トップガン(英:Top Gun)とは、以下のいずれかを指す。
- アメリカ海軍戦闘機兵器学校(United States Navy Fighter Weapons School)の通称。
後述する2.によって「トップガン」という名は世界に広く知られるようになる。 - 1をモデルとした、アメリカ海軍の戦闘機パイロットを描いた映画。1986年公開。
- 2.の続編「トップガン マーヴェリック」(原題:Top Gun: Maverick)。詳細は個別記事を参照。
- 福岡県大野城市の「共和技研」が開発・製造している空気圧式ピッチングマシンおよびその商標。
1.の概要
朝鮮戦争終了後、アメリカでは戦闘機がドッグファイト(格闘戦)をすることはもはや無いだろうと考えていた。しかし1960年代に始まったベトナム戦争では、ドッグファイトはなくならなかった(戦闘機を参照)。
初期の作戦「ローリング・サンダー」では空中戦におけるアメリカの撃墜被撃墜比率は2.29:1で、朝鮮戦争での数字(7:1かそれ以上)と比較すれば、この数値はとても受け入れ難いものであった。1968年半ばに出されたオールト報告ではパイロットが古典的な機動戦闘の訓練を受けていないことの他に、ミサイル、レーダー、乗員、機体にも問題があることを示唆した。これを受けて米海軍は同年9月にカリフォルニア州ミラマー海軍基地に海軍戦闘機兵器学校、通称「トップガン」が開設した。トップガンではA-4がMiG-17役として、F-8がMiG-21役として使用、後には空軍のF-106もMiG-21役として使用された。最初の卒業生は1969年4月に部隊配置に就き、海軍によると1970-1973年の撃墜率は12.5:1となった。[1]
2.の概要
全米興行成績1位、日本でも洋画配給収入1位を記録し、大ヒットとなった。本作をきっかけに戦闘機パイロットを目指し、軍事に興味を抱いてその道にのめり込んだ若者は少なくない。本作の製作ではアメリカ海軍が全面協力しており、海軍基地や空母での撮影が許可された。また俳優達はF-14の後席で実際に体験訓練飛行をしている。
発艦によって静から動へと切り替わる印象的なオープニングで流れるのは、ケニー・ロギンスの「Danger Zone」。ベルリンが歌う挿入歌「愛は吐息のように」(Take My Breath Away)もシングルチャート1位を獲得、同年のアカデミー歌曲賞・ゴールデングローブ賞主題歌賞を受賞している。
主人公はトム・クルーズ演じる若きパイロット、ピート・ミッチェル。艦上戦闘機F-14を駆る、野生的な直感に身を任せた無鉄砲なパイロット。腕前は確かで、作中冒頭では味方のF-14をロックオンして追い回していたMiG-28に対してMiGの頭上を宙返り飛行して中指を突き付けて挑発、ついでに後部席の相棒はポラロイド写真を撮るというとんでもなく無謀な事を行っている。その後、その時追い回されていた戦闘機に乗っていた仲間がこの出来事をきっかけに戦闘機を降りる。その代わりとしてマーベリック達はエリート航空戦訓練学校「トップガン」への入校を命じられることになる。
教官シャーロットとの出会い、過酷な訓練、同期生との訓練を通した切磋琢磨。不慮の事故と相棒の死、教官から聞かされる父の死の真相……それらを通して成長していく主人公の姿を描いた物語である。
登場人物
- マーヴェリック 演:トム・クルーズ
- 本名、ピート・ミッチェル。コールサイン「マーヴェリック(Maverick)」は「はみ出し者」「一匹狼」を意味するが、同時に「みなしご」という皮肉な意味を持つ。階級は大尉(lieutenant)。
無鉄砲だが天性の才能を持ち、型破りな操縦で敵を翻弄する。戦闘機乗りだった父親の死が秘匿扱いとなっており、その影を引きずり続けている。インド洋上での国籍不明機との空中戦を機に「トップガン」に送られ、厳しい訓練を受ける事になるが……
