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トラネキサム酸とは、人工的に合成されたアミノ酸の一種である。医薬品として利用されている。先発医薬品名はトランサミン®(Transamin®)。
概要
大雑把に言えば、止血薬である。血栓を溶かすタンパク質分解酵素「プラスミン」の働きを抑える「抗プラスミン作用」をもつ。プラスミンには炎症、皮膚の色素沈着を引き起こす作用もあり、これを抑えることで抗炎症効果、美白効果も持つとされる。
もともと自然に存在するアミノ酸「リジン」が抗プラスミン作用をもつことが知られており、それを強化する形で開発された。トラネキサム酸の先祖ともいえるε-アミノカプロン酸(現在は使われていない)はリジンの10倍、トラネキサム酸はリジンの100倍、抗プラスミン作用があるとされる。
身近な例で言えば、歯茎からの出血を抑えるために歯磨き粉に配合されている。また、白血病や再生不良性貧血でみられる出血傾向(血が固まりにくくなり、出血が抑えられない状態)への対処、喀血や鼻血といった種々の異常出血への治療、口内炎の治療、扁桃腺炎など喉の痛みの治療、肝斑の治療などに用いられる。ちなみに肝斑に有効であることは、1970年代に「別の疾患の治療にトラネキサム酸を使用している患者で、なぜか肝斑が改善した」ことがきっかけとなって偶然発見された。
血栓が存在する場合や、長期臥床状態など血栓が生じやすい環境におかれている場合には血栓安定化や血栓形成促進のおそれがあるため慎重投与。トラネキサム酸とは別経路で血栓形成を促進する止血薬「トロンビン」との併用は血栓形成傾向が必要以上に強まるため禁忌となっている。とはいえ比較的副作用が少なく用法・用量を守って正しく使用すれば危険性は低い薬剤と見なされており、薬局でも購入できるOTC薬剤にも配合されているほか、美白効果を期待されて化粧品などにも配合されている。
開発者は慶応大学医学部の岡本彰祐、岡本歌子夫妻を中心としたグループ。1965年に第一製薬(2019年現在は合併して第一三共)より「トランサミン®」として発売された。岡本夫妻は「おしどり研究者」として有名で、前述のε-アミノカプロン酸、トラネキサム酸といった止血剤のほか、アルガトロバンという血栓を作らせない薬(抗凝固薬)も開発し、血液系疾患の治療に大きく貢献している。
2004年に彰祐が逝去した後も歌子は血栓止血研究神戸プロジェクト委員会の代表を務め、2016年に96歳で逝去するまで研究者として創薬に生涯を捧げた。
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