ハリアー(harrier)とは、英語の動詞「harry」(追い立てる、急かす、苦しめる、襲撃する)に「~する者」と言う意味の接尾辞「er」を付けた英単語である。その意味合いから、肉食の鳥、猟犬、戦闘機などの名として使われている。
- 猛禽類「沢鵟(チュウヒ)」の類、学名「Circus(キルクス)」の英名。以下の2.および3.はこの鳥の名に由来する。
- イギリスのホーカー・シドレー社開発のV/STOL戦闘機。
- トヨタが販売する乗用車→トヨタ・ハリアー
- 犬種の一つ。フォックスハウンドを小型化したような、あるいはビーグルを大型化したような見た目の猟犬。
- 南アフリカ共和国で製造されているウイスキーの銘柄。上記4.に由来する。
を指す。ここでは2.のV/STOL戦闘機ハリアー、及びシーハリアー、ハリアー2について説明する。
ハリアー(戦闘機)
戦後、世界各国で垂直離着陸機(VTOL)の開発が始まったものの、機体を垂直に着陸させるか、それともエンジンを二つ積むという方法がもっぱらで大成するものはなかった。
ほんの時々変態…もとい奇抜なアイデアをものにする英国で、推力偏向型エンジンのアイデアが生まれたのがハリアーの始まりである。原型機のP.1127は1960年に完成しホバリングに成功。その後、実験機のケストレルが作られテストが行われた結果、1966年にハリアーGR.1が誕生した。
ハリアーが実用化されたことによりイギリス海軍向けのシーハリアーも作られることになる。
一方、滑走路を必要としない、あるいは短距離でよいという利点に目をつけたアメリカ海兵隊も海兵隊向けのAV-8AハリアーⅡを作ることになる。その後イギリス空軍がAV-8BハリアーⅡをハリアーGR.5として導入と、いささか複雑な経緯をたどることになる。その後、スペイン海軍向けの「マタドール」などが作られた。またイタリア、インド、タイにも輸出されている。
80年代、後述するフォークランド紛争の活躍もあり、日本の海上自衛隊が軽空母導入計画を内々で進めていたときの搭載機としてハリアー導入が検討されたことがあるとかないとか(当時、護衛艦に搭載するスカイフックなんつーイロモノ装備のアイデアもありまして…)。もっとも海上自衛隊のこの検討は政治的な都合で流れることになる。良かったのか悪かったのか…。
V/STOLを可能にしたペガサスエンジン
ハリアーが搭載する「ペガサス」エンジンはノズルを前後各2つずつ備えており、前の2つからはファンで圧縮された低温排気が、後ろの2つからは燃焼後の高 温ガスが噴出する。
ノズルの向きを真後ろ~下方98.5度に変えることによって垂直・短距離離陸/着陸を行える。
なお、ノズルからは高温高圧のガスが噴出 しているため、未舗装の地面の上でホバリングでもしようものなら一瞬にして乾燥・破壊された地面が吸気口より吸入されてしまうし、舗装マットの上であって も隙間があるとガスが入り込みマットを持ち上げたりしてしまうので穴や隙間をしっかりと埋めておかなければならない。「どんな場所でも離着陸できる」とい うわけにはいかないようだ。
また、垂直離着陸を行うと今度は機体積載量が激減するなどの問題もある。イギリス海軍は空母にスキージャンプを設置するなど、短距離離陸を行うことでハリアーの積載量をカバーする方法などを編み出すことになった。
フォークランド紛争~湾岸戦争での評価の変化
1982年に発生したフォークランド紛争において、イギリスはシーハリアー、ハリアーをかき集めフォークランド諸島奪還のためアルゼンチン軍と戦うことになる。送り込んだシーハリアー20機では足りず、コンテナ船で残りの機体を送り込むなどして戦争で活躍。空戦では被撃墜0に対して撃墜24機とかなりの功績を残した反面、ハリアーは様々な欠点も露呈した。
V/STOL機であるがために航続距離と巡航速度の遅さ(ペガサスエンジンは機体の中央を占めるほどの大きさで、燃料タンクのサイズは小さく、推力も少なく、構造上アフターバーナーなど推力増加装置もつけられないという問題)、中距離以上の空対空ミサイルの搭載能力がなく、空対空装備はAIM-9(サイドワインダー)短距離空対空ミサイル[1]+ポッド式30㎜機関砲2門だけでフォークランド諸島上空の制空権を維持することは難しかった。
(擁護するわけではないが当時の英国海軍の防空能力や早期警戒能力が貧弱で、エグゾゼ・ミサイルを恐れた空母が島との距離を大きくとったのもその理由の一つではある)
更に推力のコントロールが難しいペガサスエンジンの扱いは当然パイロットへの負担が重く、被撃墜こそ無いものの、着陸失敗や降着装置の故障などによる喪失の方が多いというシャレにならない事態になった。
このような欠点を抱えたうえでもフォークランド紛争にてハリアー部隊が活躍できた理由に、当時最新鋭であったAIM-9Lを装備していたことと、アルゼンチン軍側の戦闘機部隊もフォークランド諸島は行動限界ギリギリだったことでまともに空戦を挑めず、むしろ空戦を態々挑むよりも攻撃機のみで艦船に攻撃を集中してさっさと引き上げるほうが効率的と紛争中盤から護衛の戦闘機部隊を使用しなくなったこと等が挙げられる。
イギリス海軍側のシーハリアーは対空レーダーを積んでいたが、空軍向けのハリアーはレーダー非搭載で元々攻撃機として使用されていた。
上記の欠点が高速で防空網を突破しつつ、対地上攻撃を行う、制圧後の地上部隊の支援など多様なミッションを遂行するアメリカ海兵隊にとっては不満だったようで、マクドネル・ダグラス社にシーハリアーの改良を指示、その後「ガワだけ似てる別物」ともいうべきハリアーⅡが誕生する事になる。
ハリアーⅡが配備されたあと、湾岸戦争は参加7機のうち5機が撃墜されるという羽目に。ここでもハリアー独自の機体構造がデメリットとなり、ペガサスエンジンから発するジェット噴射が赤外線誘導ミサイルのいい的になること、機体中心を複雑なエンジン主要部が占めているため、ダメージが直墜落へとつながってしまうという欠点が露呈した。
受け継がれる魂
その後ハリアーは旧ユーゴスラビア諸国での紛争、中東湾岸地域(アフガニスタン、イラク)を中心に運用され続けたが次第に老朽化が進んだことに加え、イギリスでは財政難に由来する整備不良が拍車をかけた結果、2010年にイギリス軍、2014年にはインド軍での運用を終了した。
しかし、ハリアーの運用経験はV/STOL式軍用機の存在意義を十分すぎるほど証明するものであったことから統合打撃戦闘機計画=F-35のバリエーションにV/STOL型=F-35Bが加えられる事になり、イギリス、アメリカ、イタリアの3ヶ国のハリアーの任務はF-35Bに受け継がれる事になる[2]。
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関連項目
脚注
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