― JRA 「ヒーロー列伝」より
タイトルホルダー (英:Titleholder ,香:領銜) とは、2018年生まれの日本の競走馬である。
2021年: 菊花賞(GI), 弥生賞ディープインパクト記念(GII)
2022年: 天皇賞(春)(GI), 宝塚記念(GI), 日経賞(GII)
2023年: 日経賞(GII)
曖昧さ回避
タイトルホルダー Titleholder / 領銜 |
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生年月日 | 2018年2月10日 |
馬種 | サラブレッド |
性・毛色 | 牡・鹿毛 |
生産国 | 日本 |
生産者 | 岡田スタッド (北海道新ひだか町) |
馬主 | 山田弘 |
調教師 | 栗田徹(美浦) |
主戦騎手 | 横山武史(-2021.10) 横山和生(2021.12-) |
馬名意味 | 選手権保持者 (父、母父、二代母父がダービー馬のため) |
抹消日 | 2024年1月5日 |
戦績 | 19戦7勝[7-3-1-8] |
獲得賞金 | 10億6875万1000円 |
受賞歴 | |
競走馬テンプレート |
- 初代タイトルホルダー - 1995年生まれ。父*タイトスポット、母リバルドクイン、母父マルゼンスキーの栃栗毛の牡馬。盛岡競馬所属で8戦2勝。獲得賞金は684.5万円。
- 2代目タイトルホルダー - 2007年生まれ。父スペシャルウィーク、母メインタイトル、母父Rahyの黒鹿毛の牡馬。中央競馬所属で2戦0勝2着1回。獲得賞金は270万円。
また、ばんえい競馬にもかつて同名馬が存在した(1993年生まれ。父マツノコトブキ、母五月宝、母父タカラコマの鹿毛の牡馬。通算66戦7勝2着3回。獲得賞金は358.5万円)。
概要
父ドゥラメンテ、母メーヴェ、母父Motivatorという血統。
父ドゥラメンテはキングカメハメハとアドマイヤグルーヴを両親に持つ超良血で、自身も皐月賞とダービーのクラシック二冠を制した実力馬。種牡馬としても大きな期待が掛けられたが2021年に9歳の若さで早世している。
母メーヴェは英国生まれで日本で競走し中長距離を中心にOPまで出世した馬。ちっちゃすぎる馬ことメロディーレーンは半姉(なおタイトルホルダー自身の馬体は平均的なサイズである)。母父は英国産で無敗で2005年のエプソムダービーを制した名馬。凱旋門賞馬Treveの父としても名高い。
馬名の意味は「選手権保持者」。理由は父、母父、二代母父がダービー馬であるため。
"タイトルホルダー"への道
0歳: 誕生とオーナーとの出会い
2018年2月10日にマツリダゴッホやスマートファルコンなどを輩出した新ひだかの名門、岡田牧雄率いる岡田スタッドにて母メーヴェの二番子として生まれる。
2018年の当歳馬セレクトセールに出品され、山田弘によって2,160万円とドゥラメンテ産駒としてはお安めの価格で落札された(下動画の71:00辺り)。
山田オーナーは過去、本馬の母メーヴェや半姉メロディーレーンを持てなかったことに心残りがあり、メーヴェのドゥラメンテ産駒が気になっていた。過去にドゥラメンテの一口馬主だったこともあり、それが本馬を落札するきっかけになったとのことだが、他のドゥラメンテ産駒が5,000万前後の高額で取引される中、この馬は競合相手が少なく安値での落札に逆に不安になったという。[1]
1歳~2歳春: 熊で鍛えた?才能の片鱗
1歳になると、1区画30町(1町=約1ha)の広大な敷地を誇るえりも分場[2]で1日20時間の昼夜放牧に出される。えりも分場はその名の通り襟裳岬に近く、強風が吹き荒び、鹿や熊といった野生動物も近く出没する、幼駒たちには中々に過酷な環境である。鹿の角で刺されて馬が怪我することも頻繫にあり、2~3割の馬が挫折する同地で、タイトルホルダーは岡田代表から「へっちゃらな顔をしていた。1歳の夜間放牧で、ケロッとしている馬はほとんどいない。その時点で普通の馬ではなかった。」と評されるほどの精神力を発揮し、丈夫な体に育った。一部スポーツ誌ではこの牧場談話を基に、躍動感あるクマの写真を添えた「タイトルホルダー熊で鍛えた」という見出しの捏造記事を一面掲載していた。
1歳秋頃にはノルマンディーファームに移動し馴致と調教を受け始める。岡田代表の息子壮史氏や牧場スタッフに「坂路で追い切りすると止まることなく坂路の頂上のさらに先まで行ってしまった」と言わしめるほどの力強さを発揮する。過去にそこまでの力強さを見せたのはスマートファルコンとマツリダゴッホだけだった。
2歳3月にはビッグレッドファーム明和にて、ビッグレッドファーム・コスモヴュー・岡田スタッド各々から連れて来た馬達で行われた6頭立ての追い比べに参加し、6番目に入線。しかし、勾配のきつい明和の坂路を経験していない馬達は大きく遅れることが多いのだが、タイトルホルダーはそれほど離されずに入線していた。岡田代表は「能力はうちの馬の中では一番」と自信を深め、岡田スタッドのスタッフ達と「この馬で菊花賞を獲るぞ!」と話していたという。[3]
美浦の栗田徹厩舎には2歳の早い時期に入厩したが、芯がまだしっかりしておらずゲート試験合格後に一時放牧。初秋頃に再入厩した。
2歳秋~3歳春: 近くて遠いGI
