
部分スト(一部スト)で企業の生産が決定的に停滞したら、ストライキに参加せず職場で仕事をして賃金請求権を持つはずの労働者にも賃金が支払われないことがあり、裁判所がそうした賃金不払いを認めた例がある。たとえばノースウエスト航空事件である。この場合は部分スト(一部スト)なのに全部ストと同じ結果になる。 - 指名スト
- 労働組合指導部の指示により、一部の者(主に操業の核となる人物)のみがストライキをすること。部分スト(一部スト)の一形態である。指名ストをやらされた者は、使用者からの給与を受け取れなくなるが、その給与の分だけ労働組合から補償金が支払われるのが恒例である。労働組合が支払う補償金は組合員から毎月集める組合費を財源とする。
- 山猫スト
- 労働組合の構成員の一部が労働組合指導部の承認を得ずに行うストライキ。Wildcat Strikeを直訳した語である。山猫とは山野に住む野良猫のことをいう。
世の中には御用組合と呼ばれるような労働組合がある。御用組合とは、常に経営者寄りであって窮状に陥った労働者を助けようとしない労働組合である。そうした労働組合に所属する労働者は山猫ストをする可能性がある。
仮に山猫ストを正当なストライキと認めるのなら、山猫ストは部分スト(一部スト)の一形態になる。ただし、山猫ストは正当なストライキと認めない判例が多い。山猫ストは労働組合の内部統制権を侵害しつつ行うものであり、労働組合指導部の権利を侵害しつつ行うものである。また山猫ストは、使用者にとって団体交渉の相手を見出すことができず、使用者の交渉権を侵害しつつ行うものである。ゆえに山猫ストは他者加害原理に従い不当な行為と見なすことができる。
複数の労働組合が連動して行うストライキ
- ゼネラル・ストライキ(ゼネスト)
- 総同盟罷業ともいう。2つの定義があり、「一定の地域におけるすべての産業のすべての企業を巻き込んだストライキ」という定義と「一定の地域における一定の産業の多くの企業を巻きこんだストライキ」という定義がある。前者の定義に該当するものは外国で多く見られ、発生したときに地域が閑散とする。後者の定義に該当するのは日本の1975年11月28日の日本で発生した。国鉄の労働組合のスト権ストに合わせて私鉄の労働組合や東京都交通局の労働組合がストライキに突入し、「交通ゼネスト」と呼ばれる状態となった。
ちなみに日本は企業別に労働組合が作られることが多く、欧州では産業別に巨大な労働組合が作られることが多い。このため日本は比較的にゼネラル・ストライキが発生しにくい。
不当な争議行為とされるストライキ
- 政治スト
- 法律の制定・改正や外交政策の転換を求めるといったような政治的要求を突きつけるために起こされるストライキ。使用者に対して要求を突きつけるのではなく、立法府や行政府に対して要求を突きつけている。このため政治ストは不当な争議行為であるという見解がある。
政治ストは純粋政治スト(労働者の地位向上にほとんど関係がない政治的要求のスト。安保闘争ストなど)と経済的政治スト(労働者の地位向上に関係がある政治要求のスト。最低賃金法改正ストなど)に分けられる。
「すべての政治ストが不当な争議行為になる」とする全面違法説が判例となっている[1]。しかし、憲法学者の間では、全農林警職法事件の最高裁判決[2]を引用して、「純粋政治ストは不当な争議行為だが経済的政治ストは正当な争議行為である」という政治スト二分説を支持する者がいる[3]。 - 同情スト(支援スト)
- 他の労働組合を支援するために起こされるストライキ。労働組合Aがその使用者A’に対してストライキを起こしたとき、労働組合Aに同情した労働組合Bが「使用者A’が労働組合Aの要求を受け入れるまでストを続ける」と宣告してストライキを起こし、労働組合Bの使用者B’が「我々はとばっちりを受けている」と困惑することがある。このとき、労働組合Bのストライキは同情ストとか支援ストと呼ばれる。
同情ストは日本国憲法第28条の保護を受けず正当な争議行為ではないという判例がある[4]。 - 抜き打ちスト
- 使用者に実行日時を予告せず抜き打ちで行うストライキ。労働関係調整法第8条の公益事業(運輸、郵便、電気通信、水道、電気、ガス、医療、公衆衛生、その他に国会の承認を得て内閣総理大臣が1年限りで指定した事業)に関する労働組合は、ストライキの10日前までに使用者に対して予告しなければならないのだが(労働関係調整法第37条)、それを無視して抜き打ちストを行ったら不当な争議行為になる。それ以外の事業に関する労働組合が抜き打ちストを行ったら、使用者に対する誠意が見られず、労働関係調整法第2条の「労働争議が発生したときは、誠意をもつて自主的にこれを解決するやうに、特に努力しなければならない」に反するので、不当な争議行為になる可能性がある。
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Wikipedia記事
関連項目
- 現業
- 非現業
- 財政民主主義
- 2004年日本プロ野球再編問題(典型的なストライキとなった)
- ハンガー・ストライキ(争議行為ではなく示威行為の1つ)
- 活動家
- 安保闘争
脚注
- *全逓東京中郵事件や全農林警職法事件などで、政治ストが日本国憲法第28条の保護を受けないことが判示されている。
- *昭和48年4月25日の最高裁大法廷判決の一部分は次の通りである。「なお、私企業の労働者たると、公務員を含むその他の勤労者たるとを問わず、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係があるとはいえない警職法の改正に対する反対のような政治的目的のために争議行為を行なうがごときは、もともと憲法二八条の保障とは無関係なものというべきである。」
- *『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』379ページ
- *杵島炭鉱事件に関する東京地方裁判所判決
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- ページ番号: 5377275
- リビジョン番号: 3145231
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