セイバーメトリクスとは、野球においてデータを統計学的に分析し、その選手の評価などを考える手法である。
概要
名称はアメリカ野球学会の略称であるSABR(Society for American Baseball Research)と測定基準(metrics)を組み合わせた造語から来ている。間違っても「セイバー」はFate/Zeroなどに出てくるキャラクターや戦闘機などではない。
1970年代後半のアメリカで、当時食品工場の夜間警備員をしていたビル・ジェームズによって提唱された。当初は主にローティッセリー野球ゲーム(仮想のチームを作って遊ぶシミュレーションゲーム)の愛好家の間で持て囃されたものの、肝心のMLB球団は全く見向きもしなかった。
状況が変化したのは90年代後半で、オークランド・アスレチックスのGMとなったサンディ・アルダーソン(弁護士出身でプロ野球は未経験)がジェームズの理論を下に球団運営を進め、アンダーソンの後任となったビリー・ビーンが受け継ぎ、セイバーメトリクスに基づいて低予算でプレーオフに進出できるチームを作り上げた。この変革を聞きつけたボストン・レッドソックスが同様の手法で球団編成を進め、2004年には"バンビーノの呪い"を打ち破って86年ぶりのワールドシリーズチャンピオンとなった。一連の事情はマイケル・ルイスによる著「マネー・ボール」にまとめられ、セイバーメトリクスが広く知られることになる。
旧来の選手の指標は、選手を正しく評価する指標か?
例えば、「打率」(=ヒットが出る確率)という打撃能力を評価する(と長い間みなされてきた)指標がある。しかしこの指標には「単打と本塁打を等価値と考える」「四球を一切考慮しない」という大きな欠陥がある。シングルヒットよりも本塁打のほうが価値があるのは明白だし、一つの塁を得るという点でシングルヒット並みの価値があるはずの四球を考慮に入れないのは奇妙である。
このように旧来使われてきた指標は、盲目的に選手を評価していると信じられてきた面があり、少なからず大きな欠点を持っている。セイバーメトリクスは旧来の指標の欠点を改め、より詳細により正確に選手を評価できるように統計的な分析を行うものである。
ポスト「マネー・ボール」の時代
「マネー・ボール」が大きく話題となり多くの球団がセイバーメトリクスを球団編成に取り入れるようになると、セイバーによって評価された指標が優秀な選手の市場価値が上昇し、選手を獲得する資金が限られる貧乏球団は戦略変更を迫られることになった。これらの球団は単に統計分析を行うだけではなく、スカウティングに注力することによってより市場から見落とされている選手の発掘に努めるようになり、以前は軽視していた守備力・走塁力・リリーフ投手などを評価する方向に変化している。
2000年代後半以降は映像解析による守備を評価する技術が向上し、高い守備能力を持つ選手は高い打撃力を有する選手並みの貢献度を有していると評価されるようになってきた。PITCHf/xやスタットキャストによって選手のプレーの一つ一つが数値化される時代となった。「マネー・ボール」が発行された時代には旧来の指標を改良させることによって選手を評価していたが、"ポスト「マネー・ボール」"の時代では、従前の選手記録の取り方から解き放たれた数値的評価が選手の能力を測る手段として使われるようになっていくかもしれない。
関連項目
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