2歳10月、前向きな気性面を考慮して戸崎圭太を鞍上に中山芝1800mでデビューし逃げ切り勝ち。続く東スポ杯2歳Sはメンコを外して挑み、5番人気にとどまるが積極的な競馬でダノンザキッドに次ぐ2着。
メンコを戻したホープフルSでは番手だったが、4コーナーで目の前のランドオブリバティが逸走し力んでしまい踏ん張りきれず4着に敗戦。2戦続けてダノンザキッドの後塵を拝する。
放牧を挟み明けて3歳春、レース間隔を鑑み前年から改称された皐月賞のトライアルレース、弥生賞ディープインパクト記念に出走。戸崎騎手が海外遠征後の自主隔離期間中だったため、関東の新エース横山武史に乗り替わる。最終追い切り直前に寒暖差が要因と思しき疝痛に見舞われたが、幸いにも軽症で最終追い切りを1日遅らせるだけで済んだ。
レース本番では再び4番人気にとどまったが今度はマイペースの逃げを打ち、そのまま押し切って勝利。重賞初制覇を挙げ、ダノンザキッドに初めて先着。ドゥラメンテ産駒初の重賞馬になるとともにクラシックの切符を手にする。この時点で岡田代表は翌年の天皇賞(春)参戦と凱旋門賞挑戦を考えていたという[4]
皐月賞では武史騎手が人気馬エフフォーリアを選択し、田辺裕信にスイッチ。8番人気と穴馬扱いであったが、2番手掛かり気味に行ってしまい早々に先頭争いに加わる。直線では先行勢が崩れる中で必死に粘り、エフフォーリアにこそ3馬身千切られたが後方から追撃してきた各馬との接戦を制し2着に善戦した。
しかし、日本ダービーでは高速決着についていけず、シャフリヤールの6着に敗戦した。
3歳秋: 亡き父に捧ぐ最後の一冠
秋はセントライト記念で始動。皐月賞馬エフフォーリアが古馬中距離戦線=天皇賞(秋)に舵を切ったため、武史騎手が鞍上に戻る。実績から新馬戦以来の1番人気に推されたが前後左右から馬群に押し込められ前が壁!! 、直線でも進路を失ったまま馬群ごと後退しブービー13着という大惨敗を喫してしまう。
42年ぶりの阪神競馬場開催となった菊花賞は皐月賞馬エフフォーリアもダービー馬シャフリヤールも不在の混戦模様。オッズも割れ、重賞勝ちの実績がありながら前走での惨敗やここ10年の美浦所属勝ち馬はフィエールマンだけとあって、タイトルホルダーは単勝8.0倍の4番人気に留まる。
2枠3番からスタートしたタイトルホルダー。横山武史が気合いをつけて逃げを打ち、1周目の直線で4馬身前後のリードを確保すると序盤の1000mは60秒フラットという緩みないペースを刻んでいく。向こう正面ではややリードがなくなったかに思えたが、それもそのはず。1000m~2000mの間のラップは一気に緩んで65秒4。序盤のリードを最大限活かして息を入れていたのだ。
4コーナーを回ったところで満を持して武史騎手が追い出すと、タイトルホルダーもこれに応えて一気に後続を突き放す。
しかしまだリードは4馬身ある!
タイトルホルダー逃げる!逃げる!
さあ2番手オーソクレース、ステラヴェローチェ、ディヴァインラヴの争い!
しかし
これは一頭桁が違った!タイトルホルダー!
後続各馬に差を詰める余力のある馬はもはやおらず、その後もリードを維持したまま5馬身差の大楽勝。5馬身差以上での菊花賞勝利はグレード制導入後エピファネイア以来5頭目。彼は父ドゥラメンテが骨折で挑めず、姉メロディーレーンが果敢に挑んで敗れた舞台で一族の悲願を果たし、名実共にGIの"タイトルホルダー"となったのであった。
なお祖父キングカメハメハは、タイトルホルダーの勝利で日本調教馬として初めて3頭目のGⅠサイアー(ドゥラメンテ以外はロードカナロア、ルーラーシップ)を輩出したことになる。3代ともクラシック制覇したのは史上初であり、また前走二桁順位からの菊花賞制覇も史上初、二冠馬の産駒が父が獲得できなかった一冠を勝利するのは1959年のコマツヒカリ以来であった。
武史騎手は「この馬は真面目すぎるところが長所であり短所でもあるので、スタッフと一緒に歩んでいけたらと思います」と語った。武史騎手はエフフォーリアの皐月賞に続いてG1・2勝目を飾り、父の横山典弘との親子制覇も成し遂げた。栗田調教師にとっては中央GI初勝利[5]、馬主の山田弘オーナーや生産牧場の岡田スタッドにとっても初のクラシック勝利となった。
菊花賞の逃げ切り勝ちは23年ぶり。その23年前の菊花賞馬こそ、父典弘がペースを完全に支配して逃げ切った1998年の二冠馬セイウンスカイ。そして、その年の12月に生まれたのが三男の武史である。
23年の時を経て、息子が刻んだラップもレース展開も、まさに23年前の父のほぼ完璧な再現。競馬はブラッドスポーツというが、馬だけでなくジョッキーの血も継がれていくことを示すかのように、息子が父さながらの巧みな手綱さばきで菊の舞台を支配してみせた。
菊花賞後は当初年内休養を予定していたが、馬体重増やファン投票で3位となった事を踏まえて11月は放牧で休養を取り、次走は有馬記念へ出走。武史騎手がエフフォーリアを選択したため、後任には今後の継続騎乗と、横山家が持つ体内時計を信頼し、武史の兄・横山和生に白羽の矢が立った。以後、和生騎手はタイトルホルダーの引退まで主戦騎手として固定される。
