祝杯をこの手に
過信と油断はなかったが 運もまたなかった。
悔しさが、無念が、怒りがつのる。
勝利の美酒をあびるのは 自分だったはず、と。
タニノギムレット(英:Tanino Gimlet)とは、1999年産の日本の元競走馬、元種牡馬である。
![]() |
この記事では実在の競走馬について記述しています。 この馬を元にした『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するウマ娘については 「タニノギムレット(ウマ娘)」を参照して下さい。 |
概要
タニノギムレット Tanino Gimlet![]() |
|||||
---|---|---|---|---|---|
生年月日 | 1999年5月4日 | 性・毛色 | 牡・鹿毛 | ||
父 | *ブライアンズタイム![]() |
馬種 | サラブレッド | ||
母 | タニノクリスタル![]() |
生産者 | カントリー牧場 (新ひだか町) | ||
母父 | *クリスタルパレス![]() |
馬主 | 谷水雄三 | ||
馬名由来 | 冠名+カクテルの一種 | 調教師 | 松田国英 (栗東) | ||
主な勝鞍 | シンザン記念[GIII], アーリントンカップ[GIII] スプリングステークス[GII], 東京優駿(日本ダービー)[GI] (いずれも2002年) |
||||
競走馬テンプレート |
父ブライアンズタイムは米GIのフロリダダービーとペガサスハンディキャップ(現ペガサスステークス)を制した米国のGI2勝馬。GIレースの多いアメリカでは一流半の成績といった感じであったが、引退後に日本へ渡り、種牡馬としてナリタブライアン、サニーブライアン、ファレノプシス、マヤノトップガンなど数々の名馬を輩出する大活躍を見せた。よく走る産駒の特徴に筋骨隆々の好馬体が挙げられるが、ギムレットもその例に漏れずスプリンターかと見間違うほどの超マッチョ馬体で、とても距離が持つようには見えなかった。
母タニノクリスタルはアネモネステークス(当時OP戦)を勝ち牝馬クラシック戦線で奮戦した馬。生産者のカントリー牧場ゆかりの血統で、その兄のタニノスイセイも重賞戦線で活躍し期待されていた血統である。
母父クリスタルパレスは仏ダービーことジョッケクルブ賞を優勝したフランス馬で、凱旋門賞で3着に入着したこともある。種牡馬としてはフランスを中心にG1馬を何頭か出してから日本に輸入されたが、JRA重賞勝利産駒はプレクラスニーのみに留まっている。
競走馬時代
国際色豊かな血統の下に生まれた彼は、いろんな意味で有名な松田国英厩舎に入厩し厳しいトレーニングを積む事となった。デビューは夏の札幌。ここで2着に敗れると冬まで自重し、12月の阪神開催の未勝利戦を7馬身差で快勝する。
続くシンザン記念(GIII)とアーリントンカップ(GIII)も上がり3F最速の豪脚で撫で斬りにして重賞連勝を飾り、一躍2002年牡馬クラシック戦線の大本命に推される存在になった。
しかし重賞連勝中、主戦騎手の武豊が落馬事故によって骨盤骨折の大怪我を負ってしまったため、四位洋文に乗り替わりとなった。乗り替わり初戦のスプリングステークス(GII)こそ追い込んで勝利したものの、皐月賞(GI)ではいつものように後方から進出するも明らかな判断ミスで追い込み切れず、終いにゴール手前で追うのをやめてしまったせいもあり3着に敗れてしまう。
直線の短い中山で100mは損したと言われるほど外を回した判断は明らかなミス、そして追うのをやめたのは一歩間違えば怠慢騎乗で制裁・罰金ものであり、陣営は激怒するも後の祭りであった。
次走、調教師の信念であるローテの通りに進んだNHKマイルカップ(GI)では武豊が急遽無茶して復帰し騎乗、圧倒的な1番人気に推されるが今度は直線で勝ち馬のテレグノシスが斜行した煽りを受け、よろめきなんとか立て直すも3着に敗れてしまう。
武豊は激怒したが審議の末テレグノシスは降着にならず。無念。武豊さらに大激怒。[1]
それでも日本ダービー(GI)ではまた一番人気に推され、直線に向いて外を回って進出開始すると、今度は邪魔するものもなく、広々とした長い直線を豪脚のままに突き抜けダービー制覇を成し遂げた。
武豊はこれで当時のダービー史上最多勝となる3勝目を記録。オーナーの谷水雄三も父・信夫のタニノハローモア、タニノムーティエに次ぐ親子制覇となった。
