ナミュール(Namur)とは、2019年生まれの日本の競走馬。鹿毛の牝馬。
主な勝ち鞍
2022年:チューリップ賞(GⅡ)
2023年:マイルチャンピオンシップ(GⅠ)、富士ステークス(GⅡ)
概要
父*ハービンジャー、母サンブルエミューズ、母父ダイワメジャーという血統。
父は2010年のキングジョージを11馬身差の大差勝ちしたことで知られる輸入種牡馬で、主な産駒にはディアドラ、ブラストワンピース、ノームコアなどがいる。
母は2012年の阪神JFで2番人気に支持されるなど期待されたが、阪神JFは8着、桜花賞は6着に敗れ27戦3勝の条件馬で終えた。2021年のBCディスタフを勝利したマルシュロレーヌの半姉であり、つまり3代母に1997年の桜花賞馬キョウエイマーチ、8代母に1953年秋の天皇賞馬クインナルビーがいる牝系である。
母父はマイル~中距離でGⅠ5勝を挙げた名馬であり種牡馬としても優秀な成績を残す。名牝ダイワスカーレットの半兄(75%同血)としても知られる。
半妹に2022年のアルテミスSを勝ったラヴェル(父キタサンブラック)がいる。
2019年3月2日、ノーザンファームで誕生。オーナーはおなじみ一口馬主クラブのキャロットファーム。募集価格は6.5万円×400口(=2600万円)であった。
所属はショウナンパンドラやレイパパレで知られる栗東の高野友和厩舎。同厩の同期にスタニングローズがいる。
馬名意味は「サンブル川とミューズ川が合流するベルギーの都市。母名より連想」。ちなみに母の名前の由来は川の名前ではなく、フランスの代表的なマーチ「サンブル・エ・ミューズ連隊行進曲」から。
川の交わるところ
2歳
デビューは2021年9月11日、中京競馬場・芝1600mの牝馬限定の新馬戦。鞍上は川田将雅。2番手追走から先頭に立って右鞭が一発入ると一気に加速して突き放し、2馬身差の快勝デビューを飾る。
2戦目は三冠牝馬アパパネやその娘の秋華賞馬アカイトリノムスメが勝ち馬にいる、11月の1勝クラス・赤松賞(東京・芝1600m)。鞍上は三浦皇成、単勝8.0倍の4番人気。やや出遅れ中団の5~6番手につける形になったが、直線で外に持ち出すと残り300mから一気に集団を置き去りにし、逃げ粘るパーソナルハイを悠々と差し切って、上がり3F33秒0を叩き出し快勝。
次走は2歳女王を目指し、GⅠ阪神ジュベナイルフィリーズへ。鞍上にはクリスチャン・デムーロを迎え、赤松賞の強い勝ち方もあり、大外の8枠17番ながら単勝2.9倍の1番人気に支持される。
ところがレースではスタートで盛大に出遅れ。押し上げて後方の内枠に陣取り、直線に入ると馬場の悪さで他馬が避けた最内を突かざるを得ない格好になりながらも、上がり最速の末脚で猛然と追い込んだがさすがに届かず、サークルオブライフの4着に敗れた。
3歳
明けて3歳は収得賞金が心もとないこともあり、優先出走権を目指してトライアルのGⅡチューリップ賞へ。前走で敗れたサークルオブライフやウォーターナビレラ(阪神JF3着)との再戦となる。鞍上はここから横山武史となる。前走の負けは出遅れのせいということでか、サークルオブライフを上回って単勝2.2倍の1番人気に支持される。
今回はスタートを決め中団前目につけたが、コーナーで下がって馬群に包まれてしまい、直線に入ってもなかなか進路を確保できない。残り300mでようやく外に持ち出して進路を確保、鞭が入るとそこから猛然と加速して一気に差し切り、1馬身半差で重賞初制覇。鞍上の横山武史は「正直、馬の力だけで勝つことができた。僕的には悔いが残るレースでした」と語るようにスムーズなレースとは言い難かったが、それだからこそ段違いの末脚の威力を見せ付けるようなレースだった。
ちなみに2着に13番人気・単勝229.8倍のピンハイが突っ込んだため、馬連56,300円という単勝2.2倍の1番人気が勝ったとは思えない配当がついた。