主役を射止めたトム・クルーズは当時23歳で、この映画がきっかけでスターへの道を歩み始める。 - グース 演:アンソニー・エドワーズ
- 本名、ニック・ブラッドショウ。コールサイン「グース(Goose)」は「ガチョウ」を意味すると同時に「馬鹿、間抜け、グズ、トンマ」というアレな意味がある。
温厚な性格。マーヴェリックの相棒で、後部座席でレーダー員を務める。マーヴェリックと共に「トップガン」で訓練を受けるが、演習訓練中に機体が操縦不能となり、脱出する際の事故で帰らぬ人となる。この悲劇によってマーヴェリックは飛ぶ事に臆病になり、除隊まで考える所まで追い詰められた。
演じたアンソニー・エドワーズはその後、TVドラマ「ER緊急救命室」で主要人物の一人・グリーン先生を好演。 - クーガー 演:ジョン・ストックウェル
- 本名、ビル・コーテル。コールサイン「クーガー」は北米に生息する猛獣ピューマの事で、アメリカ人にとっては強くて格好いい名前としてなじみがある。
インド洋上での空中戦で敵機のロックオンを受けて恐怖にさいなまれ、金縛り状態になる。マーヴェリックのおかげで無事帰投できたものの、戦闘機乗りの限界を感じて職務から外れる事を選んだ。 - マーリン 演:ティム・ロビンス
- クーガーと組んでいるレーダー員。コールサイン「マーリン」は小型の猛禽類・チョウゲンボウを意味する。
- スティンガー 演:ジェームズ・トールカン
- CAG(空母航空団司令官)。マーヴェリック達の上官。コールサイン「スティンガー」は「毒針」を意味し、常々毒づいている彼の人となりに合っている。スキンヘッドで、いつも葉巻を吹かしている。
1つの空母に1つの空母航空団があり、その頂点がCAGである。戦闘機の運用の総責任者。 - アイスマン 演:ヴァル・キルマー
- 本名、トム・カザンスキー。コールサイン「アイスマン」の名にふさわしく、沈着冷静な性格。養成学校「トップガン」での最高成績を狙う、マーヴェリックのライバル。しばしばマーヴェリックに「味方を危険にさらしている」と嫌みを言ってくる。ヘルメットは銀色と青。
- スライダー 演:リック・ロソヴィッチ
- アイスマンの相棒のレーダー員。アイスマンと同じように嫌みな態度をとってくる。グースとは旧知の間柄。体臭が臭い。ヘルメットは銀色と赤。
- ヴァイパー 演:トム・スケリット
- 養成学校「トップガン」の教官。ちょび髭を生やしている。戦闘機に乗り、マーヴェリックやアイスマンを模擬演習で仕留めている。
20年前の1965年はベトナム戦争まっただ中であり、そのときヴァイパーは部下を引き連れ交戦、部下の戦死を何度も経験した。マーヴェリックの父親と組んでいたこともあり、死の真相を知っている。 - ジェスター 演:マイケル・アイアンサイド
- 養成学校「トップガン」の教官。実力があり、生徒たちから恐れられている。
- チャーリー 演:ケリー・マクギリス
- 本名、シャーロット・ブラックウッド。航空物理学博士で、国防総省からの信頼も厚く、機密に触れることも許されている。アメリカにとっての最大の敵である戦闘機ミグの研究に熱心で、ミグのことになると興味津々になる。
赤い口紅、金髪、キリッとした目力で颯爽と歩く長身の格好いいお姉さん。 - キャロル 演:メグ・ライアン
- グースの嫁さん。幼い息子と共に「トップガン」の近くへ転居してくる。グースに似て陽気であけすけなお姉さん。グースから聞いたマーヴェリックの女性遍歴を、マーヴェリックの現在の恋人の前でベラベラ喋る。
演じたメグ・ライアンは、本作品の3年後の『恋人たちの予感』が大ヒットしてスターへの仲間入りを果たした。 - ハリウッド 演:ウィップ・ヒューブリー
