その秋、黒鹿毛の大器は、王道を制覇した。
天皇賞・秋、ジャパンカップ、有馬記念。
すべてに参戦することさえも困難で過酷な、古馬中長距離3冠。
王道の覇者、ゼンノロブロイ。その揺らぎ無き強さは、伝説の英雄の名にふさわしい。
ゼンノロブロイ(Zenno Rob Roy、香港表記:荒漠英雄)とは、2000年生まれの日本の競走馬、種牡馬である。馬名の由来は冠名+18世紀のスコットランドの英雄ロブ・ロイ(ロバート・ロイ・マグレガー)から。
2004年に史上2頭目の秋古馬三冠を成し遂げ、2024年現在の有馬記念のレースレコードホルダーでもある名馬……なのだが、前後の世代のスターホースたちと比較するとやや影が薄い印象が否めない名馬でもある。
主な勝ち鞍
2003年:青葉賞(GII)、神戸新聞杯(GII)
2004年:天皇賞(秋)(GI)、ジャパンカップ(GI)、有馬記念(GI)
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するキャラクターについては 「ゼンノロブロイ(ウマ娘)」を参照してください。 |
概要
父は言わずと知れた大種牡馬サンデーサイレンス、母はアメリカのGⅠ馬で、母としてもアメリカでGⅠ2着に2回入ったDarling My Darlingを生んだローミンレイチェルというそれなりの良血。デビュー前から期待を集め、セレクトセールでは9000万円で「ゼンノ」の冠名で知られる大迫忍氏に落札された。
デビュー~3歳 ~一歩足りない素質馬~
2歳になり、当時無敵のトップトレーナーだった藤沢和雄調教師に預託されたが、体が弱かったために調整が遅れ、デビューは3歳の2月までずれ込む。デビュー戦で鞍上に迎えられた横山典弘はその素質を見込んで「ムチを使わずに勝つ」と宣言。出遅れて結局ムチは使ったが、後方から直線で上がり最速の末脚を繰り出し勝利する。骨膜炎で強い調教を施せない状態だったが、次走は格上挑戦でオープンのすみれSに挑む。しかし後に重賞3勝を挙げるリンカーンの前に3着と敗れる。自己条件に戻った3戦目は先行して快勝。
陣営はダービー出走をにらみ、次戦にダービートライアルの青葉賞を選択。1番人気に応え、毎日杯を制していたタカラシャーディー以下に快勝。ダービーの切符を手にする。この勝利で横山は「この馬で勝てなきゃダービーは当分勝てないよ」と発言する。「ノリが吹いたら消せ」の法則が発動。藤沢調教師も横山も超一流の成績を残しながらダービーは勝っておらず、是が非でもほしいタイトル。藤沢調教師は前年に大器シンボリクリスエスを送り込みながらタニノギムレットに勝利をさらわれており、そのリベンジでもあった。
迎えたダービー本番。ゼンノロブロイは皐月賞馬ネオユニヴァース、皐月賞2着で再起をかけるサクラプレジデントに次ぐ3番人気に支持される。レースでは先行して必死に粘るが、ネオユニヴァースにかわされ半馬身差の2着。しっかりフラグは回収されてしまった。ともあれ年明けデビューでダービー2着は立派である。(ちなみにその後横山典弘がダービーを勝つまでにはさらに6年を要することになる。そして藤沢調教師がようやくダービーを勝ったのは2017年。ゼンノロブロイの2着から実に14年後のことだった)。
夏は休養して秋のクラシックに挑み、菊花賞トライアルの神戸新聞杯(ケント・デザーモ騎乗)でネオユニヴァースらに完勝。菊花賞(オリビエ・ペリエ騎乗)はネオユニヴァースと差のない2番人気に推されるが4着。有馬記念(柴田善臣騎乗)も同厩のシンボリクリスエスにちぎられすみれSで敗れたリンカーンにも及ばず3着。善戦はするものの大舞台では勝ちきれないレースが続いたままクラシックシーズンを終える。
4歳春 ~善戦はするけれど~
翌年は再び柴田善臣を鞍上に日経賞から始動。圧倒的1番人気に推されたが逃げたウインジェネラーレをクビ差捉えられず2着。相談役ゥ…。次戦の天皇賞(春)はダミアン・オリヴァーを鞍上に迎える。
この年の天皇賞(春)は前年の二冠馬ネオユニヴァース、ネオユニヴァースの三冠を阻んだ菊花賞馬ザッツザプレンティ、前哨戦の阪神大賞典でザッツザプレンティを破ったリンカーンとゼンノロブロイの「4歳4強」という見方が強かった。ゼンノロブロイは4強の中では1番下の4番人気であった。
しかしこのレース、4強がそれぞれ互いを牽制しあった結果、かつての相棒横山典弘が騎乗した伏兵イングランディーレがかました大逃げを誰も捕まえられず逃げ切りを許してしまうのである。ゼンノロブロイは先行策から2着に食い込むが1着とは7馬身差。完敗であった。しかし4強の残り3頭はいずれも2桁着順に沈んでおり、同世代の中では意地を示した。
この後ゼンノロブロイは田中勝春を鞍上に宝塚記念に挑むがタップダンスシチーのレコード激走の前に4着。リンカーン(3着)にもまた先着される。ここまで掲示板は外していないながら、GⅠでは2着2回、3着1回とどうにも勝ちきれないもどかしいレースが続いた。
