概要
チェコ語は、インド・ヨーロッパ語族(印欧語族)のスラヴ語派の西スラヴ語群に属する言語である。チェコ共和国の公用語であるほか、欧州連合(EU)の公用語の一つともされている。スラヴ系なので、ロシア語などに近いが、文字はラテン文字(ラテン・アルファベット)を使用する。母語とする人の数は約1,200万人とされる。
チェコとスロヴァキア語とは殆どそっくりであるため、ある程度慣れれば互いの言葉が理解できるとされる。ただし、 ř (巻き舌のrと同時にジュの発音)の音はチェコ語にしか存在しない。
アルファベット
チェコ語には次の42のアルファベットが存在する。「文字名」は、短母音の場合は伸ばして読み、長母音の場合はドロウヘー(dlouhé, 「長い」)を前置、特殊記号付き(後述)はス・~(s - 「~が付いた」)を後置し、子音はエ(e)を前置かエー(é)を後置する。以上が原則で、例外は欄内および註釈を参照。「発音」は、日本語のローマ字表記を基準に説明する。 * 付きは外来語用の文字を示す。
文字 | 文字名 | 発音 | |
A | a | アー | a (伸ばさない) |
Á | á | ドロウヘー・アー | â (伸ばす) |
B | b | ベー | b |
C | c | ツェー | ts |
Č | č | チェー | ch |
D | d | デー | d |
Ď | ď | ギェー(一般には「ヂェー」) | d と g の中間 |
E | e | エー | e (伸ばさない) |
É | é | ドロウヘー・エー | ê (伸ばす) |
Ě | ě | イユェ(ije)、 エー・ス・ハーチュケム |
ye |
F | f | エフ | 英語の f |
G | g | ゲー | g |
H | h | ハー | h |
CH | ch | ッハー | k 寄りの h |
I | i | (ミェッケー・)イー | i (伸ばさない) |
Í | í | ドロウヘー・(ミェッケー・)イー | î (伸ばす) |
J | j | イェー | y |
K | k | カー | k |
L | l | エル | l |
M | m | エム | m |
N | n | エヌ | 英語の n |
文字 | 読み | 発音 | |
Ň | ň | エニュ | ny |
O | o | オー | o (伸ばさない) |
Ó | ó | ドロウヘー・オー | ô (伸ばす) |
P | p | ペー | p |
Q | q | クヴェー | kv * |
R | r | エル | 巻き舌の r |
Ř | ř | エルシュ | [註釈を参照] |
S | s | エス | s |
Š | š | エシュ | sh |
T | t | テー | t |
Ť | ť | キェー(一般には「チェー」) | t と k の中間 |
U | u | ウー | u (伸ばさない) |
Ú | ú | ドロウヘー・オー、 ウー・ス・チャールコウ |
û (伸ばす) |
Ů | ů | ウー・ス・クロウシュケム | û (伸ばす) |
V | v | ヴェー | 英語の v |
W | w | ドヴォユィテー・ヴェー | 英語の v * |
X | x | イクス(iks) | 英語の ks * |
Y | y | イプシロン(ypsilon)、 クラートケー・トヴルデー・イー |
i (伸ばさない) |
Ý | ý | ドロウヘー・イプシロン、 ドロウヘー・トヴルデー・イー |
î (伸ばす) |
Z | z | ゼト(zet) | z |
Ž | ž | ジェト(žet) | j |
- CH はドイツ語の Buch (ブーッフ;本)の ch と同様の音であるが、日本語では意識的には発音されない音。例えばカ行を発音するイメージでハ行を出せば似たような音になる。
- Ď Ť も日本人には難易度が高い。舌先ではなく舌の中程を広めに口蓋に接触させ「ヅ」「ツ」を言おうとすると、「ヂュ」「チュ」とも「ギュ」「キュ」ともつかない割合近い音になる。
- E は日本語のエよりも口を横に広く開けてハッキリと発音する。
- I(měkké í 「軟らかいイ」)と í と Ě の前の子音は軟音化する(「ハーチェク」の節を参照)。
- I-Y(krátké tvrdé í 「短く硬いイ」), Í-Ý, Ú-Ů, V-W(dvojité vé 「ダブルのV」) はそれぞれ同音。また Q-KV, X-KS も同音である。
- R は他の子音に挟まれると母音のように振る舞う(音節を形成し、アクセントも置ける)。