ライバルは3歳天皇賞(秋)馬となったエフフォーリアの他にも、ラストランを迎える現役最強女王クロノジェネシスや4歳馬からディープボンドやアカイイト、逆襲を狙わんとするステラヴェローチェとアサマノイタズラといった同期も参戦。年末の大一番にふさわしい面々となった。菊花賞の1週間後にオープンクラス入りを果たした姉のメロディーレーンも投票上位10頭に入り、めでたく姉弟対決が決まった。
12月26日、中山競馬場で迎えた本番は戦前から逃げを宣言していたパンサラッサを追う形で進む。4コーナーで捕らえるとそのまま先頭に立つが、有馬としては結構なハイペースからか直線での一伸びが足りず、エフフォーリアらに差されエフフォーリアの5着。しかし、過去勝ち馬の居ない大外枠での出走で掲示板に入ったあたり、菊花賞馬としての実力は確かなものだと示したのであった。
4歳春: 菊花賞の再現、そして日本最強へ
日経賞: 目指すは春の盾
古馬になり、天皇賞(春)を目標に阪神大賞典から始動する予定だったが、有馬記念後に右トモを傷めていたことが発覚。1週間ほど地面に右後脚が着けない程の状態になってしまい、一旦は春競馬の予定が白紙に。岡田代表の脳裏には長期休養や競走馬引退も浮かんだほどの惨状だった[6]。幸いにも回復は早く、1ヶ月経つと問題なく乗れるようになるまで立て直すことに成功。すごいぞタイトルホルダー。
体調や輸送面などを考慮し、ステップレースは日経賞に変更された。稍重発表ながら雨が降りしきる中の発走となった当日、タイトルホルダーは実績差もあり1.6倍の断然人気に支持される。
レースでは外目11番枠からすんなりと先手を取りスタート1000m63秒6というマイペースに持ち込む。背後から追いかけられ続けてはいたが人馬とも至って落ち着いた逃げを展開し、3角で後続各馬が差を詰めにかかっても持ったまま仕掛けどころを待つ。
そして4角で並びかけられたところで和生騎手が満を持して追い出しにかかれば、タイトルホルダーも持ち前の二枚腰を発揮して伸び、突き放せはしないものの先頭を譲らない。最後にはインから迫ってきたボッケリーニをクビ差振り切ってゴール板を通過。
これで日経賞は3年連続横山家が制覇。[7]4歳初戦を勝利し、春天ヘ向けて順調な滑り出しを決めた。
天皇賞(春): 7馬身差の衝撃
その本番の天皇賞(春)、下馬評では阪神大賞典を快勝し実質的に5歳古馬の大将格となったディープボンドとの二強対決に、ダイヤモンドSを勝利した4連勝中の同期のテーオーロイヤルが対抗と目されていた。姉のメロディーレーンも参戦し再び姉弟対決となった。 しかし有馬記念同様に外枠(8枠16番)に割り振られたこと(ディープボンドは大外18番)や菊花賞が混戦を断っての逃げ切り勝ちでどうにもハマり過ぎていた感が拭えなかったこと、1番枠に入ったアイアンバローズがハナを取りに行くのではないかという予想に加えここまでの春GⅠで尽く人気馬が飛んだことでここも荒れるのでは?という不安感、そして調教の様子があまり良くなかったことで、メンバー唯一のGⅠ勝利馬に関わらず、しかもここまで菊花賞馬がいなかった2018年を除き菊花賞馬が6連覇しているレースでありながらGⅠ未勝利のディープボンドよりも低い2番人気と実績の割にやや軽視された扱いを受ける。しかもオッズは6番人気まで10倍台の人気に留まる混戦模様。去年どっかでこんな光景見たような…?
雨の影響もあって稍重の馬場となった当日。ゲートが開いた直後に隣のシルヴァーソニックが出オチスタート直後に落馬する姿を尻目に、ハナに立とうとしたアイアンバローズを大外枠から一気に内に切り込んで抑えると、ハナに立ってグイグイ逃げていくタイトルホルダーと横山和生。
この時の彼は、菊花賞とは正にケタが違った。中盤にリードが無くなってきた姿から菊花賞のように途中でグッと緩めたと思われたが、実際は稍重の芝の中11~12秒台のラップを連発しながら一回だけ13秒台のラップを刻んだのみ。後続は稍重の芝に苦しみ、しかもハイペースで総崩れ。先行勢が競り掛けようにもタイトルホルダーが速すぎて行けば潰れてしまううえ、カラ馬のシルヴァーソニックが邪魔で内に入れない。
それでもディープボンドとテーオーロイヤルが4角から外に持ち出して何とか捕まえに行こうとするも、先頭を取り続けながら菊花賞の再現と言わんばかりに上がり3F最速の36.4秒でどんどん差を突き放していく人馬一組。これではもう後続はどうしようもない。
ディープボンドは3番手! ディープボンドは3番手!
タイトルホルダーが止まらない! 残り200は既に切っている!
菊花賞の再現だ!!タイトルホルダーだ!
タイトルホルダー圧勝!!
ディープボンドは2番手にようやく上がってくる!
テーオーロイヤル3番手!
タイトルホルダー!見事!横山和生!!
あまりに強いので川島アナがゴール前に「圧勝」と断言してしまう始末(本人も叫んだ後に「ここで言ってどうすんだ」と内心焦っていたらしい)。タイムは3:16.2でゴールイン。
シルヴァーソニックがカラ馬のままゴールまで通過するアクシデントがあったとはいえ、荒れる気配とは何だったのか。終わってみれば掲示板は1~5番人気が占めていた。
タイトルホルダーは和生騎手の父、横山典弘のイングランディーレ以来となる7馬身差、グレード制導入後最大着差タイの逃げ切り勝ち、グレード制導入後初の馬番16番での勝利を果たした。本来、天皇賞(春)は内側をロスなく走れる内枠が明確に有利なレースなのは間違いない。しかしそれは京都競馬場での話。阪神競馬場の場合、実は枠の有利不利があまり無いのである。
