ダゴン(Dagon)とは、
1.の概要
『旧約聖書』においては、古代パレスチナにおいてペリシテ人が信奉していた。ガザおよびアシュドッドに大きな神殿があったと伝えられる。
『サムエル記』には、イスラエルとの戦争の末に勝利したペリシテ人が戦利品として聖櫃(アーク)を奪い、ダゴンの神殿に戦利品として奉納した。しかし翌朝になるとダゴンの像は破壊されて疫病が流行した為、賠償をつけた上でイスラエルに返却した。
『士師記』では、神の恩寵により怪力を持つ士師・サムソンをペリシテ人は無力化して目を潰し、奴隷として重労働を課し、ダゴンの神殿に繋いで見世物にした。しかしサムソンは神に祈って力を取り戻し、自分が繋がれた柱を引き倒して神殿を破壊、3000人ものペリシテ人を道連れにして死んだ。
こういった経緯からユダヤ教では悪魔と見なされて零落し、更にキリスト教でも同様の扱いを受けて悪しき神として定着した。
名は「穀物」を意味し、大地に関係の深い豊穣神、或いは天候を司る嵐の神と考えられている。しかし後にヘブライ語で『魚』を意味する「ダグ」と混同され、魚人の姿をした海の神として伝わった。
中世の聖書の挿絵では、魚の顔をした冠、および魚の身体を象ったヴェールを被った男の姿で描かれている事が多い。これにはダゴンを信奉するペリシテ人の祖が、地中海沿岸からエジプトに侵攻した「海の民」と呼ばれる集団の一部族であった事も遠因と考えられている。
否定される向きもあるが、そのルーツはメソポタミアに遡り、七人の賢者(アプカル)の筆頭・アダパが原型であるという説も存在する。紀元前3世紀、ベロッソスが記したギリシャ語の歴史書「バビロニア史」においてはオアンネス(オーアンズ)と称された。
それによるとオアンネスは魚の身体をし、魚の頭の下に人間の顔を持ち、尾鰭の部分に二本の足を持っていた。人語を解し、人々に農耕や建築学や法律などの多くの知識を授け、昼は人と共に過ごし、夜になると海に戻ったという。
16世紀に記されたヨーハン・ヴァイヤーの『悪魔の偽王国』では更に貶められ、地獄の王室の「配膳室長官」なる役職に任命されている。更にその流れを組んだコラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』では、地獄におけるパン焼き係の長とされている。
またミルトンの『失楽園』では、上半身が人間・下半身が魚の「海の怪物」として描写され、その姿にも関わらずパレスチナの全域で崇拝され、壮麗な神殿が建てられていたとされている。これを裏付けるかのように、都市国家・マリおよびテルカ(現在のシリア)の遺跡では神殿跡が発見されている。
2.の概要
初出は1917年発表の『ダゴン』。旧支配者クトゥルフに仕える邪神。
語り部となる男は、大海原をボートで漂流するうちに泥で覆われた島に流れ着き、奇妙な遺跡を発見する。
遺跡には未知の海中都市と、海中を闊歩する『忌々しいほど人間の姿に似た』怪物を描いた壁画があったが、直後にその怪物が海中からその巨体を現し、咆哮する様を目撃してしまう。
男は怪物の姿から古代パレスチナ人の信仰する神・ダゴンや、その失楽園における記述を連想しつつ、宇宙的恐怖によって半ば意識を喪失しながらも島から逃走。何処をどう逃げたか、商船に救出されてアメリカに生還するも、呪われた記憶を振り払う事は出来ず、モルヒネに耽溺してしまう。
やがてモルヒネを買う金も尽き、自殺しようとした男が告白と遺書を書き終わろうとした時、何かを窓越しに目撃。「いや、そんな!あの手は何だ!窓に!窓に!」と書き殴って終わる。
彼の前に本当に何かが現われたのか、それとも発狂した彼の幻覚であったのかなど、一切は謎のままである。
その後1936年に発表された『インスマウスを覆う影』において再登場。
魚と蛙を掛け合わせたような半魚人「深きものども」、及び人間との混血であるインスマウスの住民によって構成される「ダゴン秘密教団(the Esoteric Order of Dagon)」にて崇拝されている。ここでは「深きものども」の上位個体の一体であり、「母なるハイドラ」の対である「父なるダゴン」として扱われている。
「ダゴン秘密教団」はインスマウス以外にも様々な土地に潜んでおり、いずれ来たる大いなるクトゥルフ復活の為に暗躍しているとされる。
ダゴンとハイドラは深きものが長い年月(おそらく何百万年単位)を経て大きく成長したものであり、身長は6mを超えるといわれている。ダゴンとハイドラはほとんど同じ存在であるとされ、この二体以外にも同様の存在がいる可能性は捨てきれない。〈深きものの支配者〉といわれるように深きものを束ねる存在であり、深きものが行なうクトゥルフ信仰を率いる存在である。
ルルイエで眠っているクトゥルフとは異なり自由に活動することが可能であるが人類との接触をすることは少ないといわれている。
その他
