「ダンウィッチの怪(英:The Dunwich Horror)」とは、ハワード・フィリップス・ラヴクラフトが1928年に執筆したホラー小説(のはず)である。
「ダニッチの怪」とも。
あらすじ
舞台は1910年代の米国北部、狂乱の20年代を迎える前夜のマサチューセッツ州。
目覚しい発展を続ける工業と流入し続ける大量の移民の前に混乱を極めた時代。それに逆行するかのように、農村部では未だ貧困と迷信とが蔓延っていた。
そんな農村部の中でも一際、異彩を放っていたのが、無口なカトリック信者が多く住まうダンウィッチ村であった。
1913年、事件の始まりを告げるように夜鷹が夜通し鳴き続け、犬という犬が吠え続ける、2月2日の聖燭節の夜に生まれた『ウィルバー・ウェイトリー』も、父の知られぬ身でありながら、カトリックの教えに従い堕胎される事無く産み落とされた───(Wikipediaより)
登場人物
- ウィルバー・ウェイトリー(Wilbur Whateley)
- 物語の中心となる人物。母はラヴィニア、父は不明。
山羊を思わせる異様かつ不快な風貌で、誕生後は異常な速度で成長。生後7ヶ月で歩き、11ヶ月で言葉を喋り、10歳の頃には大人と変わらない体格に育つ。犬を始めとした獣に嫌われやすく、自衛のために拳銃を持ち歩いていた。
祖父の蔵書や取り寄せた書物を読み漁り、信じがたい程の博識を誇る。ミスカトニック大学図書館に通い、様々な稀覯書に通暁するが、『ネクロノミコン』の閲覧をアーミテッジ博士に妨害されたのが原因で、悲劇的な結末を迎える。しかしその正体は…… - 老ウェイトリー(Old Whateley)
- ウィルバーの祖父、ラヴィニアの父。ダンウィッチ村でも古い家柄だが半ば狂っており、人付き合いは悪かった。黒魔術を使うと噂され、奇怪かつ冒涜的な書物を収集する一方、自宅の「増築」を続けていた。老衰で死去するが、死に際に奇怪な遺言を残す。
- ラヴィニア・ウェイトリー(Lavinia Whateley)
- ウィルバーの母、老ウェイトリーの一人娘。知恵遅れ気味の醜い女。白子(先天性白皮症)で肌も髪も幽霊のように白く、眼は病的なピンク色。また左右の手の長さが違う不具だった。
35歳にしてウィルバーを産んだが、その父親については語る事がなかった。我が子の成長につれて傷が絶えない身体となり、ある夜を境に行方不明となる。 - ヘンリー・アーミテッジ(Henry Armitage)
- ミスカトニック大学図書館長で、文学・哲学博士。数々の大学で学位を持つ博学の徒。
大学所蔵の『ネクロノミコン』の閲覧に来たウィルバーに不吉なものを感じ、手を回して閲覧を却下・妨害。図書館で起きた事件の後、ウィルバーの日記を解読してその目的を知り、惨劇を防ぐ為に仲間と共にダンウィッチ村に向かった。 - ウォーラン・ライス(Warren Rice)
フランシス・モーガン(Francis Morgan) - アーミテッジ教授の同僚。図書館で起きた事件の後、ダンウィッチ村に同行して怪異に立ち向かう。
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- 怪異を引き起こした元凶で、ウィルバーの双子の兄弟。ただしウィルバーよりも遥かに「父親」に似ている。
作中のとある台詞は新約聖書に出てくる言葉のパロディではないか?と言われることもある。
発音について
イギリス(英語)ではダニッチ。イギリスに実在する土地の名称もダニッチ。アメリカ(米語)ではダンウイッチ。
ただしラヴクラフトの住んでいたマサチューセッツ州は当時米語ではなく英語が使われており、ラヴクラフト自身も「ダニッチ」と呼んでいた可能性がある。つまり、どちらでも正しい。
参考までに、ラヴクラフティアンとしても知られる小説家・菊地秀行はアメリカにおいてクトゥルフ神話のコンベンションに参加した時、「ダニッチ」と発音していた所を指摘され、「ダン・ウィッチ」と丁寧に発音を修正された、と小説『邪神金融道』の後書きにて記している。
ニコニコ動画におけるダンウィッチの怪
主として「もっと崇拝されるべき」タグや「クトゥルフ」タグのつく動画において、モチーフとして恐怖の根源、蕃神たる『ヨグ=ソトース』が取り扱われる。
大抵の場合、動画視聴者はSANチェックを求められるか、SAN値直葬される。
その他
クトゥルフ神話TRPGのサプリメント「ダニッチの怪」は、本作を踏まえてダンウィッチ村をセッションの舞台として再現している。