秋は神戸新聞杯から天皇賞(秋)へ向かうルートが予定されていたが、春の負担からか神戸新聞杯へ向けての調整中に屈腱炎を発症し引退に追い込まれる。松国タイマー破裂!そのまま種牡馬入りすることになった。通算8戦5勝、累計獲得賞金3億8601万円。
種牡馬時代
種牡馬入り後は初年度からいきなり歴史的名牝ウオッカを輩出。阪神JFを制したあと牝馬ながら同じ2枠3番を背負い鞍上四位でダービーに出走し、父親そっくりの豪脚で突き抜け史上初の父娘ダービー制覇を達成。その後もマイル戦線を中心に暴れ回りGI累計7勝を挙げ、顕彰馬に選ばれる大活躍を見せた。それに伴って父ギムレットの名声も高まり、自身はノーザンダンサーもミスタープロスペクターも持たず配合相手には困らない為、ブライアンズタイムのサイアーラインを広げる存在として期待されていた。
しかしロベルト系の宿命か、走らないハズレも多く安定感に欠けるため、段々いい牝馬が回ってこなくなってしまう。更に2014年からはレックススタッドへ移動し、社台スタリオンステーションに比べると不利な環境での種牡馬生活を送る負のループに入ってしまい、遂には2020年に種牡馬を引退することとなった。後継種牡馬としてはクレスコグランドとハギノハイブリッドが居るが、どちらも種付け数が1桁台に留まる状況である……。ウオッカのような産駒が牡馬にも出ていればなぁ。
功労馬時代
種牡馬を引退した彼は、功労馬として北海道日高町のYogiboヴェルサイユリゾートファーム(以後VRF)で余生を送ることになった。しかし、彼は同牧場に着いた初日にいきなり牧柵を4本も蹴り上げて破壊
。ついでに放牧地がお隣だったローズキングダムも恐怖&困惑。移送のストレスで破壊したのかと思いきや、その
後
も
何か
と
テ
ン
ショ
ン
が
上
がる
たび
牧
柵
を
破
壊
し
て
は
牧
場
ス
タ
ッ
フ
を
震え
上が
ら
せ
、その壊しっぷりにスタッフから付いたあだ名は『破壊神(破壊王)』。昔からの癖とはVRFスタッフも聞いていたそうだが[2]、あまりに日常的に[3]柵を破壊することから、
- スタッフから「牧柵代も暗算出来る様になってきました
」と遠い目をされる
- バースデードネーション受付ページに「1本でも牧柵の資源が守れるように、誕生日をお祝いしたいと思います。(原文ママ)」と書かれる
- 牧場公式のショート動画のBGMにデスメタルが充てがわれる
- 馬房の壁や飼い葉桶も破壊してしまうため桶をゴム製に変更される
- 牧柵の横板を通常の3段から5段に増量される
- Tシャツと牧場併設カフェの紙コップの繋養馬イメージイラストが柵キックのシルエットになる
- 誕生日が近い3頭で合同となった23歳のバースデードネーションが1頭だけ「牧柵基金
」名義になる
- 牧柵への接近自体を防ぐために1本2万円の木を使った生け垣が作られる
なお意外にも気性そのものはそこまで荒いわけではなく、初対面の見学者からの人参も手渡しで普通に食べるくらいには素直で人懐っこい。その証拠として、現役時代から現在に至るまでこれといった矯正馬具が着けられたことは無く、(人を)蹴る癖がある場合に尻尾に着けられるリボンが着けられたこともない。それ故に一層今の破壊神ムーブが際立つわけだが。
柵蹴りで怪我をしてしまう馬も少なくない中、VRFスタッフも「確実に狙って蹴っている」と証言するほど[4]怪我をせず綺麗に蹴り破っていくという、もはや職人芸と化している破壊神"ギム様"の牧柵破壊。一体何が彼をそこまで柵クラッシュに駆り立てるのか、それは誰にも分からない……。
2023年2月18日、ウイニングチケットが死亡したことにより、タニノギムレットが存命最高齢の東京優駿勝ち馬になる。
余談
- 武豊はこの馬について「トボけてるところがあって、走りたくて走る馬ではない」と感じていたといい、それゆえにNHKマイルカップで急がせるレースを経験させたことで、ダービーでの追走が格段に楽になったと振り返っている。
- 種牡馬引退後のファンからの愛称は「ギム爺」。
- 当記事トップの写真からも分かるように左目が三白眼であり、そこから繰り出される強烈な眼力から「👁」の絵文字一つで彼を指すことがある。VRF初日の事件が「👁💥🚧 🥀」と超コンパクトに表現されることも。
- 当初こそ彼の柵破壊に困惑していたローズキングダムであるが、あろうことか2022年春あたりから彼も柵破壊をたまにするようになった
という。そんなとこ感化されなくていいから!
