タスマニアデビルとは、哺乳綱フクロネコ目フクロネコ科タスマニアデビル属の動物。
タスマニア島にしか生息しない固有の種。別名フクロアナグマ。絶滅危惧種でもある。
概要
フクロオオカミらと同じく、かつてはオーストラリアの大陸にも生息していたとされるが、人類とそれに付いてきたディンゴとの生存競争に負けて滅んだと言われている。よって今は生息地をタスマニア島に残すのみとなった。
デビル、という名前にしては愛くるしい顔をしていることで有名な肉食性の有袋類。クマを小さくしたような姿をしている。
肉食性だが、食べるのは小型の動物、昆虫、そして何より死肉が主である。死肉を食べるという食性から森の掃除やの異名をも持つ。
繁殖期は4月頃で、31日という比較的短い期間を経たうえで出産する。
雌の奪い合いも壮絶なら、つがいになった後も修羅場の連続であり、夫は巣穴に嫁を監禁し、逃げようとする嫁を見ると強引に連れ戻すなど、束縛夫のようなことを続ける。
嫁も最初は素直に従うのだが、当然ストレスが溜まっていくので、あまりの横暴に耐えかねてホルモンバランスを崩し、ついにはブチ切れて逆に夫を叩き出してしまうなど、まるでDV合戦の如く壮絶な構図が形成される。
そういった困難を乗り越え、雌は米粒のような大きさの子供を20匹から40匹も生み、袋の中で育てる。
だが、母親の乳は4つしかないため、まず生まれてくると壮絶な母乳争奪戦が始まる。そして最初に到着した4匹だけが生き残リ、他は力尽きて淘汰される。
こうして勝ち残った4匹はすぐに成長して大人とほぼ同じ外見になり、やがては母の袋から出る。ちなみに一度袋から出ると、生涯において二度と袋には戻らない。
性格はやや臆病めで、野生のタスマニアデビルは人を含め自分より大きな動物を見ると恐怖のあまり威嚇するか、すぐに逃げてしまう。動きが基本的に鈍いため、ただでさえ小柄なタスマニアデビルは、大きな生き物とは到底戦えないのである。
だが、自分より小さな生き物に対しては打って変わってとことん獰猛である。タスマニアデビルは顎の力が大変強く、獲物の骨まで噛み砕いてしまうくらい強靭だったりするので、獲物となる弱者はまず逃げられないだろう。
この馬鹿力は同族同士での餌の奪い合いや繁殖期における闘争時にも発揮される。
デビルという名前の由来は、変わった鳴き声にある。
タスマニアデビルは、実に表現に困るような奇妙な鳴き声をあげるのが特徴である。強いて言うなら威嚇している時の猫に似ているが、どの道愛らしさは薄い。
これは夜になるとそれはもう不気味に感じ取られやすく、この遠吠えを聞いた人々から「あれは悪魔の声だ」と気味悪がられたことから、彼等はデビルの名を賜ったと言われている。
絶滅の明暗を分けた話
実はこのタスマニアデビルは、フクロオオカミが絶滅していなかったらとっくに絶滅していたかもしれない生き物である。
彼等はかつては家畜を襲う悪魔の手先だ、と言わんばかりの勢いで嫌われ、たくさん殺されていたことがある。これはフクロオオカミの狩猟キャンペーンとほぼ同時期に行われていたことで、懸賞金もかけられていたという。
ただでさえ野生動物を嫌っていたオーストラリアの入植者達は、これにこぞって参加した。
オーストラリアの入植者は、家畜を襲う悪者としてフクロオオカミをかつて襲っていたが、このタスマニアデビルもそれに一枚噛んでいると思い込んでいたのだ。
しかし、実際タスマニアデビルが狙うのは自分より小型の生き物であり、当時の入植者がよく飼っていた羊などはまず狩れるはずがなく、ほとんど濡れ衣レベルで彼等は家畜殺しという不名誉なレッテルを貼られた。
その変わった鳴き声も前述のように悪魔の咆哮だとして気味悪がられて、虐殺行為の大義としてあげられた。
入植者達に嫌われた彼等は、大きくその個体数を減らした。
こうして狩猟虐殺キャンペーンによってとうとうフクロオオカミが絶滅、タスマニアデビルも時間の問題かと思われた。
そんな矢先に、入植者の意識はこのフクロオオカミの絶滅を機会にしてようやくある程度の改善を見せ、保護の機運が一気に高まった。そして程なくしてタスマニアデビルを保護する立派な法律までもが生まれた。
保護された結果、タスマニアデビルはなんとか絶滅を回避することに成功。先に滅んだフクロオオカミの犠牲は必ずしも無駄ではなかったのである。
再び絶滅の危機へ…
そんな、平和に暮らせそうだったタスマニアデビルに、さらなる試練が襲いかかってきた。
デビル顔面腫瘍性疾患(Devil Facial Tumour Disease、通称デビル癌、DFTD)といわれる、伝染系の癌が蔓延したのである。
この癌はタスマニアデビルしか基本かからない奇病で、腫瘍なのにも関わらず伝染するという、極めて厄介かつ底意地の悪い性質を持っている。伝染は、餌や雌の争いをする際に激しく噛み合った時に発生する。
この癌にかかったタスマニアデビルは、6ヶ月位内に死に絶える。癌にかかったことで体内器官が次々に破壊されるだけでなく、顔にも腫瘍が出来て崩れてしまうからである。
症状が進行して焼けただれたように顔が崩壊してしまうと、もはや口を開けることも叶わず、食べ物を食べることも出来ずに餓死して死んでいく。なお、運良く生き残ることが出来ても、せいぜい1年程度が限度である。つまり一度感染すれば100%死亡すると言ってよい。
どれくらい酷い面容に変わり果ててしまうかは、ググればすぐに見ることが出来る。ただし、かなりショッキングかつグロテスクなので閲覧注意。
この奇病によりタスマニアデビルの個体数は驚くべき速さで減少しており、何も対策を講じない場合、タスマニアデビルは50年後には絶滅すると言われている。
ワクチンなどはまだ生成することが出来ておらず、2013年現在では不治の病とされている。そのため、苦肉の策として「ノアの箱舟計画」と称して健康体のタスマニアデビルを動物園に移送して感染を防ぐなどの対策が施されている。
しかしそこも必ず安全なままとは限らないし、このままなら絶滅危惧種の一つのレッドラインとなる野生絶滅は免れなくなる。つまりこれは本来の生態を持つタスマニアデビルが滅びるということであり、実は大変致命的な状態なのである。
近年はようやくワクチンを作ることが出来る可能性が見出されており、今後の研究結果に期待がかかっている。
タスマニアデビルが滅亡するのが早いか、人類がワクチンを作り出すのが早いか。
ウイルスとの戦いは、今日も続いている。
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