ダンウィッチ村の住人、住居、怪物などがデータ化されており、特に村と周辺地域の地図はかなり細かい。複数のシナリオも収録されており、他にもダンウィッチ村でのオリジナルシナリオを作成する一助となるだろう。勿論資料としても内容が充実しており、読物としても楽しい。
本作を映像化した作品としては、1970年、「B級映画の帝王」ことロジャー・コーマン製作総指揮により、映画『The Dunwich Horror(邦題『ダンウィッチの怪』)』がある。
だが「(製作費が)安い(撮影が)早い(製作費の回収率が)美味い」の三拍子揃ったコーマン御大の作品らしく、ものの見事にだいぶアレな仕上がりとなっている。あげく日本語版字幕ではヨグ=ソトースの名前を間違えている体たらく。
また「透明な怪物」が次々と村人を襲うくだりは光学処理で激しく画面を明滅させてポケモンショックでごまかされている。しかも、どう見ても村人が悲鳴を上げてばったばったと倒れるだけだったりする。凄惨な恐怖描写を期待したラヴクラフティアンは十中八九怒るだろう。
だが映画としては一応の体裁が整っており、特にオープニングのアニメーションはなかなかの出来。またオチもしっかり後味の悪い感じで、言うほど駄作ではない……はず。
またウィルバーがイケメンで、女性司書をいい雰囲気に持ち込んでネクロノミコンを手に入れるべく画策したり、生贄の祭壇に捧げられた女性司書がえっちな黒ローブを着せられて身悶えて喘いだりと、この辺り御大は大衆の好みをよくご存じである。
また2007年に劇場公開された『H・P・ラヴクラフトのダニッチ・ホラー』も挙げられる。
「家の中の絵」「フェスティヴァル(原作『魔宴』)」と並び、「画ニメ」と称したストップモーションアニメで恐怖の世界を描いている。
水木しげるが1962年に発表した長編漫画『地底の足音』は『ダンウィッチの怪』を翻案した作品で、舞台を日本に置き換えている他はかなり原典に忠実な内容である。この為クトゥルフ神話関連の書籍として扱われる事もある。
鳥取砂丘から少し道を間違えた先にある辺境の村・八つ目村に迷い込んだ鳥取大学の大学生・青山が、「妖術使い」と噂される足立文造と、その孫・蛇助の存在を知り、民俗学教授の白井博士に足立家の奇怪な実態を語る。博士はそこに恐るべき妖怪「ヨーグルト」の存在を見出し、これを退治する為に立ち向かう。
忌まわしい惨劇の舞台となった事もあり、後続のホラー作品にもたびたび登場する。
多くはオマージュであったり名前だけだったりとさまざま。
- ルチオ・フルチのホラー映画『地獄の門』では、物語の舞台として「ダンウィッチ」という町が登場する。地図にも乗っていない小さなこの町で神父が自殺したのをきっかけに、次々と恐ろしい事件が起きるというもの。
魔導書が登場するので「さてはネクロノミコン!?」と期待したら実は「エノク書」で視聴者が脱力するのは恒例。またフルチと言えば脚本をぶん投げてどろどろぐちゃぐちゃなグロ描写を優先する監督なので、視聴には注意。ぶっちゃけラストはトマトをブン投げてもいい。でも好き。 - ホラー作家・田中啓文の小説『邪宗門伝来秘史(序)』(創元推理文庫『秘神界 歴史編』所収)にも、形を変えてダンウィッチが登場している。
あらすじは、キリスト教を伝える為に日本へ渡る途上の海域で海魔に遭遇、取り込まれて「恩寵」を賜ったフランシスコ・ザビエルが、キリスト教ではなくクトゥルフの教義を日本に広めようとする、というぶっとんだ物語。この中でザビエル一行は「主なる神」を「大日(ダニチ)」と称し、大日如来と照らし合わせて日本人が教義を理解できるように説いた。他にもダゴンやハイドラが祈りの言葉に登場するなど、外連味のある内容となっている。 - 核戦争後の荒廃した世界を生き抜くRPG『Fallout3』には「ダンウィッチビル」なる廃墟が登場。
薄暗い内部にはフェラルグールと呼ばれる怪物がウヨウヨしており、そこで発見できる記録媒体を集めるうち、記録媒体に日記を綴っていた人間が次第に狂気に陥っていくさまが見られる。またホラーテイストな演出が多く、初見でビクビクしながら攻略したプレイヤーは多い。
続編『Fallout4』にも採掘場「ダンウィッチ・ボーラー」が存在し、負けず劣らず恐ろしい内容となっている。また「ピックマン・ギャラリー」やDLC「Far Harbor」など、何気にクトゥルフ神話を元ネタとするロケーションは多い。
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関連項目
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