テロ等準備罪とは、2017年6月15日に国会で可決された法案である。正式名称は「組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案」である。
前身を共謀罪と言い、以前の法案にあった「組織的犯罪集団」という概念についての解釈を明文化し、対象となる犯罪を677から277に減らして、現在のテロ等準備罪法案となった。
条文
(テロリズム集団その他の組織的犯罪集団による実行準備行為を伴う重大犯罪遂行の計画)
第六条の二
次の各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団(団体のうち、その結合関係の基礎としての共同の目的が別表第三に掲げる罪を実行することにあるものをいう。次項において同じ。)の団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を二人以上で計画した者は、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
一
別表第四に掲げる罪のうち、死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められているもの五年以下の懲役又は禁錮
二
別表第四に掲げる罪のうち、長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められているもの二年以下の懲役又は禁錮2 前項各号に掲げる罪に当たる行為で、テロリズム集団その他の組織的犯罪集団に不正権益を得させ、又はテロリズム集団その他の組織的犯罪集団の不正権益を維持し、若しくは拡大する目的で行われるものの遂行を二人以上で計画した者も、その計画をした者のいずれかによりその計画に基づき資金又は物品の手配、関係場所の下見その他の計画をした犯罪を実行するための準備行為が行われたときは、同項と同様とする。
3 別表第四に掲げる罪のうち告訴がなければ公訴を提起することができないものに係る前二項の罪は、告訴がなければ公訴を提起することができない。
4 第一項及び第二項の罪に係る事件についての刑事訴訟法(昭和二十三年法律第百三十一号)第百九十八条第一項の規定による取調べその他の捜査を行うに当たっては、その適正の確保に十分に配慮しなければならない。
以上条文は、組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案(法務省案
)に、衆議院第193回国会の修正案
を加えたものである。別表については、法務省案新旧対照条文の9ページ以下を参照。
概要
現在の日本の法律の多くでは謙抑性の原則から発生した犯罪について処罰することが前提となっている。
これを、対象となる犯罪については準備段階で処罰できるようにするのがテロ等準備罪である。(注1)
例を挙げれば、
- 犯罪組織が爆弾テロや毒ガステロを計画し
- 計画書を作成したり、現場の下見や爆弾や毒ガスを作るための資金を集めたり、必要となる材料や道具の調達を行う等の準備を行い
- 実際に爆弾や毒ガスを入手し(爆発物取締罰則違反、毒物及び劇物取締法違反等の犯罪が成立)
- 現場において使用し、人が死ぬ、建物が破壊される等の被害が発生する
という犯罪が行われたとして、殺人罪等の凶悪犯罪が成立するのは4の段階であるが、
(3でも犯罪は成立するが、殺人罪等よりは格段に軽い罪となってしまう)
これを2の段階で取り締まり、未然に処罰できるようにするのがテロ等準備罪である。
犯罪を実行していなくても処罰できるというのは濫用されれば非常に強力な権限となるので処罰対象となる構成要件は非常に厳格に定められており、
・組織的犯罪集団に所属しその活動として、
・二人以上で対象の罪を計画し、
・その計画した者らが計画に基づき「資金の準備」「現場の下見」等の犯罪実行のための準備行為を行われた時
が条件となっている。
よって、「話し合うことが罪になる」「戦争に反対するデモをしたら犯罪として処罰される」というようなことは完全なるウソであるのだが、それを理由として反対運動も起こっている。
あれ?特定秘密保護法や平和安全法制の時にも同じことを聞いたような・・・
答弁では組織的犯罪集団かどうかの判断は捜査機関に任せられているとしている。
あまりに明確に組織的犯罪集団を定義してしまうと、定めるべき犯罪者がその抜け穴を突いてくる可能性が高いことが指摘されている。
テロ対策のための条約は既に存在し、日本も締結していることを外務省は発表しているが、組織的犯罪処罰法改正案は国際的な犯罪を取り締まるための国際組織犯罪防止条約(TOC条約)に加盟するために必要な法律であり、2020年の東京オリンピックに向けて、同条約に加盟するために成立を目指しているとしている。
注1.未遂犯、中止犯は「犯罪の実行に着手」することが必要であるので、この法律の処罰対象とは意味合いが異なる。
国際組織犯罪防止条約(TOC条約)
国際組織犯罪防止条約(TOC条約)とは、組織的な国際犯罪集団への参加の犯罪化や犯罪人引渡しについて定めた国際条約であり、2017年6月現在国連加盟国193国中、187カ国・地域が締結している。未締結なのは(日本を含めて)11か国のみであった。
締結している全ての国では、テロ等準備罪のように組織犯罪や犯罪の準備行為を取り締まる法律が存在する。
この条約に日本は2000年署名し、2003年国会は承認したが、締結できていなかった。
締結できていない国は、日本の他にはイラン、南スーダン、ソマリア等のあまり治安の良くない国が多い。
日本が同条約を締結できないのは、日本の法律が条約を結ぶための以下の条件を満たしていないためと法務省は説明している。
1.締約国は、次の一方又は双方の行為を犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
(1) 物質的利益を得ることに関連する目的のため重大な犯罪を行うことを一又は二以上の者と合意することであって、国内法上求められるときは、その合意の参加者の一人による当該合意の内容を推進するための行為を伴い又は組織的な犯罪集団が関与するもの
(2) 組織的な犯罪集団の目的等を認識しながら、組織的な犯罪集団の犯罪活動等に積極的に参加する個人の行為2.締約国は、組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し、若しくは援助し又はこれについて相談することを犯罪とするため、必要な立法その他の措置をとる。
