![]() |
この記事は第376回のオススメ記事に選ばれました! よりニコニコできるような記事に編集していきましょう |
![]() |
医学記事 医療や健康に関する相談は各医療機関へ |
テトロドトキシン(Tetrodotoxin)とは、フグの毒として有名な毒素である。略称はTTX。
概要
化学に詳しくない人でも「テトロドトキシン」と聞けば「フグの(超ヤバイ)毒」と思いつくくらいに有名な毒素。何しろその名前の由来からして、「四枚の歯を持つ者」を意味するフグ科の学名“Tetraodontidae”+「毒」を表す“Toxin”であるくらいである。
テトロドトキシン(以下、基本的にTTXと表記する)は、アルカロイド系の毒素に分類される。ここで「あれ? アルカロイドって植物の毒じゃね?」と思った方は色々と正しい。そう、こいつは元々はフグ(などの動物)が体内で合成している毒素ではないのだ。
TTXを合成しているのは海中の細菌類(食中毒の元凶として有名なビブリオ菌の仲間など)であり、これが動物プランクトンに捕食される ⇒ そのプランクトンが生物に捕食される ⇒ さらにその生物がフグに捕食される、という流れでフグの体内に取り込まれ、濃縮されていく(生物濃縮)。逆に言えばこの“原因菌”が無い場所でフグを卵の頃から育てれば、無毒なフグを育てることも可能であるが、その環境でのフグは自傷行為をすることがあり、商品価値が下がるため商業化は進んでいない。
ちなみにTTXの研究が最も進んでいるのは、フグを食べる習慣のある日本らしい(たとえば命名者は、世界で初めてTTXの単離に成功、その鎮痛効果などを実証した田原良純・薬学博士(東京帝大)である)。
TTXはどうやって毒性を発揮するのか?
TTXの作用は「体内のナトリウムチャネルの動作を邪魔する」というものである。より詳しく書けば、「ナトリウムチャネルを阻害することで活動電位の発生と神経興奮の伝導を抑制する」という挙動をする。
ナトリウムチャネルは言ってしまえば生物の筋肉に神経からの動作指令を送る「端子」のようなものであり、こいつの動きがおかしくなると当然、筋肉に正しい指令が行かなくなって動かせなくなってしまう。これが手足の筋肉だけならともかく、ナトリウムチャネルにイタズラをするTTXが循環器系(心臓の筋肉など)や呼吸器系まで侵した日には呼吸も血液循環もできなくなって生命活動としてアウトである。
つまり要するに、TTXは言ってしまえば「神経の端子を汚して使い物にならなくしてしまう」と思えばいいだろう。そんなものを保有してフグ自身は大丈夫なのかと疑問に思うかもしれないが、フグはこの端子の形がヒトのものと異なるため、TTXの影響をあまり受けずに生きていけるのだ。むしろ、TTXによってフグの様態が安定するといった研究結果もある。
TTXを分解・除去する方法はあるのか?
結論から言ってしまう。
無い。
TTXは300度以上に加熱しても分解されないほど熱に強いので、加熱による調理では「さすがはゴッグテトロドトキシンだなんともないぜ」なのである。このため、「修行を積み資格を持った調理師が、有毒部分を手作業で取り除く以外にTTXを回避する方法はない」のが実態である。さらに体内に入った場合には、特効薬も拮抗療法(毒物の働きをさらに邪魔する物質・方法を使った治療)も無いために、不幸にもTTXによる中毒(麻痺症状)が発生した場合には「人工呼吸をして、何とか持ちこたえる」くらいしか手段はない。だいたい10時間持ちこたえれれば生き残る。「砂の中に埋まればTTXを体外に排出できる」というのは迷信である。トリカブトに含まれる毒であるアコニチンはTTXとは逆に「体内のナトリウムチャネルの動作を活性化させる」作用があるため、TTXに対して拮抗作用を持つが、TTXの方が半減期が短いため時間が経つと今度はアコニチンで死に至ることとなり、解毒には使えない。かつて発生したトリカブト保険金殺人事件はこの性質を利用したものである
ここで、石川県民の皆様からおそらく「あれ? 石川県にはフグの卵巣のぬか漬けって名物があるけど、あれってフグの中でも一番TTXの濃い場所の一つの卵巣を使っているぞ? さっき“TTXを取り除く方法は無い”って言ったのに、何でだ?」という鋭いツッコミが入ってくるであろうが……。あれは、まだ「ぬか漬けごときでTTXが抜ける理由そのものが解明されていない」のである。何故ぬか漬けでTTXが抜けるのかを解明したら、確実に色々と賞を取れる。
こいつ、人間の役には立たないのか?
とまあ、「物騒な毒物の代表格」みたいなTTXではあるが、人間の役に立たないというわけではない。実はこのTTX、強力な鎮痛剤としても効果を発揮するのだ(もちろん、投与しすぎるとアウトなので厳密な管理が必要だが)。
作用が強力なだけでなく、モルヒネなどと違って習慣性(依存性)がないという特徴を持っているのもポイント。
TTXを保有する生物
テトロドトキシン=フグというイメージが強いが、実際はフグの専売特許というわけでもない(そもそも前述した通り、TTXを合成しているのは海水中の細菌類である)。
- 真正細菌(ビブリオ属、シュードモナス属など)
※TTXの生産者。いわゆる「だいたいこいつのせい」「全ての元凶の元凶」。 - フグ
- イモリ(アカハライモリ、カリフォルニアイモリなど)
- カエル(一部の毒ガエルが保有している場合がある)
- タコ(ヒョウモンダコ)
- カニ(スベスベマンジュウガニなど)
- ヒトデ(モミジガイ)
- ヤムシ
- ヒラムシ
- ヒモムシ
- カブトガニ
関連動画
関連項目
親記事
子記事
- なし
兄弟記事
- 15
- 0pt