概要
飛行機やロケットの胴体のような「大きいけど軽いもの」を空輸するために開発された飛行機。
C-97輸送機「ストラトフレイター」をエアロスペース社が魔改造した機体であり、形式上ではC-97の民間機型であるボーイング377「ストラトクルーザー」の改造機として登録されている。
実はこいつのベースとなったC-97は元をたどればあのB-29を元にした輸送機という。あのスリムで敵ながら中々カッコイイB-29がどうしてこうなった。
一応これでも「プレグナントグッピー」という前作があり、そいつよりもでかいので「スーパーなプレグナントグッピー」という意味でスーパーグッピーと命名された。
「正体」はレシプロ式の飛行機であるB-29であるが、エンジンはターボプロップに換装されており中々足は速いらしい。
航空評論家・佐貫亦男氏はこの機体を「世界で最も醜い極限を示した飛行機」と評したとか。
遍歴
何故そもそもスーパーグッピーが生み出されたのかというと、米ソ宇宙開発競争華やかな1960年代、NASAでは宇宙ロケットやその部品輸送に「プレグナントグッピー」を使用していた。
だが「プレグナントグッピー」の輸送重量ではまだまだ輸送力が足りず、当時進行していたアポロ計画の遅延に繋がると恐れたNASAが「プレグナントグッピー」に更に貨物室の拡張とエンジン強化を施した機体をエアロスペース社に発注。その結果産まれたのがこの「スーパーグッピー」である。
「プレグナントグッピー」は原型機同様のレシプロエンジンだったが、「スーパーグッピー」はエンジンをターボプロップに換装し速力と最大離陸重量が増加させ、貨物室の拡大も併せて、より高速かつ効率的にロケットやその部品の輸送を行えるようにしようとしたのだ。
最初に試験的に改造されたのはC-97の中でも、アメリカ空軍が試験的にエンジンをレシプロエンジンからターボプロップエンジンに換装した実験機YC-97Jのうちの1機をドナーとしたボーイング377SG型で、1965年に初飛行。
後に量産機である「スーパーグッピー・タービン(ボーイング377SGT)」が「プレグナントグッピー」やボーイング377をドナーとして2機改造された。
SG型とSGT型の大きな違いはエンジンとプロペラで、SG型はYC-97J時代からのプラット&ホイットニーT34-P7ターボプロップエンジンと3枚羽根のプロペラを、SGT型ではより進歩したアリソン501-D22Cターボプロップエンジンと4枚羽根のプロペラを採用している。
試作1機・量産2機の計3機の「スーパーグッピー」は多数のサターンロケットの部品を輸送し、アポロ計画という人類史に残る偉業を影から支えた。
ところが1970年代に入ってアポロ計画が一段落つき、アメリカの宇宙開発が縮小しはじめると「スーパーグッピー」もまた職場を失うことになったのである。
一挙に行き場を失ったグッピーたちであったが、捨てる神があれば意外なところから拾う神も現れる。
欧州の新興国際航空機製造会社のエアバス社が、「スーパーグッピー」を欲しいと言い出してきたのだ。
エアバス社は欧州の複数の航空機製造メーカーの共同出資で運営されている会社で、飛行機の製造も欧州各国の製造拠点で製造された部品をフランスのトゥールーズ工場で組み立てて完成させるという仕組みであった。
そのため航空機の部品や部材などを欧州各地の製造拠点からトゥールーズ工場まで運搬する手段として、もともとロケットや航空機部品運搬のために改造された「スーパーグッピー」に目をつけたのである。
かくて1971年にSGT型の「スーパーグッピー」2機がフランスに渡り、エアバス社の航空機部品・部材輸送用として働くこととなったのである。
エアバス社の旅客機の部品を商業上のライバルであるボーイング社製の「スーパーグッピー」が運搬していたことを揶揄して「全てのエアバス機はボーイングの翼によって届けられた」という一文も生まれている。
後に機体の製造数が増加したことなどを請けて、1979年に3機目、1980年に4機目のSGTが新規に改造・増備されている。
だが1980年代にも入ってくるといよいよ「スーパーグッピー」も陳腐化や老朽化が隠せなくなり、特に最初に購入した2機は経年化していた機体だったこともあり、エアバス社もいよいよ「スーパーグッピー」の代替機を計画。1994年に自社のA300旅客機をベースとした大型輸送機エアバス・ベルーガを就役させて、「スーパーグッピー」を代替したのであった。
今度こそ働く場を失った「スーパーグッピー」であったが、エアバス社としても思い出深い機体であったグッピーはそのうち3機がそれぞれエアバス社の工場敷地で保存されたのであった。
老朽化が激しくなったのはNASAに残存して宇宙開発用部品の輸送に携わっていた試作機のSG型も同様であり、NASAとしても代替機が欲しかったところだった。
そこで目をつけたのがまだ改造してから日の浅かったSGT4号機であり、NASAは1997年にエアバスからSGT4号機を購入して、SG型と入れ替えるように就役させたのである。
引退したSG型はアリゾナ州のデヴィスモンサン空軍基地(通称「飛行機の墓場」と呼ばれるアメリカ軍の飛行機保管所)に併設する博物館へと送られ、そこで保存されることとなった。
SGT4号機はNASAに渡った後は国際宇宙ステーション(ISS)の部品運搬などアメリカや世界の宇宙開発を影から支え続け、今も空を飛んでいる。
そしてNASAは今後も「スーパーグッピー」を使用し続けるとの声明を出している。
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関連項目
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