ニコニコ大百科:医学記事 ※ご自身の健康問題に関しては、専門の医療機関に相談してください。 |
タクロリムス(Tacrolimus)とは、免疫抑制薬である。先発医薬品名はプログラフ®(アステラス製薬)、グラセプター®(アステラス製薬)、タリムス®点眼液(千寿製薬)、プロトピック®軟膏(マルホ)。
概要
タクロリムスは、臓器移植や骨髄移植に伴う拒絶反応の抑制、重症筋無力症、関節リウマチ、潰瘍性大腸炎、アトピー性皮膚炎の治療などに用いられる免疫抑制薬(カルシニューリン阻害薬)である。茨城県つくば市筑波山の土壌から分離されたストレプトマイセス属の放線菌Streptomyces tsukubaensisが産生する。筑波(Tsukuba)に由来するマクロライド系免疫抑制薬(Macrolide immuno
1984年、藤沢薬品工業株式会社(現在のアステラス製薬株式会社)によって発見された。1993年、肝移植における拒絶反応を抑制する免疫抑制薬としてプログラフ®カプセルおよび注射液が承認されると、段階的にほかの臓器移植における拒絶反応の抑制や自己免疫疾患の適応などが追加された。小児用経口剤の必要性からプログラフ®顆粒も開発され、2001年に承認された。また、臓器移植患者は生涯にわたり免疫抑制薬を使用する必要があるため、服薬コンプライアンス向上を目的に1日1回内服の徐放性製剤グラセプター®カプセルも開発され、2008年に承認された。外用剤では、1999年にアトピー性皮膚炎に対してプロトピック®軟膏が、2008年に春季カタル(アレルギー性結膜疾患)に対してタリムス®点眼液がそれぞれ承認されている。
効能・効果
適応は剤形や規格によって異なる。ジェネリック医薬品の適応はそれぞれの先発医薬品の適応にほぼ準じるが、ジェネリック医薬品のタクロリムスカプセル0.5mg/1mgに間質性肺炎に対する適応はない。グラセプター®カプセルとタリムス®点眼液のジェネリック医薬品はない。
- 臓器移植(腎臓・肝臓・心臓・肺・膵臓・小腸移植)における拒絶反応の抑制
- 骨髄移植における拒絶反応および移植片対宿主病(GVHD)の抑制
- 重症筋無力症
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ
- ステロイド投与で効果不十分または副作用により投与困難なループス腎炎
- 難治性(ステロイド抵抗性・ステロイド依存性)で中等症~重症の活動期潰瘍性大腸炎
- 多発性筋炎・皮膚筋炎に合併する間質性肺炎
- アトピー性皮膚炎(プロトピック®軟膏)
- 抗アレルギー薬で効果不十分な春季カタル(タリムス®点眼液)
プログラフ®カプセル | プログラフ® 顆粒 |
プログラフ® 注射液 |
グラセプター® カプセル |
||
0.5mg 1mg |
5mg | ||||
臓器移植における 拒絶反応 |
○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
骨髄移植における 拒絶反応/GVHD |
○ | ○ | ○ | ○ | ○ |
重症筋無力症 | ○ | ○ | |||
関節リウマチ | ○ | ||||
ループス腎炎 | ○ | ||||
潰瘍性大腸炎 | ○ | ○ | |||
間質性肺炎 | ○ |
このほか、上記の適応疾患内には入っていないが、ラスムッセン脳炎および若年性特発性関節炎に対してタクロリムス内服薬(プログラフ®カプセルなど)を処方した場合、薬理作用からみて妥当であり保険審査の際にも認めることとする、という審査結果を2022年に社会保険診療報酬支払基金が発表している。[1][2]
用法・用量
プログラフ®カプセルおよび顆粒、プロトピック®軟膏、タリムス®点眼液の用法・用量を記載する。徐放性製剤であるグラセプター®カプセルの場合、プログラフ®カプセルの1日量とほぼ同量を1日1回朝に経口投与する。
用法・用量はこちら
用法・用量 | ||
臓器移植 における 拒絶反応 |
腎移植 | 移植2日前~:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。 術後初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。 維持量:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与を標準とし、適宜増減。 |
肝移植 | 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。 維持量:1日量0.10mg/kgを標準とし、適宜増減。 |
|
心移植 | 初期:1回0.03~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。 拒絶反応発現後に投与を開始する場合:1回0.075~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。 安定した状態が得られれば徐々に減量して有効最少量で維持。 |
|
肺移植 | 初期:1回0.05~0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。 安定した状態が得られれば徐々に減量して有効最少量で維持。 |
|
膵移植 | 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。 徐々に減量して有効最少量で維持。 |
|
小腸移植 | 初期:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与。 徐々に減量して有効最少量で維持。 |
