デンデラとは、
小説
斎藤カユは見知らぬ場所で目醒めた。
姥捨ての風習に従い、雪深い『お山』から極楽浄土へ旅立つつもりだったのだが。
そこはデンデラ。『村』に棄てられた五十人以上の女により、三十年の歳月をかけて秘かに作りあげられた共同体だった。
やがて老婆たちは、猛り狂った巨大な雌羆との対決を迫られる――。
生と死が絡み合い、螺旋を描く。あなたが未だ見たことのないアナザーワールド。
『遠野物語』の姥捨山伝説(正確にはそれを題材とした深沢七郎の小説『楢山節考』)と吉村昭『羆嵐』を悪魔合体させた、スーパーババア50人vs人喰い羆(+疫病)の死闘を描くサバイバルババア小説。なぜそのふたつを合体させようと思った。
内容を端的にまとめると、姥捨てを生き延び山中に老婆だけの共同体を作りあげ、村の男たちへの復讐を誓って戦闘訓練に励む、あまりにも逞しすぎるエクストリームババアどもが、羆に襲われたり謎の疫病に見舞われたりしながら次々と死んでいく話である。
ただし小説内のババアたちはいわゆる老人口調を一切使わないうえ、挿絵等のビジュアルイメージもないため、普通に読んでいると登場人物のババア感は非常に薄く、むしろある種の青春百合小説のようにも読める(これは欠点というより、意図的にこういう書き方をしているものと思われる)。つまり実質ユリ熊嵐と言っても過言ではない。また本文はですます調で書かれており、牧歌的な語り口で、苛烈かつグロテスクな死闘が疾走感たっぷりに描かれる。
初出は新潮社の純文学誌「新潮」2009年1月号に〝620枚一挙掲載〟と銘打たれて掲載され(初稿の段階では800枚近くあったらしい)、同年6月に新潮社から単行本化。2011年、映画の公開に先駆けて新潮文庫で文庫化された。文庫版の解説は法月綸太郎。しかし残念ながら現在は単行本・文庫版とも品切れで新品では入手できない(電子書籍化もされていない)。古書での入手はそれほど難しくないはずなので、読みたい人は古書店を探そう。
2015年には英訳版が出ている。ユヤタンの作品では初の英訳。アメリカのベストセラー作家・Jami Attenbergが「魅惑的で、愉快で、ダークで、血みどろで、そして圧倒的に素晴らしい。まるでElena Ferranteとスティーヴン・キングが日本の山頂で衝突したような作品だ」という推薦文を寄せており、ロサンゼルス・タイムズにもインタビューが載った(関連リンク参照)。
ちなみに原作では端役も含めたババア50人全員に名前と年齢の設定がちゃんとあり、冒頭に名簿がついている。前述のババア感の薄さも含めた全体の創作意図や作品構造については、文庫版の法月綸太郎の解説が詳しく検討しているので、そちらを参照(それが正しいかどうかはともかくとして)。
いわゆる純文学誌に発表されたユヤタンの小説の中ではおそらく最もエンターテインメント色が強く、あんまり細かいことを考えず肩肘張らなくても楽しく読める作品である。特に映画版しか知らない人は、是非読み比べてみていただきたい。
文学作品では吉村昭の『羆嵐』という、『デンデラ』と同じく三毛別の事件をもとにした小説があります。ミステリの世界では、おばあちゃんが活躍する話はなかなか書けませんし、姥捨てトリックとかも無理ですが、文学なら書ける。そこに今まで自分がやってきた仕事、今まで自分が読んできたホラーやミステリを合体させたら、おばあちゃん50人と羆が闘う話になりました。受け答えになってないと思いますが(笑)、僕が考える文学を一作でいいから書いてみたかったんです。
映画
姥捨山には、
続きがあった。
2011年6月25日公開。配給は東映。鑑賞料金は1000円均一だった。
同じ姥捨山伝説を題材にした映画には、今村昌平監督の名作『楢山節考』(1983年)があるが、その姥捨山伝説の「その後」を描く本作は、今村監督の息子である天願大介が監督・脚本を務めた。
浅丘ルリ子、倍賞美津子、山本陽子、草笛光子ら名だたる超ベテラン女優が-10℃以下での過酷な雪山ロケを敢行し、予告などではどっちかといえば真面目な文芸映画っぽい宣伝をしていた本作だが、何しろ原作が前述の通り、スーパーババア50人vs羆のサバイバルバトル小説である。それをだいたい原作通りに映画化した結果(加えてベテラン女優のギャラのため羆に回す予算がなかったのか)、スクリーンに誕生したのは、超ベテラン女優演じるスーパーババア50人vs明らかに着ぐるみ感を隠せていない羆のサバイバル熊パニックバトルアクションエクストリームババアムービーというとんでもない異形であった。
予告などではこの映画のトンデモぶりが巧妙に隠蔽されており、高齢者向け文芸映画と見なされたためか、公開当時にはそれほど話題にならなかった。しかしその強烈なインパクトから後にTwitterなどではネタ映画・トンデモ映画として定期的に話題に挙がりバズるようになり、現在ではカルト映画としての地位を不動のものとしている。Amazon Prime Videoなどで配信されているほか、GYAO!などではときおり期間限定の無料配信もされているので、機会があれば是非見ていただきたい。
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主な登場人物・キャスト
- 斎藤カユ(70) 演:浅丘ルリ子
本作の主人公。70歳となり姥捨てされてデンデラにたどり着く。デンデラでは最年少の小娘ババア。 - 椎名マサリ(89) 演:倍賞美津子
村への復讐よりもデンデラの発展を優先すべきと説く穏健派の眼帯ババア。 - 浅見ヒカリ(85) 演:山本陽子
イケメンなお節介ババア。村襲撃部隊の組頭のひとり。 - 小渕イツル(99) 演:山口果林
メイに次ぐ古株ババア。 - 石塚ホノ(86) 演:白川和子
カユをメイの元へ案内しつつデンデラの説明をする解説役ババア。穏健派。 - 保科キュウ(87) 演:山口美也子
弓の名手であるスナイパーババア。組頭のひとり。 - 桂川マクラ(88) 演:角替和枝
目覚めたカユを最初に発見して声をかけるババア。羆戦で活躍する。 - 福沢ハツ(74) 演:田根楽子
屁をこきまくる好戦的な屁こきババア。組頭のひとり。 - 黒井クラ(71) 演:赤座美代子
カユの友人の寝たきりババア。 - 三ツ屋メイ(100) 演:草笛光子
デンデラの創設者であるリーダーババア。30年かけて山中にデンデラを創りあげ、村への復讐に燃える。
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関連項目
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