タンタアレグリア(Tanta Alegria)とは、蛯名ァ!である。
……もとい、2012年生まれの日本の競走馬である。栗毛の牡馬。
代名詞となってしまった2015年日本ダービーのアオシマバクシンオーの謎の絶叫と、そんなネタ要素や馬名からは思いもよらない寂しい最期で知られる馬。
主な勝ち鞍
2017年:アメリカジョッキークラブカップ(GⅡ)
タンタアレグリア概要ゥ!
父ゼンノロブロイ、母*タンタスエルテ、母父Stukaという血統。
父は2004年の秋古馬三冠を達成したわりに地味と言われがちな名馬。種牡馬としてもGⅠ馬は2010年のオークスを同着でアパパネと分け合ったサンテミリオン1頭のみで、1歳上のシンボリクリスエスや1歳下のキングカメハメハ・ハーツクライ・ダイワメジャー、2歳下のディープインパクトらに挟まれた結果いささか影が薄い感は否めない。タンタアレグリアは6年目の産駒。
母は(CHI)、つまり智国産。……いや、どこ? 答えは南米のチリです。チリとアメリカで走り13戦6勝、チリのGIアルトゥロリオンペニャ賞などチリの重賞を4勝している。白老ファームに繁殖牝馬として輸入され、タンタアレグリアは第3仔。
母父スツーカ(シュトゥーカ)はアメリカの馬で、1994年のG1サンタアニタハンデキャップの勝ち馬。チリで種牡馬入りし、2009年のチリ年度代表馬Total Impactやその全弟のチリダービー馬Amor de Pobreなどを送り出した。
2012年3月29日、社台系の白老ファームで誕生。オーナーは白老ファームや追分ファームの生産馬を主に扱う一口馬主クラブのG1レーシング(主な所有馬にルヴァンスレーヴやセリフォスなど)。募集価格は1口75万円×40口(=3000万円)であった。
所属は美浦の名門・国枝栄厩舎。国枝厩舎のトレードマークの白いシャドーロールも当然つけていた。
主戦騎手は蛯名正義(青葉賞から)。
馬名意味は「スペイン語で『たくさんの喜び、これほど多くの歓喜』」。
「アレグリア」の部分はグランアレグリア(大歓声)と一緒であり、2018年の朝日杯FSでは勝ったアドマイヤマーズに騎乗していたミルコ・デムーロがインタビューで、3着だったグランアレグリアのことをタンタアレグリアと言い間違えていた。
タンタアレグリア生涯ィ!
タンタアレグリア前史ィ!
2014年7月6日、福島・芝1800mの新馬戦で北村宏司を鞍上にデビュー。4.2倍の2番人気に支持され、後方から捲っていったが、後の主戦・蛯名正義が騎乗する1番人気フォワードカフェに先行策から押し切られて2着。
レースに対して集中力を欠くところがあり、続く新潟・芝1600mの未勝利戦もハナ差2着に取りこぼしたが、しばらく休んで11月29日の3戦目、三浦皇成に乗り替わった東京・芝2000mの新馬戦で逃げ粘る1番人気馬を断然の上がり最速で後方から並ぶ間もなく差し切り勝利を挙げる。
この強い勝ち方もあり、抽選を通ってホープフルステークス(GⅡ)に4番人気(8.0倍)で参戦したが、最内枠からスタートで内にヨレて後方からになってしまい、特に見せ場なく7着に終わる。
明けて3歳は2月の東京・芝2400m、ゆきやなぎ賞(500万下)から始動。新馬戦で戦ったフォワードカフェと再び顔を合わせたが、今度はこちらに蛯名正義が初騎乗。中団から直線で大外をスワーヴジョージと馬体を併せて追い込んだが、最内を突いたヴェラヴァルスターにクビ差押し切られて2着。
続いて3月の中京・芝2200m、大寒桜賞(500万下)では吉田隼人を迎え、中団から直線で馬群の後ろになってしまうも、そのまま馬群を突き破るようにして抜け出し2勝目を挙げる。吉田隼人は「能力はありますが、子どもっぽいところがあり、そのあたりが課題ですね」とのコメントであった。
ともあれ日本ダービーを目指して青葉賞(GⅡ)へ。鞍上は再び蛯名正義となり、以降は最後まで蛯名が主戦となる。混戦ムードの中6.0倍の4番人気。
レースは中団馬群の中から進め、直線ではスムーズに外に進路を確保。外のヴェラヴァルスターとレーヴミストラルとの3頭で激しい追い比べとなり、レーヴミストラルにはかわされたが、一度はかわされたヴェラヴァルスターを根性で差し返して2着。ダービーの優先出走権を確保した。
タンタアレグリア蛯名ァ!