- 戦闘機パイロットで、マーヴェリックやグースと仲が良い。略称は「ウッド」。青いヘルメットを被っているが、そこにはキスマークの付いた尻が描かれている。
- ウルフマン 演:バリー・タブ
- ハリウッドと組むレーダー員で、マーヴェリックやグースと仲が良い。赤いヘルメットを被っている。
- サンダウン 演:クラレンス・ギルヤード・Jr
- 黒人のレーダー員。気分が落ち込んでいるときのマーヴェリックと組んだ。サンダウンとは日暮れという意味であり、マーヴェリックの憂鬱な気分を暗示している。
旭日旗のヘルメットを被っている。
登場する航空機・空母
- トムキャット F-14
- 米国の戦闘機。本作のもう1つの主人公。
白い五芒星が目印。アメリカ国旗の星は白い五芒星なので、それに合わせて海軍も白い五芒星を使う。
作中では「3000万ドルの機体」と表現されている。ちなみに1985年は1ドル250円~200円、1986年は1ドル200円~150円。1ドル200円とすると60億円となる。搭載しているミサイルはサイドワインダー。
養成学校トップガンでは、小さな模擬機と空中戦を繰り返している。大きい機体の方がF-14である。 - エンタープライズ (CVN-65)
- インド洋に展開し、中東地域ににらみをきかせる空母。実際に撮影に使用された艦船は空母レンジャー (CV-61)。
- ミグ MiG-28
- 本作品でアメリカの敵性国家が使用しているソ連製の戦闘機……という設定の、架空の航空機。詳細は個別記事参照。
赤い五芒星が目印。機体の横や、パイロットが握る操縦桿の近くに赤い五芒星が見えるほか、パイロットのヘルメットの口の部分に赤い五芒星がある。
積んでいるミサイルはエグゾセという設定で、こちらはフランス製。1982年のフォークランド紛争においてアルゼンチン海軍がエグゾセを使用し、イギリス海軍艦船を撃沈して世界的に有名になった。
劇中の敵役国家
本作品には、戦闘機Mig-28を飛ばしてくる敵役国家が現れる。
もともとトニー・スコット監督は、北朝鮮を敵役とするつもりだった。問題の多いならず者国家という一般的な視点から、敵役としてふさわしいと考えていた。ところが、 いざ撮影という段階になって、国務省(アメリカの外交担当の官公庁)から「北朝鮮との国交回復を図りたいから、北朝鮮の名前を出すな」と言われた。そこで、敵役国家の名前を明言せず、あいまいなままにした。
本作品のクライマックスとなる作戦行動の前に行われた会議のシーンにおいて、ホワイトボードに「POSIT. 20 32 N 64 24 E」と書いてある。これは「北緯20度32分、東経64度24分」を意味する。空母がその位置にある、と解釈するのが自然だろう。つまり、この位置に空母がいるという設定である。
まずはアイスマンたちとハリウッドたちの2機が空母から飛び立った。そのとき「敵機は090(真東)の方向から近づいてくる」と報告している。その後、マーヴェリックたちが発艦した。そのときアイスマンから「090 at 180 miles」との返答があるので、空母から真東に180海里(333.36km)の位置で交戦していることが分かる。つまり、アイスマンたちは、このあたりの場所でドッグファイトをしている。
以上の要素から、劇中の敵役国家はインドであるとされる。ちなみに1986年当時のインドは、アメリカと距離を置いてソ連製の戦闘機MIG-21を購入していた。なぜインドがアメリカと距離を置いていたかというと、1947年にインドから独立したパキスタンに対してアメリカが様々な軍事支援を行っていたので、パキスタン憎しのあまり、インドはアメリカと距離を置くようになったのである。