この勝利で2021年牡馬クラシック勝ち馬の3頭は、日本競馬史上初めて三冠を分け合った三頭とも古馬混合GⅠ制覇を達成する快挙を成し遂げた。
ついでにマーベラスクラウン(兄グランドフロティラ)以来28年ぶりに、同時出走したきょうだい馬の中央GⅠ制覇も成し遂げた。
思えば昔から菊花賞は「最も強い馬が勝つ」と言われるレースであった。にも関わらず、タイトルホルダーは同期の皐月賞馬エフフォーリア、ダービー馬シャフリヤールに比べ、一歩物足りないと思われていたのである。しかし彼は自らの脚で見ている者の度肝を抜き、見事春の盾を掴み取ったのだ。
また、長距離レースにおいて逃げはさほど有利でなく、これまで菊花賞や天皇賞(春)で逃げ切り勝ちした例は僅か数回ほどしかなかった。だが彼の無尽蔵のスタミナから繰り出される走りはそんな酷道を踏破し、史上初めて菊花賞と天皇賞(春)双方で逃げ切り勝ちを収めた。[8]
血統面でも、長距離向きではないと言われるミスタープロスペクター系(ミスプロ系)やキングカメハメハ系(キンカメ系)として初めて天皇賞(春)を勝利しジンクスを破っている。
そして騎手生活10年目に入った和生騎手も、早くに頭角を現した弟・武史騎手と比べられることも多くなりつつあった時、悲願のGI初勝利を叶えたのである。武史が天皇賞(秋)をエフフォーリアで掴み取ったのと同様に祖父・富雄から続く天皇賞(春)三代制覇の快挙であった。さらに同じ馬での兄弟GⅠ勝利は史上初。見事一流ジョッキーの仲間入りを果たしインタビューでも「初めてGⅠを勝てたこともうれしいけど、タイトルホルダーと勝てたことがなによりうれしい」と喜びに溢れた姿を存分に表現していた。ゴール直後にも「っしゃあ!」という彼の喜びの声が中継のマイクに入ったほどである。
馬主の山田氏や生産牧場の岡田スタッドにとっても今回が初の天皇賞制覇。栗田調教師にとっては養父の栗田博憲元調教師の時代も含めて初の天皇賞(春)出走での勝利となった。
宝塚記念: これほどまでに、強いのか。
次走は同じ阪神の宝塚記念に出走。ファン投票では、中間発表から最終結果に至るまで1位をキープし続け、最終的に19万1394票を獲得。オグリキャップが30年以上保持していた歴代最多得票の15万2016票を超え、投票でも逃げ切ってみせた[9]。
彼にとっては距離短縮となった舞台。大阪杯の雪辱に燃えるエフフォーリア、海外で勲章を掴んだドバイターフ馬・パンサラッサとは有馬記念以来の再戦となった。姉のメロディーレーンとも三度の姉弟対決も実現。
引退後の種牡馬生活を考えると中距離GⅠの実績も欲しく[10]、このレースで好成績を納めることができたなら秋の凱旋門賞挑戦も視野に入ってくる、と事前に岡田代表により明かされており、4歳秋や種牡馬入り後も見据えた重要なレースとなった。
ファン投票では1位になったにもかかわらず単勝1番人気はエフフォーリア(3.3倍)に譲り、タイトルホルダーは単勝4.2倍でまたも2番人気。ディープボンド(5.6倍)、長期休養明け2戦目のデアリングタクト(7.3倍)、大阪杯4着のヒシイグアス(9.5倍)までが単勝オッズ一桁台に密集する混戦模様を呈する。しかも一時は一度負かしたプボよりも低い3番人気だった。やっぱりちょっとナメられてない?
とはいえ、こうなった要因がないわけではない。これまで勝ったGIレースは全て長距離であり、中距離では分が悪いと思われていた。さらにパンサラッサなど逃げ・先行馬が多く、今までの先頭に立って逃げ切るレース展開が困難なことに加えてハナを取って逃げなかった時はまだ一度も勝てていないこと、天皇賞(春)と宝塚記念を連勝した馬が10年以上現れていないジンクス、そして今までエフフォーリアに先着したことが一度もないことが不安要素となっていた[11]。
本馬場入りで若干チャカついたが鞍上の父・典弘とキングオブコージの手助けもあって返し馬では落ち着き、3枠6番から抜群のスタートを決めたタイトルホルダー。一気に最内を陣取りこのまま逃げるかと思われたが、大逃げ馬パンサラッサが外からハナは絶対に譲らないとばかりに躍り出てきたので1コーナーで先頭を譲り、タイトルホルダーは単独2番手で進む。人気どころはディープボンドがタイトルホルダーの直後につけ、エフフォーリアとデアリングタクトは中団に控える形。
パンサラッサは例によって猛然と逃げ、スタート1000mのラップタイムはなんと57秒6。宝塚記念としては自爆特攻レベルの超ハイラップを刻んでいく。[12]タイトルホルダー・和生ペアはこれをつかず離れずの絶妙な距離を保ち、3コーナーから背後のディープボンドが追い出すのとは対照的に馬なりでパンサラッサに並びかけていく。
和生騎手が4コーナーに差し掛かり満を持して鞭を抜くと、パンサラッサに並びかけるように直線に突入。これを一瞬で競り落とすとグングンと脚を伸ばし、マークしてきたディープボンドも差してきた各馬も置き去りにしていく。
タイトルホルダーが離していく!
ヒシイグアスが二番手から前を追ってくる!
そしてディープボンドだ!
タイトルホルダーが先頭だ!
ヒシイグアスが前に迫ってくる! 前に迫ってくる!
しかし差が詰まらない!