4歳秋 ~覚醒~
成就への橋
あまりに流れは急だった
ならば石をひとつずつ
積み上げていくとしよう強固な橋が完成したとき
手足のたくましさが
増していることに気づく
秋は京都大賞典(岡部幸雄騎乗)から始動。春の安定感から圧倒的1番人気に支持されるがナリタセンチュリーに差し切られクビ差2着と敗れてしまう。これで前年の菊花賞から6連敗。すっかり善戦マンが板についてしまった。しかしこの後、ゼンノロブロイは突如覚醒する。
天皇賞(秋)は賞金不足で出られない可能性も浮上したが、どうにか出走にこぎつけた。オリビエ・ペリエと菊花賞以来のコンビを組み1番人気に支持されるが、3.4倍とそれほど信頼されてはいなかった。しかしレースでは中団やや後方に控え、直線では上がり最速の末脚が炸裂。ダンスインザムードらを差し切り念願のGⅠ初勝利を挙げる。続くジャパンカップではやや前目の中団から再び上がり最速の末脚を繰り出し、2着のコスモバルクに3馬身差をつけ圧勝する。
そして迎えた有馬記念。単勝オッズは2倍と、もう彼を疑う者はいなかった。最内枠からスタートしたゼンノロブロイ。鞍上のペリエは、ここまで末脚を武器に快進撃を見せたゼンノロブロイを2番手まで押し上げる積極策に出る。緩みないペースで逃げるタップダンスシチーを見るように、ヒシミラクルと並んで追走するゼンノロブロイ。向正面でも馬群はバラけたまま、各馬それほど動かない。
ゼンノロブロイは3コーナーで動いた。追っつけているヒシミラクルを持ったままでかわし、逃げるタップダンスシチーを射程圏内に捉える。4コーナーを回ると、ゼンノロブロイは最内から抜けて残る1頭に襲い掛かる。しかし相手はゼンノロブロイが4着に敗れた宝塚記念で1000m58.5秒のハイペースを3コーナー手前先頭から押し切り、レコードで完勝したタップダンスシチー。並びかけられても必死に粘って譲らない。それでも1完歩ごとにじわりと差を詰めると残り100m余りで競り落とし、最後は半馬身差で優勝。タイムは2分29秒5のコースレコード。この瞬間、ゼンノロブロイはテイエムオペラオー以来2頭目の秋古馬三冠完全制覇を成し遂げた。また鞍上のオリビエ・ペリエと管理する藤沢和雄は史上初の有馬記念3連覇を達成。記録ずくめのグランプリとなった。
秋競馬の活躍が評価され、ゼンノロブロイは年度代表馬に選出される。意外なことにサンデーサイレンス産駒の年度代表馬受賞はこれが初めてであった。スペシャルウィークが鬼の形相でこっちを見ている。勝ちきれない日々を乗り越え、王座に就いたゼンノロブロイ。翌年も現役を続行、怒涛の快進撃を見せる…はずだった。
5歳 ~一瞬の光芒~
4歳秋の激戦の反動か、ゼンノロブロイの復帰は宝塚記念まで待たねばならなかった。半年の休み明けながらタップダンスシチーに次ぐ2番人気に推されたゼンノロブロイは、内から先行馬に取り付いて直線必死に伸びるが、先に外を抜けていたスイープトウショウに追いつけず、渾身の末脚で突っ込んできたハーツクライにもかわされ3着に敗れてしまう。この時すでにディープインパクトが無敗で二冠を制し、絶対王者の誕生と言われていた。ゼンノロブロイが2年をかけて掴んだ王冠は、僅か半年で奪われてしまったのである。
なんとしても王座を奪還したいゼンノロブロイはイギリス遠征を決行。鞍上には武豊を迎えインターナショナルステークスに挑む。2番人気に支持されたが、イギリス特有の重い芝で脚を使えず、後にドバイワールドカップを勝つElectrocutionistにクビ差交わされ2着。
帰国初戦の天皇賞(秋)では横山典弘とのコンビが復活するが伏兵ヘブンリーロマンスに差し切られまたも2着。ジャパンカップは後方から強烈な末脚で追うがアルカセットとハーツクライのレコード決着に追いつけず3着。すっかり元の善戦マンである。
ラストランの有馬記念。ゼンノロブロイは安定感を買われて2番人気だったが、人々の注目は「ディープインパクトがどう勝つのか」という一点に集まっていた。レースはゲートで足を捻ってしまい、中団から進むが直線伸びず8着。初めて掲示板を外す不本意な結果となった。勝ったのはハーツクライ。人々がディープの敗戦とルメールマジックを見つめる中、ひっそりと引退していった。
全盛期が競馬ブーム前夜だったこと、堅実なレース運び故に地味な印象だったこと、直後に稀代の怪物が現れてしまったこと、ブームが来てからは勝てなかったことなど原因はいくつか挙げられるが、不運な時代に生まれたというほかないのだろうか。先差自在で堅実なレースぶり、実力は申し分ないはずなのだが…。
引退後
引退後は社台スタリオンステーションで種牡馬入り。シャトル種牡馬としてオーストラリアでも種付けを行った。初年度産駒からオークス馬サンテミリオンを輩出し、順調な滑り出しを見せた。
その後もコンスタントに重賞級の馬を送り出していたが、なかなか大物には恵まれておらず、ここでもディープインパクトやハーツクライ、ネオユニヴァースに比べると地味な存在になっている。
