チンチャンチョン(ching chang chong)とは中国人、もしくは東アジア人を呼ぶ言葉である。差別的な意図を持ってこの言葉を使う人、差別的な意図は持たずにこの言葉を使う人、双方が居る。しかし「どちらであってもこの言葉自体に差別的なニュアンスがあるのだ」と見なす人は少なくない。
チンチョン(ching chong)、チンチョンチャンチン(ching chong chang ching)など、細かい差異はあるものの、類似した言葉が世界各国で使用されている。
概要
アジア人を表現するフレーズとして使用される言葉である。北米・欧州・中東・アフリカ・オセアニア・カリブ海地域などに旅行した/滞在したアジア人からの「こういった言葉を投げかけられた」という体験談は数多く、おそらく地球上のほとんどの地域に広まっている。
明確に侮蔑や嘲笑の意図を持って使用されることも少なくない。ただし現地の住民の多くが、アジア人と見れば非常にカジュアルに、悪気なく挨拶がわりのようにこの言葉を投げかけてくる地域もあるとされる。つまり、住民たち自身は「アジア人さん」程度の意図であり「この言葉には嘲笑や蔑称的なニュアンスがある」と意識していないこともあるという。
下記のように語源としては中国語のみが由来であり、中国人を蔑視するフレーズとしてのものだったようだ。だがアジアから遠く離れた国々に住む人々にとってはアジア各国の細かい違いなどよくわからないしどうでもいいことであるようで、主に中国・日本・韓国・モンゴルなどの東アジアの国の人々に対して、あるいはさらに範囲を広げて東南アジア各国の人々に対しても使用されている。
要するに、意識的か無意識的かは問わず「私にとってお前の厳密な国籍はよくわからんし割とどうでもいいけど、それより私はお前の人種をネタにしたこの言葉知ってるよ!面白いよね!」といった表明であるとも言える。
歴史
明確な発祥や語源は不明であるが、おそらく中国語をよく知らない人間が中国語の会話を聴くと「チン」「チャン」「チョン」といった響きの言葉が多用されているように聴こえることに由来するのではないかと言われる。
日本人がアジア関連の文脈でこれらの言葉から想像するのはどちらかと言うと中国の苗字「陳」(チン)や「張」(チャン)、「鍾」(チョン)であろうが、これらはいずれも関係ない。前述のように、これらの用語を使っている人の多くはそんなアジア各国の細かい文化の違いなんて知らないしどうでもいい人々である。
1888年に出版された、"The counting-out rhymes of children: their antiquity, origin, and wide distribution: a study in folk-lore"という、子供が遊びで歌う歌詞に関して調査した書籍には、以下のように別の歌詞だった歌が、アメリカ西海岸各地で安価な労働力としての中国人労働者の存在が拡大するにつれて「Ching, Chong」(チンチョン)を含んだ中国人排斥のニュアンスがある歌に変化したという事例が紹介されている[1](引用文カッコ内の試訳は編集者)。
John says to John, (ジョンがジョンに言うことにゃ)
How much are your geese ? (ガチョウはいくら?)
John says to John, (ジョンがジョンに言うことにゃ)
Twenty cents a-piece. (一切れ20セントだよ)
John says to John, (ジョンがジョンに言うことにゃ)
That is too dear ! (そいつはボッタクリ!)
John says to John, (ジョンがジョンに言うことにゃ)
Get out of here ! (文句があるなら出てけ!)Under the influence of Chinese cheap labour on the Pacific coast, this rhyme is improved by boys brought up to believe the "Chinese must go," and the result is as follows :――
Ching, Chong, Chineeman, (チン・チョン・チャイニーマン)
How do you sell your fish ? (魚を売ってくれるかい?)
Ching, Chong, Chineeman, (チン・チョン・チャイニーマン)
Six bits a dish. (一皿75セントで [2])
Ching, Chong, Chineeman, (チン・チョン・チャイニーマン)
Oh! that is too dear ! (おやまあ、ボッタクリ!)
Ching, Chong, Chineeman, (チン・チョン・チャイニーマン)
Clear right out of here ! (イヤならとっとと消えな!)
そのため、少なくとも19世紀末には遡ることができることは疑いが無い。
1900年生まれの韓国系アメリカ人のメアリー・ペク・リーは自伝において、彼女の一家がアメリカに移民してから彼女が初めて学校に行った日(20世紀初頭と思われる)に、少女たちが彼女を囲んで回りながら
Ching Chong, Chinaman, (チン・チョン・チャイナマンが)
Sitting on a wall. (壁にもたれて座っていると)
Along came a white man, (白人男がやってきて)
And chopped his head off. (そのチャイナマンをクビにした)
と囃し立てる歌を歌って、それから一人一人が彼女を叩いたという思い出を記している[3](引用文カッコ内の試訳は編集者)。上記の「Ching, Chong, Chineeman, ...」の歌詞と似ている。また、メアリーは中国系ではなく韓国系であることから、当時から既に「中国人でない相手であっても、東アジア人と見れば区別なくこういった言葉で囃し立てられた」いうこともわかる。
このように、童謡が歌詞を微妙に変えつつ歌い継がれていったことが、世代や地域を超えてこの言葉が広まった一因となったのかもしれない。
2017年には、日本を代表するYouTuberのHIKAKIN氏が投稿した動画内で中国語(繁体字)での「哈囉」(ハロー)の読み方が分からず適当に音読したところ、響きが偶然「チェンチョン」となってしまい、中華圏のユーザーから非難が殺到した事例がある(HIKAKINは「適当に読むというのも良いことではないと思う」「もっと配慮が必要でした」と語り、謝罪した)。
関連リンク
- ハーフがあうイジメ「チン・チャン・チョン問題」 | ドイツ大使館 − Young Germany Japan
- アフリカの「チンチョンチャンチン」考|wolt|note
- 「チンチョン」考 1|satoshiw|note
- ドイツで受けた人種差別🇩🇪|Hika chu|note
- "差別"についての考察|Toshi|note
- 差別に遭遇し、指摘し、アフターフォローまでした話|倉田直子(オランダ在住ライター)|note
- チンチャンチョン|コータロー|note
- How 'Ching Chong' Became The Go-To Slur For Mocking East Asians : Code Switch : NPR
関連項目
脚注
- *The Counting-out Rhymes of Children: Their Antiquity, Origin, and Wide Distribution: a Study in Folk-Lore - Henry Carrington Bolton - Google ブックス
- *ここでの bit はビットコイン……ではなく、当時のアメリカ南部・南西部でスペインのレアル銀貨と等価に流通していた銀貨で、レートによる変動はあるが大体12.5セント=1/8ドルに相当。
ビット銀貨が廃止された現代でも、25セント硬貨(クォーター)を two bits と呼んだり、10セント硬貨(ダイム)を short bit と呼ぶこともあったりする。 - *Quiet Odyssey: A Pioneer Korean Woman in America - Mary Paik Lee - Google ブックス
- 3
- 0pt
- ページ番号: 5614724
- リビジョン番号: 3303173
- 編集内容についての説明/コメント: