ニホンオオカミとは、かつて日本に生息していた、イヌ科イヌ属の、その名の通り日本固有のオオカミである。
絶滅動物であり、日本固有の絶滅動物としては有名な種類の一つ。
古くは山狗(ヤマイヌ)と呼ばれており、ニホンオオカミという呼称は明治頃に定着したものである。
概要
北海道固有のエゾオオカミ(同じく絶滅)の別亜種だと言われているが、今でも専門家の間では意見が別れている。
元々エゾオオカミは大陸産のハイイロオオカミの別亜種とされており、ニホンオオカミもそれと同じく別亜種であるという意見が大数を占めているが、まったくの別種であるという見方があることも覚えておいてもらいたい。
生態
実はその生態はよくわかっていない。
体長は105cm、尾長は30cm程度だったとされ、これは現在の日本の中型犬程度である。
犬は頭から鼻にかけて窪みがあるが、ニホンオオカミにはそれがなかった。前述のエゾオオカミと比べると身体は小型である。
毛の色は季節によって変わり、これがカモフラージュの役割を果たしていた。
エゾオオカミとは違って群れはそれほど大群を作らず、2頭から10頭程度の群れを形成して暮らしていた。
獲物は主に弱った生き物であり、負傷中、または老いたシカなどはニホンオオカミにとって格好の獲物だった。また、人の飼い犬を襲っていたという話もあり、その他家畜なども襲撃していたため、徐々にニホンオオカミの認識も変わっていったと憶測される。
ニホンオオカミの遠吠えは障子を揺らすほど響き渡るものであり、人々はその声に恐怖していた。
動物研究者である平岩米吉が遺した著によると、ニホンオオカミは山間部だけではなく人里にも現れ、人家に侵入しては時折人を襲っていたという。
山麗の岩穴に巣を作り、毎年2、3頭の子供を産んで育てていた。
絶滅するまでの経緯
実はこれもよくわかっていない。
ジステンパーの流行、狂犬病や家畜に害を与える害獣としての駆除、明治以降の国土開発による生息地の減少、餌となりえる草食動物の乱獲といった複数の要因が重なった結果、絶滅したのではないかと言われる。
1905年、奈良県で捕獲された若いオスの個体が最後の生存個体であると言われている。
その後個体は標本とされ、現存している。
復活の兆し
ニホンオオカミが絶滅した後、天敵の居なくなったシカやイノシシは繁殖し放題となり、生態系は大きく破壊された。このことから日本固有動物の絶滅例として知られている。
そしてこのニホンオオカミ、今でも目撃談が度々報告される。
ググるとわかるが写真付きの有力な目撃情報もある。しかしあくまで可能性レベルでしかなく、いずれも決定打になる情報は存在しない。
だが日本には未だにニホンオオカミの生存を信じる団体も存在している。
破壊された生態系を修復する目的で、海外産のオオカミを日本に持ち込んでかつての生態系に戻そうという動きや、ニホンオオカミのクローンを作ろうという動きもある。
だが慎重論も根強く、実行するにまでは至っていない。
伝承のオオカミ
古来オオカミは神の化身であるとされ、「大口真神」(おおくちのまがみ、おおぐちまかみ)と称し、神として崇められた。埼玉県秩父市の三峯神社、東京都青梅市の武蔵御嶽神社などでは、現在も大口真神が祀られている。
また大和国(現在の奈良県)の狼の話が「大和国風土記」に記述されていたと伝えられる。それによると明日香(飛鳥)の地に老いた狼がおり、多くの人を食らった。土地の者は「大口の神」と呼んで畏れ、その住処を「大口の真神原」と呼んだという。
一方、その恐ろしさから妖怪として扱われる伝承も多い。
最もよく知られるのは「送り狼」(送り犬)で、夜中に山道を歩くと狼が現れ、ぴったり後について来る。何かのはずみで転ぶと食い殺されるが、転んでも慌てず「一休みするか」と休憩するふりをすれば襲われない。無事に家まで辿り着き、食べ物や草履の片方を与えると、送り狼は満足して帰るともされている。
転じて、好意を装って女性を家まで送りながら下心を抱いている男性を「送り狼」と呼ぶ。
ニホンオオカミは縄張りに入ってきた人間を監視し、出ていくまでついてくるという習性があったとされており、この習性が人間にとって都合よく解釈された結果生まれたものともされる。
なお、ニホンオオカミの学名「Canis lupus hodophilax」は「犬・狼・道を守るもの」という意味がある。この習性が由来となっている事は言うまでもない。
「千疋狼」の伝承は全国各地にあり、「弥三郎婆」「鍛冶が嬶」といった名前で知られている。
ここでは「鍛冶が嬶」の物語を紹介する。
ある旅人が夜中に山越えをしようとしていた所、狼の群れに出くわした。咄嗟に高い木に登って難を逃れたものの、降りるに降りられない状態になってしまう。
すると一頭の狼が後ろ足で立ち上がり、前足を木の幹に乗せる。その肩に次の一頭が乗り、そして更に……という風に、狼達は肩車をしてどんどんと旅人のいる場所まで登ってきた。
しかしあと一歩高さが足りず、一番上の狼が「佐喜浜の鍛冶が嬶(かじがばば)を呼べ」と吠えた。暫くすると一際大きな狼が現れ、仲間の肩車をよじ登って来る。旅人は思い切って護身用の刀を振るうと、狼は悲鳴を上げて転げ落ち、肩車が崩れ、そのまま散り散りに逃げていった。
夜が明けてから旅人が佐喜浜に向かうと、ここの鍛冶屋に怪我人が出たという。早速旅人が鍛冶屋に出向くと、鍛冶屋の老母が頭に大怪我をして寝込んでいた。
旅人はその場で老母を斬殺。するとたちまちその死体は大きな狼の死体に変わり、また床下からはおびただしい数の人骨が見つかった。
伝承によっては怪異の正体は山姥や化け猫であったり、用心深く鍋を被っていたり、狼に食い殺された女性の怨念が狼に取り付いて旅人を襲っていたりと様々である。
ある村に、正直者だが貧乏人の男が暮らしていた。男は近隣の家で鍋を借り、鍋の底にこびりついた焦げ飯で飢えをしのいでいたが、ある時隣の家の者に知られてしまった。
これ以上生き恥を晒したくないと思った男は、覚悟を決めて山に登った。そこで狼に出くわすと「どうか私を食べてください」とお願いする。
ところが狼は「我らは性根の悪い人間は食うが、お前のような真人間は食わぬ。俺の眉毛をやろう、これがあれば助けになろう」と言い、己の眉毛を一本男にやって姿を消してしまった。不思議に思った男だが、仕方がないので山を下り、町にやって来た。そこで何気なく狼の眉毛を目の上にかざすと、道行く人の顔がみんな動物に見える。
するとそこに町一番の長者が通りかかった。眉毛を透かしても普通に人間に見えるその長者は、男が狼の眉毛を持っているのを見て感心した。
曰く、狼の眉毛は人の真実を見抜く力を持ち、まっとうな人間にしか手に出来ないという。何故そんなものを持っているのかと聞かれた男が正直に答えると、長者は改めて男の正直さに感服し、彼を自分の娘の婿に迎える事にした。
関連動画
関連商品
関連項目
- 4
- 0pt