|
骨髄移植における 拒絶反応/GVHD |
移植1日前~:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与。 術後初期:1回0.06mg/kgを1日2回経口投与し、徐々に減量。 移植片対宿主病(GVHD)発現後に投与を開始する場合:1回0.15mg/kgを1日2回経口投与し、適宜増減。 |
|
重症筋無力症 | 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。 | |
関節リウマチ | 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。 高齢者:1回1.5mgを1日1回夕食後経口投与から開始し、1回3mgまで増量可。 |
|
ループス腎炎 | 1回3mgを1日1回夕食後に経口投与。 | |
潰瘍性大腸炎 | 初期:1回0.025mg/kgを1日2回朝夕食後に経口投与。 以後2週間:目標血中トラフ濃度を10~15ng/mLとして投与量を調節。 3週目以降:目標血中トラフ濃度を5~10ng/mLとして投与量を調節。 |
|
アトピー性皮膚炎 | 1日1~2回患部に塗布。1回5gまで。 小児:年齢により適宜増減。 |
|
春季カタル | 1回1滴を1日2回点眼。用時振とうして(よく振り混ぜてから)使用。 |
作用機序
タクロリムス(FK506)は、ヘルパーT細胞内にあるタンパク質イムノフィリンのFK506結合タンパク質(FKBP)に結合して複合体を形成し、カルシニューリンを阻害する。カルシニューリンとは、活性化T細胞核内因子(NF-AT)を核内に移行させ、インターロイキン-2(IL-2)やインターフェロン-γ(IFN-γ)の産生を促進し、キラーT細胞を増殖・活性化させる役割を担う脱リン酸化酵素である。タクロリムスによってカルシニューリンが阻害されると、NF-ATの核内移行、IL-2やIFN-γの産生、細胞性免疫の活性化いずれも抑制される。
禁忌・副作用
免疫抑制薬シクロスポリン(ネオーラル®、サンディミュン®)、肺高血圧症治療薬ボセンタン(トラクリア®)との併用は禁忌。これらはタクロリムスと同じくCYP3A4で代謝されるため、血中濃度が上昇して副作用が発現するおそれがある。そもそもタクロリムスは有効血中濃度(効果が得られ、副作用も出ない濃度)の幅が狭いため、これらの併用禁忌薬剤を使わずタクロリムス単体で使用している状況であっても、血中濃度を測定しながら投与量を調節していくことが望ましいとされる。
グレープフルーツジュースもCYP3A4阻害作用があるため、飲用するとタクロリムスの血中濃度が上昇してしまう。そのため投与されている間は飲むべきではないとされている。なお、この現象を逆手にとって「制度上で認められている上限用量を投与しても血中濃度が治療域に達しない」患者に対して、あえてグレープフルーツジュースを飲ませることで治療域まで血中濃度を上げた……という報告もあるようだ。[3]
また、カリウム保持性利尿薬スピロノラクトン(アルダクトン®A)、カンレノ酸カリウム(ソルダクトン®)、トリアムテレン(トリテレン®)との併用も、高カリウム血症が発現するおそれがあるため禁忌。免疫抑制薬と生ワクチン(麻疹・風疹ワクチンなど)の併用も禁忌である。
副作用として、腎機能障害、高血圧、高血糖、免疫抑制による日和見感染などを認めることがある。
タクロリムス軟膏は、使い始めた最初の時期に、皮膚への刺激感(ひりひりとした痛み、ほてり、かゆみ)がある。この皮膚刺激感は軟膏剤の使用を継続すると軽減していくため、自己判断で中止しないこと。また、タクロリムス軟膏を使用した部位への日光の曝露(日焼け)は、最小限に留めるよう注意すること。
同種同効薬
シクロスポリン(ネオーラル®、サンディミュン®など)は、タクロリムスと同じカルシニューリン阻害薬である。タクロリムスがFKBP-12への結合を介してカルシニューリンを阻害するのに対して、シクロスポリンはシクロフィリンAへの結合を介してカルシニューリンを阻害する。タクロリムスと同じく拒絶反応・GVHDの抑制や重症筋無力症の治療に使用されるほか、ベーチェット病、再生不良性貧血、ネフローゼ症候群などの治療にも用いられる。
シロリムス(ラパマイシン、ラパリムス®)、エベロリムス(サーティカン®、アフィニトール®)、テムシロリムス(トーリセル®)は、哺乳類ラパマイシン標的タンパク質(mTOR)阻害薬である。mTOR阻害薬もカルシニューリン阻害薬と同様に免疫抑制作用を示す。エベロリムスやテムシロリムスは、がん(悪性腫瘍)の治療に応用されている。
関連商品
関連リンク
関連項目
脚注
- *360 タクロリムス水和物①(小児神経4)|社会保険診療報酬支払基金
- *363 タクロリムス水和物②(小児科60)|社会保険診療報酬支払基金
- *Hideaki Tsuji, Koichiro Ohmura, Ran Nakashima, Motomu Hashimoto, Yoshitaka Imura, Naoichiro Yukawa, Hajime Yoshifuji, Takao Fujii, Tsuneyo Mimori, Efficacy and Safety of Grapefruit Juice Intake Accompanying Tacrolimus Treatment in Connective Tissue Disease Patients, Internal Medicine, 2016, 55 巻, 12 号, p. 1547-1552
- 1
- 0pt