無事に収得賞金と優先出走権を確保し、母の果たせなかったクラシックの冠を目指してGⅠ桜花賞へ。前走チューリップ賞組はこのところ苦戦傾向、鞍上が今年に入って不調といった不安要素に加えて、大外の8枠18番に入れられてしまったが、桜花賞は伝統的に外の不利は少ないし、チューリップ賞の末脚を見れば外枠はむしろ好都合、一番怖いのは出遅れ……という感じで単勝3.2倍の1番人気。3代母キョウエイマーチも8枠18番の1番人気で桜花賞を勝っているし、そのときの阪神3歳牝馬S勝ち馬メジロドーベルは8枠16番、今回も阪神JF勝ち馬サークルオブライフは8枠16番……とサイン馬券要素も盛り盛りで、これで勝ったら美しかった、のだが……。
この日の阪神競馬場は完全な内伸び外不利馬場。勝ったスターズオンアースをはじめ馬券内には内で上手く立ち回った3頭が入り、外を回ることになったナミュールは直線でもフラフラと伸びあぐねたまま10着。ごちゃっと固まった集団の後ろで、1着スターズオンアースとは0.3秒差なので着順ほどの惨敗ではないとはいえ、前走で破ったウォーターナビレラ(2着)、サークルオブライフ(4着)、ピンハイ(5着)にはことごとく先着される完敗であった。鞍上の横山武史も高松宮記念のレシステンシア、大阪杯のエフフォーリアに続いて3週連続GⅠで1番人気を掲示板外に飛ばしてしまう結果に。
続いてGⅠ優駿牝馬(オークス)へ。前走の完敗で単勝7.1倍の4番人気に評価を下げた。
ラブパイローに蹴られたサウンドビバーチェの放馬で発走が大きく遅れるアクシデントが起き、1番人気サークルオブライフらが出遅れて撃沈する中、中団の内につけたナミュールは直線でも内目を突いて鋭い差し脚を繰り出したが、外から伸びたスターズオンアースと同じ高野厩舎のスタニングローズには届かず3着。敗れはしたが、アクシデントが起きても調子を狂わせることなく、しっかり折り合いをつければ距離が保つことは証明できたので、今後へ向けて収穫ある内容だったと言えるだろう。
夏はしっかり休み、秋はGⅠ秋華賞へと直行。赤松賞以降減る一方だった馬体重が+20kgと大幅に増え、二冠牝馬スターズオンアースが故障明けで不安視されたのもあり、単勝3.0倍のスターズオンアースと差のない3.3倍の2番人気に支持される。
レースはスターズオンアースが出遅れ最後方になる中、ナミュールは中団に構える。コーナーでやや外に膨らんでしまい、直線で大外から猛然と追い込んだが、お手本のような先行抜け出しのレースをした同厩のスタニングローズにはまたしても半馬身届かず。後方から馬群を縫って追い込んできたスターズオンアースはハナ差凌いで2着。
そのままスタニングローズとともにGⅠエリザベス女王杯へ参戦。デアリングタクト、スタニングローズに次ぐ7.3倍の3番人気に支持される。
雨で重馬場となる中、スタートで出負けしながらも中団からレースを進め、3コーナーあたりで馬場に脚を取られた先行勢が崩れ出す中で外を回して上がって行ったが、前を行ったジェラルディーナに突き放され、外から同じ3歳勢のライラックにも置いて行かれ、最後は最後方から追い込んできたアカイイトにもハナ差かわされての5着。鞍上によると序盤に馬群の中で何度もぶつけられる不利があり、馬場も合わなかった中での掲示板確保と言えば健闘ではあるが、スタニングローズ(14着)のように惨敗したわけではないものの、もうひとつ煮え切らない感じの走りになってしまった。
かくしてその末脚と素質は高く評価されながら、3歳シーズンはあと一歩足りず悔しい結果に終わった。
4歳
明けて4歳初戦はGⅢ東京新聞杯から始動。これまでの8戦は全て牝馬限定戦のため、初めての牡馬との戦いに挑んだ。大外の8枠15番がどうかと見られつつも3.7倍の2番人気。
課題のスタートは上手く決め、先頭集団の4頭を見ながら5番手の好位につける。直線で外に進路を確保すると鋭く追い込んだが、内で逃げ粘ったウインカーネリアンにアタマ差届かずの2着。横山武史騎手は「悔しいのひと言」としながらも「久々のマイル、経験の少ない東京でこの内容なら次が楽しみです」と前向きに捉えた。
続いて予定通り春の大目標としてGⅠヴィクトリアマイルに出走。古馬戦線で今度こそビッグタイトル獲得と意気込む陣営やファンの勢い、順調に増えてきた馬体の仕上がりの良さもあって、当日は去年の覇者ソダシを抑えての2番人気4.2倍と高い支持を見込まれる。
