96年、天皇賞(秋)。
挫折が教えてくれる道がある。
わずか3歳で天皇賞を勝つなんて。
バブルガムフェローとは、1993年生まれの競走馬。3歳にして天皇賞(秋)を勝った名馬である。
名前は「風船ガムを噛む奴」の意。
なんか、いつも引き立て役だったような気がする奴であった。
主な勝ち鞍
1995年:朝日杯3歳ステークス(GI)
1996年:天皇賞(秋)(GI)、スプリングステークス(GII)
1997年:鳴尾記念(GII)、毎日王冠(GII)
概要
ふくらめ夢よ
まるで自分のことのように
胸をふくらませて
喜んでくれた人たちの
その優しさにこたえたいもしも躓き倒れて
みんなの期待をしぼませたら
すぐに立ち上がって
駆け出すことを誓おう
父*サンデーサイレンス、母*バブルカンパニー、母父Lyphardという血統。6歳上の半兄にGI馬Intimiste(クリテリウム・ド・サンクルー)がいる良血である。父・母父とも気性の激しさで知られた馬であるが、本馬は大人しい馬であった。
藤沢和雄厩舎に入厩したバブルガムフェローは、その動きの良さで大きな期待を集めた。どれくらい大きな期待かといえば「末はブリーダーズカップか凱旋門賞か」みたいなことを藤沢師や岡部幸雄騎手が考えていたレベルであったらしい。
新馬こそ負けたが、瞬く間に2連勝。迎えた朝日杯3歳ステークスでは直線で確かな脚を伸ばして勝利。岡部騎手らしい、けれん味の無いレースっぷりは大物感に溢れており「いやいや、これは来年のクラシックでもこの馬中心に*サンデーサイレンス旋風が吹き荒れ続けるんでないの?」とファンは思ったのだった。
この馬、実に柔らかそうなしなやかな馬体で、薄い鹿毛も綺麗。流星も美しく、青いシャドーロールに社台の勝負服も良く似合う、一見して分かるような良い馬であった。ただ、この頃から、なんとなく線が薄い感じもした。
年が明けてスプリングステークスも先行抜け出しで勝利。文句無く皐月賞の最有力候補となったのであるが好事魔多し、なんと骨折して春シーズンは全休になってしまう。前年のフジキセキに続いてまた3歳王者が消えた(ついでにダンスインザダークも熱発で回避した)ことでファン大混乱。ちなみに、皐月賞に勝ったのはサンデー産駒のイシノサンデー。主役がいなくなっても代役がきっちり立つとはサンデー恐るべしである。
骨折を順調に治したバブルガムフェローは、秋は菊花賞を回避して天皇賞を目指すこととなった。前年、ジェニュインが僅差の2着になっており、この挑戦はさして驚かれなかったが、やっぱりサンデーって距離がもたないんだ、と思い込んだファンも多かった。毎日王冠はカク外*アヌスミラビリスの3着だった。
そして迎えた天皇賞(秋)だったが、このレースは面子が凄かった。同年の天皇賞(春)でナリタブライアンを負かしたサクラローレル、既にGI3勝していたマヤノトップガン、「遅れてきた大物」と言われていた6連勝中のマーベラスサンデーなどである。バブルガムフェローは底を見せていないところが評価され、不安定なせいで人気しづらかったマヤノトップガンを上回る3番人気に支持された。
そしてレース。サクラローレルは出遅れ。横山典弘騎手は無理せず後方待機を選択。その瞬間、サクラローレルを管理する境勝太郎調教師は「馬鹿野郎!」と叫んだそうな。対して、バブルガムフェローは先頭二頭を悠然とスルーしてマイペースの3番手。ペースは平均。馬群は固まり、明らかに先行馬有利な状況である。
バブルガムフェローは直線、軽い手ごたえで、マヤノトップガンが仕掛けるのを見てからスパート。トップガンも脚を伸ばし、更にマーベラスサンデーも追い込み、サクラローレルも遅れて凄まじい脚を使ったのだが、直線入り口の位置取りの差が物を言ってバブルガムフェローが粘りこんでゴール。最後はむしろ一番伸びており、着差以上の強さを感じさせるレースだった。