残り1ハロンで真ん中からヒシイグアスが馬群を抜け出してきたが全く差を縮めさせず、余裕を見せつけての2馬身差で圧勝。3連勝で三つめのGⅠタイトルを獲得したうえ、6着に沈んだエフフォーリアにも初めて先着し現役最強馬の座を奪取した。菊花賞に次いで父が勝てなかったレースを制覇したのも見逃せない。
そして超ハイペースを2番手から押し切った結果、勝ち時計は2分09秒7。アーネストリーが2011年に記録した2分10秒1を11年ぶりに更新する阪神芝2200mのコースレコードを樹立した。ハイペースのレース展開の中、仁川名物のラストの急坂まで無尽蔵のスタミナで押し切って獲得した勝利は、記録にも記憶にも残る強さだったと言えよう。
また、天皇賞(春)と宝塚記念を連勝したのは2006年のディープインパクト以来16年ぶり7回目。和生騎手は天皇賞(春)に続き、祖父・富雄から続く宝塚記念三代制覇を達成した。ちなみに、これまで獲得したGIが全て阪神競馬場開催のため、阪神三冠[13] だとか言われている。
馬主の山田氏、生産者の岡田スタッド、栗田調教師にとっても初めての宝塚記念勝利となっている。
思えば、弥生賞を制し皐月賞では先行勢が総崩れとなる中で二番手から2着と善戦している時点で、別に中距離だと勝てないわけではなく、不安視された番手競馬も精神面の成長と有馬記念以降前に馬を走らせての調教を重ねたことにより克服していた。今回、並居る強豪を押しのけての1着を勝ち取ったことで、さらに成長したその実力を見る者の目に焼き付けたのだ。
レース後、和生騎手は「ゲートをしっかり出して『それでも来るなら来い』というつもりで。ペースが速かったかもしれないけど、リズム良く走れば結果はついてくると思った。僕がひるまないように、馬を信じて乗った。リズムを崩さず、他の馬に苦しくなってもらう競馬をしたかった」とタイトルホルダーへの絶大な信頼を語っている。
最高の結果を残せたことで、陣営は秋のフランスGI凱旋門賞へ直行することを決断。阿吽の呼吸となった和生騎手とのタッグで、次は世界の頂点を狙う。
4歳秋:苦難の季節
凱旋門賞: されど世界の壁は高く
凱旋門賞に参戦する日本馬としてはこれまでにない特徴を持つタイトルホルダー。同じ日本からは「世界一の武豊ファン」こと松島オーナーが自信を持って送り出すドウデュースや、ステゴの血を引く存在・ステイフーリッシュ、そして天皇賞・宝塚記念で対戦したばかりのディープボンドが参戦を表明。2013年のオルフェ・キズナに並ぶ最高の面子が揃ったと話題になった。
一方で欧州の方では凱旋門賞最有力と目されていたDesert Crownが回避を表明。さらに仏ダービー馬のVadeniも回避を表明。Westoverら三歳勢がKGVI&QESで惨敗したこともあり、一部のブックメーカーで1番人気になっていた。なんか10年程前にも似たようなことがあったような……
前述の通り「逃げ」という安定感に欠けると思われていた事もあり人馬揃ってGIの1番人気は未経験。初のGI1番人気が凱旋門賞というとんでもないことになりかけた。しかし、GI5連勝のAlpinistaや、アイリッシュチャンピオンステークス勝ち馬のLuxembourg、昨年の覇者Torquator Tassoなどが参戦。Vadeniも回避を撤回して参戦したため、最終的には4番人気~5番人気に落ち着いた。
タイトルホルダーは厩舎にとって初のGI馬であり、海外挑戦も当然ながら初。欧州にも太いコネを持つドウデュースや海外経験豊富なステイフーリッシュ等の陣営と比べると、不安要素が大きいと言われていた。しかし、輸送が苦手と言われながらも状態を悪くすることなく輸送できたのは、ひとえに陣営の工夫と努力の賜物と言えよう。
迎えた本番、当日のロンシャン競馬場は重馬場に加え、雨が降りしきる昨年以上に厳しい状況での開催となった。タイトルホルダーはスタートから先頭に立ってレースを進めたものの、最後の直線で見せ場なく後ろに沈んでいき11着。持ち前のスタミナでも欧州の重馬場は厳しかったらしい。
日本馬4頭の中では、タイトルホルダーの11着が最先着という大惨敗だったのに対し、勝ったAlpinistaは持ったままの快勝。翌年の日経賞でのレースを見るに、そもそも日本と欧州の競馬はまるで違う世界であることを改めて日本競馬ファンに知らしめたレース内容であった。ついでに、タイトルホルダーの状態を優先して隊列を無視した「先出し」を行った和生騎手が現地ルール違反となり、フランスギャロから5日間の騎乗停止処分を出される苦い一幕もあった。
有馬記念: ファン投票一位選出も…
帰国後、春秋グランプリ制覇を目指し有馬記念へ出走。ファン投票では第一回中間結果から1位を譲らず、昨年のエフフォーリアが更新した記録を更に10万票上回る36万8304票を獲得した。
故障からの復活を目指すエフフォーリア、驚異の末脚で秋の天皇賞を制したイクイノックス、史上初の母娘制覇を狙うジェラルディーナ、芝転向後一気にジャパンカップ戴冠を果たしたヴェラアズールなど、今年も去年と変わらず、冬の頂上決戦にふさわしい面々が揃った。
レースではいつも通り逃げを打ったように見えたが、凱旋門賞での疲労の影響か、宝塚のようなハイペースに持って行けないまま最後の直線を迎え、その後全く伸びず後続馬に次々とかわされ、イクイノックスの9着に敗れた。
春の実績により最優秀4歳以上牡馬には選出されたが、年度代表馬は有馬記念を含む秋古馬G1を二勝したイクイノックスが選出された。この敗戦を受けて再度予定されていた海外遠征プランも白紙に戻ることになった。
5歳春:復活と挫折
2023年はは天皇賞(春)の連覇を目標に、始動戦は大阪杯と日経賞の両睨みだったが、レース間隔等を考え日経賞に決定。また、ドゥラメンテの後継種牡馬が不在であることから、今年もしくは来年をもって引退、種牡馬入りというプランも検討され始めていた。
日経賞: 59kgを背負って、中山でも8馬身差圧勝!
このレースには前年の菊花賞馬アスクビクターモアも出走し、日経賞としては初、G1を除くと2012年阪神大賞典のオルフェーヴル対オウケンブルースリ以来11年ぶりの新旧菊花賞馬対決となった。
内枠2枠2番を引いたが、凱旋門賞11着と有馬記念9着の成績、出走馬中最重量斤量の59kg、前走番手からの逃げ潰しでコースレコードを出したアスクビクターモアに分があると見られたこと、過去10年以内に前年9月以降にJRAのGⅡ以上で掲示板内に入れなかった馬は勝っていなかったこともあり、1番人気をアスクビクターモアに譲り2番人気となった。
雨が降り不良馬場で行われたレースでは、出遅れたアスクビクターモアを尻目にいつも通りハナに立ち、道中ディアスティマに競られながらも、最後の直線でムチが一発入ると、どんどん後続との差が開いていく。
外から追い込んでくるのは6番ボッケリーニ!
3番手争いは内から5番のディアスティマ折り返しを図る!
更には12番のヒートオンビート!
外から追い込んでくる4番のライラック2番手争いに加わる!