ただ、1986年に本作品を見たアメリカ人が、「インド洋に展開する米軍空母が戦う敵性国家」として真っ先に連想するのは、やはりイランだったはずである。
1986年当時、インド洋周辺で最も反米的であったのはイランだった。1979年には駐イランのアメリカ大使館に暴徒が乱入、職員やその家族など約50人のアメリカ人を人質に取り、アメリカに対して外交要求をした。監禁は444日の長い間続いた。これをイランアメリカ大使館人質事件というが、イラン革命政府は意図的に放置して支援したため、アメリカ国民のイランに対する恐怖感と不信感が根強い時代であった。
トリビア
- マーヴェリックは劇中で背中に日の丸が入ったジャケットを着ているが、当時のハリウッドにとって日本市場は巨大なお客さんであった。日本に対するサービスとして、日の丸を映画に登場させたという説がある。
- 本作品の撮影に協力してくれた部隊のうちの1つが「サンダウナーズ」である。この部隊は旭日旗を愛用していて、使用する戦闘機の尾翼に旭日旗を描いている
。撮影に協力してくれたお礼として、旭日旗ヘルメットを被るサンダウンという名のキャラを登場させた。
- マーヴェリックの乗る戦闘機の名前は「ゴーストライダー(Ghost Rider)」。1940年代のアメリカンコミックで登場するキャラであり、死んだ父の幻影を追うマーヴェリックの胸中を暗示しているようにも取れる。
- アイスマンの乗る戦闘機の名前は「ブードゥー・ワン(Voodoo-1)」。1980年の大統領選挙の前哨戦の共和党予備選挙で、ジョージ・H・W・ブッシュ候補はロナルド・レーガン候補の経済論を「ブードゥーの呪術のようなインチキ臭い経済学思想だ、ブードゥー経済学だ」と発言し、当時の流行語になっていた。ライバルにキツい言葉を言ってくるアイスマンにピッタリの名前。
撮影ゆかりの地・艦船
- カリフォルニア州サンディエゴのこの場所
にあるミラマー海軍基地に当時のトップガンがあった。この基地で撮影が行われた。
- 劇中の様々なシーンで使われた『カンザスシティ・バーベキュー』という店はこの場所
にある。撮影当時の姿を今も維持しつつ、営業を続けている。本作品のファンにとっての聖地。
トップガンの卒業式のシーンは、この場所にあるノースアイランド海軍航空基地で撮影された。
- 撮影中に俳優たちが泊まったのはバイアという地で、このあたり
。
俳優たちは若い盛りなので連日パーティーをして遊びまくっていたという。 - ヴァル・キルマーだけは一匹狼で、この場所
のラホヤ地区にあるホテルに泊まっていた。
とはいえ結局彼も夜遊びに参加していて、車を持ち込んで皆でメキシコ国境を超えていたらしい。 - 空母レンジャー(CV-61)が撮影の場所になったが、撮影中も軍事作戦行動中で、どこを航行しているかは俳優たちや撮影スタッフたちにも一切伝えられなかった。
6,000人が乗り込む巨大な船である。映画公開から7年後の1993年に退役した。
関連動画
Danger Zone
Mighty Wings
愛は吐息のように(Take My Breath Away)
関連商品
関連項目
- F-14
- Mig-28
- 空母 - 最後尾の『余談・その他』の項目に映画トップガンについての記述がある
- サンダウナーズ - サンダウンの元ネタとなった精鋭部隊
- サンディエゴ - 本作品の主な舞台となった軍港都市
- トム・クルーズ
- トップガン マーヴェリック
- ナイト・オブ・ザ・スカイ - フランス版トップガンとも呼ばれる作品
- ベストガイ - 日本版トップガンとも呼ばれる作品
- 映画の一覧
- マーヴェリック・ヴィニャーレス - この項目にマーヴェリックという言葉の由来の記述がある
脚注
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