デジタルミレニアム著作権法(Digital Millennium Copyright Act/DMCA)とは、著作権保護のために制定されたアメリカ連邦法である。
概要
1998年に著作権法を改正する形で制定された連邦法。施行は2000年。
デジタル情報の盗用や不正な複製などの防止を目的としており、4つの改正法案を統合して作成されておりそれぞれ章で分けられている。
特に有名なのが2章で規定されているノーティスアンドテイクダウン手続(DMCAテイクダウン)である。
コンテンツプロバイダーに著作権侵害のあるコンテンツをアップロードされてしまった際に、法制定以前ではコンテンツプロバイダーの責任が曖昧になっていた。
動画サイトにアニメ本編が違法アップロードされたとしても、それはユーザーが勝手にやったことであり動画サイトがそうするよう頼んだわけではない。しかし、結果として動画サイトが違法アップロードされたアニメを広めているような形になってしまう。
こうした状況に対しDMCAは、著作権保持者がプロバイダーに著作権侵害が行われていることを通知(ノーティス)し、プロバイダーはそれを受けて即座に著作権侵害のあるコンテンツの取り下げ(テイクダウン)を行えばプロバイダーはこの著作権侵害において免責されると規定した。
後にコンテンツが著作権侵害でなかったと判明した場合はコンテンツの取り下げを行ったことによりアップロード者に損害が発生することになるが、DMCAではこちらの損害賠償からも免責されると規定している。
先に述べたアニメの例で言えば、権利元が違法アップロードがあると動画サイトに通知した際に即座にその動画を非公開にすれば動画サイトは責任を問われない。それは違法アップロードした奴が悪い。
また、愉快犯によって著作権侵害のない動画が非公開にされてしまったとしても、それを復旧すれば動画サイトは責任を問われない。それは愉快犯が悪い。
実際の運用としては、プロバイダーは著作権侵害の通知を受け付ける窓口を常に用意しておき、著作権者から削除申請を受けた時点でプロバイダーは当該事象について一切精査せずコンテンツを削除。その後、アップロード者にコンテンツが削除されたことを通知し、アップロード者からの申し立てを受け付ける。申し立てがあった場合はその申し立ての内容を申請者に送付し、申請者がアップロード者に対して訴訟を行えるようにする。しばらく様子を見て、訴訟が発生しなければ削除した内容を復活させる。こういった流れが一般的である。
日本での扱い
DMCAテイクダウンは日本では概ね「悪用されている」という文脈で語られることが多い。
どのベクトルからでも悪用できるという凶悪さを持ちながら、対抗策がほぼ無いことが問題をより大きくしている。
主な問題点を以下に挙げる。
申請者にとって不都合な情報を隠す目的で使用されることがある
DMCAテイクダウンを行うと当該ページをGoogleやBingの検索結果から除外させることができる。
これを悪用し、自身に不都合な情報を削除する目的でDMCA申請を行う例が後を絶たない。なお、大抵の場合は逆効果になる模様(ストライサンド効果)。
特に有名なのが求人サービスを運営するWantedlyが自社を批判するブログ記事に対してGoogle検索から除外するDMCA申請
を行ったケース。当該ブログ記事に掲載されていた代表取締役社長の写真を理由にDMCA申請を行っており、ブログ記事から写真が削除されたことでこの申請は無効化されている。
他にも太鼓の達人 譜面とか WikiがWikiHouseからwikiwikiに移転する際に、WikiHouse運営が移転作業へ妨害を行ったケースが挙げられる。この移転作業妨害への一環として新wikiに対してGoogle検索から除外するDMCA申請
が行われていた。こちらはWikiHouseが態度を軟化させたことで沈静化した。
このパターンに関しては申請先が実際に著作権違反を行っていることがしばしばある(トレパク検証wiki等)ため、悪用か否かの判断が難しいケースも多い。
申請者の本人確認が機能していない
申請や申し立てに際して住所氏名及びメールアドレスをプロバイダーに対して送信する必要があるが、この情報に対する審査はフォーマットに沿っているか否か程度のザルであることが大半である。
どのくらいザルかというと、同一のメールアドレスが複数の人物を名乗って申し立てを行ってもDMCAテイクダウンが通ったケースがある(申請者本人による謝罪文
)。
アップロード者がDMCAテイクダウンによって受けた損害に対しての免責がDMCAによって規定されているため「虚偽っぽいけど万が一この中の1個でも本物だったらマズいしとりあえず通しておこう」がプロバイダーにとっては最適行動なのである。そもそも申請は毎日膨大な量が行われているので、プロバイダーが申請を精査するコストをかけられるはずもなく申請を機械的にほぼ全て受け入れているというのが現状である。
申し立て内の個人情報が申請者に通知される
問題があれば訴訟を行うという前提で制定された法律のため、訴訟をスムーズに行うために申請内容と申し立て内容は互いに通知される。その中には先述の通り住所氏名が含まれる。
申請者の本人確認のザルさと合わせると、申請者のリスクをほぼ0に抑えながら、申し立て者へは活動休止か住所氏名をネットの海に放流するかの二者択一を強いることができる強力な攻撃手法となってしまっている。
顔出しが主流のアメリカならともかく、匿名で活動するネットユーザーが多い日本では致命傷になる可能性が非常に高い。代理人を立ててそちらに依頼してもらう方法もあるが、それには費用と時間がかかる。
インターネット上でオレ的ゲーム速報@刃の管理人であるjin115の住所氏名として出回っているものは氏のTwitterに対してこの手法を用いることで2018年に取得されたものである。
DMCAテイクダウンによって受けた損害は保証されない
申請の際にTorなどの匿名化ツールが使われていた場合に申請者を特定するのはほぼ不可能であり、かといってプロバイダーに対してはDMCAによって免責規定が存在しているためそちらに責任を求めることもできない。すなわち被害を受けても泣き寝入りするしかない。
悪意ある申請者の逮捕に至った例がないこともないのだが、アカウント凍結を盾にした金銭の要求が別途行われたケースなどであり、ただの凍結でプロバイダーがそこまで対応してくれるかは微妙なところである。
アップロードし直しで事実上無効化できる
著作権違反は消すと増えるのがネットの常である。
DMCA申請は特定のURLに対して行われるものであるため、基本的に上げ直しに対しては追加で申請を行ういたちごっこでしか対応できない。これはDMCAに限った話ではなく日本の法でも同様であるが、ここまで副作用が多い割にこの程度という肩透かし感は否めない。
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関連リンク
- Lumen
- DMCA申請の内容が保存されているWebサイト
- DMCA虚偽申請によるAUTOMATONツイッターアカウント凍結事件から早1年。同様の被害報告が相次ぐ昨今の動向を受け、当時の状況を振り返る
- Takedown Hall of Shame(テイクダウン 恥の殿堂)
関連項目
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