かくして迎えた日本ダービー(GⅠ)。皐月賞で衝撃的な勝利を挙げたドゥラメンテが1.9倍の断然人気で、タンタアレグリアは23.4倍の7番人気。ドゥラメンテ、リアルスティール、サトノクラウンら皐月賞組と戦っていないことによる未知の魅力として評価され、また蛯名正義悲願のダービー制覇の夢も背負ってはいたが、まあぶっちゃけ脇役であった。
しかしこのダービーで、タンタアレグリアの名前は競馬ファンに強烈な印象を残すことになる。
ミュゼエイリアン横山典弘が速めのペースでレースを引っぱり、皐月賞3着のキタサンブラック北村がそれを追う。1枠2番の白い帽子を被ったタンタアレグリア蛯名は出負けしたこともあり後方に待機した。迎えた直線。フジテレビ実況の青嶋達也アナの声にも熱が入り、あの伝説のフレーズが飛び出した。
さあ4コーナーカーブ、ここからもう後戻りはできない、真っ向勝負!
全てを懸けて、全てを懸けて! さあ直線だ日本ダービー!
目一杯追っている! ミュゼスル…ミュゼエイリアン横山典弘!
並びかけるキタサンブラック! 先行勢が粘っている!
そんな中そんな中、グァンチャーレも頑張っている、
さらにはタンタアレグリア蛯名ァ!
Q:このときタンタアレグリアはどこにいたでしょう?
A:まさにこのとき先頭に抜け出した……ドゥラメンテの5馬身ぐらい後ろの中団グループです。
今まさに皐月賞馬ドゥラメンテが他馬をまとめて抜き去り先頭に踊り出たその瞬間、先頭争いと全く関係のないところにいたタンタアレグリアの名前を絶叫するという、スタミナの尽きたアオシマバクシンオーの謎の嘶きに競馬ファンは困惑。「タンタアレグリア蛯名ァ!」は、その後の完全なバテバテ実況のグダグダぶりも含め、2年前の高低差200mの坂と並んで青嶋アナの代表的迷実況として語り継がれることになった。
青嶋アナがなぜ「タンタアレグリア蛯名ァ!」と叫んだのかは謎だが、おそらくは7枠のドゥラメンテがこのとき同枠に同じサンデーレーシングのリアルスティールが入っていたためオレンジと白の染め分け帽を被っており、左回りの府中では実況席からだと帽子の右前側の白い部分が最初に目に入るため、同じ黒地のサンデーレーシングとG1レーシングの勝負服を見間違え、1枠のタンタアレグリアと誤認したのではないかと思われる。
あるいはドゥラメンテがその瞬間にちょうど抜こうとしていた隣の馬が同じ1枠のサトノラーゼン(2着)だったので、それとごっちゃになったのかもしれない。
なお、タンタアレグリアの結果は7着だった。
タンタアレグリア奮闘ゥ!
