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ドクターヘリとは、医者と看護師を乗せて、傷病者のもとへ向かう救急医療用ヘリコプターである。
救急現場に医療装備を載せて向かい、必要な医療処置を機内で行いながら患者を医療機関へ搬送できる。
概要
2007年に制定された「救急医療用ヘリコプターを用いた救急医療の確保に関する特別措置法」が始まり。
ドクターヘリを使った救急医療が傷病者の救命、後遺症の軽減などに活躍する役割の重要性を鑑み、ドクターヘリでの救急医療の全国的な確保を図るための特別な措置と、適切な救急医療を提供する体制の確保、国民の健康の保持及び安心して過ごせる社会の実現を目的としている。
2001年4月、川崎医科大学附属病院を基地病院とし本格運用がスタート。徐々に全国へ拡大し2022年4月には香川県が運用を開始した。
利点
【高速】
救急車と比較すると、河川や橋、時間帯・積雪・災害・事故等による渋滞・通行止・通行規制といった地形・地物・交通状況の影響を受けず、時速200km以上で飛行できるなど高速性のある航空機の特性をフルに活用した搬送を実施できる。[1]
【長距離・広範囲をカバーできる】
市町村・都道府県の境を大きく越えた出動・救急搬送も可能。
山奥や田舎といった僻地、離島など、救急車による搬送が難しい地域もカバーできる。
【どこでも降りられる】
飛行機のように長大な滑走路を使用せず、大きな広場などに着陸できるのも利点。[2]
【医師・医療設備】
医師と医療器材を載せるため、搬送中においても有効な処置を施せるなど時間を有効活用できる。
機体・搬送・運用拠点
もちろん、普通のヘリに医者を載せれば何でもドクターヘリになるわけではない。
- 担架(ストレッチャー)を搬入しやすいよう機体側面・後部が大きく開く。
- 狭いながら救急車のような一定の広さを持ち、医療活動が行える一定の設備。
- 大きな病院などに所属・待機し、格納・整備拠点が設けられる場合もある。
- 災害時に備え、大型輸送ヘリコプターの着陸重量に耐えうる屋上ヘリポートのある病院もある。
ドクターヘリの使用を決定するのは医療機関側であり、運用費用も嵩むことから
「ヘリコプターに乗りたいから、救急車じゃなくてドクターヘリで頼む」はできない。念のため。
※救急車を呼んだのに、ドクターヘリが来ても費用が請求されることはない
災害時の活躍
兵庫県南部地震(1995年1月17日)
平成7年に発生した兵庫県南部地震。
阪神淡路大震災と言った方が聞きなじみがあるだろう、近畿圏の広域に甚大な被害をもたらした大地震である。
皆さんも一度は写真等で目にしたことがあるかもしれない。阪神淡路大震災では、道路が大きくなぎ倒され破壊され、自家用車による渋滞によって救急車等が出動できなかったり、そもそも使用が困難だった。
その問題を解決するために、ドクターヘリが誕生。大きく活躍することになった。
新潟県中部地震(2004年10月23日)
新潟県中越地震では、DMAT (災害派遣医療チーム) が活躍。その際にドクターヘリが活躍しており、のちの報告書には次のような報告があった。
以下は 日本集団災害医学会が公開している 平成19年新潟県中越沖地震調査特別委員会 報告書 - 新潟県中越沖地震で行われた医療活動について を引用したものである。
13時30分すぎに新潟市民病院DMATとドクターヘリで参集した日本医大千葉北総病院DMATがほぼ同着したのを皮切りにDMATが続々到着し,新潟大学の支援班も14時45分の第一陣以後3チームが,その他にも直近の3県立病院 からの支援班も加わり急性期の病院支援を行った。
2) 急性期医療の経過 - ① 急性期医療の概略 より。
東北地方太平洋沖地震(2011年3月11日)
皆様の記憶に新しいであろう、平成23年に発生した『東日本大震災』東北地方太平洋沖地震である。
