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ツボカビ
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ツボカビ(英:Chytridium、羅:Chitridiomycota)とは、棲の微細な菌の一群である。カエルツボカビ症で有名だが、多様な生態をもつグループである。

概要

ツボカビは、その名のとおりのような形状の遊走子嚢を形成する、原始的とされる菌類。「遊走子」とは棲の植物菌類などが繁殖する際に造る毛が生えた細胞で、すごく雑にいえば「泳ぐ胞子」。ツボカビでは遊走子嚢から遊走子を放出する時に嚢が破裂するのではなく、や徳利のような開口部を形成して1個ずつ持続的に放出する。ツボカビの遊走子は毛が遊泳方向の後方に1本だけ生じるのが特徴で、生物で同様の特徴を持つ細胞動物精子くらいである。この共通点が、真菌類と多細胞動物がオピストコンタという同じグループに分類される根拠のひとつである

ツボカビの菌体は1個~少数の細胞で形成され、細胞表面はキチン質の細胞で覆われている。この単細胞全体がそのまま遊走子嚢になるものが標準的であり、特に小の種では遊走子嚢が宿細胞内でそのまま成長する。ただし、較的大の種では遊走子嚢の一部から細胞分裂して仮菌糸と呼ばれる細い枝を出し、宿からの栄養吸収に用いたり、一部では仮菌糸分枝から新たな遊走子嚢を出芽する種類もある。なお、遊走子には細胞く、遊走子が宿に付着して発芽した時に細胞が形成される。

ツボカビは遊走子が泳ぐのに液体のが必要なので、基本的に棲である。その上で、何故か環境に生息するツボカビは少なく、現在発見されている大半の種が淡環境に生息する。また、ツボカビはセルロース・キチン質・クチクラのような硬質有機物分解力に優れる種が多く、多くの生息環境分解者として生態系内に存在感を発揮する。

カエルツボカビ症

ツボカビが関与する事で、恐らく最も有名なもの。カエルツボカビ(羅:Batrachochytrium dendrobatidis)は両生類の体表を覆う薄いクチクラ層に寄生するツボカビの一種で、1998年パナマで大量死したヤドクガエル死体から発見された。この両生類の大量死は20世紀末世界中で報告され、カエルツボカビが単離された際にはオーストラリアでも別種のカエルに同じカエルツボカビが感染して大量死を起こしていることが確認された。

カエルツボカビによる両生類の大量死は2024年現在でも世界各地、とりわけ中南米ヨーロッパオーストラリアで深刻な被害を及ぼしている。カエルツボカビはヤドクガエルから新発見されたが、両生類であればカエル以外のサンショウウオやアシナシイモリ仲間にも広く感染して症状を起こす。その症状は皮膚組織の破損による皮膚呼吸の阻ミネラル成分の漏出などであり、症状が進行するとミネラル不足による心不全により死亡するようである。通常、感染から2~5週間で死亡することが多いが、特に症状進行がい場合は4~5日で死亡に至ることもある。カエルツボカビが宿に感染してから遊走子を放出するまでの期間は、概ね4~5日とされる。

他方、ヨーロッパにおけるサンショウウオ大量死の死体から同属の新種イモリツボカビ(羅:Batrachochytrium salamandrivorans)が2013年に確認された。こちらはサンショウウオの仲間にのみ寄生するツボカビで、オランダなどでファイアサラマンダーに大きな被害を与えた。

なお、カエルツボカビ属は両生類に寄生すると致死的な病原性を発揮するが、クチクラであればヘビの鱗や羽毛などを栄養に繁殖することも可である。また、甲殻類のキチン質も栄養とすることが可で、ザリガニの表面にカエルツボカビが付着して感染拡大を招いたと疑われる事例もある模様。

