ノックスの十戒とは、イギリスの推理作家ロナルド・ノックスが1929年に発表した、推理小説を書く際のルールである。
概要
- 犯人は物語の最初に登場していなければならない。
- 探偵方法に超自然能力を用いてはならない。
- 犯行現場に秘密の抜け穴・通路が二つ以上あってはならない。
- 未発見の毒薬や難解な科学的説明を必要とする機械を犯行に用いてはならない。
- 中国人を登場させてはならない。
- 探偵は偶然や第六感によって事件を解決してはならない。
- 変装して登場人物を騙す場合を除き探偵自身が犯人であってはならない。
- 探偵は読者に提示していない手がかりによって解決してはならない。
- ワトスン役の登場人物は自分の判断を全て読者に知らせねばならない。
- 双子などの一人二役はあらかじめ読者に知らされねばならない。
以上の10項目である。
これらは推理小説執筆の基本方針となるものだが、物語を面白くするために故意にルールを破った作品も多数存在する。特に最近の推理マンガやエンタメ推理小説では全て守っている作品のほうが少ない。また、最も有名な探偵小説である『シャーロック・ホームズ』シリーズや、「ミステリーの女王」と呼ばれるアガサ・クリスティーの作品(ポワロなど)でも、ルールに抵触するものが結構あったりする。
当のノックス自身、このルールに当てはまらない作品をいくつか発表していたり、「なんで俺はこんなモノを考えたんだ」とコメントしていたり、厳密なルールというよりは本格ミステリやそれに拘る人々へのジョーク・ユーモアとしての側面も大きい。
ルール5の「中国人を登場させてはならない」というのは、当時(20世紀初頭)のイギリス人たちにとって東洋は未知の文化でファンタジックな存在でもあったことから、当時の娯楽小説などに登場する東洋人の多くは奇術を使うケースが非常に多かったという背景による。それがルール2やルール4に反するため。言うまでもないが現代では何の問題もない。
同時代のヨーロッパで「中国人は不可思議な技を振るう存在だ」と見なされていたことを示す別の例としては、1912年から連載開始したイギリスの犯罪小説『フー・マンチュー』シリーズや、1926年にドイツで初演された舞台『中国の不思議な役人』などがある。
特に『フー・マンチュー』は当時の大衆小説に大きな影響を与えた。『フー・マンチュー』とよく似た「悪の秘密結社を率いる、奇怪な技術や奸智に長けた中国人」が登場する小説が、当時の安雑誌(いわゆるパルプマガジンなど)に多数掲載されたと言われる(当時の欧米に漂っていた、黄色人種を脅威と見なす思想「黄禍論」の雰囲気も背景としてあったと想像できる)。ルール5には、こういった「安易な流行もの」を戒める意味もあったのかもしれない。
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