ほぼ何もしない状態で最後は軽く流して「59kg何するものぞ」と上がり3F最速の36.8秒を出し、2着ボッケリーニに8馬身差の圧勝。これで1986年以降、JRAのGⅡ以上で2回以上、後続に1秒以上の差で勝利する、ナリタブライアン以来の記録を打ち立て、改めてその実力を示す形になった。
馬番2番での優勝はダンケンジ以来44年ぶり。日経賞を連覇した馬は、日本経済賞時代、奇しくも同じ逃げの戦法で活躍した「白い逃亡者」ホワイトフォンテン以来47年ぶりの快挙となり、現名称になって以降及びグレード制導入後では初の連覇を果たした馬となった。ついでに横山父子4連覇でもある。レース後、和生騎手はタイトルホルダーに駆け寄り「いやー泣きそうだよ」と話すなど嬉しい復活劇となった。
天皇賞(春): 初めての1番人気。しかし。
最高のスタートを切ったタイトルホルダーは、天皇賞(春)で遂にG1での1番人気を獲得。しかも単勝1.7倍という圧倒的な支持を得た。
レースではアフリカンゴールドがハナを主張し、タイトルホルダーは2番手につけた。最初の1000mを59秒7と流れる展開であったが、アフリカンゴールドは失速(のち競走中止)し、ハナを奪う。だが、3コーナーに差し掛かる前に失速し、そのままずるずると下がっていってしまう。淀のスタンドから悲鳴が上がる――!
タイトルホルダーは4コーナーで競走中止。ジャスティンパレスが2着のディープボンドに2馬身半差つけて勝利した一方、アフリカンゴールドは心房細動、タイトルホルダーは右前肢跛行。さらに大差しんがり負けしたトーセンカンビーナは左前浅屈腱不全断裂を発症し、ヒュミドールもレース数日後に左前脚に軽い骨折が発覚。京都競馬場改修後の初G1は、4頭が故障する過酷な結末で幕を下ろした。
その後、精密検査の結果、異常はなく、普段より右半身の筋肉痛が強く出ているとのことで、しっかり休むことに。具体的には、春は全休となった。
5歳秋:不屈の勇将
オールカマー: 復帰初戦
というわけで春全休して次戦はオールカマー。天皇賞(秋)のステップレースであり、強い馬が集うこのレースだが、日経賞での圧勝が評価され、単勝2.5倍の1番人気に支持される。
スタートがきっちり決まり、いつも通り先頭を走る彼だが、ノースブリッジとガイアフォースがしっかりプレッシャーをかけてきていた。更に3コーナーでは早めに仕掛けたハヤヤッコが迫ってくる。彼らはきっちり振り切り、ゼッフィーロやマリアエレーナの追撃も凌いだものの、最後は後ろから来たローシャムパークに差し切られ、なんとか2着を確保した形となった。
ジャパンカップ: 実力馬の意地
復帰後の初GIはジャパンカップに。この時点で岡田代表から「ジャパンカップを勝てばそれで引退。そうでなくても有馬記念まで」と見通しが出た。
秋天で驚異的なレコードを叩き出した当年世界最強馬イクイノックスにダービー馬ドウデュース、昨年の宝塚以来の対戦となるパンサラッサに加え、牝馬二冠のスターズオンアースに牝馬三冠達成したリバティアイランドとのドゥラメンテ産駒3世代の初対決にも注目が集まった。リバティアイランドとイクイノックスが最内枠になる中、菊花賞と同じ2枠3番で出走。4番人気に推される。
パンサラッサが大逃げを決める中、五分のスタートからパンサラッサから離れた番手で追走する。ハナのパンサラッサが57.6と超ハイペースで飛ばすが、タイトルホルダーは60秒辺りのミドルペースでレースを進める。最終直線では速い上がりのイクイノックスやリバティアイランドたちに抜かされるも、前残りのレース展開を生かしてGIでは宝塚以来となる掲示板入りの5着確保。GI3勝馬の意地を見せた。
レース後、栗田調教師も正式に引退予定を発表。次走・有馬記念がラストランになった。
有馬記念: その名は、タイトルホルダー
「世界最強」イクイノックスが引退、リバティアイランドも休養に入ったため人気投票上位2頭は不在。それでもJC3着のスターズオンアースと4着のドウデュース、天皇賞(秋)2着以来のジャスティンパレス、凱旋門賞4着のスルーセブンシーズ、そして3歳勢からは皐月賞馬ソールオリエンスとダービー馬タスティエーラが出走を表明。更に香港ヴァーズを出走取消となったシャフリヤールも急遽参戦し、日本ダービー以来の対戦が実現した。この豪華メンバーの中で、父の想いを受け継ぎ、数々の記録を塗り替えてきた稀代の逃げ馬は、ラストレースをどう飾るのか。
イクイノックスが去り実力の比較が難しくなったことに加え、人気を集めるとみられたスターズオンアースとスルーセブンシーズが揃って不利な8枠に入ったことで、単勝オッズ10倍圏内に7頭がひしめく超混戦模様。タイトルホルダーは6番人気にとどまったがそれでも単勝8.3倍だった。
レース本番。2枠4番からゲートはそこそこに出て、和生騎手は押してハナを主張。積極策を示唆していたアイアンバローズも控えたためきっちり先手を取ることに成功する。和生騎手はリードを広げつつ緩みのないペースを刻み、1000m60秒4と絶好のラップで通過。3,4馬身のリードを保ったまま直線を向く。
直線も力尽きることなく粘ったが、残り100mを切ったところで揃って襲いかかってきたスターズオンアースとドウデュースの末脚に抗しきれず、ゴール板を前に差し切られてしまった。それでも最後まで脚を鈍らせることなく走りきり、1番人気ジャスティンパレスの追撃をアタマ差封じての3着に粘り込み、王者の意地は見せた。
当日の開催終了後、中山競馬場にて引退式が行われた。式には和生・武史兄弟も出席。田辺騎手も少し離れた所からいい笑顔で観ていた。ファンと関係者の温かい言葉を受け、タイトルホルダーはターフに別れを告げたのだった。
3年数か月のちには、子供たちが、このターフを走ります。
きっと、和生ジョッキーも、武史ジョッキーも、
子供たちに、乗ってくれると思います。
(小声で兄弟に)乗るよね? フフフ… 乗ります。(中略)
そして!いつまでも、いつまでも、この馬の名前、忘れないでください!