全国から DMAT (災害派遣医療チーム) とドクターヘリが花巻空港等を拠点に災害医療活動に従事。他にも津波により発生した福島第一原子力発電所事故の復旧に関わっていた作業員をドクターヘリで救出したり、石巻市民病院の患者救出作戦でもドクターヘリのみで患者搬送が行われ、やはりここでもドクターヘリが活躍している。
「とにかく津波警報が鳴る中での懸命の作業でした」。こう語るのは、災害派遣医療チーム「DMAT」として群馬の前橋赤十字病院から派遣された町田浩志医師だ。宮城県石巻市で、津波で破壊された市立病院からの患者救出に当たった。
100人を超す患者の搬送に8病院29人のDMAT隊員とドクターヘリ7機が参加、後に自衛隊ヘリも加わり救出は深夜に及んだ。
地震発生の翌日、ドクターヘリで被災地入りした山口大学医学部附属病院・高度救命救急センターの笠岡俊志准教授も、石巻市立病院の患者らを搬送した。笠岡准教授は「医療行為を続けながら患者を運べる点が防災ヘリとの違いだ」と、その有効性を強調する。
課題・欠点
先述した通り、東北地方太平洋沖地震 では DMAT (災害派遣医療チーム) と主に多くの命を救った。
津波の発生や、道路の分断で思うように救助に向かえない被災地に対して空から患者を搬送する手段として活躍。
しかし、ヘリコプターなので燃料が必要になってしまう。 東北地方太平洋沖地震 ではこのような問題が浮き彫りになった。経由地である飛行場での燃料補給が優先されず、燃料費は誰が負担するべきか等の問題が浮き彫りになった。(ドクターヘリは警察や消防ヘリとは違い、公的な補助金を得ながらも民間の航空会社が運行受託しているため)
もちろん燃料以外にも、小型であっても機体の購入や各種維持費など非常に高額である。
夜間飛行は不可能
民間においては、有視界飛行が原則である。
暗視装置などはなく、着陸先の照明設備なども保証できない。
特に夜間の山地においては木々や送電線などに激突・墜落するなど二次災害の危険性もある。
そのため、自衛隊のヘリコプターや飛行艇[4]によって救急搬送が行われる場合も多い。医師が必ず乗っている訳ではないが、救難者を捜したり吊り上げたりといった、捜索救難という少し異なった分野も可能。
(暗視装置・赤外線映像装置も備えるため夜間飛行も可能)
悪天候に弱い
もちろん航空機である以上、強風や濃霧・吹雪といった悪天候においては
真昼であっても飛行・運用が大きく制限されたり飛行できない。
受け入れ先の設備不足
病院屋上のヘリポート等に着陸する場合もあるが「ヘリポートがあれば良い」わけではない。
設計・設備不十分で離着陸が不安定になったり、患者や搬送者に煩雑な負担をかける場合もある。
病院ヘリポートの失敗例3<患者の搬送ルートに階段が!?> - エアロファシリティー株式会社 (aero.co.jp)
新規にヘリポート作ろうとしても…
- 建物側の基礎的な強度設計も必要
- 脊髄損傷等で動かせない重傷者を担架で安定して院内へ搬送できる経路も必要になる。
- 地上に設置する場合においても、土地がない、周辺に障害物があるなど。
- 整備拠点まではいかなくとも、照明等その他の維持費もかかる。
…それらを作ったところで採算が取れるか? …という問題もある。
※手間は増えるものの病院近隣のグラウンドなどに着陸させてもらい
救急車に乗せ換え、病院へ搬送…という手段もある。
関連動画
関連項目
脚注
- *航続距離・時速(巡航速度)は環境・機体や重量によっても異なる。また燃費が悪化するため最高速度で飛行するとは限らない。
- *ヘリポートの無い屋上や機体重量が耐荷重を超えたヘリポートなどは、着陸時に崩壊しバランスを崩し墜落してしまうため着陸できない。また軟弱な地盤などには沈み込んでしまうため着陸できない…などヘリコプターであっても万能ではない。
- *内蔵式のフェネストロンローター(タグデットファン)や、空気の噴流を利用するノーターなど。
- *海上自衛隊のUS-2飛行艇。
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