トランプ関税とは、第45代・第47代アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプが主導する関税政策の通称である。
この項目では、そんなトランプ関税のこれまでの流れと、振り回される各国の阿鼻叫喚の様子をまとめる。
概要
トランプ政権は保護貿易を推進しており、これまで様々な国に対して高い関税を課している。
その最大の特徴は、「アメリカ・ファースト」を掲げ、米国の貿易赤字を問題視する明確な姿勢と、伝統的な外交儀礼を度外視した予測不能な交渉スタイルにある。
通常の通商交渉なら事務レベルでの協議を積み重ねるが、トランプ政権では大統領自身が相手国首脳と直接交渉を行うという、トップダウンの「ディール(取引)」が中心となる。これにより、議会承認などの煩雑な手続きを省略し、スピーディーに成果を出すことができる。
ただし、この交渉スタイルでは法的拘束力のある「合意文書」が交わされないケースが頻発する(正式な「協定」として文書化し議会の承認を得てしまうと、政権の都合で内容を自由に変更できなくなる)。そのため、あえて法的拘束力の弱い「口頭合意」や「共同声明」に留めることで、常に米国側が交渉の主導権を握り続ける戦略をとっている。この手法は、交渉相手国との間に深刻な「解釈の不一致」を生むリスクをはらむ。なので、
- 日本との交渉では、関税率をめぐる認識の違いから一時混乱が生じた。
- カナダやメキシコは、北米間の協定 (USMCA) があるにもかかわらず、不法移民問題や他の外交問題を理由に常に関税の脅威にさらされ、不安定な交渉を強いられた。
- EUは15%で合意したものの、その内容は半導体などの扱いで解釈の余地を残す「枠組み合意」に過ぎず、加盟国間での足並みの乱れも露呈した。
また後述するがスイスは、交渉が決裂した結果、対米貿易黒字 (その主因はトランプ政権の政策が招いた金 (gold) の輸出増という皮肉な側面も持つ) を理由に、世界でも最高水準の39%という高関税を一方的に課される事態となった。
結論として、トランプ関税は、安定性や国際的な協調よりも、スピードと実利、そして交渉における優位性を徹底的に追求するトランプ氏独自の世界観が色濃く反映された政策と言える。その動向は世界経済の大きな不確実性要因であり続けている。
2026年2月、アメリカの連邦最高裁はIEEPA(国際緊急経済権限法)に基づいた関税措置については無効と判断、これによってトランプ関税の大部分が無効になり、トランプ大統領は新たに通商法122条を根拠とする、世界的に10%の追加関税を課す大統領令に署名している。
トランプ政権 相互関税率 比較
各国との交渉結果に基づく最終決定税率の一覧 (2025年8月時点)
| 国・地域 | 当初の要求/示唆 | 最終決定/合意税率 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 🇬🇧 イギリス | ー | 10% | 最初に合意。自動車は関税割当を導入。 |
| 🇯🇵 日本 | 自動車に25%など | 15% | 自動車関税は15%に抑制。農産品購入拡大などで合意。 |
| 🇪🇺 EU | ー | 15% | エネルギー購入拡大などで合意。 |
| 🇰🇷 韓国 | ー | 15% | 日本やEUと同様の条件で妥結。 |
| 🇵🇭 フィリピン | ー | 19% | 交渉の末、19%で合意。 |
| 🇻🇳 ベトナム | ー | 20% | 交渉の末、20%で合意。 |
| 🇨🇭 スイス | 31% | 39% | 対米貿易黒字 (金の輸出が主因) を問題視され、税率が引き上げられた。 |
| 🇧🇷 ブラジル | 50% | 40% | 交渉が妥結せず高関税が課された。 |
| 🇿🇦 南アフリカ | ー | 30% | 交渉が妥結せず。 |
| 🇮🇳 インド | ー | 25% | 交渉が妥結せず。 |
| 🇹🇼 台湾 | ー | 20% | 交渉が妥結せず。 |
| 🇨🇳 中国 | 60%超 | 合意なし | 交渉は継続中だが、最も厳しい措置の対象。 |
| 🇨🇦 カナダ | 35% | 交渉継続中 | USMCAとは別枠での交渉。 |
| 🇲🇽 メキシコ | ー | 交渉期限延長 | 90日間の交渉期限延長で合意。 |
※この表は公開情報に基づき作成されたものであり、全ての対象国を網羅しているわけではありません。
※「当初の要求/示唆」は、報道等で言及された税率であり、公式な要求ではない場合があります。「ー」は具体的な数値が報道されていない国を示します。
これまでの流れ
| 時期 | 主な出来事 | 詳細 |
|---|---|---|
| 第1次政権 (2017-2021) |