その名は!タイトル・ホルダー!
長い間応援、ありがとうございました!
走法・性格
タイトルホルダーの魅力の一つとして、歴代の逃げ馬が見せたレースを再現するところが挙げられるだろう。
菊花賞の走りがセイウンスカイの再現となったのは前述の通り。鞍上が親子なのに加え、上がり3Fのタイムやハイ→スロー→ハイで作り出したペースまでほとんど同じとなっている。ラップタイムを比較するとより分かりやすい。
ラップタイム | |||
---|---|---|---|
1000m | 2000m | 3000m | |
セイウンスカイ 鞍上: 横山典弘 |
59.6 | 123.9 | 183.2 |
タイトルホルダー 鞍上: 横山武史 |
60.0 | 125.4 | 184.6 |
天皇賞(春)では稍重の馬場の中、最初から最後まで11秒~12秒のラップを刻み続けるというさらに進化した走りを披露した。横山家の正確な体内時計の為せる技と言えるが、かつて12秒台のラップを刻み続けてダービーを勝利した「精密機械」ことミホノブルボンの走りを想起させる。
12.7 - 11.9 - 11.9 - 12.0 - 12.0 - 11.9 - 12.2 - 12.8 - 13.3 - 12.9 - 12.3 - 12.0 - 11.9 - 11.5 - 11.7 - 13.2
宝塚記念ではパンサラッサが作り出した超ハイペースを番手で追走しつつ、最後は得意の消耗戦に持ち込んで他馬を突き放すという自身にとって理想的な競馬で勝利。
最後の直線でもうひと伸びして他馬に影を踏ませない走りはメジロマックイーンに近いと言われたり、ハイペースで他馬をすり潰しつつ、自分は無尽蔵のスタミナで逃げ切るその姿はメジロパーマーやキタサンブラックに近いと言われたりもしている。ドゥラメンテからキタサンみたいな馬が生まれるとはこれいかに。
おまけにテンが速く、大外枠でも比較的容易にハナを取ることができる。そのため、他馬が本気で潰そうとすると玉砕覚悟で突っ込まなければならない。まさに逃げ馬としては理想的な能力を持っている。
武史騎手はタイトルホルダーの性格について良くも悪くも「真面目すぎる」と評している。実際レースでは手を抜いたりソラを使ったりせず真面目に走ってくれるのだが、前進気勢が強いために前に馬がいると抜こうとして掛かってしまう癖があった。そのため番手での競馬は苦手とし、2022年の宝塚記念までは先頭で逃げたレースでしか勝てていなかった。
しかし、デビュー以来から前に馬を走らせて我慢をさせる調教を重ねてきたことで、番手での競馬もできるようになったという。2022年の宝塚記念における先行策は、まさにその結実であったといえる。
23年春天の故障について
故障の兆候にいち早く気付いたのは、カンテレでの競馬中継で解説担当していた元騎手・安藤勝己であった。番組内で和生騎手がタイトルホルダーを入念にほぐしていた事を指摘し、実際に跛行を発症した際も無理をさせず抑えた事に関しても、鞍上の好判断であると評価すると共に、脚部不安を抱えての出走であったのではとSNS上で指摘している。
同じくパドックリポートを担当していた元騎手・細江純子も「肩回りの硬さがちょっとあったように思うんですが、(去年の)有馬の時よりずっといい」と述べていた。
このような発言から、脚部不安の中で出走させたのではないかと鞍上や陣営を批判する声もある。一方、東スポ解説員の元騎手・田原成貴は安藤氏の指摘に対して、(去年の)有馬の方が返し馬が硬かったとし、出走前検査をパスした上で、危険な状態であれば騎手やスターター、周りの獣医師も出走させないはずであり、悪い状態でスタート直後に強く手綱を動かすことはしないだろうと指摘。誰の原因でもなく、競走中止になったからこその結果論であると発言している。
余談
- タイトルホルダーは人間に対しては大人しいが馬にはきつい性格で、岡田代表曰く「馬に対しては絶対的王者」で「相当な自信家」[14]。放牧地ではボスとして君臨していたようだ。
- 育成時代に坂路を2本、3本走っても鼻腔が開かないほどケロッとしていたらしい。[15]
- 重馬場を得意としており、2022年の天皇賞(春)では稍重ながら上記のラップを刻み、2023年の日経賞ではGⅡとはいえ不良馬場で8馬身差をつけた。この傾向は岡田代表も日本ダービー挑戦前に「「えりも分場」で鍛え上げられて育ち、体幹がしっかりしているので恐らく重(馬場)の鬼」と語っている。[16]
- 半姉メロディーレーンほどではなかったが、タイトルホルダーも小さめに生まれたので、陣営はどうにか体を大きくしようとサプリメントを取り寄せて与えるなど様々な努力をした結果、何とか競走馬の平均体重にまで成長している。
- 本馬は大舞台で世代を超えたリベンジを幾度も果たしている。
- 前述した通り逃げ戦法が不安視されるのか、本馬は2023年の天皇賞(春)まで3年以上国内GIでは1番人気になったことがなかった。しかし2番人気以下だと2021年・2022年有馬記念以外全て人気より上位の着順となっている。(2022年凱旋門賞では国内1番人気・海外3番人気で11着)。2023年の天皇賞(春)ではついに1番人気に推されるも先述の通り競走中止になってしまった。
- 2022年宝塚記念での彼の勝利によって平地GIの1番人気馬は前年のホープフルステークスから13連敗となり、これまでの最長記録(2007年桜花賞:ウオッカ~菊花賞:ロックドゥカンブまでの12連敗)を更新する事態に。終わってみれば春天と宝塚記念でこの馬が1番人気になれなかったのが不思議に思えてくるが、競馬なんてそんなもんである。
- ファンからの主な愛称は「タイホくん」「タイホ」。
- 宝塚記念の優勝記念で作られた法被には宝塚歌劇団に寄せたのか、タキシードに身を包み二本脚で立って決めポーズをするタイトルホルダーの謎イラストが描かれた。
- キレ味のあるドゥラメンテから頑丈なタイトルホルダー、頑丈さが持ち味のキタサンブラックからキレ味のあるイクイノックスという、どちらも親と正反対でライバルの親/子との走法が似ているということもあって間違えやすい。ただドゥラメンテ産駒の活躍馬は豪脚を武器に差して勝つ傾向があり、重厚なスタミナで逃げて圧倒するタイトルホルダーはむしろ異例の存在である。
- そんなタイトルホルダーも父の独特な行進(詳述は父ドゥラメンテの記事)を引き継いでいるようである。