雨が降る中、本番スタートは順調に出てこれからポジションを狙って…という向正面のタイミングで問題発生。周囲の馬のモタれが玉突き事故のように連鎖した結果、クリノプレミアムとナムラクレアに左右から挟まれて激突されるというトラブルに見舞われてしまう。こうなってはレースのしようもなく他の馬にポジションも取られ、気づけば囲まれながら後方から追走するだけの展開。最終的にこれといった見せ場もなく、掲示板外の7着で競走を終えることとなってしまった。
鞍上の武史騎手も「向正面であんな不利を受けては走る馬も走れません」とレース後のコメントで憤懣やるかたない怒りを滲ませる結果に、あまりにも不憫な流れで乾坤一擲のチャンスを棒に振ることになってしまった。
不完全燃焼のVMの借りを返すべく、引き続きGⅠ安田記念に参戦。しかし最高の仕上げだった前走から中2週で仕上がりの維持は厳しいだろうと9番人気に留まる。そしてレースは課題のスタートで出負けして後方から。直線では前を締められてしまう不利を受けてはいたが、そもそもさすがに前に届きそうもない位置で、見せ場のないまま16着に撃沈。
夏休みを挟み、秋はGⅡ富士ステークスから始動。鞍上は横山武史からジョアン・モレイラに乗り替わりとなった(武史はキラーアビリティに騎乗)。5番人気まで単勝1桁の混戦ムードではあったが、3.8倍の1番人気に支持される。
逃げると見られたユニコーンライオンではなく、カッとしていたというダノンタッチダウンが逃げる予想外の展開となったレース、ナミュールは中団後方からになったが、モレイラは慌てず折り合いをつけてレースを進める。直線を向いても残り400mまでなかなか前が空かなかったが、400を切ってこじ開けるように進路を確保すると、モレイラの追い出しに応えて持ち味の瞬発力を発揮。あっという間に加速して前を呑み込み、大外から追い込んできたレッドモンレーヴを全く寄せ付けず、そのまま力強く押し切った。
モレイラも「最後は後ろから来られましたが、余裕があったので差されない自信はありました。もっと距離があったとしても、負けていなかったでしょう」と語る強い内容で1年半ぶりの勝利。改めてその実力を示した。
というわけで秋の大一番にはエリザベス女王杯ではなくGⅠマイルチャンピオンシップを選択。鞍上には名手ライアン・ムーアを迎え、安定勢力のシュネルマイスターと休み明けの前年覇者セリフォスが人気を分け合う中、紅一点のナミュールは5番人気……だったのだが、なんと当日にムーアが落馬負傷してしまう。急遽藤岡康太が代打騎乗することになったが、これでオッズが一気に急落。5番人気こそ入れ替わらなかったが、当日朝まで9.5倍だったオッズが17.3倍まで下がってしまった。
しかしそんな評価を藤岡康太とナミュールは見事に跳ね返す。大外8枠16番から五分にゲートを出たがすぐに控え、先行争いが激しくなる中、シュネルマイスターの直前で後方2番手に待機し末脚に賭ける競馬。3,4コーナーではシュネルマイスターの内に入れて外に振られることなく直線を向く。直線でしばらくは前が塞がっていたものの、これまで他馬にぶつけられて敗れてきた鬱憤を晴らすかのように外目を半ば強引にこじ開け(ただしこのときレッドモンレーヴに対する斜行を取られて藤岡康太は過怠金3万円を科された)、残り200mで進路を確保すると、上がり3ハロン最速33秒0という破格の末脚が炸裂。外から一気に混戦の前を呑み込み、最後は粘り込みを図った3番人気ソウルラッシュをクビ差かわしたところがゴール板。不運続きを乗り越え、8度目の挑戦でついに待望のGⅠ制覇となった。
出走当日に騎手変更があった馬のGⅠ勝利は史上初[1]。見事な代打ホームランを決めた藤岡康太は2009年NHKマイルカップをジョーカプチーノで制して以来実に14年ぶりのGⅠ2勝目となり、「これだけの馬を急遽依頼して頂いたので、嬉しさよりもプレッシャーもあったので、ホッとした気持ちです」とのコメント。
しばらくGⅠで元気がなかったハービンジャー産駒としても2020年香港カップ(ノームコア)以来3年ぶりの平地GⅠ勝利となった。またGⅠで紅一点の牝馬が勝つのは2019年宝塚記念のリスグラシュー以来である。