鉄鋼・アルミ関税発動 | 2018年3月、通商拡大法232条に基づき、安全保障を理由に鉄鋼 (25%) 、アルミ (10%) に関税を課す。日本やEUなども対象に。 |
| 米中貿易戦争の激化 | 2018年7月以降、知的財産権侵害を理由に通商法301条を発動。中国からの輸入品に最大25%の制裁関税を次々と課し、中国も報復措置で対抗。 | |
| バイデン政権 (2021-2025) |
対中関税の維持と戦略的強化 | 前政権の対中関税の多くを維持。2024年5月にはEV (100%) 、半導体など、特定の戦略分野に対象を絞って関税を大幅に引き上げ。 |
| 第2次政権 (2025-) |
ベースライン/相互関税の発表 | 2025年4月、原則全ての輸入品に10%の「ベースライン関税」と、国ごとに異なる「相互関税」を課す大統領令に署名。各国との交渉が本格化。 |
| 主要国との交渉と合意 | 2025年5月〜7月にかけて、イギリス (10%) 、日本 (15%) 、EU (15%) などと相次いで合意。ただし、多くは法的拘束力のない「枠組み合意」。 | |
| 交渉決裂と高関税 | スイスとの交渉が決裂。対米貿易黒字を理由に39%という突出して高い関税率が設定される。 | |
| 相互関税の全面発動 | 2025年8月7日、合意に至らなかった約70カ国を対象に相互関税が発動。ブラジル (40%) 、インド (25%) などが対象となり、世界経済に大きな影響。 |
補足
- この交渉スタイルの歪みを最も象徴するのがスイスの事例である。スイスは交渉が決裂した結果、世界でも最高水準の39%という高関税を一方的に課された。トランプ政権がその最大の理由としたのは、スイスの巨額な「対米貿易黒字」であった。しかし、その黒字の大部分は、スイスの主要産業である時計や医薬品ではなく、「金 (gold) 」の輸出によってもたらされたものである。皮肉なことに、この金の輸出増は、トランプ政権の予測不能な政策が引き起こした世界経済の不安を背景に、投資家が安全資産である金へ資金を逃避させたことが一因となっている。つまり、自らの政策が招いた結果 (金の輸出増) を相手国の「不公正な貿易」の証拠として罰するという、自己矛盾の構図が生まれてしまったのである。
- イギリスは他国に先駆けて「合意文書」を結ぶことに成功した。これは、「ブレグジット (EU離脱 ) 」という特殊な状況が大きく影響している。EUから離脱したイギリスにとって、米国と新たな貿易の枠組みを文書として結ぶことは、「離脱したからこそ独自の有利なディールが可能になった」という国内向けの政治的成果として不可欠だった。このため、米国産農産物の市場開放など、トランプ政権の要求に積極的に応える姿勢を見せた。米国側にとっても、主要同盟国と「最初の合意」を交わすことは交渉手腕のアピールとなり、双方の政治的思惑が一致したことが、この例外的な合意につながった。
- トランプ関税は人間の住んでいないハード島とマクドナルド諸島にも10%のベースライン関税を課しており、100万羽のペンギンが生息するフォークランド諸島に至ってはイギリス本土より高い41%の関税が課された。多分迂回輸出回避だとは思うが、もちろん「ペンギンにまで関税を課すのか」と皮肉られた。
関連動画
関連リンク
- ジェトロ (日本貿易振興機構) :米トランプ関税の行方 (1) 変遷する関税措置と在米日系企業の対応方針
- 野村総合研究所 (NRI) :トランプ大統領が新相互関税の大統領令に署名
- The White House: Further Modifying the Reciprocal Tariff Rates (July 31, 2025)
- Center for American Progress: Trump's Latest Trade Deals Raise More Questions Than Answers and Harm America's Future
- 日本共産党:日米関税交渉 三つの重大点
- SWI swissinfo.ch:トランプ政権、スイスに39%の相互関税を発表
- AP通信:Switzerland, the land of luxury brands, could see prices skyrocket from Trump's 39% tariffs
- マネクリ (マネックス証券) :【為替】最強通貨スイスフランの急落、39%関税の舞台裏
- トランプ氏、無人島にも関税かける⇒SNSにペンギンミームがあふれる結果に | ハフポスト WORLD
関連項目
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