- 現役牡馬としてはとても珍しく写真集が2023年6月21日に発売。半姉メロディーレーンも写真集が出ており、現役の姉弟の競走馬が各自メインで写真集発売されるのは世界初と思われる。
- セレクトセール出身馬として割と安価な落札価格ながら高額賞金を稼ぎ、国内獲得賞金のみで数えると、ディープインパクト、ゼンノロブロイに次ぐ第3位の獲得賞金、回収率ではジャスタウェイに次ぐ第2位[17]に位置している。(獲得賞金10億越えはディープインパクト以来。)
血統表
ドゥラメンテ 2012 鹿毛 |
キングカメハメハ 2001 鹿毛 |
Kingmambo | Mr. Prospector |
Miesque | |||
*マンファス | *ラストタイクーン | ||
Pilot Bird | |||
アドマイヤグルーヴ 2000 鹿毛 |
*サンデーサイレンス | Halo | |
Wishing Well | |||
エアグルーヴ | *トニービン | ||
ダイナカール | |||
*メーヴェ 2008 黒鹿毛 FNo.9-c |
Motivator 2002 鹿毛 |
Montjeu | Sadler's Wells |
Floripedes | |||
Out West | Gone West | ||
Chellingoua | |||
Top Table 1989 鹿毛 |
Shirley Heights | Mill Reef | |
Hardiemma | |||
Lora's Guest | Be My Guest | ||
Lora |
クロス:Mr. Prospector 4×5(9.38%)、Northern Dancer5×5(6.25%)
姉 の記事でも語られているが、母父Sadler's Wells系(その中でも特にスタミナ色の濃いMontjeu系)、母母父Mill Reef系、高祖母の牝系子孫にいずれも2010年代の欧州10~12F路線で活躍したCracksmanやGolden Hornがいるという非常に重厚な母の血統が彼のスタミナを裏付けていると考えられる。
9代母は「Flying Filly」ことMumtaz Mahal。
関連動画
関連静画
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関連リンク
関連項目
- 競馬
- 競走馬の一覧
- 2021年クラシック世代
- ドゥラメンテ(父。タイトルホルダーは彼が果たせなかった菊花賞・宝塚記念を制覇した)
- メーヴェ(競走馬)(母。オープン馬で受胎率が低いなれどタイトルホルダーたち2頭のオープン馬を送り出した)
- メロディーレーン (ちっちゃすぎることで有名な半姉。古馬混合GIで何度も対決している)
- 歴代騎手
タイトルホルダーの記録に関連する競走馬
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脚注
- *【第2回】タイトルホルダーとの出会い | 山田弘オーナーインタビュー|キャプテン渡辺のウィナーズサークル | 一般社団法人中山馬主協会
- *小っちゃすぎる馬こと半姉メロディーレーンや三冠牝馬デアリングタクトも同牧場出身
- *netkeiba 今週のface "「この馬で菊花賞を獲るぞ!」 幼駒時から素質の片鱗がうかがえたタイトルホルダー"
- *その為か本来春のクラシックに出る予定はなく弥生賞の勝利は想定外であったという。同じく日本ダービーにも出る予定は無かった。
- *JpnIを含めた場合アルクトスが20年にマイルチャンピオンシップ南部杯を制しているため。
- *【宝塚記念2022】タイトルホルダー&デアリングタクト出走の岡田牧雄代表が唸った!直前独占インタビュー!【競馬 予想】 - やーしゅん馬体予想 YouTubeより
- *2020年に父の横山典弘がミッキースワローで、翌年には弟の横山武史がウインマリリンで優勝している。
- *長距離時代の天皇賞(秋)も入れれば1955年に菊花賞と3200m時代の天皇賞(秋)で逃げ切り勝ちしたダイナナホウシユウがいる。
- *オグリキャップの時とは異なりインターネット投票が始まったことが記録更新に繋がったとされる。当時のオグリブームの凄まじさがわかる一幕とも。
- *長距離GⅠのみの勝ち鞍だと種牡馬としては人気を集めにくい傾向がある。王道GIに2000~2400mのレースが多く、長距離をこなせるスタミナよりスピードを求められることが多いのも一因。
- *岡田氏は中距離では未だにエフフォーリアの方が強いと見ていた。
- *あのサイレンススズカさえ宝塚記念では58秒6である。
- *阪神競馬場で開催される菊花賞・天皇賞(春)・宝塚記念を連勝して得られる称号。本来、菊花賞と天皇賞(春)は京都競馬場開催のため、京都競馬場が改修工事中の時期しか獲得できないとてもレアな称号である。ちなみにビワハヤヒデは菊花賞が京都だったが、阪神の天皇賞(春)と宝塚記念を勝ち阪神二冠を達成している。
- *重賞制覇レポート『タイトルホルダー』岡田スタッド 編(宝塚記念) Pacallaより引用
- *優駿 2022年8月号P24より
- *タイトルホルダーは重の鬼 ぬかるんだ馬場でもブレずに走る/ダービー 日刊スポーツ 2021年5月28日 より
- *ジャスタウェイは回収率4964.1% セレクトセール歴代の活躍馬に迫る - SPAIA競馬 より
親記事
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- なし
兄弟記事
- ソダシ
- リフレイム
- ダノンザキッド
- メイケイエール
- エフフォーリア
- ユーバーレーベン
- シャフリヤール
- ピクシーナイト
- ファインルージュ
- ステラヴェローチェ
- ソングライン
- ジャックドール
- フライトライン
- バーイード
- アリーヴォ
- シャマル(競走馬)
- EST(競馬)
- テーオーロイヤル
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- カリフォルニアスパングル
- レモンポップ
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- イグナイター(競走馬)
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