タクロリムス単語

タクロリムス
4.3千文字の記事
  • 1
  • 0pt
掲示板へ
医学記事 ニコニコ大百科:医学記事
※ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。

タクロリムス(Tacrolimus)とは、免疫抑制である。先発医薬品名はプログラフ®アステラス)、グラセプター®アステラス)、リムス®点眼液(千寿製)、プロピック®軟膏(マルホ)。

概要

有機化合物
タクロリムス
タクロリムス
基本情報
英名 Tacrolimus
略称 TAC
化学 C44H69NO12
分子量 804.02
化合物テンプレート

タクロリムスは、臓器移植移植に伴う拒絶反応の抑制、重症症、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎アトピー性皮膚炎の治療などに用いられる免疫抑制(カルシニューリン)である。茨城県つくば市筑波山の土壌から分離されたストレプトマセス属の放線菌Streptomyces tsukubaensisが産生する。波(Tsukuba)に由来するマクロライド系免疫抑制(Macrolide immunosuppressant)であることから、タクロリムス(Tacrolimus)と命名された。

1984年藤沢品工業株式会社現在アステラス株式会社)によって発見された。1993年、肝移植における拒絶反応を抑制する免疫抑制としてプログラフ®カプセルおよび注射液が承認されると、段階的にほかの臓器移植における拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の適応などが追加された。小児用経口剤の必要性からプログラフ®顆粒も開発され、2001年に承認された。また、臓器移植患者は生涯にわたり免疫抑制を使用する必要があるため、コンプライアンス向上を的に1日1回内の徐放性製剤グラセプター®カプセル開発され、2008年に承認された。外用剤では、1999年アトピー性皮膚炎に対してプロピック®軟膏が、2008年季カタルアレルギー性結膜疾患)に対してタリムス®点眼液がそれぞれ承認されている。

効能・効果

適応は剤形や規格によって異なる。ジェネリック医薬品の適応はそれぞれの先発医薬品の適応にほぼ準じるが、ジェネリック医薬品のタクロリムスカプセル0.5mg/1mgに間質性炎に対する適応はない。グラセプター®カプセルとタリムス®点眼液のジェネリック医薬品はない。

プログラフ®カプセル プログラフ®
顆粒
プログラフ®
注射
グラセプター®
カプセル
0.5mg
1mg
5mg
臓器移植における
拒絶反応
移植における
拒絶反応/GVHD
重症
関節リウマ
ループス腎炎
潰瘍性大腸炎
間質性

このほか、上記の適応疾患内には入っていないが、ラスムッセン脳炎および若年性特発性関節炎に対してタクロリムス内プログラフ®カプセルなど)を処方した場合、理作用からみて妥当であり保険の際にも認めることとする、という審結果を2022年社会保険診療報酬支払基が発表している。[1][2]

用法・用量

プログラフ®カプセルおよび顆粒、プロピック®軟膏、タリムス®点眼液の用法・用量を記載する。徐放性製剤であるグラセプター®カプセルの場合、プログラフ®カプセルの1日量とほぼ同量を1日1回に経口投与する。

用法・用量
臓器移植
における
拒絶反応
移植 移植2日前~:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。
術後初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。
維持量:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与を標準とし、適宜増減。
移植 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。
維持量:1日量0.10mg/kgを標準とし、適宜増減。
移植 初期:1回0.03~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。
拒絶反応発現後に投与を開始する場合:1回0.075~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。
安定した状態が得られれば徐々に減量して有効最少量で維持。
移植 初期:1回0.05~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。
安定した状態が得られれば徐々に減量して有効最少量で維持。
移植 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。
徐々に減量して有効最少量で維持。
小腸移植 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。
徐々に減量して有効最少量で維持。
移植における
拒絶反応/GVHD
移植1日前~:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与。
術後初期:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。
移植片対宿病(GVHD)発現後に投与を開始する場合:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。
重症 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。
関節リウマ 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。
高齢者:1回1.5mgを1日1回夕食後経口投与から開始し、1回3mgまで増量可。
ループス腎炎 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。
潰瘍性大腸炎 初期:1回0.025mg/kgを1日2回夕食後に経口投与。
以後2週間:標血中トラフ濃度を10~15ng/mLとして投与量を調節。
3週以降:標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとして投与量を調節。
アトピー性皮膚炎 1日1~2回患部に塗布。1回5gまで。
小児:年齢により適宜増減。
季カタル 1回1滴を1日2回点眼。用時振とうして(よく振り混ぜてから)使用。