産駒はサンテミリオンの他にJDD馬マグニフィカ、出遅れ魔ペルーサ、BCターフに挑んだトレイルブレイザーなど。
その後も種牡馬成績は微妙なまま上がらず、2015年にはついに社台SSからも放逐されてしまった。放逐されてからもブリーダーズスタリオンステーションにて引き続き地方競馬の重賞駒を産出していたが、2020年を以てそこからも移動することになった。
その後は村上欽哉牧場で細々と種牡馬を続けつつ余生を過ごしていたが、2022年9月2日早朝、老衰による心臓機能の低下で逝去[1]。享年22歳。
血統表
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Cosmah | Cosmic Bomb | ||
Almahmoud | |||
Wishing Well 1975 鹿毛 |
Understanding | Promised Land | |
Pretty Ways | |||
Mountain Flower | Montparnasse | ||
Edelweiss | |||
*ローミンレイチェル 1990 鹿毛 FNo.2-b |
*マイニング 1984 栗毛 |
Mr. Prospector | Raise a Native |
Gold Digger | |||
I Pass | Buckpasser | ||
Impish | |||
One Smart Lady 1984 鹿毛 |
Clever Trick | Icecapade | |
Kankakee Miss | |||
Pia's Lady | Pia Star | ||
Plucky Roman |
- 前述の半姉Darling My Darlingの産駒に米GⅡサンタイネスSを勝った*フォエヴァーダーリングと米GⅠアルシバイアディーズSを勝ったHeavenly Loveがいる。また前者の産駒でJpnⅠ全日本2歳優駿などを勝っているフォーエバーヤングと後者の産駒で米GⅠブルーグラスSなどを勝っているSierra Leoneが、2024年のケンタッキーダービーでそれぞれ3着・2着に入る活躍を見せている。
- また半姉のストレイキャットは母としてタガノエリザベート・キャットコイン・ワンブレスアウェイ・ロックディスタウンの重賞馬4頭を送り出している。
主な産駒
2007年産
- アニメイトバイオ (牝 母レーゲンボーゲン 母父*フレンチデピュティ)
- コスモネモシン (牝 母*デュプレ 母父Singspiel)
- サンテミリオン (牝 母*モテック 母父*ラストタイクーン)
- トレイルブレイザー (牡 母*リリオ 母父*フォーティナイナー)
- ペルーサ (牡 母アルゼンチンスター 母父Candy Stripes)
- マグニフィカ (牡 母*フサイチエレガンス 母父Rahy)
2008年産
2009年産
2011年産
- アズマシャトル (牡 母ブレッシング 母父マルゼンスキー)
- サングレアル (牝 母ビワハイジ 母父Caerleon)
- バウンスシャッセ (牝 母*リッチダンサー 母父Halling)
- リラヴァティ (牝 母*シンハリーズ 母父Singspiel)
2012年産
2013年産
2015年産
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2003年クラシック世代
- ネオユニヴァース
- シンボリクリスエス
- イングランディーレ
- タップダンスシチー
- スイープトウショウ
- ハーツクライ
- ディープインパクト
- ペルーサ
- エレクトロキューショニスト
- 藤沢和雄 (担当調教師)
- もっと評価されるべき
- 日本総大将
中央競馬の三冠馬 | ||
クラシック三冠 | 牡馬三冠 | セントライト(1941年) | シンザン(1964年) | ミスターシービー(1983年) | シンボリルドルフ(1984年) | ナリタブライアン(1994年) | ディープインパクト(2005年) | オルフェーヴル(2011年) | コントレイル(2020年) |
---|---|---|
牝馬三冠 | 達成馬無し | |
変則三冠 | クリフジ(1943年) | |
中央競馬牝馬三冠 | メジロラモーヌ(1986年) | スティルインラブ(2003年) | アパパネ(2010年) | ジェンティルドンナ(2012年) | アーモンドアイ(2018年) | デアリングタクト(2020年) | リバティアイランド(2023年) |
|
古馬三冠 | 春古馬 | 達成馬無し |
秋古馬 | テイエムオペラオー(2000年) | ゼンノロブロイ(2004年) | |
競馬テンプレート |
脚注
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