- 多くの馬の例に漏れず彼も人参が好物だが、葉っぱ部分は嫌いらしい。葉付きのまま人参をあげたら遠心力で捩じ切って葉だけポイ捨てした
という謎の器用さを見せたこともある。
- 朝、放牧へ出発する順番が最初でないと、早よ出せと言わんばかりに馬房の扉を鳴らして催促する
。
- 彼のキックで破壊された柵は、板を繋いでいた90mmの釘がへし折れていたという。なんてパワーだ……
- 猫は嫌いではないがVRFの牧場猫のコアラにはあまり好かれていないらしく、逃げられた際に「なんでや!」と言わんばかりに地団駄を踏んだことがある。
- 隠居先のVRFも柵で起き得る怪我のことを考えていないわけではなく、予防策として彼の放牧地の柵は蹴っても怪我をしにくいようにあえて壊れやすく作っているという。
- 放牧地では決まった場所にボロ[5]をする癖を持っている。
- 2022年に入ってから月5~6本ペースと柵破壊絶好調な彼であるが、2022年現在、世界では原油高と木材の大産地ロシアのやらかしによって「ウッドショック」と呼ばれる記録的な木材価格の高騰が起こっている。そんな最中の牧柵の費用は……お察しの通りである。
- 当初は柵の残骸の利用に「命に関わることもあるものでお金を頂くのはちょっと……」と難色を示していたVRFスタッフたちであるが、彼がそんなのお構いなしに頻繁に柵を破壊するため、大量に出る残骸の再利用先の模索を強いられる羽目になった。
- ちなみに2022年11月下旬時点で今まで破壊した柵の数はヤクルト村上宗隆選手の今季本塁打数と同じくらい
とのこと。
- 当初は柵の残骸の利用に「命に関わることもあるものでお金を頂くのはちょっと……」と難色を示していたVRFスタッフたちであるが、彼がそんなのお構いなしに頻繁に柵を破壊するため、大量に出る残骸の再利用先の模索を強いられる羽目になった。
- VRFが属するベルサイユステーブル株式会社の生産部、ヴェルサイユファームが生産馬ビーアストニッシドの日本ダービー出走でテレビ東京の取材を受けた際、牧場の光景として放映された中に先述した牧柵5段強化の作業シーンが入っていた。
- 2023年1月9日、父がウオッカの息子タニノフランケル、母がダイワスカーレットの孫スカーレットテイルの牝馬(つまりギム爺から見てひ孫)が誕生。「まめちゃん」と名付けられ元気に育っているが、生後わずか4日でキックを習得した
ことが判明。一体誰の影響なのやら…。
四代血統表
*ブライアンズタイム 1985 黒鹿毛 |
Roberto 1969 鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Bramalea | Nashua | ||
Rarelea | |||
Kelley's Day 1977 鹿毛 |
Graustark | Ribot | |
Flower Bowl | |||
Golden Trail | Hasty Road | ||
Sunny Vale | |||
タニノクリスタル 1988 栗毛 FNo.9-c |
*クリスタルパレス 1974 芦毛 |
Caro | *フォルティノ |
Chambord | |||
Hermieres | Sicambre | ||
Vieille Pierre | |||
*タニノシーバード 1972 栗毛 |
Sea-Bird | Dan Cupid | |
Sicalade | |||
Flaxen | Graustark | ||
Flavia |
クロス:Graustark 4×4(12.5%),Sicambre 4×5(9.38%), Roman 5×5(6.25%)
主な産駒
2004年産
- アブソリュート (騸 母 プライムステージ 母父 *サンデーサイレンス)
- ウオッカ(牝 母 タニノシスター 母父 *ルション)
- ゴールドアグリ (牡 母 タッチオブゴールド 母父 *ヘクタープロテクター)
- ニシノブルームーン (牝 母 *カプリッチョーサ 母父 Alzao)
- ヒラボクロイヤル (牡 母 *マーズヴァイオレット 母父 Mr. Prospector)
2005年産
2006年産
2008年産
2009年産
2011年産
2013年産
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
脚注
- *"名馬の肖像"で挙げられている不運とは恐らくこのときのことを指すものと思われる。
- *Loveuma『「全員から好かれなくていい! 引退馬ビジネスの風雲児」岩﨑崇文(Yogiboヴェルサイユリゾートファーム)
』より。
- *具体的には週一ペース。多い日では1日に5本も破壊したこともある。
- *脚注2に同じ。
- *畜産用語。家畜の排便または糞そのもののことを指す。
- *ちなみにちょっかいを受けたスタッフはVRFの代表を務めている人物、岩﨑崇文(たかふみ)さんである。
- 13
- 0pt