GⅠ獲りの勢いそのままに、次走は招待のあった香港マイルへ参戦。鞍上にはウィリアム・ビュイックを迎え、新コンビと共に新たなる海外の勲章を狙った。後方から追い込むも絶対王者Golden Sixtyに届くわけもなく、勝ち馬から2と4分の3馬身差の日本馬最先着の3着に終わった。
2024年
明けて5歳シーズンも現役を続行し、前走に続いての海外レースとなるGⅠドバイターフに遠征。日本からはドウデュース、ダノンベルーガ、マテンロウスカイが出走、海外からも4連覇を狙うLord North、前哨戦ジェベルハッタを勝ったMeasured Timeなどが参戦。ナミュールはメンバー中2頭だけの牝馬、距離延長もあってか7番人気とそこそこの人気にとどまる。
クリスチャン・デムーロと阪神JF以来の再タッグを結成して出走。ゲートはまずまず出たが二の脚がつかず後方3番手からの競馬になる。ごちゃつく馬群を内に見ながら大外を捲って進出、直線鋭く伸びて馬群を抜き去ったが、中団から1頭出てきた伏兵Facteur Chevalが全く譲らず、2頭並んでゴール板を通過。短頭差だけ振り切られ、あまりにも惜しい2着に敗れた。
次走には前年のリベンジを狙いヴィクトリアマイルを選択。鞍上には新たに武豊を迎えた。人気は秋華賞2着の後輩であるマスクトディーヴァと分け合う形となり、直前まで本馬が1番人気だったが直前にひっくり返り単勝2.5倍の2番人気となった。
レースは大きく出遅れ、後方2番手からの競馬。ペースは速く差し馬向きだったがその流れにも乗れず、直線で間を狙うが完全に不発。結局ほとんど末脚は発揮できず、流れ込むだけの8着に惨敗した。高野師は状態面を考え得る敗因として挙げた。
その次は安田記念。基本的にヴィクトリアマイルから安田記念のローテは確かに同じ東京マイルだがこのローテで安田記念を勝ち切った馬はウオッカとソングラインしかいない(なおどちらも安田記念連覇)こともあり、4番人気に落ち着いた。後方13番手から上がり600mを最速の32.9秒で追い込むも、5番手から33.4秒で押し切った香港馬*ロマンチックウォリアーには半馬身届かずの2着に終わった。鞍上の武豊は「今日は前走と違い、活気がある感じでした。いい競馬ができました。惜しかったです。残念。悔しいです」とコメントを残した。
夏は休養に充て、秋は香港マイルを大目標に連覇のかかるマイルチャンピオンシップから始動したが、ドバイ遠征以来の鞍上となったクリスチャン・デムーロ曰く「4角でトモがしっかり入ってこなくなって、おかしいと思ってやめました」とのことでブービー16着の*レイベリングからも3.6秒差をつけられたシンガリに終わった。レース後の異常は見られなかったが香港マイルは回避することがレース2日後の11月19日に発表され、更にその翌日には引退・繁殖入りが発表された。通算18戦5勝。
血統表
*ハービンジャー 2006 鹿毛 |
Dansili 1996 鹿毛 |
*デインヒル | Danzig |
Razyana | |||
Hasili | Kahyasi | ||
Kerali | |||
Penang Pearl 1996 鹿毛 |
Bering | Arctic Tern | |
Beaune | |||
Guapa | Shareef Dancer | ||
Sauceboat | |||
サンブルエミューズ 2010 栗毛 FNo.7-d |
ダイワメジャー 2001 栗毛 |
*サンデーサイレンス | Halo |
Wishing Well | |||
スカーレットブーケ | *ノーザンテースト | ||
*スカーレットインク | |||
ヴィートマルシェ 2002 鹿毛 |
*フレンチデピュティ | Deputy Minister | |
Mitterand | |||
キョウエイマーチ | *ダンシングブレーヴ | ||
インターシャルマン |
クロス:Northern Dancer 5×5×5(9.38%)、Lyphard 5×5(6.25%)
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