ストローマン論法(Strawman argument)とは、相手の主張のうち、内容とは直接関係ない部分に反論する一種の詭弁である。
概要
ストローマンとは英語で案山子のような「人間のフリをさせるための等身大藁人形」を指す。ストローマン論法とは、相手の主張を取り違えたり歪曲したりして出来上がった脆弱な主張をストローマン(相手の代理)として打倒し、そのことによって相手の主張を論破したことにしようとする論点すり替えによる詭弁である。ストロー(藁)マンを直訳して藁人形論法(わら人形論法)とも呼ぶし、相手の代わりに藁人形を攻撃するという点は日本の呪いの藁人形とそっくりだが、直接の関係はない。
蛇足だが、議論に喩え話を用いると高率にストローマン論法の被害にあう気がする(編集者談)。
例
一休さんが、桔梗屋さんのところに行こうとすると、いつも渡っている橋の前に立て札があり、
「このはしわたるべからず」
と書かれていました。これを読んだ一休さんはしばらく考えましたが、堂々と橋の真ん中を渡ることにしました。渡り終えた時、橋の向こうで様子をうかがっていた桔梗屋さんは尋ねました。
桔梗屋 「どうして橋を渡ってきたのですか? この橋渡るべからずという立て札が読めなかったのですか?」
一休さん 「この端渡るべからずと書いてある立て札なら読みましたよ。ですから端ではなく真ん中を渡ってきたのです。」
一休さん「このはしわたるべからず」から要約
おわかりいただけただろうか? 一休さんは、桔梗屋さんが「この橋渡るべからず」という意味で立てた立て札を、ひらがなで書かれていたのをいいことに、 「この端渡るべからず」と解釈して堂々と渡りきってしまったのである。
この場合、桔梗屋さんは一休さんに意地悪してとんちを試すために立て札を立てており、一休さんにもそれがわかっていたのでネタで済んでいるが、無理難題を詭弁で解決した例であると言える。
応用編
ストローマン論法というのは、相手の主張を歪めることによりストローマンを作り出すことになっているが、実際には相手の主張が既に歪んでいる場合もある。
この場合も、相手方に本来の主張が存在するにもかかわらず、あえて歪んでいる部分を相手のメインの主張ということにしているため(もちろん歪んだ主張をした当人にも非はあるが)、一種のストローマン論法ということができる。
「Aは」Bの主張を歪めていないのでストローマン論法ではないというのも、この種のストローマン論法に該当すると思われる。
応用例
下記の例は説明のために意図的に歪曲された主張を用いている。実在の人物・団体がしている主張等とは関係ない。
B「今後、放射能による人体への影響はないのか?」
A「直ちに影響はない」
B「それは将来的に影響があるってことだぞ!」
A 「直ちに影響はないからといって、必ずしも直ちにでない将来について影響があるということにはなりません。それは前件否定という詭弁になります。」
確かにAの前件否定に対する指摘はあっている。「直ちに影響はない」だけからでは「将来的に影響がある」という結論は引き出せないので、Bの主張は誤りである。
しかし、Bが本当に指摘したかったのは「将来的に影響がある」ということではなく、Aが「今後の影響」に含まれているべき「将来的影響」について答えていない点である[1]。
Aは結局Bの誤りにつけこんで、Bの前件否定の詭弁の話に論点をずらし、「将来的影響」について回答を免れている。
見分け方
ストローマン論法を客観的に見分ける方法はある。ストローマン論法による指摘は、指摘された点を修正しても、なお有効な主張が残るのである。
上記の一休さんの例では漢字で「この橋渡るべからず」と書いていれば、一休さんは真ん中を渡る方法は使えなかった。
また応用編のABのやりとりでいえば、Bが「それで、将来的な影響についてはどうなんだ!」と問い直せば、Aが将来的影響について答えなかったという点を追及することはできる。もっとも、ストローマン論法まで持ちだして将来的影響について答えようとしないAと、論理的冷静さを欠いて前件否定の詭弁に走ってしまうBの間に今後対話が成立するのかという深刻な問題はあるが、それはまた別の話である。
関連項目
コラム: 逆ストローマン論法のすすめ
ストローマン論法は相手の主張をつじつまが合わないように解釈することであるが、ここではあえて相手の主張をつじつまが合うように解釈する逆ストローマン論法(造語)を薦めてみたい。
つまり、対立する相手の主張が「どのような前提を用意すれば正しくなるか」を考えるのである。その相手の主張に必要な前提こそが、真に相手と議論すべき議題なのである。
もっとも、価値観の異なる相手の思考は予想の斜め上を行くことも珍しくないので、決めつけずに「〜を前提としているのですか」と確認をとってから話を進めたほうがよい。
関連項目
脚注
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