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バリシチニブ(Baricitinib)とは、関節リウマチなどの治療薬である。販売名はオルミエント®。
概要
バリシチニブは、ヤヌスキナーゼ(JAK)阻害薬、低分子量の分子標的治療薬である。JAKは細胞内の情報伝達を担う酵素で、免疫機能に関与している。JAKを選択的に阻害することで過剰な免疫反応・炎症反応を抑制する。
アメリカ合衆国の製薬企業インサイト(Incyte Corporation)およびイーライリリー(Eli Lilly and Company)によって開発が進められ、日本では2017年7月、オルミエント®錠の製造販売が承認された。ジェネリック医薬品はない。
効能・効果
日本イーライリリー株式会社が製造販売しているオルミエント®錠の医薬品添付文書第4版(2021年4月改訂)より、適応は以下の通りである。
- 既存治療で効果不十分な関節リウマチ(関節の構造的損傷の防止を含む)
- 既存治療で効果不十分なアトピー性皮膚炎
- SARS-CoV-2による肺炎(酸素吸入を要する患者に限る)
- 脱毛部位が広範囲で難治性の円形脱毛症
用法・用量
関節リウマチ、アトピー性皮膚炎、円形脱毛症の治療では、バリシチニブ4mgを1日1回経口投与する。高尿酸血症や痛風の治療薬プロベネシドを服用している患者や中等度以上の腎機能障害のある患者など、患者の状態によっては2mgに減量する。
SARS-CoV-2による肺炎の治療では、抗ウイルス薬レムデシビルとの併用でバリシチニブ4mgを1日1回経口投与する(総投与期間は14日間まで)。ちなみに、本邦で承認されたSARS-CoV-2感染症治療薬は、レムデシビル(ベクルリー®)とデキサメタゾン(デカドロン®など)に続いてバリシチニブが第3号となった。
作用機序
関節リウマチでは関節における慢性的な炎症により、腫れや痛みを伴う軟骨や骨の破壊が起こり、関節としての機能は損なわれていく。また、アトピー性皮膚炎では皮膚における慢性的な炎症により、かゆみや痛みを呈し、QOL(生活の質)が低下する。SARS-CoV-2感染症(COVID-19)における肺炎では、サイトカインストームと呼ばれる過剰な炎症反応により発熱や多臓器不全をきたすことがある。
ヤヌスキナーゼ(JAK)は、炎症応答におけるサイトカインのシグナル伝達に関与している。タンパク質のTyr残基をリン酸化するチロシンキナーゼの一種で、受容体の細胞内ドメインをリン酸化し、シグナル伝達兼転写活性化因子(STAT)をリン酸化する。リン酸化されたSTATは標的遺伝子の転写を促進させ、免疫細胞の分化・増殖を促す(JAK-STATシグナル伝達経路)。バリシチニブは、JAKのアイソザイムのうちJAK1およびJAK2を選択的に阻害してJAK-STAT経路のシグナル伝達を抑制するため、慢性の炎症や過剰な炎症による症状を緩和する。
禁忌・副作用
バリシチニブは免疫機能や造血機能に関与するJAK-STAT経路を抑制するため、感染症の症状悪化をきたすおそれがある。したがって、活動性結核や敗血症の患者、リンパ球数やヘモグロビン値の低い患者に対しては投与禁忌である。動物実験で催奇形性が報告されているため、妊婦や妊娠の可能性のある女性に対しても投与禁忌。透析治療を受けている患者や末期腎不全の患者への投与も禁忌だが、腎機能障害の程度によっては減量や隔日投与を行う場合がある。
頻度は低いが重大な副作用として、重篤な感染症、消化管穿孔、リンパ球やヘモグロビンの減少、肝機能障害、間質性肺炎、静脈血栓塞栓症がある。頻度の比較的高い副作用としては、上気道感染による炎症(鼻炎、咽頭・喉頭炎、扁桃炎など)、帯状疱疹、単純ヘルペス、悪心(吐き気)、頭痛、腹痛、LDLコレステロール値の上昇などが報告されている。
同種同効薬
JAK阻害薬は、バリシチニブ以外にも数多く開発されている。トファシチニブ(ゼルヤンツ®)、ペフィシチニブ(スマイラフ®)、ウパダシチニブ(リンヴォック®)、フィルゴチニブ(ジセレカ®)はバリシチニブ同様に関節リウマチの治療に用いられるほか、トファシチニブは潰瘍性大腸炎にも適応がある。デルゴシチニブ(コレクチム®)は経口ではなく外用の軟膏剤として、アトピー性皮膚炎の治療に適応。ルキソリチニブ(ジャカビ®)は化学構造中にピロロピリミジン環、ピラゾール環、シアノ基をもち、バリシチニブと構造がよく似ているが、骨髄線維症や真性多血症の治療に用いられるという違いがある。オクラシチニブ(アポキル®)は、ヒトではなくイヌのアトピー性皮膚炎の治療に使用される。
SARS-CoV-2による肺炎の治療薬として、2022年1月にトシリズマブ(アクテムラ®)が承認された。トシリズマブは、免疫系に関与するインターロイキン-6(IL-6)の可溶性および膜結合性の受容体に結合することで過剰な炎症応答を抑制する。
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関連項目
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