作用機序

タクロリムス(FK506)は、ヘルパーT細胞内にあるタンパク質イムノフィリンのFK506結合タンパク質(FKBP)に結合して複合体を形成し、カルシニューリンを阻する。カルシニューリンとは、活性化T細胞核内因子(NF-AT)を核内に移行させ、インターロイキン-2(IL-2)やインターフェロン-γIFN-γ)の産生を促進し、キラーT細胞増殖・活性化させる役割を担う脱リン化酵素である。タクロリムスによってカルシニューリンが阻されると、NF-ATの核内移行、IL-2IFN-γの産生、細胞免疫の活性化いずれも抑制される。

禁忌・副作用

免疫抑制クロスリンネオーラル®サンディミュン®)、高血圧症治療センタントラクリア®)との併用は禁忌。これらはタクロリムスと同じくCYP3A4で代謝されるため、血中濃度が上昇して副作用が発現するおそれがある。そもそもタクロリムスは有効血中濃度(効果が得られ、副作用も出ない濃度)の幅が狭いため、これらの併用禁忌剤を使わずタクロリムス単体で使用している状況であっても、血中濃度を測定しながら投与量を調節していくことが望ましいとされる。

グレープフルーツジュースもCYP3A4阻作用があるため、飲用するとタクロリムスの血中濃度が上昇してしまう。そのため投与されている間は飲むべきではないとされている。なお、この現を逆手にとって「制度上で認められている上限用量を投与しても血中濃度が治療域に達しない」患者に対して、あえてグレープフルーツジュースを飲ませることで治療域まで血中濃度を上げた……という報告もあるようだ。[3]

また、カリウム保持性利尿薬ピロノラクトンアルダクトン®A)、カンレノカリウムソルダクトン®)、トリアムテレン(トリテレン®)との併用も、高カリウム血症が発現するおそれがあるため禁忌免疫抑制と生ワクチン麻疹風疹ワクチンなど)の併用も禁忌である。

副作用として、腎機障害高血圧、高血糖、免疫抑制による日和見感染などを認めることがある。

タクロリムス軟膏は、使い始めた最初の時期に、皮膚への刺感(ひりひりとした痛み、ほてり、かゆみ)がある。この皮膚刺感は軟膏剤の使用を継続すると軽減していくため、自己判断で中止しないこと。また、タクロリムス軟膏を使用した部位への日光の曝露(日焼け)は、最小限に留めるよう注意すること。

同種同効薬

クロスリンネオーラル®サンディミュン®など)は、タクロリムスと同じカルシニューリンである。タクロリムスがFKBP-12への結合を介してカルシニューリンを阻するのに対して、シクロスリンはシクロフリンAへの結合を介してカルシニューリンを阻する。タクロリムスと同じく拒絶反応・GVHDの抑制や重症症の治療に使用されるほか、ベーチェット病、再生不良貧血、ネフロー症候群などの治療にも用いられる。

シロリムス(ラパマイシン、ラパリムス®)、エベロリムス(サーティカン®アフィニトール®)、テムシロリムストーリセル®)は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質mTOR)阻である。mTOR阻もカルシニューリンと同様に免疫制作用を示す。エベロリムスやテムシロリムスは、がん(悪性腫瘍)の治療に応用されている。

関連商品

関連リンク

関連項目

脚注

  1. *360 タクロリムス水和物①(小児神経4)|社会保険診療報酬支払基金exit
  2. *363 タクロリムス水和物②(小児科60)|社会保険診療報酬支払基金exit
  3. *Hideaki Tsuji, Koichiro Ohmura, Ran Nakashima, Motomu Hashimoto, Yoshitaka Imura, Naoichiro Yukawa, Hajime Yoshifuji, Takao Fujii, Tsuneyo Mimori, Efficacy and Safety of Grapefruit Juice Intake Accompanying Tacrolimus Treatment in Connective Tissue Disease Patients, Internal Medicine, 2016, 55 巻, 12 号, p. 1547-1552exit

【スポンサーリンク】

  • 1
  • 0pt
記事編集 編集履歴を閲覧

この記事の掲示板に最近描かれたお絵カキコ

お絵カキコがありません

この記事の掲示板に最近投稿されたピコカキコ

ピコカキコがありません

タクロリムス

まだ掲示板に書き込みがありません…以下のようなことを書き込んでもらえると嬉しいでーす!

  • 記事を編集した人の応援(応援されると喜びます)
  • 記事に追加して欲しい動画・商品・記述についての情報提供(具体的だと嬉しいです)
  • タクロリムスについての雑談(ダラダラとゆるい感じで)

書き込みを行うには、ニコニコのアカウントが必要です!


ニコニコニューストピックス