3歳で天皇賞(秋)優勝は戦後初で史上2頭目、1938~86年の古馬限定戦だった期間以後では初の快挙となった。主戦の岡部騎手がブリーダーズカップ遠征の為、代役として乗り替わった鞍上の蛯名正義騎手は、95年天皇賞(春)・ステージチャンプでの幻のガッツポーズの屈辱を払拭するGI初勝利。色々メモリアルな優勝だった。
サクラローレルの横山騎手のやらかしはあったがそれにしたってバブルガムフェローの強さは本物、こいつは三強に匹敵する存在だ! ということで、三強が仲良く回避したジャパンカップ(この当時はローテがきついからということでJCは強豪にスルーされることが多かった)では日本馬1番人気に支持される。
ところがどうしたことか、バブルガムフェローはまるっきり走る気がない感じで13着。直線。シングスピールとファビラスラフィンが壮絶な叩き合いを演じる中、故障したかのように下がって行くバブルを見て「????」とファンは疑問で一杯になったのだった。藤沢師も岡部騎手も甚大なショックを受けたらしく「バブルは故障ですか?」と聞かれた岡部騎手は「壊れたのは馬の頭だよ!」と吐き捨てた。藤沢師が膨らませていた海外遠征の夢もバチンと弾けたのだった。
立て直しを図るべく休養したバブルガムフェローだったが壊れた頭だか歯車だかは戻らない。復帰戦の鳴尾記念では格下相手に勝ったが、宝塚記念ではマーベラスサンデー悲願のGI制覇の二着。典型的な引き立て役に終わる。
秋を迎えて毎日王冠を勝利。ようやく復調か?と期待させた。天皇賞(秋)、去年勝ったこのレースならとバブルガムフェローは1番人気に推される。このレースには17年ぶり牝馬秋天制覇を狙うエアグルーヴが出走してきていた。牝馬全盛の21世紀とは異なりこの当時は「牝馬と牡馬には埋められない実力差がある」なんて言われていて、エアグルーヴの勝ち目は薄いと見られていた。
しかしレースではサイレンススズカ(完成前)の大逃げを、ほんの少し早めに捕まえに行ったのが裏目。完全にバブルマークだったエアグルーヴの牝馬とは思えないド迫力の末脚に屈して2着。17年ぶりの大快挙に沸く東京競馬場の中で、史上初の天皇賞(秋)連覇の夢を僅かに逃した事を語ってくれる人は誰もいなかった。ちなみに、秋天1番人気連敗阻止も後少しだったのに。
ジャパンカップでは今度はエアグルーヴを徹底マークして、狙い済まして追い込んだのだが、エアグルーヴに届かず勝ったピルサドスキーにも差され3着。ここでは引き立て役にもならなかった。
この後、脚に炎症が見られるという事で、バブルガムフェローはそのまま引退した。3歳春には無限とも思われたバブルの夢はすっかり弾けてしまい。実力の底が見えてしまった感がどうしても漂う、寂しい引退であった。
3歳で天皇賞(秋)を勝つということは、その当時は考えられない事だと思われており、その後も3頭(シンボリクリスエス、エフフォーリア、イクイノックス)しか達成していない事を考えると、バブルガムフェローが勝利した瞬間に当時のファンが新時代の王者誕生を幻視したとしても無理は無いだろう。次のJCであっという間に消えちゃったけど。本当に驚くべき勝利だったのだ。
ただ、その秋天ではサクラローレルの、宝塚記念ではマーベラスサンデーの、4歳時秋天ではエアグルーヴの、それぞれ派手な物語に呑まれてしまった。おかげで1995~97年の間、間違いなく競馬界の中心にいた馬の一頭でありながら、どうも主役を張れなかった感が否めない。この馬が古馬になってからあまり伸びなかったのもあって、ステイゴールドやらスペシャルウィークやらが出てくるまで「*サンデーサイレンス産駒って3歳でお終いなんじゃね?」と言う向きが一部ではあった。
引退後は種牡馬となったのだが、国内ではダート戦線で活躍する馬の方が多かった(シャトル先のオセアニアでは複数の芝重賞馬がおり、産駒で最も賞金を稼いだのは障害馬ミヤビペルセウスなのでダートだけというわけではない)。この馬も親父に勝てなかったくちだなぁ。
