デイビー・クロケットとは、アメリカ合衆国が開発した世界最小・最弱の核兵器である。
歴史
冷戦最盛期、ヨーロッパに駐留軍を置いていたアメリカはかつての独ソ戦で見られたソ連陸軍の総進撃に恐れをなしていた。これをなんとか食い止めるためには抑止力として保有し、“使わないことに意義のある”戦略核兵器よりも、戦場で戦力として使用できる核兵器・戦術核兵器を必要としていた。そんなわけでアメリカは短距離ミサイル、爆弾、砲弾、地雷など形態、威力もさまざまな戦術核兵器を開発していった。
ルパン三世曰く「原爆は小さく作るのが難しい」なぜなら原子爆弾に使用される核分裂物質は臨界質量と呼ばれる核分裂が連鎖反応を起こすために必要な最小限度の量が存在し、これにより原爆自体のサイズや威力の小ささの限度も決まってしまうからだ。戦術核兵器として小型で持ち運びやすく通常兵器と同様に使用でき、付近の味方を巻き込まない程度の低威力の核兵器を欲していたアメリカ陸軍はある男にその開発を依頼する。
その男の名はセオドア・ブリュースター・テイラー。この男、7歳のときからさまざまな爆薬を作って実験していて、成人後、広島で原爆が投下されたと知るやいてもたってもいられなくなり、母親が止めるのも聞かず、妻子を連れて核兵器開発の中心地ロスアラモス国立研究所に引っ越したという筋金入りの爆発オタクである。その後は核分裂型では最大級の500kt級原爆の開発に携わったが今度は逆に原爆の小型化という難問に挑むことになった訳である。
低出力の核実験は1957年頃から繰り返し行われたが、最初のうちは逆に100ktの強力な爆発になってしまったりして開発は困難を極めた。それでもなお繰り返し実験を行い、1961年にやっと核爆発の低威力化に成功。これにより重量わずか23kgの世界最小級の核弾頭W54が完成する。これを元に作った核砲弾がデイビー・クロケットである。
概要
デイビー・クロケットは核弾頭W54を砲弾に詰めた核砲弾である。口径120mmあるいは150mmの無反動砲の先端に装着して発射する。射程は120mm砲で2km。150mm砲で4km。核出力は……10〜20t。キロトンでは無い、トンだ。桁が違うのである。空中投下式の通常爆弾で最大のものが10tなので威力はその程度かあるいはその倍くらいか。爆発の範囲はそれほど大きいものではないが、爆発よりもむしろ核反応に伴う一次放射線による被害の方が大きく、爆心から400m以内の人間は確実に死亡するという。果たしてこんなもので津波のごとく押し寄せるソ連の機甲部隊に太刀打ちできるかどうかは分からないが、こんなものでも2100発も作られ、主に西ドイツに駐留する米軍に配備された。
デイビー・クロケットは大人一人が一抱えで運べるほど小さいが、内蔵されている核分裂物質プルトニウムの量自体は実は他の原爆と大差ない。先述した通り臨界質量による限度があるからだ。では、どうやって威力をここまで弱めることが出来たのか? 実は核分裂の効率をわざと落としていたのだ。原子爆弾は中央にある球形の核燃料を32個の爆縮レンズと呼ばれる起爆薬で取り囲んだ構造になっているが、爆縮レンズを起爆する32個の雷管の内、一個の点火タイミングが1ナノ秒でもずれるとフィズルと呼ばれる中途半端な核爆発になる。これを意図的に起こす事で低威力の核爆発を起こしていたのだ。内蔵されたプルトニウムをすべて反応しつくせば通常の原爆と同等の威力になる。実際デイビー・クロケットの核弾頭であるW54は10t〜1ktまで核出力を可変することが出来た。
その後冷戦は終結し、ソ連の驚異は消え去った。アメリカはヨーロッパにあるすべての戦術核兵器を撤廃し、デイビー・クロケットは結局一度も使用されないまますべて廃棄された。
アメリカのその他の小型核兵器
セオドア・ブリュースター・テイラーはデイビー・クロケット開発後もあふれる情熱を核兵器の小型化に捧げた。彼が次に取りかかったのは西側で標準的に使用されている155mm榴弾砲で発射可能な核砲弾だった。彼は1963年にW48という核砲弾を完成させる。…が、これは少々問題ありな代物だった。W48には長崎に投下された原爆ファットマンの8kgを超える13kgのプルトニウムを使用していたが、核出力はたったの72tしかなかった。小型化のためにはやはり核分裂の効率を落とさねばならなかったのである。プルトニウムが高価なため砲弾一発のお値段は125万ドルと法外なものだったが、それでも1060発生産された。アメリカはその後も155mm核砲弾の威力の強化、あるいは中性子爆弾化を試みたがうまくいかず、もたもたしている間に冷戦は終わってしまった。
メタルギアソリッド3
メタルギアソリッド3ではヴォルギン大佐がデイビー・クロケットを使ってソ連を攻撃し、米ソ間が険悪になるというシーンがある。この場面ではヴォルギン大佐はなんとヘリコプターに乗ったままデイビー・クロケットを手持ちで発射したのである! …実際のデイビー・クロケットの無反動砲は人の背丈以上もある代物で本来は車載か三脚に据え付けて使用するもので、とても肩で担いで撃てるものではないのである。おまけに砲後部からのバックファイアが凄まじいのでもし撃てたとしてもヘリコプターの方がただではすまないはず。なんというか、、凄まじいシーンである。
関連動画
関連項目
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