これらはテロ等準備罪に相当する、あるいはそれ以上に厳しく組織的犯罪の準備行為を取り締まる法律が加盟国に存在することを意味しているが、日本はこれまで日本共産党等や報道機関、その支持者、市民団体等の根強い反対運動により犯罪の取り締まりに関する法整備が遅れ、これらを満たすことができなかった。
以上の理由から日本は同条約を締結することができない期間が続いていたが、
2010年代に入り、中東におけるテロ組織の台頭や、北朝鮮等の極東アジア情勢の悪化が進み、更に2020年東京オリンピックの開催が決定したことから、国際的な安全、及び日本国民の生命身体財産を確保するため、組織的犯罪と犯罪の準備行為を取り締まる法律を整備して条約を締結することが急務となったため、同法を政府は推進している。
ただし、条約の締結自体は国会の承認を得ている以上は、現状でも日本国憲法第73条にある内閣の権限で締結することができる。その場合、国際組織犯罪防止条約の第36条3項、4項により、内閣は批准の手続きを採ることになる。
国際組織犯罪防止条約が求めるのは、性質上国際的(条約第3条)なものである。国際的かどうかの判断は締結国の立法機関の判断に任せられる。
政府の説明では、締結前に立法措置が必要であるかのような内容が含まれているが、条約自体には締約国は義務を負う(条約第5条)とあるだけなので、締結後に立法しても良いという考え方もある。
前後どちらにせよ、組織的犯罪を実行前に取り締まるための法律の立法は義務と解される。
2017年6月の本法案可決により、日本は188番目のTOC条約締結国家となった。
反対運動
この法律に対しても、平和安全法制や特定秘密保護法の時と同じような反対運動が展開された。
民進党は、テロ等準備罪が無くてもTOC条約に加盟できると述べた。
しかし、民進党はかつて与党民主党時代、同様の法律無くしてTOC条約に加盟すると公約を掲げたことがあるが、加盟することができなかった過去がある。
また、民進党の議員はこの法律が成立した場合、国外に亡命しなければならないと語った。
その亡命先にもテロ等準備罪以上に厳しい法律があるはずだが・・・
日本共産党の議員は、
同僚と一杯やりながら『あの上司ムカつくね、今度やっつけてやろう』と合意したら罪になる
のがテロ等準備罪であると述べた。その本人と同僚は犯罪組織に所属しているということだろうか。
山本太郎は、
「私とあなたが何かについて話し合う。その時点で共謀です。あいつ、むかつくな。殴ってやろうか。共謀成立、相談成立です」
「酒に酔ったり、ストレスを抱えたりしている人が思わず口走ってしまうような言葉が、(共謀罪の対象になる)可能性があるんです。隣の車、またうちの家の駐車場にとめている。これ、頭きますよね。『頭くるな、あいつ。フロントガラス、割ってやろうか』でも、この時点で犯罪ですか。日曜大工の店に行って、トンカチを買ったと。これ、準備とされてしまう恐れもあるんです。非常に恐ろしい話なんです」
と述べ、テロ等準備罪に反対した。
どう解釈しても前記の構成要件を満たしていないように見えるが、これらの例え話の登場人物は全員犯罪組織に所属していて、話された相手も具体的準備行動を取ったということだろうか。
沖縄では、基地外活動で、フェンスを破ったりフェンスにチラシを張り付けたり、公道上に座り込んだりバリケードを作ったり、警察官を殴って警備を突破したりすることが犯罪になってしまうことを懸念し、テロ等準備罪に反対する声が上がった。
ちなみにそれらはテロ等準備罪が無くてもすでに犯罪である。
国会前では、「話し合うことが罪になる、共謀罪を許すな」等のプラカードを掲げた市民団体がデモを行った。
同法は日本を監視社会にするものであり、現代の治安維持法であり、暗黒社会を作るもので、一般市民を抑圧し、戦争をするための法律であり、ナチスそのものであるらしい。
つまり、TOCに加盟している187カ国・地域はすべて監視社会の国で戦争を目指しているナチスということになる。
このように、非常に程度の低い反対運動が展開されているが、
日本維新の会は反対意見を述べつつも、同法を取り調べ可視化の対象とするように修正するよう求め、与党側もそれに応じる等、真面目な議論も行われている。
その採決の際に野党の3議員がルール違反の投票を行い投票自体を無効とされた。また国会で政治的目的を達成するために暴力等の手段を行使すること、即ちテロ乱闘騒ぎを野党が起こす可能性が懸念されるした(関連動画参照)。
世論調査では、各新聞社ともに安定して賛成派が反対派を上回っている。
ニコニコ動画のタグにおいて
ニコニコ動画においては、以下のような動画にこのタグがついていることがある。
このうち2番目は「武器商人」、3番目は「犯行予告」も併用される。どれも今後特定ジャンルの動画が増えることを意図した動画であり、それを「組織的犯罪」に見立ててタグがつけられている。
関連動画
関連リンク
- 法務省:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案
- 同上:テロ等準備罪について
- 同上:「組織的な犯罪の共謀罪」の創設が条約上の義務であることについて
- 衆議院第193回国会:組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律等の一部を改正する法律案に対する修正案
- 外務省:国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約について
- 外務省翻訳(PDF):国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約
(5条以下参照)
- 日本弁護士連合会: 日弁連は共謀罪に反対します(共謀罪法案対策本部)
- 共謀罪法案の提出に反対する刑事法研究者の声明
関連項目
- テロ/2020年東京オリンピック
- 左翼/極左暴力集団/日本赤軍/中核派/連合赤軍/日本共産党
- 右翼/暴力団
- ヘリを奪ってチラシ撒くのは大した犯罪じゃありません(民進党の意見)
- 平和安全法制/特定秘密保護法(同種の反対運動が展開)
- 組織的犯罪処罰法
- 刑法
- 法律に関する記事の一覧
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