- 2001年に映画『ダゴン』が公開されたが、こちらは完全に名前を借りた別物なので注意。
ストーリーは『インスマウスを覆う影』に近いが、舞台がスペインの漁村である上、禁断の恋愛やエログロ要素を入れたり何だりと、大幅に改変されてしまっている。終盤で登場するダゴンのビジュアルについてはほぼ蛸で、お前クトゥルフちゃうんかいと突っ込みたくなるのは御愛嬌。とは言え、教団や巫女のビジュアルは、参考資料としては魅力的。 - フレッド・チャペルの小説『暗黒神ダゴン』では、ペリシテ人の信仰したダゴンがストーリーの象徴として描かれる。劇中ではクトゥルフ神話に関する用語が頻繁に登場し、ラストには超自然的な存在が仄めかされるシーンが存在するが、ペリシテ人の信仰したダゴンと、クトゥルフ神話におけるダゴンの関係性については何も説明される事はない。
- 2005年に発売されたゲーム『Call of Cthulhu:Dark Corners of the Earth』はクトゥルフ神話および小説群を題材としており、作中中盤でダゴンが登場。神話的事件に巻き込まれた主人公の前に、その巨大な姿を露わにして襲いかかる。
このゲームの特徴として、死体や怪物を見続けると正気度(SAN価)が減り、最終的には自殺してしまう。プレイヤーは出来るだけ姿を直視しないようにしながら、艦艇を破壊しようとするダゴンとの悪夢めいた戦いに身を投じなければならない。 - アニメ『デジモンアドベンチャー02』では「ダゴモン」というデジモンが登場。見た目はクトゥルフに似ており、また彼の正体を知ったものは死んでしまうという伝承を持つ。
ダゴモンが登場する13話「ダゴモンの呼び声」はタイトルからも推測できるとおり、クトゥルフ神話を意識したもの。タイトルバックにデジモン文字で「フングルイ・ムグルウナフ・クトゥルフ・ルルイエ・ウガフナグル・フタグン」、作中ではデジモン文字で「インスマウス」と書かれていたり、登場する「深きものども」はハンギョモンの姿だったりと、随所にクトゥルフテイストをちりばめられたストーリーとなっている。脚本家は熱烈なラヴクラフティアンの小中千昭。 - アニメ『THEビッグオー』には、海の神とされるメガデウス(巨大ロボット)・ダゴンが登場。
ダゴン自体はただの水中用戦闘ロボットであるが、このエピソードは舞台がインスマウスを思わせる漁村であったり、迷信深い現地人がダイバーを半魚人として恐れている等、露骨にクトゥルフ神話を意識したものとなっている。
本作のシリーズ構成を担当したのは例の如く小中千昭。 - 特撮TVドラマ『魔法戦隊マジレンジャー』では、敵幹部「冥府神ダゴン」が登場。声優は大塚明夫。
魚の頭部を持つ冥府十神のリーダー的存在であり、策士としても戦士としても優れた力を持つ。 - 特撮TVドラマ『ウルトラQ』及び『ウルトラマン』には、半魚人型の怪獣、海底原人ラゴンが登場。更に『ウルトラマン80』にはダロンというクトゥルフそっくりな蛸の怪獣が登場する。
- 田中芳樹の長編小説『銀河英雄伝説』では、銀河帝国と自由惑星同盟が初めて会戦を行った星域の名前が『ダゴン星域』。なお特にクトゥルフ的要素はない。
- テレビ朝日系列にて放映されていたアニメに『いきなりダゴン』という作品が存在する......が、1.および2.とは無関係。一応宇宙人が主人公ではあるが、熊本県名物の「いきなりだんご」が元ネタではなかろうか。多分。
- RPGゲーム『The Elder Scrolls』シリーズには、デイドラ(悪魔・魔神的な存在)のうち、最も力を持つ16柱の「デイドラプリンス」の一柱、「メエルーンズ・デイゴン(Mehrunes Dagon)」が登場。
1.および2.とは無関係だが、邪神としての顔が大きくクローズアップされており、異次元・オブリビオンにある自身の領域「デッドランド」から現世への侵略をたびたび行い、殺戮と破壊をほしいままにする。
戦争と破壊を司る一方、変革・野望・力を司る事もあり、その強大さから信奉者はそれなりに多い。
第4作『Obrivion』では、メインクエストのラスボスとしてプレイヤー達の前に立ちはだかる。また彼を信奉する教団「深遠の暁」が知られており、200年経過しても、帝都を遠く離れた北の地で末裔が生き延びている。
関連動画
関連コミュニティ
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関連項目
- 旧約聖書
- クトゥルフ神話
- その他(クトゥルフ神話)
- 唯一の存在
- 神話上の関連用語一覧
- ラヴクラフト
- インスマウスを覆う影
- インスマス
- 深きものども
- デジモンアドベンチャー02
- ダゴモン
- THEビッグオー
- 魔法戦隊マジレンジャー
- ウルトラマン
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