秋は菊花賞を目指してセントライト記念(GⅡ)から始動。中団から外を回し、先行抜け出しを図るキタサンブラックを追いかけたが届かず、混戦の中で6着。
本番の菊花賞(GⅠ)ではキタサンブラック(13.4倍の5番人気)とさほど差のない15.0倍の6番人気。レースは中団馬群の中で進め、直線では外から猛然と追い込んだが、キタサンブラック、リアファル、リアルスティールの前3頭には最後に突き放され、0.3秒差の4着。
明けて4歳はダイヤモンドステークス(GⅢ)から始動。4.2倍の1番人気に支持されたが、勝ったトゥインクルから1.7秒も離されて4着。
続く阪神大賞典(GⅡ)では中団で進め、外を回して直線抜け出しを図るも、さらに外からまるで違う手応えで上がってきた同期の上がり馬シュヴァルグランにあっさり抜き去られて2馬身半差の2着。
本番の天皇賞(春)(GⅠ)ではレースを後方でじっくり進め、直線では上がり最速の末脚で追い込んだものの、キタサンブラックとカレンミロティックの死闘に届かず4着。
善戦はするもののなかなか勝ちきれないまま、夏場に球節炎を発症。症状は重くなかったが、大事を取って4歳秋は全休となった。
明けて5歳、アメリカジョッキークラブカップ(GⅡ)で復帰。長期休養明けということもあってか14.7倍の7番人気に留まったが、真ん中の4枠8番からスムーズにインを確保すると中団で進め、内が空いていたためそのまま経済コースを通ってスルスルと進出。直線で前にスペースが空くと鋭く脚を伸ばし、1番人気ゼーヴィントの追撃を半馬身振り切ってゴール板を駆け抜けた。
ほぼ2年ぶりの勝利で嬉しい重賞初制覇を挙げ、蛯名正義に26年連続JRA重賞制覇を贈ったタンタアレグリア。昨年のリベンジへ天皇賞(春)を目標に定め、続いては日経賞……のはずだったのだが、右前脚の深管骨瘤を発症。日経賞を回避し直行での春天参戦を目指したものの、回復が間に合わず、結局回避。再び長めの休養に入る。
タンタアレグリア…
8ヶ月休み、復帰戦は9月のオールカマー(GⅡ)。中団から外を回して追い込んだが、前で立ち回った同期牝馬ルージュバックに押し切られて3着。
そしてジャパンカップを目標に調整を進めた……が、今度は前週に左トモを痛めてしまい回避。結局、このオールカマーが生涯最後のレースとなる。
JC回避のあと、なかなか歩様が戻らず、何度も検査をした結果、軽度の骨折が発覚。
そしてその後、とんと話を聞かなくなったまま、1年半以上の時が流れた。
2019年6月。ようやくタンタアレグリアが国枝厩舎に戻って来たという一報が入る。7歳となったタンタアレグリアは、8月の札幌日経オープンでの復帰を目指して調整が進められた。
既に同期のドゥラメンテもキタサンブラックも、リアルスティールもサトノクラウンもターフを去った。華々しい同期たちに比べたら、全く順調な競走生活ではなかった。それでももう一花咲かせるために、長いブランクを経て、タンタアレグリアはターフに戻ってきた。
……はずだった。
7月3日。
タンタアレグリアは、調教中に左後肢の第3中足骨および第1趾骨の複雑骨折を発症。
左第1趾関節開放性脱臼。予後不良。
2年近いトンネルを経た先のゴールが、どうして天国のターフでなければならなかったのか。
「これほど多くの歓喜」という馬名にはあまりにも似合わない、寂しすぎる最期だった。
タンタアレグリア。実績だけ見れば一介の重賞1勝馬であり、今となっては「タンタアレグリア蛯名ァ!」の迷実況ばかり知られるのは仕方ないかもしれない。ただ、体質の弱さを抱えながら懸命に栄光を目指したその生涯のことも、記憶に留めておいてほしい、そんな馬である。
血統表
ゼンノロブロイ 2000 黒鹿毛 |
*サンデーサイレンス 1986 青鹿毛 |
Halo | Hail to Reason |
Cosmah | |||
Wishing Well | Understanding | ||
Mountain Flower | |||
*ローミンレイチェル 1990 鹿毛 |
*マイニング | Mr. Prospector | |
I Pass | |||
One Smart Lady | Clever Trick | ||
Pia's Lady | |||
*タンタスエルテ 2002 栗毛 FNo.16-e |
Stuka 1990 栗毛 |
*ジェイドハンター | Mr. Prospector |
Jadana | |||
Caerleon's Success | Caerleon | ||
Sound of Success | |||
Trapial 1995 栗毛 |
Stagecraft | Sadler's Wells | |
Bella Colora | |||
Mocita Sabia | Mocito Guapo | ||
Semifusa |
クロス:Mr. Prospector 4×4(12.50%)
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関連項目
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