ハ行転呼単語

ハギョウテンコ
2.8千文字の記事
  • 8
  • 0pt
掲示板へ

ハ行転呼ハ行とは、国語学、日本語学における用である。転呼の一種。言語学での音韻変化、子音弱化、唇音退化の一つと見做せる。

概要

安中期ごろに日本語で起こった言変化で中の両唇摩擦音[ɸ]が両唇接近音[β̞]へと変化した現を言う。国語学としては、中のハ行がワ行と合流したと説明する。

具体的には、以下のような例がある。

  • あは(泡、波、安房)[aɸa]>[aβ̞a]
  • あかほ(穂)[akaɸo]>[akaβ̞o](>[akao]>[akoː])
  • うひ(初)[uɸi]>[uβ̞i]
  • うへ(上)[uɸe]>[uβ̞e]
  • かは(、皮)[kaɸa]>[kaβ̞a]
  • かひ甲斐)[kaɸi]>[kaβ̞i]
  • かふ(買ふ、交ふ)[kaɸi]>[kaβ̞i]
  • かほ(顔)[kaɸo]>[kaβ̞o]
  • きのふ[昨日][kinoɸu]>[kinoβ̞u](>[kinou]>[kinoː])
  • くふ(食ふ)[kuɸu]>[kuβ̞u]
  • けふ(今日)[keɸu]>[keβ̞u](>[keu]>[kjoː])
  • さわ(澤、沢)[saɸa]>[saβ̞a]
  • はふ(這う)[ɸaɸu]>[ɸaβ̞u]
  • はへ()[ɸaɸe]>[ɸaβ̞e]
  • はにふ(羽生)[ɸaneɸu]>[ɸaneβ̞u](>[ɸaneu]>[ɸanjuː]>[hanjuː])
  • ははき()[ɸaɸaki]>[ɸaβ̞aki](>[ɸaβ̞ki]>[ɸauki]>[ɸoːki]>[hoːki])
  • まふ(舞ふ)[maɸu]>[maβ̞u](>[mau])

更に、頭であっても複合内の中であれば、転呼する場合がある。

助詞の「は」「へ」は、頭乍ら常に単が前に来るため、ハ行転呼の対となった。

  • -は[-ɸa]>[-β̞a]
  • -へ[-ɸe]>[-β̞e](>[-je]>[-e])

最も、多くの複合においてはが意識され、転呼は起こらなかった。その多くは連濁している。

更に、仮名遣いによって、一度はハ行転呼を起こしながらも、り字発音によって、現代ではハ行の発音が復活した例もある。

  • ほほ()[ɸoɸo]>ほを[ɸoβ̞o]、現代発音[hoho]
  • はは()[ɸaɸa]>[ɸaβ̞a]、現代発音[haha]
  • けはひ(気配)[keɸaɸi]>[keβ̞aβ̞i](>[keβ̞ai])、現代発音[kehai]
  • ふる(溢る)[aɸuru]>[aβ̞uru](>[auru])、現代発音[aɸureru]
  • ふひと(史、不等)[ɸuɸito]>[ɸuβ̞ito]、現代発音[huhito]
  • ふる(屠る)[ɸoɸuru]>[ɸoβ̞uru](>[ɸouru])、現代発音[hoɸuru]

漢字音

なお、この現漢字音の入で末子音に[-p]を持つ字でも発生しており([-p]>[-ɸ]>[-β̞]>[-u])、場合によっては同じ字ながら二つの発音が発生する原因となった。

別れた一方の発音が広まった結果、本来[-p]の発音を持った漢字があたかも[-t]の末子音を持っていたかのように類推され、発音されるようになったものもある。

転呼以後

その後、合流したワ行音も、「ワ」はそのまま保たれたが、その他は平安時代後期にア行音に合流した。そのため、「ヒ」は「ヰ」から安後期までに「イ」[i]となり、「ヘ」は「ヱ」から「エ」[je]になり、「ホ」の発音「ヲ」が[β̞o]となった。更に、江戸時代末期には「エ」[je]>[e]、「オ、ヲ」[β̞o]>[o]となり「ハ」以外は全にア行音に合流した。

頭のハ行音も江戸時代初頭に、現在の発音へと変化し、日本語における[ɸ]は、フ[ɸu],[ɸɯ]を除き、明治期にはなくなった。但し、外来語からの借用を通して、[ɸa], [ɸi], [ɸe], [ɸo]は復活を果たしている。

また、琉球方言秋田九州などではハ行転呼をしない形が残存しており、方言の形成期やより古い時代において、どのような広まりやがあったかの推測ができる。

変遷表

奈良時代以前 平安時代初頭 平安時代中期 中世 近世 現代
[pa] [ɸa] [ɸa] [ɸa] [ha] [ha]
[pi] [ɸi] [ɸi] [ɸi] [çi] [çi]
[pu] [ɸu] [ɸu] [ɸu] [ɸu] [ɸu]
[pe] [ɸe] [ɸe] [ɸe] [he] [he]
[po] [ɸo] [ɸo] [ɸo] [ho] [ho]
中、語尾 [pa] [ɸa] [β̞a] [β̞a] [β̞a] [β̞a]
[pi] [ɸi] [β̞i] [i] [i] [i]
[pu] [ɸu] [β̞u]>[u] [u] [u] [u]
[pe] [ɸe] [β̞e] [je] [je] [e]
[po] [ɸo] [β̞o] [β̞o] [o] [o]

関連項目

【スポンサーリンク】

  • 8
  • 0pt
記事編集 編集履歴を閲覧

ニコニ広告で宣伝された記事

WhiteCUL (単) 記事と一緒に動画もおすすめ!
提供: mochachip
もっと見る

この記事の掲示板に最近描かれたお絵カキコ

お絵カキコがありません

この記事の掲示板に最近投稿されたピコカキコ

ピコカキコがありません

ハ行転呼

1 ななしのよっしん
2020/12/06(日) 12:47:51 ID: bAIJQgOGnJ
記事作成乙
こういふ役立つ記事はおおひにじふじつさせてほしいですね
👍
高評価
0
👎
低評価
0
2 ななしのよっしん
2020/12/06(日) 12:48:09 ID: hKEz8Thyqx
詳しく書かれてて分かりやすいけど何故これを書いたんだ...
👍
高評価
1
👎
低評価
0
3 ななしのよっしん
2020/12/12(土) 09:51:27 ID: M6W8RTwBA/
何故かなんて野暮だぜ
👍
高評価
0
👎
低評価
0
4 ななしのよっしん
2023/01/09(月) 19:42:56 ID: /2J6wxzXpy
ちなみに奈良時代頃のハ行はパ行の発音だったんだぜ(万葉仮名や沖縄の各方言との較より)
👍
高評価
0
👎
低評価
0
5 ななしのよっしん
2023/05/27(土) 18:29:22 ID: IwEBdvwq7U
パパなんだっけ
👍
高評価
0
👎
低評価
0
6 ななしのよっしん
2024/04/20(土) 18:25:22 ID: 0kPcx9JAeJ
具体的には、以下のような例がある。

あは(泡、波、安房)[aɸa]>[aβ̞a]

↑泡については間違いでは?歴史的仮名遣いではアワなので。泡のワは「湧く」のワと関連のあるだとされているのでハではおかしい。
👍
高評価
0
👎
低評価
0