スリップストリーム(MotoGP)とは、走行するライダーの直後に発生する気流の乱れのことである。
先行ライダーの背後に入って車速を伸ばす技術のことは「スリップストリームを使う」と表現される。
スリップストリームの効果
スリップストリームを使うと先行ライダーに吸い込まれるようになり、後ろから押される感じになる。
エンジンの動きも軽くなり、単独で走るときよりもエンジン回転数がより高く上がる。
より少ないエンジンパワーでより速く走ることができる。
非力なエンジンパワーに悩むライダーにとっては、スリップストリームこそが最大の武器になる。
スリップストリームを使うとマシンが加速しやすくなるので燃費が良くなり、ガス欠の危険が減る。
MotoGPの最大排気量クラスではガス欠の危険が高まると自動的に電子制御が働き、エンジンの出力を
勝手に下げてしまって、マシンが走らなくなる。
スリップストリームを適度に使っていれば、電子制御が勝手に作動するような事態を確実に避けられる。
スリップストリームとマシンセッティング
スリップストリームを使ったときにエンジン回転数がどうなるか記憶するのがライダーの仕事である。
スリップストリームを使ったときに加速する車体にするのなら、その高めの回転数を基準にして
マシンセッティングをする。
レース中に後続をぶっちぎるペースで単独走行する自信があるライダーは、
当然ながらスリップストリームを使えないのでエンジン回転数が比較的に低めになることが予想される。
低めの回転数に合わせてマシンセッティングすることになる。
「スリップストリームを使って伸びる」のと「スリップストリームを使わずに伸びる」のは両立しない。
高速コーナーで最もスリップストリームが効く
スリップストリームが最も強く効く場所は、高速コーナーである。
直線では各ライダーがカウルの中に伏せる。体を縮めて頭も腕も肩もカウルの中に入れる。
このため空気抵抗が最小限で済み、作り出す気流の乱れも比較的に小さめになる。
ところがコーナーリングの最中はどうしても頭や腕や肩をカウルの外に出す。
このため先行ライダーの空気抵抗が大きくなり、作り出す気流の乱れも大きくなる。
スリップストリームが非常に強く効くようになる。
3速から4速の高速ギアでアクセルを開けまくって走る高速コーナーが連続する区間になると、
スリップストリームがバリバリに効くことになる。これが該当するようなサーキットを列挙すると
ロサイル・インターナショナルサーキット(後半の高速レイアウト)
ヘレスサーキット(3~4コーナー、11~12コーナー)
TTサーキット・アッセン(公道の名残が残る後半区間)
ミサノサーキット(10コーナーを立ち上がってからの超高速コーナー3連発)
フィリップアイランドサーキット(6コーナー立ち上がってからの高速区間)
あたりとなるだろう。他にも中高速コーナーが続く場所はいくつかあるが、特に目立つのがこれらである。
スリップストリームのデメリット
良いことずくめのように見えるスリップストリームにも、デメリットがある。
スリップストリームを使いすぎるとマシンに風が当たらなくなり、
エンジンを冷却するラジエーターの水温が下がってくれず、エンジンが過熱してしまう。
アクセルを回しても車速が伸びなくなり、しまいにはエンジンが故障してしまう。
スリップストリームを使いすぎるとマシンに風が当たらなくなり、
ブレーキディスクが熱くなりすぎて、ブレーキの効きが悪くなる。
ブレーキレバーを強く握ってもガチッと減速せず、ブレーキレバーがスカスカの空回り状態になる。
このように、スリップストリームを使いすぎるとエンジンとブレーキの両方が過熱してしまう。
それゆえわざと先行のライダーの後ろから外れたラインを通り、スリップストリームをあえて使わず、
マシンを冷やす走りをすることがある。
関連項目
- ムジェロサーキット(スリップストリームは近すぎても効きにくいことを解説)
- セパン・インターナショナルサーキット(スリップストリームを使われるのを避ける方法を解説)
- バレンシアサーキット(サイドスリップを解説)
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