このように世界中の両生類絶滅または絶滅危惧に追い込む大量死に至らしめるカエルツボカビ属だが、こと日本では今のところ劇的な病原性を発揮する事態は生じていない。実は、カエルツボカビ属は日本朝鮮半島を含む極東アジアが原産地だと判明しており、当地の在来種には既に抵抗力がある模様。カエルツボカビは朝鮮半島が原産地で1950年代の朝鮮戦争をきっかけに世界各地に拡散したと推測されている。イモリツボカビの原産地については研究途上だが、日本産のアカハイモリ自然宿補とされている。なお、何故か北米原産のウシガエル南アフリカ原産のアフリカツメガエルもカエルツボカビに対して耐性があるらしい。

湖沼での分解者

ツボカビ類は広く動植物に寄生、あるいは死骸に腐生する菌類であり、その中でも藻類や珪藻のような微生物サイズの藻類に寄生するものが最も多い。陸上環境において、このような微生物藻類はの溜まった、沼、池といった沼、あるいは太いの下流域、更に意外な環境として氷河の中などに生息する。そのあらゆる環境において、ツボカビ類が藻類に寄生すると知られている。

通常の食物連鎖では、生産者である植物を下位消費者である動物が食べ、その動物を上位消費者である動物が食べる。沼などの淡環境において下位消費者の代表種はミジンコ仲間であるが、実はミジンコは生産者である微生物藻類をほとんど食べられない。淡の微生物藻類はサイズが意外と大きく、更にセルロースガラス質の強固な細胞を形成して身を覆うので、ミジンコの小さな口と単純な消化管では栄養吸収が難しい。

では、下位消費者であるミジンコは、微生物藻類を食べずに何を食べて下位消費者のニッチを確立しているのか?その答えこそが、ツボカビの遊走子である。微生物藻類が合成によって生産した有機物をツボカビが寄生して横取りし、遊走子をバラ撒くことでミジンコに餌を提供するのである。微生物藻類→ツボカビ→ミジンコという食物連鎖が作動して、はじめて淡環境食物連鎖完成することから、ツボカビの存在は非常に重要である。

嫌気性ツボカビ類

食物連鎖において、植物動物が食べることは非常に重要な要素である。しかし、前項で述べたミジンコの一例があるように、実は動物は自力で植物分解して栄養を得ることが非常に苦手である。このため、動物植物分解する力に優れた菌類を消化管に共生させて植物分解を代行させるのが一般的である。そう、つまり植物分解に優れる菌類として、そのような共生菌類の中にツボカビの仲間が非常に多く含まれているのである。

動物の消化管内では動物に細かく咀嚼された植物=有機物が常に供給され、消化管の表面にある動物細胞も呼吸するので酸素濃度が非常に薄くなる。このため、共生菌類仲間酸素呼吸で生存できるものに限られる。ツボカビ類の中でも「ネオカリマスチクス綱(羅:Neocallimastigomycetes)」と名付けられたグループは、酸素状態に適応した生態をしており現世の大気くらい酸素濃度が濃いと死んでしまう絶対嫌気性生物である。他のツボカビ類は絶対好気性菌で酸素生存に必須なのに、ネオカリマスチクスの仲間だけは逆に絶対嫌気性であること、遊走子の毛が多くの種で十数本と数が多いこと、遊走子を撒く際に遊走子嚢を破裂させる種が多いなど、他のツボカビ類とは異なる特徴も多く持つが、遺伝子解析によりツボカビ門の中の綱として区分されるのが流である。

嫌気性ツボカビの仲間であるネオカリマスチクス綱は、鹿キリンカバラクダサイマーラカンガルーイグアナリクガメなど植食動物の消化管内から数多く発見される。特に鹿などの反動物においては第一ルーメンでの生息数が多いことからルーメン菌という俗称でも呼ばれる。動物の消化サイクルに適応する為に生活サイクルが非常にく、遊走子が出芽してから次の遊走子を放出するまでのサイクルが24~32時間であり、カエルツボカビ類の4~5日間よりも圧倒的にい。大気の酸素濃度で死ぬ絶対嫌気性生物であるが、休眠細胞を形成し動物から出た有酸素環境でも耐えることができる。この休眠細胞をまた動物が食べると、消化管内で再び出芽して繁殖する。

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