- Ř は、巻き舌の r と日本語でいうところのジャ行を同時に発音するというエクストリームな音であるため、欧州の隣人たちにとっても、それどころか当のチェコ人にとっても厄介なようで、向こうの学校にはこの発音を習得するだけのために行われる授業があるとか。
特殊記号
チェコ語には「ハーチェク」「チャールカ」「クロウジェク」を用いた特殊な文字が使用される。
ハーチェク
ハーチェク(háček, 「小さなフック(ハーク hák)」)とは、アルファベットの文字の上に加えられる「 ˇ 」のことである。Č Ď Ň Ř Š Ť Ž (~・ス・ハーチュケム - s háčkem)は、それぞれ C D N R S T Z の軟音化(口腔内部の天井部分により広く舌を接近・接触させる)を意味する。また、母音の中でも E だけは Ě というハーチェク付きのバージョンがあり、これは i や í と同様に直前の子音が軟音であることを表す。
チャールカ
チャールカ(čárka, 「小さな線(チャーラ čára)」)とは、アルファベットの文字の上に加えられる「 ´ 」(いわゆる鋭アクセント記号)のことである。 6種類の母音 A I Y U E O に付けることで、いずれも長音であることを示す。なお Ú は外国語からの借用語以外では語頭か語根にしか現れない。これはかつての ú が二重母音オウ ou に変化し、やがて語頭と語根のものだけが再び単長母音ウーに戻ったことによる。
クロウジェク
クロウジェク(kloužek, 「小さな輪(クルフ kruh)」)とは、 U の上に加える「 ˚ 」のことである。この Ů (ウー・ス・クロウシュケム ú s kloužkem)は「ウー」と発音することになっている。 Ú と同じ読み方なのに違うアルファベットになっているのは、元々は一部の単語のオー ó の音が二重母音ウオ uo に変化し小書きの o が u の上に乗せられて、更に単長母音ウーに変化した、という歴史的経緯による。 ů は語頭には現れず、格変化では短い o に変化する。
簡単な挨拶など
- Dobré ráno! (ドブレー・ラーノ) おはようございます
- Dobrý den! (ドブリー・デン) こんにちは
- Dobrý večer! (ドブリー・ヴェチェル) こんばんは
- Ahoj! (アホイ) やあ、ハロー
- Dobrou noc! (ドブロウ・ノツ) おやすみなさい
- Děkuji! (ヂェクユィ) ありがとう
- Nashledanou! (ナスフレダノウ) さようなら
チェコの国歌
「我が故郷いずこ」
グデ・ドモフ・ムーイ
グデ・ドモフ・ムーイ グデ・ドモフ・ムーイ
Voda hučí po lučinách, bory šumí po skalinách,
ヴォダ・フチー・ポ・ルチーナ-ッフ ボリ・シュミー・ポ・スカリナーッフ
v sadě skví se jara květ, zemský ráj to na pohled,
フサギェ・スクヴィー・セ・ヤラ・クヴェトゥ・ゼムスキー・ラーイ・ト・ナ・ポフレトゥ
これこそが彼の美しき国、
ア・ト・イェ・タ・クラースナー・ゼムニェ
země česká, domov můj, země česká, domov můj.
ゼムニェ・チェスカー・ドモフ・ムーイ ゼムニェ・チェスカー・ドモフ・ムーイ
雑学
チェコ語は子音の頻度が高い言語である。木曜日は čtvrtek (チュトゥヴルテク、意味は「第四の週日」 というが、日本人が真似しようとすると chu-tu-vu-ru-te-ku みたいに無駄な母音が挟まってしまう場合が多い。母音を挟まないように発音の練習をしてみよう。
また、子音の多さを利用した Strč prst skrz krk. (喉に指を突っ込みなさい)という早口言葉みたいなものがある。 r を母音扱いにすることで「ストゥルチュ・プルストゥ・スクルス・クルク」と読んでみてもらいたい。
ハーチェクはチェコの宗教改革者であるヤン・フスによって広められたと云われている。おかげで「チュ」の音をドイツ語みたいに tsch と書かずに č で済ませることができる。エスペラントでもほぼ同じ技が使用されている。
ヤン・フスといえば、その処刑後にチェコで勃発した「フス戦争」も無視できない。そのフス戦争を題材にした漫画『乙女戦争 ディーヴチー・ヴァールカ』のタイトルもチェコ語の Dívčí válka (ヂーフチー・ヴァールカ)[1] に由来している。
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関連項目
脚注
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