2010年、死亡。父系はカゼノグッドボーイがギリギリで繋いでいるが、2018年に同馬が種牡馬を引退したとも言われており、あとは同馬の仔2頭の行く末次第となってしまった。母父としてはマジンプロスパーやダンシングプリンスを輩出しているが、せめて彼らからあの品の良い馬体を伝えて欲しいものである。
ただ、彼が1歳上のジェニュインに続いて取った3歳での秋天挑戦ローテは、菊花賞では長いけれど……という中距離でのスピードが信条である馬の将来を大きく切り拓くものであった。
ジェニュインと彼が拓いた邪道は、今となっては一つの王道となって残っている。
さらに言えば、昭和・平成を通して3歳かつ府中開催の2000mの秋天で勝ちきったのはバブルただ一頭であった。もう一頭の3歳秋天制覇者にして後輩のシンボリクリスエスは中山開催での勝ち馬である。
割と過小評価気味だけれどこれは大いに胸を張って良い事実であったが、令和3回目となった秋天でついにエフフォーリアが府中開催の秋天を制覇。後継者が現れた。
このエフフォーリア、3歳秋天制覇の後輩シンボリクリスエスの孫で、藤沢師の弟子にあたる鹿戸雄一師に調教され、バブルの鞍上蛯名の当時同様若手のホープ・横山武史(96秋天ではローレルでやらかしたノリの息子)を乗せて藤沢師現役ラストチャレンジとなったグランアレグリアを撃破の上3歳秋天制覇を成し遂げるなど、バブルとはちょっと縁がある。
翌年2022年もまた3歳馬のイクイノックスが同じく府中開催の秋天を制覇するが、こちらはなんとわずか5戦目で勝利してみせた。なおこちらはバブルのように怪我で長期休養してたわけではなく単に身体が弱くて多く走らせることができなかったからこのキャリアとなったのである。どちらかというと同期のフサイチコンコルドみたいな理由。
鳴尾記念の時、カラ馬をきっちり差し切って勝った姿が、笑えたせいかなんか一番印象に残っている。
血統表
*サンデーサイレンス Sunday Silence 1986 青鹿毛 |
Halo 1969 黒鹿毛 |
Hail to Reason | Turn-to |
Nothirdchance | |||
Cosmah | Cosmic Bomb | ||
Almahmoud | |||
Wishing Well 1975 鹿毛 |
Understanding | Promised Land | |
Pretty Ways | |||
Mountain Flower | Montparnasse | ||
Edelweiss | |||
*バブルカンパニー Bubble Company 1977 栗毛 FNo.1-b |
Lyphard 1969 鹿毛 |
Northern Dancer | Nearctic |
Natalma | |||
Goofed | Court Martial | ||
Barra | |||
Prodice 1969 栗毛 |
Prominer | Beau Sabreur | |
Snob Hill | |||
Euridice | Tabriz | ||
Euroclydon | |||
競走馬の4代血統表 |
主な産駒
- アッパレアッパレ (1999年産 牡 母 ガイドブック 母父 ラグビーボール)
- ミヤビペルセウス (2000年産 牡 母 スリードーター 母父 *サンプリンス)
- Rockabubble (2000年産 牝 母 Blond Rocket 母父 Rory's Jester)
- マイネルボウノット (2001年産 牡 母 サンエイリボン 母父 *インイクストリーミス)
- アーリーロブスト (2006年産 牡 母 *クワイエットアース 母父 Mazel Trick)
- トシキャンディ (2006年産 牝 母 *コルチカ 母父 Machiavellian)
- オノユウ (2007年産 牝 母 オナーザミント 母父 Honour and Glory)
関連動画
関連コミュニティ
関連項目
外部リンク
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